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四人でのお泊まり会 編
躓いた石を気にせず進む
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ひとしきり笑ったあと、恵は私を見つめて切なげに目を細めた。
「……しつこいかもしれないけど、私を許してくれる?」
「なんで恵を怒らないとならないの? スマホの事は強盗をした昭人が悪いんだし、恵に落ち度はないよ。むしろ、私のせいで襲われて……、ごめん」
ギュッと彼女の手を握り返すと、恵は言葉を噛み締めるように頷いた。
「……うん。……うん。だよね。あいつが悪い」
目の前の恵は、襲い来る罪悪感と戦っている。
私もまた、自分のせいで親友が暴力を振るわれたと知って、物凄い罪悪感と後悔とに苛まれている。
でも、友達だから、親友だから、ちゃんと向き合って思っている事を全部口にして、二人で乗り越えていかないとならない。
「………………はぁ…………」
俯いていた恵は天井を仰ぎ、溜め息をつく。
「くそ、マジで田村のせいだ。あいつがあんな事件を起こさなかったら、私たちは変な遠慮とか罪悪感なく、ラブラブでいられたのに」
「……うん。そこは全部昭人のせいにしたい」
私も溜め息をつき、苦笑いをする。
そのあと両手を組んでひっくり返し、伸びながら言った。
「……私たち、最高のスパダリに出会えたじゃない? いい事があったら、その反動で悪い事もあるんだよ。……でもこの程度で済んだ事に感謝しない? 今回の事件は起こらず、私は昭人と付き合ったままなのと、尊さんと涼さんに出会えた今の状況、どっちがいい? って言われたら決まってるじゃん」
「だな」
恵は頷き、自分に言い聞かせるように、そのあとも何回も頷き、溜め息混じりに言った。
「分かってるけど、人生楽しい事ばかりじゃないんだよね。ここんとこずっと、仕事関係で多少の不満はあれど、特に大きな不幸もなくやってきた感じはある。で、涼さんに出会ってグーッと人生のクライマックスみたいになって、ズドンと落とされたから、余計に落ち込んでるのかも」
恵は指先で空中にグラフのように線を描きながら言う。
私はそれに「んだ」と頷く。
「やな事があると『なんで自分だけ』って思っちゃうよね。……でも、私たちはこうやって嫌な想いを共有して、慰め合えているだけマシだと思う。世の中には誰にもつらい思いを吐き出せない人もいるだろうし」
「確かに」
恵は頷く。
「私と恵はずっと親友だし、気晴らしをするために焼き肉食べ放題に行こうと思ってるし」
「ちょっと待て。ヌルッと決定事項で入れてくるな」
恵に突っ込まれ、私は「バレた」と笑う。
「……まぁ、昭人なんかに私たちの仲は壊されないし、ちょっと躓いたけど、また元通り楽しくルンルン歩いていくんだよ。隣には尊さんと涼さんもいるし、これから先、絶対楽しい事がある。躓いた石にずっとムカムカしてたら、綺麗な景色を見落とすかもしれない」
私が自分に言い聞かせるように言ったあと、恵はクスッと笑った。
「朱里、凄く前向きになったよね。篠宮さんと付き合うようになってから、以前の何もかも諦めたような感じがなくなった」
「そんな厨二っぽい雰囲気あったっけ?」
「ちょっとね」
恵の答えを聞き、私は「マジか」と笑う。
そのあと、昭人が私に見せつけたてるてる坊主を思いだした。
「あのー……、ね。…………うん……」
私はお湯の中で何とはなしに自分の指を絡め、言葉を探す。
「……私、梅雨時期が苦手でしょ。それで、昭人の前でてるてる坊主を怖がった事があった。今回、それを逆手にとって、言う事を聞かせるために利用されたわけだけど……」
「マジ? 最低だな、あいつ」
恵は大きな溜め息をつく。
「……お父さんの事ね、……思い出そうとしても思い出せないんだけど、最近断片的に当時を思い出す時もあるの」
そう言うと、恵はハッと顔を上げた。
「トラウマになっている事そのものを思いだしたんじゃなくて、当時は学校でこんな事があったな、とか、梅雨時期の空気感とか、当時持っていた傘の色とか。クラスの女子に言われた嫌な言葉とか、放課後の学校のガランとした感じ、遠くで部活をしている人たちの声や物音が聞こえる感じとか……」
私は視線を落とし、指で円を描いてみせる。
「ポッカリと空いた記憶の穴があるんだけど、その周囲を埋めている記憶が、ちょっとずつ蘇っている感じ。記憶の穴は綺麗なツルッとした何かの形じゃなくて、パズルのピースみたいに、周囲と馴染んでいる所があるんだと思う。リンゴの皮を剥くように、何かとっかかりがあれば、そこからスルッと思い出す……、かもしれない」
