呪っていたのは私でした

そいみるくてぃー

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過去の私、恐ろしすぎるわ。過去に戻れるなら今からでも戻ってやめさせたい!




魔術師が軍事力として認められるこの国で私は魔女と呼ばれている。軍人でもなんでもないのに。
夫の一人はメゾン経営をしながら、今国で一番注目を集める異世界の花嫁様のデザイナーの一人。その夫からもたらされた依頼だ。とある方が呪いに詳しい魔女に相談があるそうだ。それを夫が受けたと。主人がとあるなんて呼ぶ方はもう高位貴族以上しかありえないし、ほぼ見当もついている。
そう、依頼したいとお茶の席を用意してくれて、私の目の前にいるのだから。髪の色は明るいブロンド、目元は仮面、口元は派手な扇。髪は魔力を帯びているから恐らく色を変えている。ドレスと扇、仮面のセンスはどう見ても私の夫のものだし、なにより隣にいるのは国の筆頭魔術師。それを気安く名前で呼び、指を絡め手を繋いでいるのに寄り掛かっている時点で思い当たる人間は一人しかいない。なぜ後ろに第三王子の側近であるディヴリー家次男の近衛騎士がいるのかは謎だけれど。

「お招きいただき、有り難うございます。いせか、んぐぅ!!!」

御呼びしようとしたら夫、ルネに手で口を塞がれた。

「この方は…そう、決して異世界の花嫁様ではないので間違えないように」

そういうのは先に言っておけ。もう相手の正体もわかってるんだから、そんなに強引にしなくてもいいじゃない。

「えーっと…レディMって呼んでもらえれば」

目の前の異世界の花嫁様はそう言うが、筆頭魔術師と騎士と私の夫は頭を抱えてしまった。こんなふざけた偽名を使うのか…もっとちゃんと打ち合わせをしておいてくれ。もはや隠す気がないという認識でいいのだろうか?夫が筆頭魔術師と何か話している。もうわかってるから、ひそひそ話しなくていいから。

席に着いても目の前の方々はいちゃついている。わざわざ椅子も隣り合わせになるよう近付けて。どうやらこれは通常運転らしい。とんでもないわね。扇で隠したってどうみてもキスしてることくらいわかるわよ。

「ちょっと、ミズ…レディM…私の愛しい妻を呼んでるんだからちゃんとしなさい。」

よく言ったルネ!

「魔女様、じゃないや、ルネさんの奥さん、あれ?合ってる?よね?」

ルネは私の紹介をまさか魔女としかしてないんだろうな?横を見れば目をそらされたから、魔女としてしか彼女は認識していない。

「申し遅れましたわ。私、こちらのルネの妻であります、オレリーズと申します」

相手はふざけた偽名を名乗っているけれど、私は本名だ。家名はルネのを知っているからいいだろう。
話した印象としてはまだまだ少女。年齢は二十歳を越えているそうだが、この方が古代文字を解析しまくって国の歴史諸々を紐解いているとは本当に失礼だが正直言って思えない。元いた世界では淑女教育はされなかったのだろう。まぁそれはそれで羨ましい限りだ。

「そう、お願いしたいことがあるんですよ!」

敬語なのか敬語じゃないのかよくわからないおもしろい言葉遣いで彼女が話しをしていたら、急に思い出したかのように本題を振られた。
壁に控える第三王子の近衛騎士の呪いをどうにかしてくれということだった。筆頭魔術師にも、あの宰相補佐にもわからない謎の奇行、魔術ではなく呪いだと思うとルネに言っていたら私を紹介されたと。

