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四人でのお泊まり会 編
自分を責めても過去は変わらないよ
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恵は体を洗ってトリートメントも流したあと、洗顔を終えて浴槽に入る。
「溢れるよ~」
「ひひひ」
私たちは向かい合わせにお湯に浸かり、お湯がザバザバと溢れていく。
「……あー、いいお湯。明日会社休んでいいんだと思うと、余計に染みるわ」
「まーね」
私たちは湯船に身を預け、どちらからともなく溜め息をつく。
「……昭人の事、なんか……、なんとも言えないな」
ずっと言おうと思って溜めていた事を口にすると、恵は「うん……」と腕組みをする。
「あいつが悪いのは分かってるし、私たちが悩む事じゃないのは理解してるけど、なまじ付き合いが長いだけに、複雑な気持ちになるよね」
「……お兄さんに劣等感を抱いていたとか、昭人がひねくれた理由も分かるんだよ。……女癖が悪かった理由も、私が相手にしなかった他にあると思う。結婚してお子さんもいるお兄さんに対抗して、独身の自由さを自慢したかったとか」
昭人は何かにつけてお兄さんの悪口を言っていたけれど、私から見ると負け惜しみを言っているようにしか思えなかった。
『結婚してコブつきになって可哀想に』と言ったのだって、幸せな家庭を築いているお兄さんを僻んでいるようにしか見えない。
昭人はお兄さんに対して『もっと遊べばいいのに』と言って、ブランド品を買ったり、お洒落なカフェに行ってSNSに写真を投稿していて、私もアクセサリーの一環として、その写真に登場させられかけた事もあった。
「……思うけど、昭人が自慢していた色んな事って、結局は自分に自信がない事を誤魔化すためのものだったんだよね。昭人のお兄さんに会った事あるけど、とても爽やかで素敵な人で、着ている物も凄くシンプルだった。お子さんができる前、奥さんと旅行に行った時とか、私にまでお土産を買ってくれて……。多分、昭人とはお金を使うポイントが違うんだよね」
恵は溜め息をつき、浴槽の縁に顎をのせて言う。
「芯のない男だったんでしょ。店員に横柄な態度をとるとか、朱里を〝理想の彼女〟にしたがるとか、結局は小さい世界で威張って『俺はこんなに偉いんだぞ』ってやりたいだけ。田村のお兄さんみたいに自分に自信のある人って、ナチュラルで堂々としてるもん。あいつは一生懸命見栄を張るアクセサリーをつけて、威張ってないと自分を保てなかったんだよ。篠宮さんと比べたら、ちっせぇ男でしょ」
「うん」
頷きながらも、気持ちをうまく整理できない私は、呼吸を震わせながら息を吐く。
そして俯いてお湯に浸かった自分の手を見ながら、ボソボソと纏まらない気持ちを吐露した。
「私、昭人にフラれて一年近くウジウジしていたけれど、尊さんに出会ってショック療法で前を向けた。……なのにあいつは加代さんが不倫していたと知って、よりを戻そうとして……。他にも何股もしていたのに『今さら何言ってんの』って、めちゃムカついた。今まで我慢していたけど嫌だった事とかぶちまけたら、叩かれそうになった。そのあとは尊さんが撃退してくれて安心したし、もうあれで終わったんだと思ってた」
そこまで話し、私はギュッと両手を握る。
「……でもずっと、『私も悪かったんじゃないか』っていう想いがあって、ずっとモヤモヤしてた。何か一つの物事に対して、一方だけが完全に悪いって事はないと思う。エッチさせてあげなかったのは私が悪いし、昭人と別れて尊さんの手をとった事は後悔してない。……けど、私が何かしていれば、こうはならなかったんじゃないかと思うと……」
「朱里」
恵に強めの声で呼ばれ、私はハッと顔を上げる。
すると恵は両手でギュッと私の手を握ってきた。
「自分を責めても過去は変わらないよ」
彼女のまっすぐな目と言葉に心を射貫かれた私は、一瞬息を詰まらせてから、ゆっくり吐いていく。
「……そうだね。ごめん。……恵だって抱えている事あるのに、私ばっかり……」
自己嫌悪して溜め息をつくと、彼女は濡れた手で頭を撫でてきた。
「朱里は田村の元カノだから、余計に色々考えちゃうの分かるよ。……でも田村がおかしくなった理由はそれだけじゃない。お兄さんの事とか、何股もしてた事とか、自分のしでかした事のすべてが自分の首を絞めていたと思う」
「うん」
「これからあいつは法の裁きを受けるし、それでいいって事にしておこうよ。私たちが個人的に救おうとか、裁きたいとか、そういうレベルを超えちゃってるんだもん」
「……そうだね」
そこで恵はニヤリと笑って言った。
「篠宮さんと涼さんみたいな男を敵に回したんだし? 法の裁きが終わったあとも、まともに社会復帰できるか分からないけどね」
