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グリーン島 編
空の旅
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混乱した私は訳の分からない事を口走り、「あわわわわわ……」と唇をわななかせて前進を硬直させる。
「落ちたらどうしよう」という恐怖が先立って、しばらく私は景色を楽しむ余裕もなく、小さくなっていくボートを見守っていたけれど、そのうち気持ちが落ち着いてきた。
「なんか……、楽しいかも」
「だろ? パラセーリングは服も濡れないし、ただ座ってればいいだけだから、ラクチンで凄くいいアクティビティだよ」
椅子の後ろには大きく開いたパラシュートが風を受けて膨らみ、海上のモーターボートは凄いスピードで進んでいるけれど、息が詰まるほどではない。
思っていたよりずっと優雅な空中旅行のなか、私は眼下に広がる透明度の高い海や珊瑚礁、そして思っていたより小さいグリーン島や、遙か向こうなるオーストラリア本土を眺める。
「朱里、ツーショ撮るぞ」
尊さんがGoProを構えて体を寄せてきたので、私は満面の笑みでダブルピースをした。
「尊さんからツーショ撮ってくれるの、珍しい~」
いつもクールな彼もさすがにテンションを上げていると知り、私はなんだか嬉しくなる。
「思い出はとっておかねぇとな」
「確かに」
十分ぐらい経って、パラシュートつきの椅子はボートから繋がっているワイヤーで引き戻され、私たちは空の旅を終えた。
「どうだった?」
恵に尋ねられ、私は「楽しかった~!」と両手でピースする。
「マジか……」
「恵ちゃん、後攻に回るとビビリが増しちゃって駄目だね」
「いや、ビビってないっす」
「私も最初ビビってたけど、全然楽しいよ!」
「ん……、分かった」
私――、中村恵は、スタッフさんがパラシュートを整えているのを見ながら、スーッ、ハーッと深呼吸を繰り返す。
別に高所恐怖症な訳じゃないし、朱里が『楽しかった』と言うならそうなんだろう。
(恐くない。ただ初めてだから緊張してるだけ)
自分に言い聞かせた私は、掌に「パラ、パラ、パラ」と書いて呑む。美味しいチャーハンか。
「恵ちゃん、緊張してる? どーって事ないよ。恐かったら俺の顔を見つめてていいからね」
「違う意味でチビります」
「それは犬の嬉ション的な事かな~?」
彼がニパーッと嬉しそうに笑うので、とりあえず頭をよしよし撫でてあげたら、体をリズミカルに動かしてウキウキしだした。
「やっぱり涼さんはフラワーですね。恵に撫でられたらクネクネ動く感じの……」
朱里が言った言葉から、昔流行った花の玩具を思い出し、私は横を向いて「ぶひゅう……」と静かに噴き出す。
どうして私の周りにいるハイスペックは、クネクネしがちなのか。
そうしている間に順番がきて、私は強張った顔のまま椅子に座った。
ボートの後部が台になっていて、そこに丁度パラセーリングの椅子が置かれるという具合だ。
スタッフさんがカウントダウンし、バッとパラシュートを開くと、椅子がぐんぐん浮き上がっていく。
「うわあああああ……っ」
私は体を硬直させ、ギュッと拳を握る。
「恵ちゃん、手繋ごうか」
その時、涼さんの声がして右手が握られた。
我ながらビビって情けないけれど、私は渾身の力で涼さんの手を握る。
まるで握力測定でもしてるんじゃないかってぐらい力を込めたけれど、彼は何も言わなかった。
やがてワイヤーが伸びきり、ベンチの高度が安定する頃には、私はパラセーリングに慣れて力を緩めていた。
「どう? まだ恐い?」
涼さんに尋ねられてハッとした私は、慌てて手を離そうとする。
「す、すみません」
「このままにしとこっか」
けれどそう言われ、ギュッと手を握られると、もう恐くはないはずだけれど安心する。
