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もう一人の幼馴染み
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「モニカも数日ですっかり立派になったわねぇ」
白いテーブルクロスを敷いた上に、ティースタンドや高級な茶器が並んでいる。
その向こうで微笑んでいるのは、モニカの母だ。
「嫌だわ、お母さま」
この国で目を覚ましてから、酷く故郷が恋しかった。
けれどケイシーが側にいてくれ、何よりクライヴが溶けるほどの愛を注いでくれたから、なんとかやってこられた。
今日両親や弟妹と顔を合わせると、ホッと息をつくほどの安堵を感じた。
だが今は、母の胸に縋り「懐かしい」「帰りたい」と言ってはいけない立場だ。もう後戻りはできない。
モニカは今やヴィンセント王国の王妃。
まだ実感はないが、それは民、周辺国、司祭より認められた立場だ。
モニカ個人の不安感などで覆してはいけない。
だから今は、こうやって上品に微笑んで元・家族との会話を楽しむ。遠方に嫁いだ他国の姫を思えば、嫁ぎ先が隣国である自分は恵まれているのだ。
「これで、世継ぎさえ産めば安泰だな」
「お父さま」
父の言葉にモニカは赤面する。
先代王アランは、戴冠式の後はもう役目は終わったと言わんばかりに、床に臥せっている。王太后カミラのみ、出席して上品に紅茶を飲んでいた。
「わたくしも先代陛下も、これで安心して隠居できますわ。クライヴとモニカさんなら、既知の仲ですもの。結ばれるべく結ばれたという感じですよね」
髪に白いものが混じり始めたカミラが言い、彼女の持つゆったりとした雰囲気に皆うんうんと頷く。
「ですがカミラさま。隠居と仰らず、これからも至らないモニカを支えてあげてくださいませ」
「ふふ、わたくしも先王陛下も、しばらくは休ませて頂きます。ずっと働きづめだったんですもの。先王陛下のお側にいて、ゆっくりとした時間を過ごしたいのです」
そう言われてしまえば、誰も無理なことを言えなかった。
クライヴの妹ヘザーは、優しいモニカを実の姉のように慕っているし、兄とモニカが結婚して万々歳という雰囲気だ。
そんなヘザーも母の言葉に頷く。
「私もそう思います。お兄さまは今働き盛りですもの。お若いですし、多少何かあっても動じない図太さがあります。お父さまとお母さまこそ、長年のお勤めから解放されてお休みすべきですわ」
クライヴの妹らしく、大人しく利口そうでいて、言うことは言う。
そんな彼女に皆が上品に笑った。
「それにしても、この晴れの式を担当させて頂き光栄の至りです」
両国の王家と同席していたのは、結婚式や戴冠式に立ち会っていた司祭ニコラスだ。それに同席しているのは、彼が引き取って育てている青年オーガスト。
元はウィドリントン王国の公爵アストリー家の息子だったが、神託があり名誉ある『聖爵』となった。
聖爵とは貴族でありながら聖職者であるという、この周辺国特有の爵位だ。
いまだ教会と貴族との癒着はあり、より高貴な血を持つ者が教会の高位に立つため、そのような構造が昔よりあったのだ。
(オーガスト、どうしたのかしら)
モニカとオーガストは幼馴染みで、彼と遊んだ遠い日々が懐かしい。明るい日差しの下でよく笑い、モニカへの好意を隠さない少年だった。
だがいま彼は、口元だけ笑みを浮かべ、他の表情は死んでいる。
青い目は何も映しておらず、美味しい紅茶やお茶請けにも手を伸ばそうとしない。
やっと故郷の人々と会うことができて、祝ってもらえる席なのに。
(私が先に結婚したものだから、拗ねているのかしら?)
幼い頃のオーガストの性格は、モニカの後をついて歩くような少年だった。
それが剣を持って体を鍛えるようになり、自分がどれだけ強くなったかをモニカと顔を合わせる度に自慢する青年になった。
が、聖爵に選ばれてからは、描いていた夢を失いアストリー公爵家を継ぐこともできず、鬱々としていたのだ。
そんな彼をモニカは日々慰め、彼が立派な司祭補佐職となることを願っていたのだが……。
(それとも、国で何か嫌なことがあったのかしら?)