「き、奇行?それはどのような」
「ロラン」

異世界の花嫁様が立ち上がり、控えていた殿下の近衛騎士が彼女に向かってくる。なにが起こるのだろうと思っていた。

「ミズキ、レースが」

筆頭魔術師が椅子に引っ掛かったレースをとろうとしたら、異世界の花嫁様が振り返り何故か紅茶のカップがひっくり返る。え?誰もなにもしていないじゃない。そのカップに驚いて椅子にぶつかり前のめりになった異世界の花嫁様を向かってきていた騎士が抱き止める。うん。どうして片手が胸を鷲掴みしているのかは不明だけれど。
夫は必死に笑いをこらえているし、筆頭魔術師は「ダンスはもっとひどいですよ」と言いながら音楽を流す。そんなことまで出来るのねこの魔術師は。それよりもダンスだ。軽く組んでいるのに視線は熱烈に絡み合っている。あら?もしかして
『この騎士は婚約まではいっていないけれど彼女の夫公認の恋人よ』
頭の中に隣にいる夫から念話がきた。あぁ、そういうことね。納得だわ。筆頭魔術師はそのダンスの様子をなんとも言えない表情で見ている。嫉妬?嫉妬なの?
ウキウキしながら見ていたら、勢いよく回された異世界の花嫁様のドレスの裾が椅子に引っ掛かる。先程の椅子をどうして元に戻さなかったのかしら?まぁ普通ならこんなことで転ぶとは思わないけれど。

「やばっ!」

なんで今日のドレスをオフショルダーにしたのだろうか?こんなことになると夫はわかっていたのだろう?
騎士はよろめいた異世界の花嫁様をダンスのポジションで組んだまま引き寄せようとなされたけれど、そこからどうしてショルダー部からドレスを下げることになるのかしら?コルセットが露になった異世界の花嫁様も、その夫である筆頭魔術師も、私の夫も大笑いしている。ドレスを引き下ろした本人は恥ずかしそうに顔を赤らめ反らしている。

「これ!魔術じゃないんだって。だから呪いじゃないかって!あっははははっ!」

一連の動きで仮面も取れた彼女は淑女とは思えないくらい大笑いしている。ドレスは私の夫がすぐに着せた。
もう隠すことはやめたのだろう。髪の色も戻され仮面も外し、楽しそうにお話をされている。レディMというふざけた名前は本当にどうするんだろうか?

「魔術でなければ呪いというのは十中八九当たりでしょう。しかしこのようなふざけた呪いというのは今まで見たことも聞いたこともありませんわ」
「だよねー」

アフタヌーンティーをすごいすごい言いながら楽しそうにお話をされる彼女は、仮面と扇で隠していたときより生き生きされている。元より淑女的なものは向かないのであろう。後ろに控えることをやめた騎士様も彼女の横の椅子に掛けた。恋人といえど正式な夫である筆頭魔術師とともに彼女の横に座ることを許されているのだからおめでたい報せも近いことだろう。

「こーしゃくとかこーしゃくの家の人っていい人多いね。ね、オレリーズ様。意味不明なこと言ったり喧嘩腰じゃないもん」

恐ろしいことを言う人だ。彼女が普段接しているのが公爵家侯爵家が中心で、下位貴族は畏れ多くもこの方へ不躾な態度をとっているということだ。筆頭魔術師が直接その方々へ何かを言うことは難しいだろうが、あの宰相補佐であるもう一人の夫の耳へ入っていないわけがない。彼の父や王太子を使ってでもなにかしらの報復を企ているだろう。いや、もう実行に移していそうだ。
我が家はルネではない、筆頭の夫が侯爵家の長子なので私は次期侯爵夫人だ。ルネだって実父は伯爵家の生まれだし。私自身は子爵の娘だけれど、夫に見初めてもらって次期侯爵夫人となれた。幸いにも侯爵家当主である義両親との仲も良好だ。他の夫達も結婚とともに侯爵家に婿入りという形で全員同じ家名を名乗っている。私の研究のための部屋も離れをわざわざ建てて用意してくださった。巷で魔女と呼ばれる女が嫁いできたのに、本当に義両親には恵まれた。他の夫達の親も同様だ。「寧ろうちの息子をもらってくれてありがとう」と頭を下げられたものだ。懐かしい。

「そういえばオレリーズ様も結婚式には来てくれるの?」
「え?え、えぇ。その予定ですわ。」

そう、あと数日後に迫っている異世界の花嫁様の結婚式だ。教会で大々的にやるものだと思っていたけれど、身内や彼女が世話になっている者だけを集め、王城の庭でガーデンパーティー形式で催すというなんとも意外な式だ。ごく身内と言っても宰相家はほぼ全員参列だろうし、王族も来るとのこと。もはや国をあげた催しなのではないか?