「どう? 綺麗でしょ。『この海、私のものーっ!』ってならない?」
涼さんは風に髪を靡かせ、太陽のような笑みを浮かべた。
「落ちたらどうしよう」という恐怖が先立って、しばらく私は景色を楽しむ余裕もなく、小さくなっていくボートを見守っていたけれど、そのうち気持ちが落ち着いてきた。
「なんか……、楽しいかも」
「だろ? パラセーリングは服も濡れないし、ただ座ってればいいだけだから、ラクチンで凄くいいアクティビティだよ」
椅子の後ろには大きく開いたパラシュートが風を受けて膨らみ、海上のモーターボートは凄いスピードで進んでいるけれど、息が詰まるほどではない。
思っていたよりずっと優雅な空中旅行のなか、私は眼下に広がる透明度の高い海や珊瑚礁、そして思っていたより小さいグリーン島や、遙か向こうなるオーストラリア本土を眺める。
「朱里、ツーショ撮るぞ」
尊さんがGoProを構えて体を寄せてきたので、私は満面の笑みでダブルピースをした。
「尊さんからツーショ撮ってくれるの、珍しい~」
いつもクールな彼もさすがにテンションを上げていると知り、私はなんだか嬉しくなる。
「思い出はとっておかねぇとな」
「確かに」
十分ぐらい経って、パラシュートつきの椅子はボートから繋がっているワイヤーで引き戻され、私たちは空の旅を終えた。
「どうだった?」
恵に尋ねられ、私は「楽しかった~!」と両手でピースする。
「マジか……」
「恵ちゃん、後攻に回るとビビリが増しちゃって駄目だね」
「いや、ビビってないっす」
「私も最初ビビってたけど、全然楽しいよ!」
「ん……、分かった」
私――、中村恵は、スタッフさんがパラシュートを整えているのを見ながら、スーッ、ハーッと深呼吸を繰り返す。
別に高所恐怖症な訳じゃないし、朱里が『楽しかった』と言うならそうなんだろう。
(恐くない。ただ初めてだから緊張してるだけ)
自分に言い聞かせた私は、掌に「パラ、パラ、パラ」と書いて呑む。美味しいチャーハンか。
「恵ちゃん、緊張してる? どーって事ないよ。恐かったら俺の顔を見つめてていいからね」
「違う意味でチビります」
「それは犬の嬉ション的な事かな~?」
彼がニパーッと嬉しそうに笑うので、とりあえず頭をよしよし撫でてあげたら、体をリズミカルに動かしてウキウキしだした。
「やっぱり涼さんはフラワーですね。恵に撫でられたらクネクネ動く感じの……」
朱里が言った言葉から、昔流行った花の玩具を思い出し、私は横を向いて「ぶひゅう……」と静かに噴き出す。
どうして私の周りにいるハイスペックは、クネクネしがちなのか。
そうしている間に順番がきて、私は強張った顔のまま椅子に座った。
ボートの後部が台になっていて、そこに丁度パラセーリングの椅子が置かれるという具合だ。
スタッフさんがカウントダウンし、バッとパラシュートを開くと、椅子がぐんぐん浮き上がっていく。
「うわあああああ……っ」
私は体を硬直させ、ギュッと拳を握る。
「恵ちゃん、手繋ごうか」
その時、涼さんの声がして右手が握られた。
我ながらビビって情けないけれど、私は渾身の力で涼さんの手を握る。
まるで握力測定でもしてるんじゃないかってぐらい力を込めたけれど、彼は何も言わなかった。
やがてワイヤーが伸びきり、ベンチの高度が安定する頃には、私はパラセーリングに慣れて力を緩めていた。
「どう? まだ恐い?」
涼さんに尋ねられてハッとした私は、慌てて手を離そうとする。
「す、すみません」
「このままにしとこっか」
けれどそう言われ、ギュッと手を握られると、もう恐くはないはずだけれど安心する。
「どう? 綺麗でしょ。『この海、私のものーっ!』ってならない?」
涼さんは風に髪を靡かせ、太陽のような笑みを浮かべた。
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