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ケアンズ最終日 編
それぞれの家族
「俺はずっと〝このまま〟なんだと思っていたけど、恵ちゃんと出会って自分が大きく変わるのを感じて、凄くワクワクした。この歳になって味わった事のない感情を、幾つも抱いた。彼女はいつも予測不能な事をするから、俺もマイペースを保つのに必死なんだけど、それが楽しい」
「分かるよ。俺も朱里といると、すげぇ楽しい」
俺たちは商品棚の前であれこれ見ている彼女たちを見て、自然と微笑む。
「尊には本当に感謝してるよ。ランドの話があった時は、本当は正直ちょっと面倒だった。初対面の女の子がどういう子か分からなくて『厄介なタイプだったら嫌だな』と思ってた。……まぁ、尊が大丈夫と判断した子なら、ある程度の弁えはあると思っていたけどね。……でもホント、出会いってどこにあるか分からないもんだね」
「そう思ってもらえたなら良かったよ。……別に紹介したつもりはなかったけどな」
「あははっ、マジそれ。合コンの数合わせみたいなもんだったのにね」
涼は軽やかに笑い、とろけそうな目で中村さんを見る。
「……ご家族への紹介は大丈夫そうか?」
「んー、大丈夫だと思うよ。尊もうちの家族の事はよく知ってると思うけど、陰湿な人たちじゃないし。むしろカラッとしてて豪気なタイプだから、恵ちゃんビビっちゃうかな」
俺は思わず、壁際に追い詰められて毛を逆立てている猫を想像する。
「中村さん、すっごい緊張して挑むのに、スルッと受け入れられて、気がついたら三日月家女子トークルームに招待されて、混乱してそうだな」
「あはは! あり得る! あの人達を相手にしたら、恵ちゃんはいつにも増して『……っす』しか言わなくなりそうだな」
涼の家族は、良くも悪くも奴とよく似ている。
外面は完璧で、涼の弟の海も、彼に負けず劣らず色んな二つ名がついている。
美人の姉妹も皆から注目されていて、トレンドリーダーみたいにもなっている。
表向きはそつなく人付き合いをこなすが、気を許した身内には、かなりフレンドリー……、もとい鬱陶しくなる。
涼と似ているなと思うのは、人のパーソナルスペースを尊重しているようで、結構無視してくるところだ。
異性に勘違いさせる行動はとらないが、同性が相手だと結構触ってくる。
母親の七恵さんは、すぐ『ちょっとご飯食べていきなさいよ~』と誘ってくるし、何なら泊まらせたがる。
俺は大学生時代に物凄く荒れて不摂生をしていたから、彼女には〝栄養状態の悪い犬〟のように思われていたみたいだ。
顔を合わせる機会があったら必ず飯に誘われて、食っている時に『美味しい?』と尋ねられた。
俺の母とはまったくタイプが異なるが、七恵さんに世話を焼かれている時、『母親ってこんな感じだったっけ』と妙な懐かしさを感じる事があった。
三日月家の他の家族たちも、俺が食卓に混じっても嫌な顔一つせず、ずっと前から交流があったように接してくれた。
そういう意味で三日月家には恩があるし、第二の家族的にも思っている。
彼らは人の本質を見抜く目を持っているから、一度「こいつは大丈夫だ」と判断すると、人付き合いの垣根がグッと低くなる。
悪く言えばズケズケと踏み入ってくるタイプだが、一線は守るので決して不快にはならず、気がついたら身内扱いされている不思議な人たちだ。
勿論、彼らのお眼鏡に適わなかった時は、当たり障りなく接されて綺麗に別れ、疎遠になっていくのだと思う。
「……七恵さんと佳苗さんって、気ぃ合いそうだよな」
「ああ、そうだね。名前も似てるしね。……っていうか、母親同士で飲んだら凄い事になりそう」
俺は似た物同士の二人が盛り上がっている様子を想像し、「ぶふっ」と噴き出す。
「家族の要になるのは母親だから、そこが強固に結びつくなら幸いな事だと思う」
「だな。中村家のご家族もみんないい人だから、うちの家族もすぐに仲良くしてくれると信じてる」
家族の話をしていて思い浮かぶのは、うちのどうしようもない父親と、犯罪者になった継母だ。
怜香については血は繋がっていないからどうでもいいが、家族を紹介するにあたって、風磨の印象が悪くならなければいいが……、と少し不安に思っている。
だが上村家の家族も人のできた人たちだし、きっと理解してくれる。
(朱里は一番俺の〝事情〟を理解してくれている。でも結婚式に本当の意味での俺の家族が参列できないのは、何だか申し訳ないな)
上村家はステップファミリーだが、ぎこちない期間はあっても、彼女自身の頑張りもあって、新たに本当の〝家族〟になろうとしている。
それに対して俺は父親との関係が希薄だし、風磨とも微妙、実母と妹は鬼籍だ。
篠宮ホールディングスの御曹司で副社長なんて立派な肩書きがあっても、結婚するにあたって胸を張って〝家族〟と言える人がいない。
