【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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尊の傷 編

あなたに愛されるなら、どんな理由だっていいの

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「……お前の名前と年齢を履歴書で確認した時、それまで封じていた記憶の蓋が開いた。家族三人の楽しかった思い出が蘇って、……荒れたなぁ……」

 ――やっぱり……。

 私は唇を噛む。

 防衛本能とはいえ、尊さんはつらい思い出を忘れる事によって自分を守っていた。

 なのに私が現れたせいで、彼は地獄のような苦しみを味わう羽目になったんだ。

「……すみません。私のせいで……。…………私なんて、あなたの前に現れなければ良かった……っ」

 言った途端、彼がグッと私の肩を掴んだ。

「そんな事、二度と言うな。お前は俺にとっての唯一無二だ。……絶対言うな」

 傷付いて荒みきっているというのに、尊さんは私を気遣ってくれる。

「…………っはい……」

 彼の優しさを受け取り、私は涙を流しながら頷く。

「……それに、お前を部下にすると決めたのは俺だ。……だから本当にお前が責任を感じる事なんてねぇんだよ」

 尊さんは遠くを見るような目で笑い、小さな声で言った。

 そのあと大きく溜め息をつき、話を戻す。

「……入社してきたお前を見て、『妹が成長したらこんな感じになるのか?』と思った。顔はまったく違うのに妹を思いだして『生きていたら、今頃どこかに入社してたんだろうな』って思った。…………けど同時に、お前の誕生日が十二月一日だと知って、頭の中で何かが壊れちまったんだ。……前日に死んだ妹の魂が、…………お前に宿ってるんじゃ……と思っちまった」

 尊さんは涙を流し、今にも壊れてしまいそうな表情で笑った。

「妹に重ねて見ていたくせに、……に惹かれていった。……お前が可愛くて、話してると『妹もこんな反応をしたのかな』って思った。……妹みたいに可愛がりたいって思ったくせに、お前を一人の女として見てしまう自分もいて……っ、『妹みたいに思ってるのに、〝抱きたい〟って思うのかよ。気持ち悪ぃな』って自分に嫌悪感を抱いた。……もうなのか分からなかったんだ! ……たった一つ分かっていたのは、お前を幸せにしたいという気持ち。……それだけだ……」

 彼は傷付いた魂を晒すような声を出したあと、くぐもった声で言った。

「……そんな中、お前が『フラれた』って言ってるのを聞いて、本当に何かがキレた。『朱里を幸せにできなかった男が捨てたなら、俺がこいつをもらってもいいよな?』って。お前を幸せにできる存在は、俺しかいないと思った。…………あとはお前の知る通りだ。歯止めが利かなくなった俺は、『兄のように見守りたい』と思っていた気持ちより、男としての欲を優先してしまった。……あの女に屈辱的な言葉を浴びせられて、我を忘れちまったのもあり……、ただ一人〝女〟として見ているお前にすべてをぶつけてしまった……っ。――――最低だ……っ」

 ずっと何にも心を動かさなかった尊さんが、私の前ですべてを吐きだし、懺悔している。

 

 ボロボロになった姿を晒してくれる彼が、こんなにも愛おしい。

 私だけが彼の傷に触れていると思うと、歪んだ喜びを抱いてしまう。

 ――いいよ。全部見せて。

 ――私はすべて受け入れるから。

 私は尊さんに微笑みかけ、彼の頬を両手で包むと、優しくキスをした。

 そして彼の耳元で囁いた。

「あなたに愛されるなら、どんな理由だっていいの」

 尊さんは涙を溜めた目で私を見て、うめくように言う。

「……お前が大切だ」

「分かっていますよ。愛されてるって自信、ありますもの」

 わざと明るく言った私の言葉を聞き、彼はクシャリと表情を歪めて不器用に笑う。

「いいんですよ。色んな愛の形があるんでしょう? 尊さんだって『結婚には色んな入り口がある』って言っていたじゃないですか。夫婦や恋人の愛だって、兄弟のように想うとか、父のように想うとか、友情が性愛に変わったとか、色々あっていいんですよ」

 会話をしているうちに、尊さんは少しずつ落ち着いていったようだ。

 彼はかすれた声で、ばつが悪そうに言う。

「……悪い。少し洗面所使うから、外で待っててくれ」

「はい」

 私はもう一度尊さんをギュッと抱き締めてから、立ち上がって洗面所の外に出た。

 リビングルームでしばしボーッとしていると、水音が聞こえてくる。

 いつもの尊さんからは想像できないほど取り乱していたけど、あんな過去があったなら仕方がない。

 理由は違えど、私の父も亡くなった。

『どうして? 私たちを置いていくの?』と行き場のない感情が荒れ狂い、私の心に大きな穴が空いた。

 だから学生時代は、友達と青春を謳歌するどころではなかった。
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