「あはは……」
私たち〝猫〟の飼い主が、かなり火力の強い人たちだと思い出し、私は苦笑いする。
「溢れるよ~」
「ひひひ」
私たちは向かい合わせにお湯に浸かり、お湯がザバザバと溢れていく。
「……あー、いいお湯。明日会社休んでいいんだと思うと、余計に染みるわ」
「まーね」
私たちは湯船に身を預け、どちらからともなく溜め息をつく。
「……昭人の事、なんか……、なんとも言えないな」
ずっと言おうと思って溜めていた事を口にすると、恵は「うん……」と腕組みをする。
「あいつが悪いのは分かってるし、私たちが悩む事じゃないのは理解してるけど、なまじ付き合いが長いだけに、複雑な気持ちになるよね」
「……お兄さんに劣等感を抱いていたとか、昭人がひねくれた理由も分かるんだよ。……女癖が悪かった理由も、私が相手にしなかった他にあると思う。結婚してお子さんもいるお兄さんに対抗して、独身の自由さを自慢したかったとか」
昭人は何かにつけてお兄さんの悪口を言っていたけれど、私から見ると負け惜しみを言っているようにしか思えなかった。
『結婚してコブつきになって可哀想に』と言ったのだって、幸せな家庭を築いているお兄さんを僻んでいるようにしか見えない。
昭人はお兄さんに対して『もっと遊べばいいのに』と言って、ブランド品を買ったり、お洒落なカフェに行ってSNSに写真を投稿していて、私もアクセサリーの一環として、その写真に登場させられかけた事もあった。
「……思うけど、昭人が自慢していた色んな事って、結局は自分に自信がない事を誤魔化すためのものだったんだよね。昭人のお兄さんに会った事あるけど、とても爽やかで素敵な人で、着ている物も凄くシンプルだった。お子さんができる前、奥さんと旅行に行った時とか、私にまでお土産を買ってくれて……。多分、昭人とはお金を使うポイントが違うんだよね」
恵は溜め息をつき、浴槽の縁に顎をのせて言う。
「芯のない男だったんでしょ。店員に横柄な態度をとるとか、朱里を〝理想の彼女〟にしたがるとか、結局は小さい世界で威張って『俺はこんなに偉いんだぞ』ってやりたいだけ。田村のお兄さんみたいに自分に自信のある人って、ナチュラルで堂々としてるもん。あいつは一生懸命見栄を張るアクセサリーをつけて、威張ってないと自分を保てなかったんだよ。篠宮さんと比べたら、ちっせぇ男でしょ」
「うん」
頷きながらも、気持ちをうまく整理できない私は、呼吸を震わせながら息を吐く。
そして俯いてお湯に浸かった自分の手を見ながら、ボソボソと纏まらない気持ちを吐露した。
「私、昭人にフラれて一年近くウジウジしていたけれど、尊さんに出会ってショック療法で前を向けた。……なのにあいつは加代さんが不倫していたと知って、よりを戻そうとして……。他にも何股もしていたのに『今さら何言ってんの』って、めちゃムカついた。今まで我慢していたけど嫌だった事とかぶちまけたら、叩かれそうになった。そのあとは尊さんが撃退してくれて安心したし、もうあれで終わったんだと思ってた」
そこまで話し、私はギュッと両手を握る。
「……でもずっと、『私も悪かったんじゃないか』っていう想いがあって、ずっとモヤモヤしてた。何か一つの物事に対して、一方だけが完全に悪いって事はないと思う。エッチさせてあげなかったのは私が悪いし、昭人と別れて尊さんの手をとった事は後悔してない。……けど、私が何かしていれば、こうはならなかったんじゃないかと思うと……」
「朱里」
恵に強めの声で呼ばれ、私はハッと顔を上げる。
すると恵は両手でギュッと私の手を握ってきた。
「自分を責めても過去は変わらないよ」
彼女のまっすぐな目と言葉に心を射貫かれた私は、一瞬息を詰まらせてから、ゆっくり吐いていく。
「……そうだね。ごめん。……恵だって抱えている事あるのに、私ばっかり……」
自己嫌悪して溜め息をつくと、彼女は濡れた手で頭を撫でてきた。
「朱里は田村の元カノだから、余計に色々考えちゃうの分かるよ。……でも田村がおかしくなった理由はそれだけじゃない。お兄さんの事とか、何股もしてた事とか、自分のしでかした事のすべてが自分の首を絞めていたと思う」
「うん」
「これからあいつは法の裁きを受けるし、それでいいって事にしておこうよ。私たちが個人的に救おうとか、裁きたいとか、そういうレベルを超えちゃってるんだもん」
「……そうだね」
そこで恵はニヤリと笑って言った。
「篠宮さんと涼さんみたいな男を敵に回したんだし? 法の裁きが終わったあとも、まともに社会復帰できるか分からないけどね」
「あはは……」
私たち〝猫〟の飼い主が、かなり火力の強い人たちだと思い出し、私は苦笑いする。
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