fateful meeting(フェイトフル ミーティング)~職業【遊び人】になってしまった僕だけど幸せになります!~

星 陽月

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【第10話】

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 掃除が行き届いているとはいえ、やはりあばら小屋。
 イケメンオーラ全開のチェルシーの父親には、とても似つかわしくなかった。
 
「娘が大変お世話になったみたいだね。ありがとう」

 父親が微笑みを浮かべてそう言った。

「あ、いえ、そんな、僕は何も……」

 父親の言葉で、チェルシーが女の子であることがわかった。

「ユート、とっても強ェんダぞ。スライムが3匹もいたのに、瞬殺したダ」
「ほう……」

 とても信じられない、とでも言いたげな眼で僕を見つめると、

「君、ユートって言うんだね」

 確認するように言った。

「はい、そうです。すみません。自己紹介がまだでした。改めまして、ユートって言います」

 僕がそう返すと、父親は興味がなさそうに視線をそらした。

「だからな、腹も減ってるみてェだし、お礼にいっぱい食わしてやりてえと思ってよって、連れてきたんだベ」
「チェルシー、いっぱい食わしてやりてえと言ってもだな、ウチには芋しかないだろう」

 そう言いながら、父親は僕の身体をジロジロと見た。

 はい、お察しの通り、僕はいっぱい食べます……。

 気まずくて、今度は僕が視線をそらした。

「ところで、チェルシー。父ちゃんの朝食も、用意しておくれ」
「わかってる。んじゃ、父ちゃんは、ユートの相手をしててけれ。そしたら、ユート。ちょっと、待っててけれな」

 チェルシーは、タルから芋を取り出し、井戸へ洗いにいった。
 僕は、父親とふたりきりになったとたんに、緊張し始めた。

 何を話したらいいんだろう……。

 とにかく話すことが何もない。
 言葉だって口から出てきそうになかった。
 そんな僕をよそに、父ちゃんなんて呼ばれるにはほど遠いこのイケメンは、庭ばかり見ている。
 どうやら、僕の相手をするつもりなど、はなからないようだった。
 何ひとつ会話もなく、居心地の悪さに耐えていると、ようやくチェルシーがもどってきた。
 胸にいっぱい芋を抱えている。
 その芋を古びた鍋のひとつに入れ、ヤカンを火にかけてお茶を準備し、僕と父親の前に皿を置いたりと、チェルシーはテキパキ働いた。
 そして父親にお茶とはちみつを差し出して、芋を入れた古びた鍋をそのまま火にかけた。

 え、ええーッ! 水も入れずに火をかけるの? 皮も剝(む)かないんだー!!!

 チェルシーは、鍋に入った芋を菜箸で転がしているだけだ。
 その光景を、僕は愕然と見ていた。
 父親は、その光景には目もくれず、ただ黙々とお茶を啜(すす)っている。

「はーい、出来上がり。どうぞ召し上がってけれ!」

 テーブルの真ん中にドンと鍋を置き、チェルシーは僕のための皿に焼きあがった芋を載せた。
 真っ黒に焦げた芋である。
 そう、先ほどもらった芋は、こうして作られていたのだ。

「どうだ、うめえべか?」

 円らな瞳で僕を見つめるチェルシーがとても可愛い。
 だがしかし、

 はっきり言って、ゲロマズだよ……。

 笑ってみせた僕の頬は、引きつった。

「あれ、お父さんは食べないんですか?」

 僕がそう言うと、父親はきっと僕に顔を向け、

「私は、君のお父さんではない!」

 眉根にしわを寄せた。

「え、あ、そうですね、すみません。それじゃあ、何とお呼びすればいいですか?」

 僕はへりくだるように訊いた。

「……ルミエールだ」

 父親ーールミエールさんは、嫌々そうに答えた。

「あのな、父ちゃんは、ハチミツとお茶しか口にしねえだ」

 チェルシーはそう言ったが、そんなはずはない。
 ハチミツとお茶だけで、生きていけるわけがないのだ。
 チェルシーの料理とは言えない手料理があまりにも不味くて、陰で何か別のものを食べているんだろう。
 だから僕は、ちょっと試すことにした。

「あの、ルエールさん。娘さんの手料理、僕だけが食べると言うのもなんですから、あなたも、おひとつどうぞ」

 そう言って、丸焦げの芋を差し出すと、ルシエールさんはあからさまに嫌な顔をした。

 やっぱり……。

 僕は確信した。
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