朱里は「気にしていないし、風磨さんとは関係を構築中だし、速水家の人たちもいる」と言うだろうが、〝普通〟の家族を持っていない事をこんなに引け目に思う日がくると思わなかった。
「分かるよ。俺も朱里といると、すげぇ楽しい」
俺たちは商品棚の前であれこれ見ている彼女たちを見て、自然と微笑む。
「尊には本当に感謝してるよ。ランドの話があった時は、本当は正直ちょっと面倒だった。初対面の女の子がどういう子か分からなくて『厄介なタイプだったら嫌だな』と思ってた。……まぁ、尊が大丈夫と判断した子なら、ある程度の弁えはあると思っていたけどね。……でもホント、出会いってどこにあるか分からないもんだね」
「そう思ってもらえたなら良かったよ。……別に紹介したつもりはなかったけどな」
「あははっ、マジそれ。合コンの数合わせみたいなもんだったのにね」
涼は軽やかに笑い、とろけそうな目で中村さんを見る。
「……ご家族への紹介は大丈夫そうか?」
「んー、大丈夫だと思うよ。尊もうちの家族の事はよく知ってると思うけど、陰湿な人たちじゃないし。むしろカラッとしてて豪気なタイプだから、恵ちゃんビビっちゃうかな」
俺は思わず、壁際に追い詰められて毛を逆立てている猫を想像する。
「中村さん、すっごい緊張して挑むのに、スルッと受け入れられて、気がついたら三日月家女子トークルームに招待されて、混乱してそうだな」
「あはは! あり得る! あの人達を相手にしたら、恵ちゃんはいつにも増して『……っす』しか言わなくなりそうだな」
涼の家族は、良くも悪くも奴とよく似ている。
外面は完璧で、涼の弟の海も、彼に負けず劣らず色んな二つ名がついている。
美人の姉妹も皆から注目されていて、トレンドリーダーみたいにもなっている。
表向きはそつなく人付き合いをこなすが、気を許した身内には、かなりフレンドリー……、もとい鬱陶しくなる。
涼と似ているなと思うのは、人のパーソナルスペースを尊重しているようで、結構無視してくるところだ。
異性に勘違いさせる行動はとらないが、同性が相手だと結構触ってくる。
母親の七恵さんは、すぐ『ちょっとご飯食べていきなさいよ~』と誘ってくるし、何なら泊まらせたがる。
俺は大学生時代に物凄く荒れて不摂生をしていたから、彼女には〝栄養状態の悪い犬〟のように思われていたみたいだ。
顔を合わせる機会があったら必ず飯に誘われて、食っている時に『美味しい?』と尋ねられた。
俺の母とはまったくタイプが異なるが、七恵さんに世話を焼かれている時、『母親ってこんな感じだったっけ』と妙な懐かしさを感じる事があった。
三日月家の他の家族たちも、俺が食卓に混じっても嫌な顔一つせず、ずっと前から交流があったように接してくれた。
そういう意味で三日月家には恩があるし、第二の家族的にも思っている。
彼らは人の本質を見抜く目を持っているから、一度「こいつは大丈夫だ」と判断すると、人付き合いの垣根がグッと低くなる。
悪く言えばズケズケと踏み入ってくるタイプだが、一線は守るので決して不快にはならず、気がついたら身内扱いされている不思議な人たちだ。
勿論、彼らのお眼鏡に適わなかった時は、当たり障りなく接されて綺麗に別れ、疎遠になっていくのだと思う。
「……七恵さんと佳苗さんって、気ぃ合いそうだよな」
「ああ、そうだね。名前も似てるしね。……っていうか、母親同士で飲んだら凄い事になりそう」
俺は似た物同士の二人が盛り上がっている様子を想像し、「ぶふっ」と噴き出す。
「家族の要になるのは母親だから、そこが強固に結びつくなら幸いな事だと思う」
「だな。中村家のご家族もみんないい人だから、うちの家族もすぐに仲良くしてくれると信じてる」
家族の話をしていて思い浮かぶのは、うちのどうしようもない父親と、犯罪者になった継母だ。
怜香については血は繋がっていないからどうでもいいが、家族を紹介するにあたって、風磨の印象が悪くならなければいいが……、と少し不安に思っている。
だが上村家の家族も人のできた人たちだし、きっと理解してくれる。
(朱里は一番俺の〝事情〟を理解してくれている。でも結婚式に本当の意味での俺の家族が参列できないのは、何だか申し訳ないな)
上村家はステップファミリーだが、ぎこちない期間はあっても、彼女自身の頑張りもあって、新たに本当の〝家族〟になろうとしている。
それに対して俺は父親との関係が希薄だし、風磨とも微妙、実母と妹は鬼籍だ。
篠宮ホールディングスの御曹司で副社長なんて立派な肩書きがあっても、結婚するにあたって胸を張って〝家族〟と言える人がいない。
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