歌わぬ鯨

高山奥地

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火山のふもとの塔の魔法使い達には血縁関係なく塔の皆が一つの共同体だと思っている節がある。魔法使いの人数は現在では約三百。年々減少傾向にある魔力に合わせて、魔法使いになる人の数は制限され、年若いほど魔法使いの人数がすくなかった。

コホラは十二歳の時、凍土の丘の塔から火山のふもとの塔に逃げてきた。

凍土の丘の塔には血筋によって派閥があり、その派閥争いが血で血を洗う戦いになっていった。コホラは父が殺される間際、なんとか逃がすことができた子どもだった。

凍土の丘の塔は飛行法に力を入れていた。コホラにも幼いながらそれに覚えがあった。

コホラは僅かな食料と濃縮魔力液を手に何千キロもの距離を飛行し続けた。意識して南下しなければ持っていかれそうな気流に乗りつつ、凍えるような寒さと空気の薄さを魔力で耐えて、一人火山のふもとの塔を目指した。

火山のふもとの塔に着いた時には、体はくたびれ果てて、疲れきっていた。火山のふもとの塔で猛烈に感じた暑さにもこたえた。

「たすけて」

魔法に使われる共通の古代語でコホラは呻くように言った。ボロボロだったコホラを火山のふもとの塔は一時的に受け入れる判断をした。

コホラはベッドの上でぐったりと眠り続けた。その間、火山のふもとの塔では彼の処遇について話し合いが行われた。コホラは不思議とその状況を視ていた。魔法使いの中で時々起こる、精神の夢遊というものである。会議の様子をコホラは覚えている。

「私は保護に反対だ。凍土の丘の塔に対して無闇に敵対感情を煽ることになりかねない」

「人質代わりになるかもしれないぞ。凍土の丘の塔に連れていく代わりに何か見返りを要求することもできるやも」

「十かそこらの子どもに対してそんな扱い、あまりに品がないな」

まとまりのない様々な意見が交わされた。皆が会議にうんざりしてきた頃、その時の塔長が言った。

「少年の父上だと思うが……、古代語で簡素な嘆願が述べられている。『火山のふもとの塔に適した気質の持ち主です。保護をお願いしたい』とのことだ。もし、そのような気質なら私は火山のふもとの塔で育てたいと思う。『火山のふもとの塔の意向に従う』という魔法誓約を結ばせた上でのことになるがね」

「どうやって気質をみるのかね。少年に魔法戦でも行わせるつもりか?」

「そうだね。そういうことになる。うちのラエと魔法戦をしてもらおう」

当時の塔長はかなり教育者的な面が強かったという印象がコホラにはある。育てることに熱心で才能をよく見極める人だった。

コホラはその時ラエと魔法戦をして合格をもらった。

「そういえば、あれから魔法戦にハマったな……」

コホラはぼんやりと一人呟いた。

現在、公式で行われる魔法戦の大会でラエが優勝し続けており、コホラはラエと魔法戦で切磋琢磨し続けている。今は亡き当時の塔長はラエと特に血縁でもなんでもなかったが、ラエは塔長のお気に入りだった。利発で魔法戦においては天才的な才能を見せたラエに塔長は目をかけていた。

火山のふもとの塔でいうところの魔法戦とは特殊な魔法空間内にて行われる模擬戦のことである。魔法戦は感覚が現実に近いシミュレーション戦であり、痛みや熱などの刺激を感知することはできるが実際に損傷を受けることのない特殊空間で、魔法使いは一律に制限された魔力で戦う。
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