482 / 778
不穏 編
厄介な人
しおりを挟む
「総務部のブスがいきり立ってるみたいで……」
昼休みを終えてフロアに戻ると、綾子さんに手招きされ、開口一番そう言われた。
溜め息混じりに言った彼女の話を要約すると、どうやら朱里が副社長秘書になった事を僻んでいる総務部の女性社員が、朱里の悪い噂を流しているそうだ。
「同じ総務部の西川さんっていう子が、『篠宮副社長と上村さんに〝気をつけてほしい〟と伝えてください』って言ってきたの」
「あぁ……」
その話は以前に朱里本人からチラッと聞いていた。
辞令の話が出たあとにトイレで総務部の女に絡まれて、言い返したら『ブス』と言われたとかで、『小学生か』と二人で言っていた。
同時に、その時に朱里に声を掛けた西川紗綾さんという年下の子は、どうやら二人の仲を応援しているようで安心したけれど……。
「上村さんに嫉妬してるらしい、総務部の橘柚良って私の同期なのよ。同じ部署の南郷亜美っていう一つ下の子と意気投合したのはいいけど、いいつるみ方をしてないみたいね」
「知り合いですか?」
なら話をつけてもらう事は可能かと思ったけれど、綾子さんは外国人みたいに両手を上げて首を竦める。
「私、もともと総務部にいたの。そのあと異動でここに来たわけだけど、橘さんも本当は商品開発部を希望していたわけ」
「あー……」
それだけで私はすべてを察した。
綾子さんはちょっと難ありな所もあるけれど、基本的にできる女だ。
だからハイスペ彼氏を捕まえる事ができているんだろうし。
その橘さんって人がいまだに総務部から動いていないのは、何かしらの理由があっての事だろうけど、彼女が綾子さんに嫉妬しているのは想像に余りある。
「まぁ、中村さんが想像している通り、めちゃくちゃ嫉妬されて嫌われているわね。そもそも彼女、商品開発部に来たくても来られないから、この部署そのものを嫌っていると言ってもいいのかも」
「……坊主憎けりゃ袈裟まで憎いですか……」
「もしも辞令があったら、コロッと態度を変えるのは目に見えているけどね。まぁ……、でもそんな事は起こらないと思うけど」
「なんかあるんですか?」
ヒソッと小声で尋ねると、綾子さんは溜め息をついて言った。
「私が総務部にいた時代、彼女は総務部のお局と一緒に新人いびりをしてね。まぁ、バレたあと酷く怒られたんだけど、そのお局と一緒に総務部の部長がしっかり睨みを利かせている感じ。あそこの部長、責任感の強い人だから、自分の監督不行き届きと思ったんでしょうね。でもあんなのでも大切な部下だから、クビギリギリだったところを庇って、なんとか総務部に置いてるのよ」
「わあ……、クビになれば良かったのに」
ボソッと毒を吐くと、綾子さんは首を竦めた。
「『もうしません』って泣き落とししたから、一応信じてもらえてるみたいだけど、上村さんみたいなラッキーガールを見て、堪っていた鬱憤が爆発したんでしょうね。ああいう手合いって自分よりうまくいってそうな人を見つけると、ここぞとばかりに叩くから。それに上村さんは彼女より年下でしょう? だから余計に我慢できなかったんでしょうね」
綾子さんの言葉には重みがある。
総務部にいた頃、よっぽど橘に嫌な目に遭わされたんだろう。
「綾子さんって意地悪役に見えるけど、苦労人だったんですね」
そう言うと、彼女はクシャッと笑った。
「中村さんの、忖度しないところ好きよ」
「綾子さんは努力美人ですし、よく気が利きます。野心もあるし成功するためなら手段を問わないタイプに見えるけど、割と話せば分かるタイプだとこないだ知りました。ちょっと前までは少し苦手だったんですが、今はいい先輩だと思ってますよ」
「ありがと」
彼女はニコッと笑ったあと、腕組みをして窓辺に寄りかかる。
「正直、時沢課長タイプなら上手くおだてて動かせると思ってるわ。篠宮副社長みたいな人はレベルが高すぎて無理だったけれどね。ちなみに成田部長は、いい子で過ごしていたら相応に評価してくれると思ってる。認められたいタイプだから、少しのおだても必要だけどね」
綾子さんなりの分析を聞き、私は「一生平社員でいいや……」と思ったのだった。
朱里みたいに事情ありきで好きな人と働く必要のない私は、ノラリクラリと働いて、順当に給料アップできればそれでいい。
「とりあえず、朱里と副社長に気をつけるよう言っておきます。副社長はできる人だから、各方面に悪影響なく、先に手を打って押さえ込んでくれると思ってます」
「そうね。それでこそ私の副社長」
綾子さんが「キャッ」と華やいだので、私は目を剥いてドン引きする。
「まさか、まだ狙ってるんですか?」
