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お留守番 編
母の助言
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「私も尊さんと暮らす時、最初は緊張したけど、彼らはさり気ない気遣いの達人だから、不快に思わせる事ってしないんだよね」
「……そういえばランドのホテルでも、涼さん、めっちゃ綺麗に洗面所を使ってたし、お風呂も排水口が汚れないように気を遣ってくれてた」
それを聞き、佳苗さんはニッコリ笑った。
「〝できる人〟って私生活から無理なくきちんとできてるのよ。それに自炊もできるんでしょ? 多忙な方だから基本的に外注しているのは当たり前として、やろうと思えばオールマイティな人っているのよね。一緒にいると『自分もちゃんとしないといけないんだ』って思ってしまうかもしれないけど、キャパシティの広い人って相手に自分のルールを押しつける事はまずないと思うわ。恵が多少だらしなくしても、彼ならまったく気にしないと思う。……だからといって『甘えなさい』とは言わないけどね」
最後は悪戯っぽく言い、佳苗さんはアップルパイの最後の一口を食べ、モッシャモッシャと咀嚼したあと紅茶を飲んで言う。
「……まー、人生って転機があるものよ。いつ何が起こるか分からない。でも、怯えていたらいつまでも前に進めないわ。『普通の人生でいいです』って刺激のない毎日をあえて選択していたとしても、ある日交通事故に遭ったり、病気をしたり、思いも寄らない人に告白される場合もある。それに、いつ死ぬかも分からないわけよ。元気でピンピンしていた若者が、ある日突然亡くなってしまう事だって珍しくないわ」
その言葉を聞き、私と恵はコクンと頷く。
「だから人生の選択が迫った時は『どっちを選んだらワクワクするか』で考えなさい。人生九十年になったけど、あっという間よ。五十四歳のお母さんが言う。マジであっと言う間。いつ死ぬか分からないなら面白い事を沢山体験して、最後に『あー、面白かった。悪くなかったかも』って思えたら最高じゃない。人間、そのために生きてるのよ」
そう言って佳苗さんはニカッと笑う。
「私は恵が幸せなら、結婚しなくても子供がいなくても全然いいと思ってた。あんたは時々そう生きたほうが私が喜ぶんじゃないかって、気にしてる素振りがあったけどね」
指摘され、恵は決まり悪そうに視線を逸らす。
「でも心の底から好きになれそうな人が現れたなら、思い切って手をとって一緒に進んでみなさい。うまくいかなかったら別れればいいんだから!」
佳苗さんは明るく言い、「あはは!」と笑う。
この場に涼さんがいたら、真っ青になってそうだ。
「いーい? 朱里ちゃんもだけど、二人とも最高の人を見つけたと思っても、自分の幸せをそれ一つに決めなくていいんだからね? もっと欲張りになって『もっと幸せになりたい』って思いなさい。でも少しでも『違う』と思ったら、その違和感に蓋をしない事。我慢して成り立つ幸せなんて、たかが知れてるんだから」
佳苗さんは脚を組み、ニコッと笑う。
「結婚して『幸せにしてもらう』なんて思ったら駄目よ? 自分で自分の幸せのために努力するのは当たり前だけど、相手に『幸せにさせる』と思っておきなさい。いい女は相手に『幸せにしたい』と常に思わせるもの。そのために自分磨きや仕事を頑張ったりするわけだけど、女が努力してるのに男がそっぽを向いて自分の幸せばかり考えるようになったら、捨ててやりなさい」
「えっ……」
私と恵はびっくりして目を見開く。
「捨てて、それでも泣きついてきたら考えてあげなさい。そのために、日々努力するの。次の男を捕まえられるように美しくあり、夫に頼らずとも自分の仕事だけで子供を育てられるスキルを身につける。そういう女って魅力的なものよ? 離婚したって絶対求めてくる人がいるもの」
佳苗さんは悪戯っぽく笑ったあと、溜め息をついて脚を組む。
「まぁ、考え方は人それぞれよ。『私はそう考えてる』っていうだけ。他にも色んな人の考え方、生き方があると思うし、今後色んな大人と沢山話して様々な価値観を身につけていくのは大事よ。全部私と同じじゃなくていいし、大切なのは他人を否定せず、柔軟に色んなものを吸収する事。沢山のものに触れて取捨選択して、自分なりの真実を見つける。そのために色んな経験をしなさいっていうのが、最初に話していた事に繋がるの」
「……分かった」
「ためになる話、ありがとうございます」
恵は学生時代からずっと、『うちの母親は放任主義』と言っていた。
でも佳苗さんは自分なりの考え方が生きていたのだと思うと、しっくりくる。
かといって家事や育児、家族での行事を放っておいたわけじゃないし、恵の家族はよく皆でキャンプに行っていたので私は羨ましく感じたものだ。
何度か誘われて一緒に行った事があるけれど、皆サバサバしていていい家族だ。
お父さんの達也さんも、今は休みになったら家族全員とか特に誘わず、気ままにドライブをして釣りや登山、ソロキャンをしている。
きっと中村家はそれぞれが自由に過ごし、それでもバラけない絆があったんだろう。
良くも悪くも「自分の事は自分でやる」という意識があったから、恵は痴漢に遭っても家族に打ち明け、甘える事ができなかったのかもしれない。
「色々言ったけど、これからは恵が自分で考えて、三日月さんに相談して歩んでいくのよ? お母さんも相談に乗るけど、新しい家族を築いていくのは恵なんだから」
