大賢者居酒屋〜転生した大賢者の居酒屋は、看板娘と共に順調です〜

赤海 梓

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プロローグ:2 雇用。美味い酒と温かな店

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 ここに来たら、何かが変わる…!そう思っていたのも束の間であった。
 ここは僅かに暗い道にある居酒屋。

「枝豆3キムチ1生4、6卓!!」

「は、はぁい!!」

 ここに来て3日目だが、こんな感じで毎日店の中を走り回されている。毎日忙しすぎててんてこ舞いだ。

「はいお待ちどおです!ごゆっくりどうぞ!」

「おぅ、ありがとうなオリス!相変わらずボロ雑巾のように働いてらぁ!」

「もー、勘弁してくださいよカゼンさん!」

 私は転生先でもオリスと名乗っている。師匠についオリスと名乗った時はマズいと思ったが、この世界では大賢者である私の名前は廃れているらしい。
 そしてこの人は常連のガゼンさん。ここに来た3日間毎日居酒屋に後輩らしき人を連れて来ているという飲んべえだ。ガタイのいい大男だが、大工でもやっているのだろうか。

「…へい、今日のメイン、カルビ丼です!」

「しゃあ来たぜ!早速いただくか!!」

 そしてカルビ丼にがっつくガゼンさん。
 ガツ…ガツガツ…。

「…くぅ~うめえ!!そしてコイツを酒で流す…。ゴクゴクゴク…。プハァ~!!最高だぜ!!」

「あはは…、相変わらずの飲みっぷり…」

「当然だろ!?今のこの不景気、飲まなきゃやってらんねえぜ!!」

「…生もう1杯いっちゃいます?」

「商売上手じゃねえかオリス!!ガッハッハ!!いいぜ!オヤジィ、生もう1杯頼む!!」

「あいよ!」

 そして私は生ジョッキを持っていく。
 ふぅ。あと1~2時間ほどで日が昇る時間だ。お客さんはもう入らないだろうし、今日はもう仕事は無いだろうな。

「じゃあ上がりますね」

「おう!また明日も来るぜ!」

「あはは…程々に…」

 そして私は厨房まで戻る。

「じゃあ残りの皿洗って寝ちゃいますね、師匠」

「おう。…いや待て、そうだ。お前に1つ仕事を教える」

「仕事?」

「ああ。お前は筋がいいからな。早速だが料理を覚えてもらうぞ」

「料理…!!」

 この国は釜がしっかりしていたり水道などの設備がなかなか整っていたりと、潤いのある国だ。
 この環境では、様々な料理が作れる。

「とはいってもお前に包丁を持たせるのはまだ怖えからな。軽いおつまみ程度だ。こっち来い」

「はい!」

 そして私は枝豆に塩を振ったり、スルメの乾かし方だったりを教わった。
 そしてキムチの和え方を教わっている時…

「お前、好きな食べ物はなんだ?」

「え、私ですか?」

「…あ?」

 …?

「お前、自分の一人称『私』つってんのか?」

「え、まぁ、はい」

「そいつはやめとけ。名は体をあらわすように、一人称は自分の自信を決める。私ってのは確かに無難かもしれないがな、お前は漢なんだ。れっきとした漢なら、自分の事は俺って言った方がいい。自信のある漢は、かっけえんだからな」

「…はい!」

「わかったならいい。お前は食い物で何が好きなんだ?」

「えっ、えっとー」

 考えたこともなかった。酒と魔術に生涯を捧げたわた…俺には好きな食べ物という物は特になかった。

「…んーと…えーと」

「…ないなら別にいい」

「え?えっと、あっと、」

「それじゃこいつを食ってみろ。美味すぎて逝く死ぬぜ?」

 そう言って出されたのは、僅かに腐ったような匂いを放つ、黄色い物体であった。

「…何これ?匂いも変だし、美味しいの?」

「コイツはここよりも少し西で生産されてる『チーズ』って代物だ。匂いは最初はきついが、なれれば癖になるぞ」

 そう言われて差し出された黄色い物体を手に取る。僅かにモチモチとしていて、匂いさえなければ美味しそうだ。匂いはキツすぎるが。

「…あむっ」

 …!!?!?!?

「う、美味い!?」

 柔らかな酸味や芳醇な甘みはあれど、一切として雑味が感じられない…!

「脂肪分が含まれており、僅かに力の感じる、濃厚な味わいが…!」

「へぇそこまで舌が敏感なのか、お前。面白い!どうだ、そいつは?」

「…もう、大好きです。これより美味い食べ物は、正直無いと思います」

「はっはっは!そうかそうか!」

 前世ではチーズというのは水分の飛ばされた乳だと聞いてあまり好いて食べなかったし、高級店でも出されなかったが、ここまで美味いものだったとは…!

「じゃあコイツをやろう。週1ぐらいで食べるんだな」

 そういって、魔術の薄い布のようなもので包まれたチーズをもらった。

「…2日で無くなりそう」

「あんま食いすぎんなよ?血が詰まって死ぬぞ」

「…っふ」

 下手したら死んでたかもしれないと考えたせいで素っ頓狂で情けない声が出てしまった。

「…ははっ、限度守っていっぱい食えや。そして今日は寝ろ」

「はい!」

 うちの師匠はいい人だな。そう思い、私は…俺は眠りに着いた。



「…ん、おはよぅございます」

「おう、おはよう」

 うちの師匠ザグラ・ファミエル。この居酒屋を開いてもう50年以上経つという。そんな師匠は、今でも厨房に立っている。

「ゲホッゴホゴホッ」

「大丈夫かい師匠?」

「…あぁ。このくらい…、何でもねえわ」

 俺にはわかる。師匠はもう歳なのだ。身体が弱り始め、もうまともに厨房に立てる状態じゃない。

「…無理しないでくださいね」

 だが俺が安易に辞めようなんて言えるはず無かった。そりゃそうだろう。飲んで食ってを楽しむお客さんを見る師匠の顔は…

「へいらっしゃい!久しぶりだねあんちゃん!朝っぱらから飲むんか?」

「あはは、昨日の残業のストレスをすっ飛ばしたくてね…」

「うし、わかった。今朝は何も気にせず飲めや!!」

「よっしゃあ!!それじゃ大将、とりあえず生と、あとこいつとこいつと…」

 酒を楽しむ笑顔を見る師匠の顔は、驚く程に穏やかであるのだから。
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