昼休みを終えてフロアに戻ると、綾子さんに手招きされ、開口一番そう言われた。
溜め息混じりに言った彼女の話を要約すると、どうやら朱里が副社長秘書になった事を僻んでいる総務部の女性社員が、朱里の悪い噂を流しているそうだ。
「同じ総務部の西川さんっていう子が、『篠宮副社長と上村さんに〝気をつけてほしい〟と伝えてください』って言ってきたの」
「あぁ……」
その話は以前に朱里本人からチラッと聞いていた。
辞令の話が出たあとにトイレで総務部の女に絡まれて、言い返したら『ブス』と言われたとかで、『小学生か』と二人で言っていた。
同時に、その時に朱里に声を掛けた西川紗綾さんという年下の子は、どうやら二人の仲を応援しているようで安心したけれど……。
「上村さんに嫉妬してるらしい、総務部の橘柚良って私の同期なのよ。同じ部署の南郷亜美っていう一つ下の子と意気投合したのはいいけど、いいつるみ方をしてないみたいね」
「知り合いですか?」
なら話をつけてもらう事は可能かと思ったけれど、綾子さんは外国人みたいに両手を上げて首を竦める。
「私、もともと総務部にいたの。そのあと異動でここに来たわけだけど、橘さんも本当は商品開発部を希望していたわけ」
「あー……」
それだけで私はすべてを察した。
綾子さんはちょっと難ありな所もあるけれど、基本的にできる女だ。
だからハイスペ彼氏を捕まえる事ができているんだろうし。
その橘さんって人がいまだに総務部から動いていないのは、何かしらの理由があっての事だろうけど、彼女が綾子さんに嫉妬しているのは想像に余りある。
「まぁ、中村さんが想像している通り、めちゃくちゃ嫉妬されて嫌われているわね。そもそも彼女、商品開発部に来たくても来られないから、この部署そのものを嫌っていると言ってもいいのかも」
「……坊主憎けりゃ袈裟まで憎いですか……」
「もしも辞令があったら、コロッと態度を変えるのは目に見えているけどね。まぁ……、でもそんな事は起こらないと思うけど」
「なんかあるんですか?」
ヒソッと小声で尋ねると、綾子さんは溜め息をついて言った。
「私が総務部にいた時代、彼女は総務部のお局と一緒に新人いびりをしてね。まぁ、バレたあと酷く怒られたんだけど、そのお局と一緒に総務部の部長がしっかり睨みを利かせている感じ。あそこの部長、責任感の強い人だから、自分の監督不行き届きと思ったんでしょうね。でもあんなのでも大切な部下だから、クビギリギリだったところを庇って、なんとか総務部に置いてるのよ」
「わあ……、クビになれば良かったのに」
ボソッと毒を吐くと、綾子さんは首を竦めた。
「『もうしません』って泣き落とししたから、一応信じてもらえてるみたいだけど、上村さんみたいなラッキーガールを見て、堪っていた鬱憤が爆発したんでしょうね。ああいう手合いって自分よりうまくいってそうな人を見つけると、ここぞとばかりに叩くから。それに上村さんは彼女より年下でしょう? だから余計に我慢できなかったんでしょうね」
綾子さんの言葉には重みがある。
総務部にいた頃、よっぽど橘に嫌な目に遭わされたんだろう。
「綾子さんって意地悪役に見えるけど、苦労人だったんですね」
そう言うと、彼女はクシャッと笑った。
「中村さんの、忖度しないところ好きよ」
「綾子さんは努力美人ですし、よく気が利きます。野心もあるし成功するためなら手段を問わないタイプに見えるけど、割と話せば分かるタイプだとこないだ知りました。ちょっと前までは少し苦手だったんですが、今はいい先輩だと思ってますよ」
「ありがと」
彼女はニコッと笑ったあと、腕組みをして窓辺に寄りかかる。
「正直、時沢課長タイプなら上手くおだてて動かせると思ってるわ。篠宮副社長みたいな人はレベルが高すぎて無理だったけれどね。ちなみに成田部長は、いい子で過ごしていたら相応に評価してくれると思ってる。認められたいタイプだから、少しのおだても必要だけどね」
綾子さんなりの分析を聞き、私は「一生平社員でいいや……」と思ったのだった。
朱里みたいに事情ありきで好きな人と働く必要のない私は、ノラリクラリと働いて、順当に給料アップできればそれでいい。
「とりあえず、朱里と副社長に気をつけるよう言っておきます。副社長はできる人だから、各方面に悪影響なく、先に手を打って押さえ込んでくれると思ってます」
「そうね。それでこそ私の副社長」
綾子さんが「キャッ」と華やいだので、私は目を剥いてドン引きする。
「まさか、まだ狙ってるんですか?」
631
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる