【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
645 / 775
四人で焼き肉 編

お盆休みの予定

しおりを挟む
 何より、恵が私の気持ちを代弁するように言ってくれた事で、多少なりともスッキリしたのかもしれない。

「あとね、最後にこれだけ言わせて」

 恵は私の顔を覗き込み、ジッと目を見つめる。

「関わった人の中に〝悪者〟を作りたくない気持ちは分かる。でも自分の気持ちに嘘をついたら駄目だからね。んでもって、『あの人も苦しんだはずだから……』って他人を慮るのは、自分のメンタルに余裕がある時だけにしときな。自分もギリギリなのに、身を削るようにして他人に優しくする義理なんてないんだから。まず自分ファーストして、いつもの余裕がある状態で他人の事を心配する程度でいいの」

 その言葉がスッと胸に入ってきた。

(尊さんも言いそうだな。……でも、彼自身、傷付いて動揺してるから、自分を俯瞰して見られていないのかもしれない)

「ありがとう、恵。凄くよく分かった。……自分に余裕がないのに、他人を気にしてたら、そりゃあどんどんメンタルやられてくよね」

 頷くと、恵はグッとサムズアップして頷いた。

 最後は赤身とロースを焼いてもらい、それを白米と食べていると、尊さんが軽く挙手して「懺悔」と言った。

「……ここで言う事じゃないかもしれないけど、昨晩、俺もちょっと動揺してて、とにかく朱里に触れたくて迫ったけど、中途半端な気持ちじゃ駄目だと思って混乱してた。……朱里も焦れったく思っただろう。すまん、謝る」

 それを聞き、私は「やっぱり……」と感じた。

 お風呂に入っていていきなり乱入した割には、彼は私を積極的に抱こうとしなかった。

 私に触れて安心したい気持ちがある傍ら、心の中では昨晩言っていたように『心の中に夏目さんの存在を抱えたまま、私を抱いていいのか迷ってる』と思っていただろう。

 尊さんは真面目だから、そんな気持ちで私を抱く事を『失礼』とまで感じていた。

 確かに、昨晩は私も自分の事ばかりで尊さんの胸中を想像する余裕はなかったけど、今なら笑って流せる。

「いいんですよ。尊さんに触れられて嬉しかったですもん。……それに『理屈じゃない』……でしょ?」

「……そうだな」

 こうやって言えなかった事を口にして、やっと旅行後のモヤモヤがすべて晴れた気がした。

「よし、ラスト冷麺いくぞー!」

 私は表面に薄くスライスされたすだちが敷き詰められた、綺麗な冷麺を写真に収めてから食べ始める。

 スッキリした味わいと、麺のモチモチ感が最高だ。

 食後のデザートはフルーツのゼリー寄せで、尊さんはそれを食べ終えたあとに言う。

「そういえば、盆休みに速水家の人たちと温泉に行くって話してただろ」

「あっ、はい!」

「ちえり叔母さんいわく、もう宿の手配やら、行ける人の都合やらはつけたそうだ。あとは俺たちが参加表明して、当日行く……って感じだけど大丈夫か?」

「はい! 楽しみです!」

「八月は、頭の週末から翌週末まで、風磨が夏休みをとる事にしてる。それが終わったあと、俺が一週間休みをもらってる。先方の会社勤めの男性陣はカレンダー通りの人もいるけど、祖父母や小牧ちゃん、ピアノ教室勢はそのために休みを設定してるらしい」

「女性陣が多くなりそうですね」

「……そうなんだよ……」

 尊さんはガックリと項垂れる。

「行き先は和歌山県の白浜温泉だ。ビーチもあるから、夏にピッタリじゃないかって」

「和歌山県……」

 失礼ながら、私は都道府県をすべてしっかり把握していると言えず、呟いたあとにスマホに手を伸ばす。

 けれど検索するより先に、涼さんが教えてくれた。

「京都や大阪の下に、ふっくらした紀伊半島があるでしょ? 中央には奈良県、東側には伊勢神宮があって、南側には熊野大社や那智の滝がある。白浜温泉は半島の先端近くの、四国側だよ」

「あー! なるほど! ありがとうございます!」

 私は涼さんのナイスアシストに拍手する。

「小牧ちゃんいわく、いま涼が言った辺りも観光しようって話だ」

「わぁ……! 楽しみ! 恵、お土産買ってくるからね!」

「あんがと。楽しみにしてる。……っていうか、そっちのご家族とうまくいってて良かったですね」

 恵が尊さんに微笑みかけると、彼は「そうだな」と笑う。
しおりを挟む
感想 2,433

あなたにおすすめの小説

姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。

佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。 そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。 キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。 でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。 最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。 誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。 「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。 男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。 今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

公爵令嬢の苦難

桜木弥生
恋愛
公然の場で王太子ジオルドに婚約破棄をされた公爵令嬢ロベリア。 「わたくしと婚約破棄をしたら、後ろ楯が無くなる事はご承知?わたくしに言うことがあるのではございませんこと?」 (王太子の座から下ろされちゃうから、私に言ってくれれば国王陛下に私から頼んだことにするわ。そうすれば、王太子のままでいられるかも…!) 「だから!お嬢様はちゃんと言わないと周りはわからないんですって!」 緊張すると悪役っぽくなってしまう令嬢と、その令嬢を叱る侍女のお話。 そして、国王である父から叱られる王子様のお話。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

婚約者が妹にフラついていたので相談してみた

crown
恋愛
本人に。

処理中です...