歌わぬ鯨

高山奥地

文字の大きさ
5 / 13

5

しおりを挟む
魔法空間に降り立ってコホラはラエを見やる。ラエは言う。

「君のいつもの得意戦法できてくれないか?」

「飛行術使った物理攻撃?いいけど」

なにかしらの策を練ってきているんだろう、とコホラは思った。

コホラの背中に翼が生える。その翼をはためかせてコホラは浮かび上がった。コホラはシールドを前面に展開しながらラエへと一直線に飛びかかる。

いつもなら翼を出した時点でラエの攻撃が来ているはずなのに、今のラエはコホラが向かってくるのを静かに待っているだけのようだ。

しかし、コホラはラエに近づくほど、翼が重くなるのを感じた。コホラの動きが鈍る。ラエが動きの鈍ったコホラの攻撃を紙一重で避けた。

コホラの翼が空を切る。一瞬重くなった体がラエから離れるとまた軽くなった。

これは……。

「重力操作の魔法……?」

魔法での重力操作は一般的に浮遊魔法に使われる。自分に作用する重力を失くすことで浮き上がることが出来るのが浮遊魔法だ。しかし応用すれば、誰かの重力を何倍にも出来るのだ。

とはいえ、魔法は対象物が遠いほど効果が低くなり魔力の消費は大きくなる。

おそらくラエはコホラに対して勝算のある程度しか魔力を消費しないよう重力操作の範囲に気を使っている。

「ならば……」

コホラは重力を利用して真上から攻撃する。慣れない魔法のため重力の大きさの切り替えも遅れるはずと見てのことである。

真上からコホラが翼を畳んで急降下する。目の前のシールドを固く鋭利な形にして、ラエ目掛けて落ちていく。

瞬間、強く右に引く力を感じてコホラは翼を広げ、急上昇した。引く力が薄く遠退く。ラエが左に避ける態勢に入りながらコホラを見上げる。

コホラはラエが右に重力の向きを変えたのが分かった。

おそらく、今の瞬間右にそれて落下していたらラエは左から回り込んでコホラを打つつもりだっただろう。

読まれていた、ラエが魔法で重力を操るとわかったコホラが、当然上から仕掛けてくると。

「ラエ、お前重力操作慣れてる?」

コホラは聞く。無駄なく素早い重力の向きの転換。こんな芸当、相当の熟練でなければ出来ない。

「イメージトレーニングはしていたが、実際使うのは初めてだな」

確かに、イメージトレーニングは大切だ。魔法は想像を形にする能力だからイメージトレーニングは重要である。しかし、熟練度によっても、使う魔法陣の完成度や効率によっても、そして魔力の量によっても、魔法の精度は左右される。だから回数を重ねたり、工夫したりすることが必要になるはずなのに。

ラエの圧倒的な魔法戦のセンスには毎度苦戦する。

「お前の初めて使う魔法にこうも振り回されるの、毎度のことながら癪だ」

コホラは言う。

ラエは自分のとっておきの作戦を惜しみなく使ってくる。ラエはその才能の注ぎ口を常に求めている。コホラはラエに注がれ尽くして何度も割れるような感覚を経験してきた。その度に自分の容器を整え直すのが、コホラは嫌いではない。

さて、

「どうしようか」

コホラは一人言を言う。ラエがコホラに飛行術を使うことを希望している以上、それを使って勝つ方法を探すことになるがあまりにも分が悪すぎる。

とりあえずお互いの魔力の残量確認しておこう。

そう思って確認する。

「ラエ、お前ェ……」

ラエの魔力は残量がほとんどなくなっていた。おそらくあと二秒も重力操作の魔法を使ったら魔力が空になるだろう。コホラが吠える。

「魔力はちゃんと計算して使えよ!」

「君はあまり残量確認しないから、ハッタリも通じるかと思ったんだが」

悪びれる様子もない。というか至極真面目な顔でラエが言う。真面目にハッタリに頼るな!!とコホラは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

処理中です...