「オレリーズ様もだけど妊婦さんでしょ?歩くなら階段とかなるべくないようなルートにしてるし、転移規制も解除してもらうの。あれ?それだと危ないんだっけ?」
「そうだよ。いつ外部から来るかわからないから、城の門のところに招待客だけが使える転移陣を設けておくの。あっ、夫人のような方にも影響のないような陣を用意していますから!」
「有り難く存じますわ」

このような気遣いも意外というか、異世界から来た女性ならではだと思う。この国は極端に女性が少ないから守るのは当然、守るのであれば外にも出さないと考える男性は多い。しかし彼女は逆だ。外にでてもきちんと守られる環境があればいいじゃないかと考えている。
子どもたちが飽きないよう、飽きても目の届く場所にキッズルームなるものも用意しているそうだ。シッターと子どもたちが遊べるようにと。子ども同士のふれあいもできるし、普段あまり連れて歩けない子どもも一緒に参列できるのはありがたいしいい経験になるだろう。
なんでも宰相一族との顔合わせに子どもや一部の奥様がいないことを不思議に思ったそうで提案されたそうだ。彼女はこの世界に来られる前に子どもがいたのだろうか?と思いたくなるような提案だった。どうやらただの子ども好きのようだけれど。






異世界の花嫁様御一行に見送られて、ルネと一緒に邸へ帰る。

「ねぇ、騎士様の呪いってなんだと思う?」
「あれはねー、ひどいわよねー。でもミズキ様の前にあんなことになってる彼を見たことないわ」

夜会で警備についているときに見かけたときは、酔った(フリも含め)御夫人や令嬢を支えていても、あのような面白い事態は起きていない。彼が招待される夜会に一緒になることもあるが、ダンスパートナーがあのようなことになっているところも見たことがない。例の彼女とはどうだったのだろうか?
呪いをかけられた彼本人を我が家に置いておくわけにはいかないので、彼が幼少期から身に付けているという短剣をお借りした。呪いと言っても魔術で探るしかないのだ。短剣を携える前に呪われたなら対処のしようもないのだが。

「とりあえず調べるしかないわね。招待されている式のために色々したかったけれど、それどころではないわ。」
「それでもゆっくりしてちょうだい。お腹の子のためにも。エステもいけないだろうから露出は控えめなドレスを用意しているの」
「花嫁衣装じゃなくて?」
「うちはメインのドレスはずされたのよ。マチアスに負けたのっ!」

そういえばそうだった。それを告げられた日は大の大人が泣きながら家に帰ってきたのだ。
『マチアスの野郎のドレスのほうがいいって言うのよー!もう生地も用意してパターンひいて裁断まで済ませてあったのに!うわーーーーんっっっ!!!』
玄関で泣きわめく夫に邸中が驚いたものだった。

「でもお色直しがあるからそこのドレスは死守したわ。もう裁断が終わってる生地はに使うことを確約させたわ。まぁ次もそんなに期間を空けずに行われそうね」
「そうなの?」
「えぇ。まずあの騎士様は確定ね。そこに増えるのが1人なのか2人なのかはミズキ様次第ってところ」






*****





「ねぇ短剣さん、教えて。あなたの御主人様はどうしてあのようになっているのかしら?」

我が家に伝わるこの魔術は、代々子爵家の娘にしか使うことができない。私が使えるのは本当に幸運なことだ。これのせいで魔女と呼ばれるのだけれど。
昼間だと言うのに黒いカーテンで閉めきった薄暗い部屋で決まった形に蝋燭を配置し陣を用意する。対象物を陣の真ん中に置き、周りの蝋燭1本1本に火を灯す。そこで対象物に話しかけるのだ。
その短剣が見せた光景に私は頭を抱えた。



『あぶないっ!』
『なんなんですの!?あぶなくなんてありませんわ!』
『そのようなドレスでふんすいをのぞきこむなんてあぶないじゃないか』
『あら、あたくし、だいじょーぶでしてよっ』
『ちがうっ!あしとかぼちゃパンツがみえているんだ』

怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしたその子はあろうことかとんでもないことを口走った。

『このようなはずかしめ…あなたがほんとーに好きな人ができたときにこのよーなはずかしいめにあうよーにしてさしあげますわっ!しんのあいでしかとけませんが、このようなめにあってあなたさまをみもこころもあいしてくれるごれーじょーなんているのかしら?ふんっ!せーぜーくろうすればいいわっ!!』



おそらく短剣の記憶にもなかったのだろう、女の子の顔はぼやけているが、場所や記憶、このようなことを言う、すべてに当てはまる人間は

「わたく、し、だわ…」

一瞬頭が真っ白になったが考えなければならないことが山積している。とりあえず短剣にお礼を述べ、蝋燭を一本ずつ吹き消しカーテンを開く。薄暗さに慣れてしまっていたので眩しく感じるがそれどころではない。
とりあえず夫達に相談しなければならない。





*****





「次の子は女の子かな?」
「あら?あなたの家系は呪われてるのかってくらい男児ばかりじゃない?みんなあなたの息子になったのだから絶対また男の子よ」
「一人くらいオレリーズに似た女の子の孫がほしいよ…」
「まぁそうだけれど、私のかわいい騎士様達にもう一人加わるかと思うと楽しみで仕方ないわ」

何人目だとしても孫を楽しみにしてくれている義両親には言えない。侯爵令息を呪ってしまっていたのが自分だと。

「あら?オレリーズ今日の食事は口にあわない?」
「いいえお義母様。すこし胸がいっぱいで。」
「後期つわりかもしれないわ。グラニテを用意させるわね」

夫達には一刻も早く帰ってきてもらいたいと手紙を侍従に渡して届けてもらっている。
子どもたちにおやすみのキスをしてシッター達に任せ、私は夫達の帰りを待つ。義両親は妊娠中の私にかわって夜会へ参加してくださっている。
「最近の夜会料理は味が濃かったり脂っぽいから家で食べていくよ」とおっしゃっていたから一緒に早めの食事をとったのだ。私の前では大好きなお酒も控えてくれている義両親には感謝しかない。

「オレリーズ?話ってなにかあったのかい?」

義両親と入れ替わりで夫が帰ってきた。帰ってきたのは義両親の実の息子で侯爵家の長子、リビオ。

「お帰りなさい。リビオ、大変なの、聞いてくれる?」
「あぁ。今日はルネと一緒に異世界の花嫁様に御会いしたんだろ?」

リビオがまだ彼女に会ったことがないことが意外でならなかった。法務は彼女とはまだ顔を合わせていないそうだ。旦那様方がおられないときはロラン様か第3王子の専属なはずのミシェル様がついているか、古代文字研究の方へ行っているらしい。まぁ法務に用事はないだろう。古代文字と法務は全く畑が違う。そもそもあのような明るい方が古代文字を嗜んでいることが意外でならないが。
それよりも本題だ。騎士団長の次男が異世界の花嫁様の恋人で呪われてた、呪いをかけたのがまさかの幼少期の自分だったと。

「えっと…そもそも異世界の花嫁様は殿下達3人の求婚を断ったと聞いていたんだけれど、ロラン殿とその、交際をされていると?」
「えぇそうよ」
「まぁそれはルネのほうが詳しいだろうね。それよりも呪い?しかも君が呪ってた?」
「そう…頼まれたから調べたのよ。そうしたら幼少期の私が自分が悪いのに変なことを口走って…魔力もコントロールなんてできないから無意識に暴走したんでしょうね、立派に呪いだったわ」

ため息をつくことしかできない。あぁやってしまった。過去に戻ることはさすがに出来ないから手詰まりなのだ。

「で?解呪方は?」
「真の愛でしか解けませんと言っていたわね小さな私は」
「恋人では駄目だと?」
「えぇ。口付けもされているからそれでは駄目みたいよ…もうセックスしかないわね。まだしてないのかはわからないけれど」

噎せたのかゴホゴホ言い出した夫に酒を出して話の続きをする。そもそも子どもの考える真の愛とはなんなのだろうか?愛に形なんて見えないのだから、やっぱり私はセックスしかないと思う。ルネに聞く?ルネも知っているかしら?

