カラスの鳴く夜に

木葉林檎

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拉致編

3話

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‌ 

時刻は丑三つ時。

数時間経てば今日も普通に仕事が始まるのだ。

「今から帰ってもすぐ出勤っすね。」

黒崎さんが社長にそう言うと

「そうなんですよね。
だから俺は事務所で過ごすことにします。」

影山さんもそう言ってため息をついた。

「血が減りすぎてさっきまで寝てたから俺は逆にもう今は元気だぜ?」

謎の自慢をしてくる黒崎さんに私は笑ってしまう。

「梨乃は少しでも休め。
そこのソファー使って寝ればいい。」

社長にそう言われるが
皆がいるし何となく寝ることが出来ない。

「あの…私は1度帰ります…。
服も着替えたいし
流石にジャージ姿では…。」

「別にいいだろ、ジャージでも。」

「いやです!
それに雨に濡れて髪もぐちゃぐちゃだしシャワーも浴びたいです」

「わかった、じゃあ送る。
2人はこのまま事務所で休んでくれ。」

社長は立ち上がり事務所から出ようと
自分の席から離れた。

「タクシーで帰ります、なので…!」

社長の方を見ると何も言わずにじっと私を見つめてくる。
無言の圧に耐えきれず
「お世話になります。」と、私は頭を下げて急ぎ足で社長について行った。


社長の車に乗ってマンションまで送って貰う。

「なあ?お前さっき俺より先に黒崎に抱きついたよな。」

「……そうでしたっけ?」

「どういうつもりだ。」

「あの時は嬉しくて…」

「ふーん」

「で、でも本当に1番会いたかったのは社長ですよ…?」

社長は何も言わない。

「怒ってます…?」

「ああ。」

「ごめんなさい…」

そうだ社長は結構嫉妬深いんだった…。

何も言わずにマンション近くのパーキングに車を止めると
私と一緒に部屋に入ってくる。

社長は相変わらず一切何も話さない。

私は玄関で靴を脱ぎつつ
「社長に服を借りていたの洗っておいたので返しますね?」
そう言ってお風呂場へ行こうとした瞬間に
何も言わずに抱きしめられて唇を奪われた。

そして唇が離れた瞬間、いつもの余裕がある表情とは違い
凄く焦ったような表情で
「俺の事以外考えられなくしてやるよ…。」
そう言って容赦無く社長の舌が私の口の中に入ってくる。
私の頭は甘く痺れ動けない。
それにいつもと違って
まるで獣のように私の服を捲りあげてきた。

「しゃ…、んっあ…待っ……て…ッ!」

息継ぎも忘れて足にも力が入らなくなる。
そんな私の腰を社長は掴んで離さない。

そのままベットの方まで連れて行かれて押し倒された。

私の首元に社長の唇が押し当てられ
ブラの中に社長の手が入ってくる…。

「っあ…ん、……やぁ…、」

体がビクンっと跳ねた瞬間だった
社長が動きを止めて 

「お前……すごい熱いぞ…?」と、ゆっくり社長が私から離れた。

「ふぇっ…?」

涙目で社長を見つめる。

「雨の中ずっと外にいて
濡れたままあんな倉庫にいたから風邪ひいたんだな…。」

そう言って大きなゴツゴツした手で
私のおでこに優しく触れる。

「…休んでろ。今日はもう家から出るな、
わかったな?」

「え…社長…?」

「ん?」

「続きは…?」

「馬鹿か、出来ねえよ。」

深いため息をついてベットの縁へ座って頭を抱えてしまった。

「どうでもいい女なら関係なく抱いてたよ。
でも大切な女の体に負担かけれねえだろ。」


そう言って布団の中に私は入れられてしまう。

「体温計は?」

「…テレビの下にある引き出しに…」

何も言わずに私に体温計を渡して

「飲み物買ってくるから待っといて。」

そう言って部屋から出ていってしまった。
私は言われた通りに体温計で熱を測る。
38度…思ったよりも熱があって私は自分で驚いた。
そんなにしんどくなかったから気付かなかった。

