あの日の思い出

那智

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カタルシス

②誰がカワイイと言った?

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 大学が決まり、電車で通える距離ではあるが、入寮を決めた。

 短大と四年制の単科大学が一緒になっていたのだが、寮での一人部屋・二人部屋・四人部屋の内、四人部屋に関しては、二年生が一人、残り三人は一年生が入るように上手に組まれていた。

 しかも、一年生の内訳は、短大・英文科・日文科と綺麗に配分されていた。一人部屋は四年生が優先的に入り、二人部屋は、三年生と、二年生が入るのが基本。

 学生生活に慣れてきた頃、市内の大学や短大の寮主催の運動会やダンスパーティー、バス遠足が行われるなど、交流の場が儲けられていた。

 更に寮祭があり、男性立ち入り禁止(玄関迄は入れるがそれから先は入れなかった)の女子寮も、この日ばかりは男性が入ることが許された。勿論、彼氏がいる人は招待出来る。

 私は、合コンの幹事をやらされたりした割には、誰かと付き合う事もなく、サークルと学業に励んでいた(?)為、招待する相手もおらず、自分の参加項目の準備で大忙しだった。

 歌を披露するのだが、準備が出来、少し前に出て行った仲間を追いかけようと、勢い良くドアを開けると二人の男性が立っていた。

 思わぬ場面に一瞬固まるも、こちらを向いていたので、誰かを待っているのかと思い、誰もいないこと伝えようとすると、
 「全然可愛くないじゃん」
と一言。
 「えっ」「わたしの事?」と思い二人を見るが、見知らぬ男性だ。

 普段は眼鏡をかけているが、この日はこれから演じる都合上かけていない。近眼に乱視。それでも狭い廊下で、ある程度は判る。

 本来、気の強い私の事だ。たとえ知らない相手でも、小中学生の頃なら言い返しただろう。

 しかし、女子校出身に加え、大人に成長する過程の男子と接触が無かった事もあり、うまく対応出来ないまま、挨拶もせずその場を去った。

 階段を下り、長い廊下を進み会場を目前に、男子が団体で立っていたのに気付いた。先程の件もあるが、この位の男性は伸長も高く威圧感がある。百七十センチ~百八十センチは有ろうという塊に百五十センチが挑むのには、いささか勇気がいる。

 歩調を落とし、塊が会場に入って行くことを期待するも、動く気配がない。それどころが、前を陣取り笑顔を向ける男性は、ぼやつく視線でも、寮のイベントで知り合った人だと見当がついた。では、塊は彼の仲間なのか。全員こちらを見ている。

 「なぜ動かない?誰かを待ってる?」と思いながら、引き返す訳にも行かないので、「挨拶だけして、中に入ろう」とした時、
 「ほら、無愛想だし、可愛く無いし、あんなの辞めておけ」
という声がした。

 声の主は、部屋の前で立っていた男に違いない。私とは反対側の階段を下りて来たのだろう。そんなに離れてはいないが、つぶやき程度では届かない距離だ。

 敵意をむき出しにする塊に居られては、たとえ顔見知りの人間であろうと、挨拶など出来ない。
 例えば、彼が自分の友達だったら、挨拶をし、暴言をはいた男性を睨み付けながら、
 「友達は選んだほうがいいよ」
って嫌みったらしく言ってやる事が出来たのに。

 私は挨拶もせず、無愛想なまま会場に入り、うっぷんばらしの様に歌を歌い、嫌な気分をまぎらわせる事に成功した。

 塊は、会場には居なかったので、あのまま帰ったのだと思う。

 顔見知りの男性とは寮のイベントで知り合い、同室の子が向こうの寮の先輩と付き合い始めたのが切っ掛けで、仲間が欲しかったのか二人で会う段取りをされ、一度だけ食事をしたことがある。

 何しろ、場所や時間まで友達が決めたので、二人で食事をしたところで、共通の話題は友達カップルの事だけ。自分たちの話題は、趣味から生活まで全く噛み合わない。
 
 確かに、店を出て歩きながら「カワイイ」と言われた。だが、伸長差が三十センチあり、小さくてカワイイという意味だ。
 
 私も「歩きながら話すと首が痛くなる」と話したのを覚えている。日本語の「カワイイ」には、いろんな意味があるのだよ。

 寮に入る子の中には、妹がいる確率がかなり高い。その為か、背の低い私は同級からでさえ、妹みたいだと可愛がられた。

 恋愛の可愛いと妹の可愛いでは、うんでの差がある。

 あの二人の男性は、きっと彼女が居なかったのだろう。だから「彼女居ない同盟」から脱落者がでる事に不安を覚えたのだ。そう考えると納得がいく。

 まあ、私と彼では、友達にはなれるけど、恋人にはならないと思うので、彼らの同盟に脱落者は出ないと思うのだが。

 ただ、これだけは声を大にして言っておく。

 「誰がカワイイと言ったーぁ」

 「お前だって、たいした顔じゃないだろーぅ」

 「見ず知らずの人間に失礼だろーぅ」 

 「名を名乗れぇー」 
 

 ………… 私も、かなり失礼だが ………





 

 
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