「たっだいま~、あーつかれたわ」
「おかえりルネ」
「明日から当日まで泊まり込むわ。まえどり?なるイベントとちょうどアイディアもあるし、あの子の秋冬ドレスも何着か仕立てちゃう。あとうちの新しいお姫様にもね」

しゃがみこんで服の上からお腹にキスをしてくれるルネ。お姫様かどうかはわからないけれど今回も産着もおくるみもピンクで仕立てたけれど、違ったらどうするのだろう。お姫様待ちはこの家全員だが、お義母様の言う通り男な気がする。またお義母様のちっちゃな騎士が増える。揃いの服をルネに仕立ててもらえばいい。
呪いの件も話した。ルネは笑っていたけど、これを伝える役目はルネだと言ったら頭を抱えた。

「嫌よ…なんで私が…当事者達はいいのよ、さっさとヤればいいんだから。問題は彼女の夫達よ…アレらに説明するの?嫌よ、嫌っ!リビオがジョエルに言ってよ!幼馴染みでしょ?ノアールには私が言うから」
「お前も同級生だろ?だから頼まれてるんじゃないか」
「いやよー!この前なんて『お前のドレスじゃミズキとの距離が出来るからマチアスに頼んだ』って普通に言ってくるのよ?なによ!お姫様みたいなかわいいのがいいってミズキが言ったのよ!?なのに!なのにっ!ジョエルの野郎!」

ほぼ私的な恨みだ。確かにルネの書き起こして自慢げに見せてきたデザイン画の記憶だと、あまりにもスカートが広がりすぎて、旦那様方との距離は出来てしまう。横並びで神に誓うのだから距離は近いほうがいいだろう。そこは女性を綺麗に見せるドレスを専門にしているニュイの畑だから仕方ない。





*****





そう、異世界の花嫁様の結婚式2日前。お時間を頂いて彼女と夫2人、ロラン様が我が家へやってきた。もう執事侍従全員が死に物狂いで準備をし、シェフ達も王城のシェフに彼女の好みを聞いて食事を用意した。そう、ランチ会だそうだ。

「お招き有り難く存じます」

この悪の化身、宰相補佐の笑みがなによりもこわい。夫2人と同級生だとしても関わりあいのない雲の上の方という印象しかないので恐ろしい。

「この世界にもノンアルコールドリンクあってよかった。これ当日出すやつらしいんだけど試飲にってもらってきちゃった」

あぁ、この方がいらっしゃるだけで空気が柔らかくなる。もしいなければ私は切迫早産になってた絶対。

「前撮り楽しかったよね」
「そうよ!殿下の離宮で私あのマチアス達と一緒にやったのよ!オレリーズ褒めて頂戴」
「はははっ」

今こそ胎動を感じたい、ママは一人じゃないと言ってちょうだい。ルネが頑張っているからこのままルネパパがうまく全てをまるーーーく片付けてくれるわ、きっと。

「オレリーズ、どうする?」

どうする?じゃないわよね…

「私が直接お二人にお話ししますわ。ジョエル様、申し訳ありませんがリビオと一緒に席を外していただけませんか?」
「いいえ、こちらで一緒に聞かせていただきます」

オーマイガー。

「ジョエル、あなたが高位貴族の嫡男で宰相補佐なんてとんでもない仕事しているからオレリーズはビビっちゃってるのよ、気持ち汲んであげてよー」

そうだルネ!そうだぞ!

「ミズキはこの国で頼れるのは私とノアールだけですから、なるべくいつも側にいてあげたいんですよ…」
「ジョエル…お前がそこまで言うなんて…」

昔からの友人というのは厄介このうえない。ましてや二人とも高位貴族だから下に気なんてつかえない。リビオまで乗ってしまうのは計算外だったけど仕方ない、早く終わらせてしまおう。

「まずはロラン様、この前お借りした物をお返し致します」
「それで…わかったのか?」
「えぇ。拙さはありますが呪いでしたわ。」
「えーっ!?呪い!?やばい、藁人形とか?」