元気なうちに…
そう思いすぐにシャワーに入る。
そしてシャワーから出て髪を乾かしたあと部屋に戻ると社長は私を見て

「お前なぁ…熱あんのに何で風呂入ってんの?」

そう言って私の腕を掴んですぐにベットに戻されてしまった。

「元気なうちじゃないと…
それに雨に濡れて気持ち悪かったし…」

「悪化したらどうするんだよ。で、熱は?」

「38度…」

「…はあ……。冷えピタも買ってきた。
あとスポーツドリンクと食いもん。」

「そんなに買ってきてくれたんですか…?
お金渡しますね、」

「いらねえよ。良いから寝とけ。」

そう言っておでこに冷えピタを貼られた。


「俺は事務所にもどるから。
俺が戻ってくるまでトイレ以外はベットから出るなよ?」

「…でも今日いろいろ大変なんじゃ……
昨日のこともあったし…
まだ回収しに行けてないお金もあるし…
あの鬼木ってやつも処分するんでしょ…?」

「全部、俺達でどうにかする。
お前は熱を下げることだけを考えてろ。」

「…私まだ動けます…」

「駄目だ。」

「でも……」

「なあ梨乃?俺の言うことが聞けないか?」

「……わかりました。」

「それでいい。」

社長は立ち上がり飲み物を私の枕元に置いて

「薬あるならちゃんとそれ飲めよ?
ないなら薬局が開いた時に合間に買って持ってくる。」

そう言われて薬があることを伝えると

「寝とけよ?」

社長に念を押されて私は静かに頷いた。
そしてそのまま玄関に置いてた鍵を手に持って部屋から出て行くと
ガチャっと鍵を閉める音がした。

1人になって、ぼんやりしていると
ようやく自分が熱を出してたことを体が教えてくる。

熱があるはずなのに寒い…。
薬を取りに行き社長が買ってくれたスポーツドリンクで薬を流し込んですぐにベットの中に潜った。

そして薬が効いてくる頃にはいつの間にか私は眠ってしまっていた。




***


額が冷たい…。
私はゆっくり目を覚ます。


「悪い、起こしたか…?」

新しい冷えピタに替えられて私は目を覚ましたようだ。

「今…何時ですか…?」


「もう日付は変わってる。2時だ。」

私は丸一日眠ってたようだった。


「社長…おつかれさまです。」

「ああ…。腹減ってないか?」

「そう言えば昨日から何も食べてない…」

「ゼリーぐらい食えるか?」

「はい、社長はご飯食べたんですか?」

「俺はあの後みんなで朝飯食って昼も夜も食った。」

「ふふ、良かった…
じゃあ少しは寝ました?」

「帰ったら寝る。お前は自分のことだけ考えてろ」

買ってくれていたゼリーを社長は蓋を開けて私の前に差し出してくれた。

手を合わせてそれを食べ
薬を飲むのを確認すると
社長は静かにベットの縁に座る。

「熱下がってよかったな、明日もゆっくりしとけ。」

「今日…大丈夫でしたか?」

「問題ない。」

優しく頭を撫でられると安心して私は目を閉じる。

「明日の朝も様子見に来てもいいか?」

「大変じゃないですか?」

「俺が会いたいんだ。じゃまた明日な?」

また明日。その言葉が今の私には凄くしみる言葉だ。

「社長……また明日、おやすみなさい。」

玄関から出ていくまで私は社長のことを目で追っていた。
早く良くなって仕事に戻らなきゃ…。

ずっと眠っていたのに静かに瞼を閉じると
またすぐに眠りにつくことが出来た。



翌朝。
社長が来る前に目が覚めて私は自分で朝ごはんを用意して食べた。
熱も平熱に戻り仕事に行けるんじゃないかと
一応スーツを着て仕事に行く準備をして待つ。

すると、ガチャっと玄関が開く音が聞こえた。

「おはようございます」

私がそう言って玄関まで出迎えると

「なんでスーツ?」と私を見て眉をしかめた。

「もう平熱ですし
昨日1日休ませてもらったお陰で元気になったので!」

私が笑顔でそう伝えるも、「駄目だ」と一言だけで終わらされてしまう。

「社長、私本当にもう大丈夫ですよ…?
それに黒崎さんもあんな怪我の後、病院まで行ったのに今も仕事してるでしょ?
私なんかただ熱出しただけなのにいつまでも休む訳には…。」


「あいつはタフな男だ。問題ない、でもお前はダメだ。」

「何で…」

「心配で目が離せなくなる。
俺を仕事に集中させない気か?」

「そんな…!」

「俺はお前が大切なんだ…。誰よりも。」

たまに見せる私にしか見せない切ない表情をされると私は素直に従ってしまう。


「今日家にいたら明日仕事に行ってもいいですか?」

「完全に治ってたらな?」

私の中ではもう完全に今も治っているのだけれど…

「わかりました。」と、ここは素直に従った。

「明日の朝迎えに行く。じゃあな」

「あ、あの…!」

「…なんだよ?」

「今日は大人しくしてるから
行く前に…抱きしめてくれませんか…?」

何となくワガママを言いたくなった。
だけどこんな私のくだらない願いを
社長は何も言わず叶えてくれる。

優しく…壊れ物のように抱きしめてくれたあと

「行ってくる。」

そう言われて「行ってらっしゃい。」と私は答えてた。



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