「分かった」
恵は照れながらも、覚悟を宿した表情で頷いた。
**
「……そういえばランドのホテルでも、涼さん、めっちゃ綺麗に洗面所を使ってたし、お風呂も排水口が汚れないように気を遣ってくれてた」
それを聞き、佳苗さんはニッコリ笑った。
「〝できる人〟って私生活から無理なくきちんとできてるのよ。それに自炊もできるんでしょ? 多忙な方だから基本的に外注しているのは当たり前として、やろうと思えばオールマイティな人っているのよね。一緒にいると『自分もちゃんとしないといけないんだ』って思ってしまうかもしれないけど、キャパシティの広い人って相手に自分のルールを押しつける事はまずないと思うわ。恵が多少だらしなくしても、彼ならまったく気にしないと思う。……だからといって『甘えなさい』とは言わないけどね」
最後は悪戯っぽく言い、佳苗さんはアップルパイの最後の一口を食べ、モッシャモッシャと咀嚼したあと紅茶を飲んで言う。
「……まー、人生って転機があるものよ。いつ何が起こるか分からない。でも、怯えていたらいつまでも前に進めないわ。『普通の人生でいいです』って刺激のない毎日をあえて選択していたとしても、ある日交通事故に遭ったり、病気をしたり、思いも寄らない人に告白される場合もある。それに、いつ死ぬかも分からないわけよ。元気でピンピンしていた若者が、ある日突然亡くなってしまう事だって珍しくないわ」
その言葉を聞き、私と恵はコクンと頷く。
「だから人生の選択が迫った時は『どっちを選んだらワクワクするか』で考えなさい。人生九十年になったけど、あっという間よ。五十四歳のお母さんが言う。マジであっと言う間。いつ死ぬか分からないなら面白い事を沢山体験して、最後に『あー、面白かった。悪くなかったかも』って思えたら最高じゃない。人間、そのために生きてるのよ」
そう言って佳苗さんはニカッと笑う。
「私は恵が幸せなら、結婚しなくても子供がいなくても全然いいと思ってた。あんたは時々そう生きたほうが私が喜ぶんじゃないかって、気にしてる素振りがあったけどね」
指摘され、恵は決まり悪そうに視線を逸らす。
「でも心の底から好きになれそうな人が現れたなら、思い切って手をとって一緒に進んでみなさい。うまくいかなかったら別れればいいんだから!」
佳苗さんは明るく言い、「あはは!」と笑う。
この場に涼さんがいたら、真っ青になってそうだ。
「いーい? 朱里ちゃんもだけど、二人とも最高の人を見つけたと思っても、自分の幸せをそれ一つに決めなくていいんだからね? もっと欲張りになって『もっと幸せになりたい』って思いなさい。でも少しでも『違う』と思ったら、その違和感に蓋をしない事。我慢して成り立つ幸せなんて、たかが知れてるんだから」
佳苗さんは脚を組み、ニコッと笑う。
「結婚して『幸せにしてもらう』なんて思ったら駄目よ? 自分で自分の幸せのために努力するのは当たり前だけど、相手に『幸せにさせる』と思っておきなさい。いい女は相手に『幸せにしたい』と常に思わせるもの。そのために自分磨きや仕事を頑張ったりするわけだけど、女が努力してるのに男がそっぽを向いて自分の幸せばかり考えるようになったら、捨ててやりなさい」
「えっ……」
私と恵はびっくりして目を見開く。
「捨てて、それでも泣きついてきたら考えてあげなさい。そのために、日々努力するの。次の男を捕まえられるように美しくあり、夫に頼らずとも自分の仕事だけで子供を育てられるスキルを身につける。そういう女って魅力的なものよ? 離婚したって絶対求めてくる人がいるもの」
佳苗さんは悪戯っぽく笑ったあと、溜め息をついて脚を組む。
「まぁ、考え方は人それぞれよ。『私はそう考えてる』っていうだけ。他にも色んな人の考え方、生き方があると思うし、今後色んな大人と沢山話して様々な価値観を身につけていくのは大事よ。全部私と同じじゃなくていいし、大切なのは他人を否定せず、柔軟に色んなものを吸収する事。沢山のものに触れて取捨選択して、自分なりの真実を見つける。そのために色んな経験をしなさいっていうのが、最初に話していた事に繋がるの」
「……分かった」
「ためになる話、ありがとうございます」
恵は学生時代からずっと、『うちの母親は放任主義』と言っていた。
でも佳苗さんは自分なりの考え方が生きていたのだと思うと、しっくりくる。
かといって家事や育児、家族での行事を放っておいたわけじゃないし、恵の家族はよく皆でキャンプに行っていたので私は羨ましく感じたものだ。
何度か誘われて一緒に行った事があるけれど、皆サバサバしていていい家族だ。
お父さんの達也さんも、今は休みになったら家族全員とか特に誘わず、気ままにドライブをして釣りや登山、ソロキャンをしている。
きっと中村家はそれぞれが自由に過ごし、それでもバラけない絆があったんだろう。
良くも悪くも「自分の事は自分でやる」という意識があったから、恵は痴漢に遭っても家族に打ち明け、甘える事ができなかったのかもしれない。
「色々言ったけど、これからは恵が自分で考えて、三日月さんに相談して歩んでいくのよ? お母さんも相談に乗るけど、新しい家族を築いていくのは恵なんだから」
「分かった」
恵は照れながらも、覚悟を宿した表情で頷いた。
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