藁人形が何かはわからないが、ミズキ様は呪いというもの自体を知らないわけではなさそうだ。話は早い。

「いいえ、とくに媒介はありませんが、ロラン様には幼少期にかけられた呪いがあります。そのせいでミズキ様とあのようなことに…」

ドレスを下げて下着を露にしたなどとは口にはしない。ジョエル様が存じているかが不明だからだ。

「ロラン様が真に愛する者が現れた際に発動する呪いのようでした。その…愛したものが辱しめをうけると…」
「それがその…ミズキだと?」
「お相手がどうなどとは私ではわかりませんでしたが、ロラン様にご自覚があるようでしたら、まぁ、その、そうかと…」

あーお腹痛い。妊娠中のではなく結構ダイレクトにこれは胃だわ。お腹の子の圧迫でなく視界の端にいる宰相子息のせい、これで切迫早産にでもなろうものなら賠償金請求してやるわ。長いこと結婚してなかったモテ男がいきなり現れた妻にベタ惚れなんだから、今まで求婚し続けた歴戦の猛者達はやるせないでしょうね。私はそんな男からお金をふんだくってやるわ。それくらいしなければ気がはれないわ

「それで呪った人間はわかったんですか?」

そこ?今核心つく?ルネとリビオにも一瞬緊張が走る。もー、結局私。男ってこんなときに度胸がないんだから。

「いいえそこまでは。ただ意図があってというよりはこう…事故的なかんじかと。きちんと手順を踏んだ呪いではなかったので」
「そうですか」

気付いていませんように、読心術とかありませんように。


「でもさー、愛軽すぎでしょ。まだ会ってそんなに期間も経ってないのに」

そう笑いながら言う彼女は知らないのだろうか?殿下と共にあの男女を追いかけていた日々を。あれは真実の愛ではなかったのだ。若気の至りと今でなら言えるが、あれのせいで殿下の国での人気と信頼は地に落ちた。正直言って私はあの男女は好きではない。だからあの男女にロラン様の愛がなかったと知ってざまぁみろと思ってるわけだが、口には出さない。
そういえばジョエル様の家があの女の後見人をやったがどうなったのだろうか?まぁそれは今話すことでも聞くことでもないか。

「愛に期間なんて関係ありませんよ。現に私もミズキには一目惚れですし」
「それは打算的なのもあったんじゃない?まぁもう結婚式もするし今更って感じだけど」

意外だ。筆頭魔術師といた彼女は甘く愛に溢れているのかと思っていたから、同じく夫になるジョエル様にもそうなのかと思いきや意外と…でも2人に対する態度を変えているわけではなさそうなので彼女の本質を垣間見たような、そんな気さえする。
でも距離は近いし人目も気にせずキスはするから愛がないわけじゃないんだろうけど…謎だわミズキ様。

「とにかく一発ヤっとけばいいんでしょ?いいでしょジョエル」
「…もう結婚式まで数日しかないのに許可を出すとお思いで?」
「うーん、無理か。じゃあロランはしばらくそのままだね。結婚式で恥かきたくないからダンスは絶対お断り」

項垂れているわ、騎士団長の息子が。これがあれね、ざまぁみろってやつね。昔の私も胸がすく思いだわ。
それから暫くお話をして、ミズキ様が「妊婦さんのところに長居しちゃダメだよ!ごめん!また今度ね!」なんて言いながら慌ただしく帰られたので邸中がようやく一息つけた。

「お疲れ様」

休んでいた私の元に夫二人が私を挟んでソファに腰かけた。
持ってきたのはハーブティー。妊娠後期からはラズベリーリーフティーなるものを延々と出されるが、正直ルイボスティでいい。今までがそうだったのたからずっとルイボスティでいい。

「嵐が去ったわ…」
「まだ挙式当日があるぞ」
「いいのよ、ただお祝いに参列するだけなんだし、子どももみてくれるみたいだから」
「私なんて衣装係みたいなものよ!ニュイのドレスのあとなのが気にくわないわっ!」

