10億円の思い出の人

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「今夜はお越し頂き誠にありがとうございます!本日も上物を取り揃えております。中には少し変わった商品もございますー!存分にお楽しみくださいませ!!」

  壇上でスーツを着た男が軽快な口調で挨拶をしている。
  真っ黒な正装と身バレ防止の黒いハットを纏った幸音はサングラス越しではあるが、その男に冷たい目線を注いでいた。今夜何が起こるかも知らずに可哀想なやつだと心の中で罵る。

「なあ、顔を隠すにしても本当に現場ここに来て良かったのか?」
「構いません。番堂さんに御足労をお願いしているのに俺が出てこない訳にもいきません」

  隣で幸音の家柄を気にするサングラスの男、番堂 聖利ばんどう ひじり。捜査四課の凄腕刑事であり、腕っ節が兎に角強いことで有名な人物だ。幾度となく勝ちこみに入り色んな奴等を投げ倒してきたウワサを持つ男。
  幸音とは護身術を教わっている恩師の道場でたまたま出会い、趣味のサウナ自慢をされた仲だ。

「いんや、俺は指揮とる為にいるだけだし?長年手が出せなかったコイツらに一発かましてやれるから気にしなくていいんだけどな。驚いたぜ~いきなり連絡してきたから、ついにサウナに誘ってくれたと思ってたら...まさかこんな事とはさぁ」
「...」

  ここはいわば奴等の巣穴だ。そんな危険な所でこんなに悠長に話が出来る番堂に、これが大人の余裕かと幸音は己の未熟さに苛立ちさえ覚えた。

「(落ち着け、焦ってもいい事はないんだ。計画通りに動く。必ず瀬見川くんを連れて帰る)」
「今度さあ、日本の三本指には入る有名なサウナ予約したんだよ」
「……。そうですか、念願の」
「そーそー!やっとなんだよ。無事に帰還したらお祝いにお前らも一緒にどう?」

  背中をポンと叩かれた。番堂はその若さでこの件の指揮を任せられる程の役職に立つ人間。流石だと思った。
  きっと彼には幸音が危険を冒してまでここにやってきたその理由さえお見通しなのだろう。
 今する事は己の未熟さに苛立つことでは無い。
 幸音は深く一息吐いて気持ちを切り替えた。

「そうですね。予定空けておきます」
「おう!」

  あの日から半月程で、幸音は明音を助け出す算段を練り決行に至っている。
  先ず幸音が取った行動は井地知から貰った情報と画像を番堂へ伝えることだった。出処に関しては幸音の顔に免じて聞かないで欲しいと濁すと、構わないと承諾してくれた。
  作戦としては、番堂が率いる部隊総勢40人は各々の配置で待機し、指揮をとる番堂はオークション会場で明音の監視及び落札する役目を担い、身柄の安全を確保をした上で一斉に仕掛けるというものだった。
 だが、この作戦には1つ大きな問題があった。
 それはオークションが一般的なイングリッシュ・オークション形式であり、よくある買い手が価格を釣り上げていくスタイルの為、準備できる金の弱さが作戦の決行の妨げになっていた。
  明音の身柄は恐らく支払いが終わった後に買い手側に譲渡される可能性が高く、高額のお金を用意するのに時間がかかり過ぎるのがネックになっていた。
  そこですかさず名乗りを上げたのが幸音本人だ。自ら動かせる現金の準備に加え現場に潜り込み、落札価格を掲示する役目を志願した。
  本当は用意して番堂に任せることだって出来た筈だが、一刻も早く明音に会いたくて無理を承知で頼みまくった。
 その結果、乱闘が始まる前に必ず外に出る事を条件にこの場に立ち会う許可が降りた。
  しかし、これは番堂の独断であり現場に高校生を連れ込んだのがバレると非常に不味い状況にあったという事実を、幸音は知る由もない。

「(ごめんな乙木おとぎ。こんな必死な坊ちゃん初めて見ちまったからさ、放っておけなかった……)」

  番堂は心配性の同僚を思い出し心の中で頭を下げたのだった。


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