とても抽象的な事を言って困らせたかな、と恵を見ると、彼女はとても心配そうな、泣きそうな顔をしていた。
「……しつこいかもしれないけど、私を許してくれる?」
「なんで恵を怒らないとならないの? スマホの事は強盗をした昭人が悪いんだし、恵に落ち度はないよ。むしろ、私のせいで襲われて……、ごめん」
ギュッと彼女の手を握り返すと、恵は言葉を噛み締めるように頷いた。
「……うん。……うん。だよね。あいつが悪い」
目の前の恵は、襲い来る罪悪感と戦っている。
私もまた、自分のせいで親友が暴力を振るわれたと知って、物凄い罪悪感と後悔とに苛まれている。
でも、友達だから、親友だから、ちゃんと向き合って思っている事を全部口にして、二人で乗り越えていかないとならない。
「………………はぁ…………」
俯いていた恵は天井を仰ぎ、溜め息をつく。
「くそ、マジで田村のせいだ。あいつがあんな事件を起こさなかったら、私たちは変な遠慮とか罪悪感なく、ラブラブでいられたのに」
「……うん。そこは全部昭人のせいにしたい」
私も溜め息をつき、苦笑いをする。
そのあと両手を組んでひっくり返し、伸びながら言った。
「……私たち、最高のスパダリに出会えたじゃない? いい事があったら、その反動で悪い事もあるんだよ。……でもこの程度で済んだ事に感謝しない? 今回の事件は起こらず、私は昭人と付き合ったままなのと、尊さんと涼さんに出会えた今の状況、どっちがいい? って言われたら決まってるじゃん」
「だな」
恵は頷き、自分に言い聞かせるように、そのあとも何回も頷き、溜め息混じりに言った。
「分かってるけど、人生楽しい事ばかりじゃないんだよね。ここんとこずっと、仕事関係で多少の不満はあれど、特に大きな不幸もなくやってきた感じはある。で、涼さんに出会ってグーッと人生のクライマックスみたいになって、ズドンと落とされたから、余計に落ち込んでるのかも」
恵は指先で空中にグラフのように線を描きながら言う。
私はそれに「んだ」と頷く。
「やな事があると『なんで自分だけ』って思っちゃうよね。……でも、私たちはこうやって嫌な想いを共有して、慰め合えているだけマシだと思う。世の中には誰にもつらい思いを吐き出せない人もいるだろうし」
「確かに」
恵は頷く。
「私と恵はずっと親友だし、気晴らしをするために焼き肉食べ放題に行こうと思ってるし」
「ちょっと待て。ヌルッと決定事項で入れてくるな」
恵に突っ込まれ、私は「バレた」と笑う。
「……まぁ、昭人なんかに私たちの仲は壊されないし、ちょっと躓いたけど、また元通り楽しくルンルン歩いていくんだよ。隣には尊さんと涼さんもいるし、これから先、絶対楽しい事がある。躓いた石にずっとムカムカしてたら、綺麗な景色を見落とすかもしれない」
私が自分に言い聞かせるように言ったあと、恵はクスッと笑った。
「朱里、凄く前向きになったよね。篠宮さんと付き合うようになってから、以前の何もかも諦めたような感じがなくなった」
「そんな厨二っぽい雰囲気あったっけ?」
「ちょっとね」
恵の答えを聞き、私は「マジか」と笑う。
そのあと、昭人が私に見せつけたてるてる坊主を思いだした。
「あのー……、ね。…………うん……」
私はお湯の中で何とはなしに自分の指を絡め、言葉を探す。
「……私、梅雨時期が苦手でしょ。それで、昭人の前でてるてる坊主を怖がった事があった。今回、それを逆手にとって、言う事を聞かせるために利用されたわけだけど……」
「マジ? 最低だな、あいつ」
恵は大きな溜め息をつく。
「……お父さんの事ね、……思い出そうとしても思い出せないんだけど、最近断片的に当時を思い出す時もあるの」
そう言うと、恵はハッと顔を上げた。
「トラウマになっている事そのものを思いだしたんじゃなくて、当時は学校でこんな事があったな、とか、梅雨時期の空気感とか、当時持っていた傘の色とか。クラスの女子に言われた嫌な言葉とか、放課後の学校のガランとした感じ、遠くで部活をしている人たちの声や物音が聞こえる感じとか……」
私は視線を落とし、指で円を描いてみせる。
「ポッカリと空いた記憶の穴があるんだけど、その周囲を埋めている記憶が、ちょっとずつ蘇っている感じ。記憶の穴は綺麗なツルッとした何かの形じゃなくて、パズルのピースみたいに、周囲と馴染んでいる所があるんだと思う。リンゴの皮を剥くように、何かとっかかりがあれば、そこからスルッと思い出す……、かもしれない」
とても抽象的な事を言って困らせたかな、と恵を見ると、彼女はとても心配そうな、泣きそうな顔をしていた。
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