お腹の子がドスンと蹴ってきた。










十数年後、ミズキ様と子育てが一段落した祝いとして一晩中飲み明かそうと二人で高級ホテルでルームパーティーをした。

夫達には言えない墓まで持っていく話をしようと提案されたがとんでもない話が出てきた

「実はマチアスとさー長いことセフレなんだよね。ね、絶対夫達には言えないで墓まで持っていく話」

こんなにも聞かなきゃよかったと思う話はあるだろうか…マチアス様といえば前王の弟の息子、今の王の従兄弟、ミズキ様の夫である公爵様の従兄弟でもあるのだ。飲んでいたお酒を吹き出すのも仕方ないじゃないか

話は聞いたが要は顔が好みだったってことだろう。まぁマチアス様はニュイのオーナーとしてルネからよーーーーーく聞かされているが、まさかミズキ様とデキているとは思いもしなかった。いや、夫人とは仮面夫婦ですらなく不仲だとは知っていたが、まさか従弟の妻に…人は見た目によらないってやつだ…

「オレリーズは?なんかある?」

私の墓場まで持っていく話といえばあれだ、アレ

「絶対に私を嫌いにならないとお約束いただけますか?」
「え?そんなヤバい話?もしかしてあたしの夫の誰かと「それは神に誓って違います」
「そう?ミシェルうまいよ?」

あの夫達と?自分が?確かに整った容姿をされている方ばかりだけれど謹んで遠慮させていただく。しかしすんなりミシェル殿の名前がでてくるということは…とんでもない夜をお過ごしなのだろう。5人もいると夜の相手もお忙しいのだろうに

「そんなことは、いいんですよ…他の旦那様が嫉妬なさりますわ」
「うちの旦那達仲良さそうにしてるけど牽制しあってばっかりだよ」

御存知でしたか…恐らくエスコフィエ家に関わる全員が口を揃えて言いたくなっただろう。ミズキ様は旦那様方が仲睦まじいとでも思っているだろうが、内心皆牽制しあっているのは暗黙の了解なのだから。

しかしミズキ様がとんでもない暴露をしたのだから私もせざるを得ない。

「本当に誰にも仰らず、私を恨むこともなさいませんか?」

酔いとは恐ろしい、一生言わないと決めたことも口から出てしまうのだから。ミズキ様は魔術は使わないのにまるで魔術で言わされているかのようだ。

「絶対言わない。むしろ覚えてるかも微妙だし」
「いや、言わないという約束だけはお忘れにならないよう」

この方を信じて慕ってきたのだから大丈夫だろう。いや寧ろもうこの罪を公にして裁いてほしい気がしなくもない。

「実は…あの呪い私のせいだったんです」
「あのって?」
「ロラン様の…あの…ミズキ様を辱しめるやつです」

カタンと音を立ててグラスを置かれたミズキ様に怖々していたが彼女はお腹を抱えて笑いだした。

「あれ?あれがオレリーズの?あんなラッキースケベの呪いかけるなんて、ロランは一体オレリーズに何をしちゃったの?エグすぎでしょ」

ゲラゲラ笑っているけどこれは許された?

「初めて部屋に来たときに股間に顔埋めちゃったり、ダンスの練習の時ドレス下げられておっぱい丸出しになったり、あードレス下ろされるなんてしょっちゅうだった。あとはつまづいて押し倒されておっぱい鷲掴みとかパンツ丸出しとか「誠に申し訳ありません」めちゃくちゃおもしろかったー」

面白かったで済まされない回想だった。申し訳なさすぎる。当時から親しくさせていただいていたし、目の前でその惨劇を目撃したこともあれば、ゴシップ誌で取り上げられたことも知っている。それを当の本人はおもしろかったで済ますのか?

「でもロランは結構参ってたかも。家族はみんな怒り狂ってたし、あのときは思い詰めてたよ」

ざまぁみろとしか思えない。過去の私よ、呪いは無事達成されていたから安心なさいと伝えたい。

「あーっもうおっかしー!オレリーズとはもう秘密を共にする仲だね、大好き」

ざまぁみろ。私は!私も!ミズキ様の大好きをもらってやった!パンツを見られた恨みは今、たった今なかったことにしてやることにした。彼女からの大好きのほうが悔しいだろう、このまま死ぬまでミズキ様と仲良くしてみせるんだから!





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