歌わぬ鯨

高山奥地

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コホラは頭から深くローブを被って地下の自室を出ると、ある魔法学者の演説を聞きに行った。

灰色のローブのお偉方が階段状の議会室で壇上に立つ彼女の演説に聞き入っている。魔法戦に関する特殊な魔法空間を構成する魔法陣の新たな書き方。これにより魔法戦で消費される魔力は従来の九割五分に抑えられる、というもの。

魔力の削減、削減、削減……。年々減る魔力についての対処法が常に叫ばれていた。節魔力。省魔力。別の力で代替すること。

火山のふもとの塔での行事である魔法戦の公式大会に使われる魔力の割合は年々増えていっている。何故かと言えば、公式大会で生まれる利益が塔での大きな力となってきたからである。

魔法学者女史が質疑応答に答える。

いくつかの質問の後、会議は休憩に入った。

魔法学者女史、アヌエヌエがこちらにやってくる。コホラは挨拶した。

「どうも。お疲れ様です」

「コホラ、どうでした。論理的に変なところはありませんでしたかね」

「大丈夫。完璧でしたよ」

さらりとそう言うとアヌエヌエはホッとした様子で胸に手を当てた。見た目にはわからなかったが緊張していたらしい。

魔法戦の消費魔力削減案はコホラがアヌエヌエに持ち掛けたものだ。コホラは立場上、公の場に立つことができない。そして塔の大きな決定に関することに口出しすることは許されない。

「アヌエヌエ先生がいてくれて助かります」

顔を隠したローブの奥で、コホラはできるだけ温かみのある声音を出す。アヌエヌエは恐縮そうに眉根を下げた。

しばらくの休憩の後、会議が再開する。コホラは会議の行く末を見守っていた。



会議が終わって、部屋を出る。階段を降りて、地下の自室に戻るとラエが部屋の扉の前に座っていた。

「コホラ」

こちらを見てほっとしたような顔を見せる。大方、遊技場で魔法戦をしていたが誰も相手にならなかったのだろう。

「ラエ、まあ部屋入れよ」

同等の強さの人達でないと戦いにならない。強さが過ぎると一方的な暴力になる。ラエは器用に弱い相手に合わせつつ勝つことも覚えたが、それは身にならないことが多く、何よりすごく疲れるらしい。

「魔法戦だろ?やろう。魔力液ある?」

コホラは魔法戦用の魔法陣が描いてある布を部屋に広げる。ラエは底に薄く魔力液の入った小瓶を十個持っている。一つをコホラに渡しラエも一つ持つ。残りは魔法陣の布を避けてベッドの上に置いた。

五回対戦するのか……と、コホラは思った。

一回の魔法戦に使う魔力は実に少ない。魔法空間に入る人の数にも左右される。たった二人で行う観客のいない魔法戦であれば、公式の五万人観客がいる魔法戦の約二万五千分の一の魔力消費ですむ。

コホラは望む、自分はラエにとって全力で叩きつけても壊れない人間ありたい、と。

ただ魔法戦をするためにコホラは強くありたかった。
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