じっとオーガストを見つめていると、彼と目が合った。
彼は困惑した顔でモニカを見て、申し訳程度に笑ってみせる。そして、ごまかすように紅茶を飲んだ。
何となく彼の肌の色が白くなったように思え、輝いていた金髪も色あせたように思える。
(あとで元気かどうか、話しかけてみましょう)
そう思いつつ、モニカはまた会話に戻っていった。
白いテーブルクロスを敷いた上に、ティースタンドや高級な茶器が並んでいる。
その向こうで微笑んでいるのは、モニカの母だ。
「嫌だわ、お母さま」
この国で目を覚ましてから、酷く故郷が恋しかった。
けれどケイシーが側にいてくれ、何よりクライヴが溶けるほどの愛を注いでくれたから、なんとかやってこられた。
今日両親や弟妹と顔を合わせると、ホッと息をつくほどの安堵を感じた。
だが今は、母の胸に縋り「懐かしい」「帰りたい」と言ってはいけない立場だ。もう後戻りはできない。
モニカは今やヴィンセント王国の王妃。
まだ実感はないが、それは民、周辺国、司祭より認められた立場だ。
モニカ個人の不安感などで覆してはいけない。
だから今は、こうやって上品に微笑んで元・家族との会話を楽しむ。遠方に嫁いだ他国の姫を思えば、嫁ぎ先が隣国である自分は恵まれているのだ。
「これで、世継ぎさえ産めば安泰だな」
「お父さま」
父の言葉にモニカは赤面する。
先代王アランは、戴冠式の後はもう役目は終わったと言わんばかりに、床に臥せっている。王太后カミラのみ、出席して上品に紅茶を飲んでいた。
「わたくしも先代陛下も、これで安心して隠居できますわ。クライヴとモニカさんなら、既知の仲ですもの。結ばれるべく結ばれたという感じですよね」
髪に白いものが混じり始めたカミラが言い、彼女の持つゆったりとした雰囲気に皆うんうんと頷く。
「ですがカミラさま。隠居と仰らず、これからも至らないモニカを支えてあげてくださいませ」
「ふふ、わたくしも先王陛下も、しばらくは休ませて頂きます。ずっと働きづめだったんですもの。先王陛下のお側にいて、ゆっくりとした時間を過ごしたいのです」
そう言われてしまえば、誰も無理なことを言えなかった。
クライヴの妹ヘザーは、優しいモニカを実の姉のように慕っているし、兄とモニカが結婚して万々歳という雰囲気だ。
そんなヘザーも母の言葉に頷く。
「私もそう思います。お兄さまは今働き盛りですもの。お若いですし、多少何かあっても動じない図太さがあります。お父さまとお母さまこそ、長年のお勤めから解放されてお休みすべきですわ」
クライヴの妹らしく、大人しく利口そうでいて、言うことは言う。
そんな彼女に皆が上品に笑った。
「それにしても、この晴れの式を担当させて頂き光栄の至りです」
両国の王家と同席していたのは、結婚式や戴冠式に立ち会っていた司祭ニコラスだ。それに同席しているのは、彼が引き取って育てている青年オーガスト。
元はウィドリントン王国の公爵アストリー家の息子だったが、神託があり名誉ある『聖爵』となった。
聖爵とは貴族でありながら聖職者であるという、この周辺国特有の爵位だ。
いまだ教会と貴族との癒着はあり、より高貴な血を持つ者が教会の高位に立つため、そのような構造が昔よりあったのだ。
(オーガスト、どうしたのかしら)
モニカとオーガストは幼馴染みで、彼と遊んだ遠い日々が懐かしい。明るい日差しの下でよく笑い、モニカへの好意を隠さない少年だった。
だがいま彼は、口元だけ笑みを浮かべ、他の表情は死んでいる。
青い目は何も映しておらず、美味しい紅茶やお茶請けにも手を伸ばそうとしない。
やっと故郷の人々と会うことができて、祝ってもらえる席なのに。
(私が先に結婚したものだから、拗ねているのかしら?)
幼い頃のオーガストの性格は、モニカの後をついて歩くような少年だった。
それが剣を持って体を鍛えるようになり、自分がどれだけ強くなったかをモニカと顔を合わせる度に自慢する青年になった。
が、聖爵に選ばれてからは、描いていた夢を失いアストリー公爵家を継ぐこともできず、鬱々としていたのだ。
そんな彼をモニカは日々慰め、彼が立派な司祭補佐職となることを願っていたのだが……。
(それとも、国で何か嫌なことがあったのかしら?)
じっとオーガストを見つめていると、彼と目が合った。
彼は困惑した顔でモニカを見て、申し訳程度に笑ってみせる。そして、ごまかすように紅茶を飲んだ。
何となく彼の肌の色が白くなったように思え、輝いていた金髪も色あせたように思える。
(あとで元気かどうか、話しかけてみましょう)
そう思いつつ、モニカはまた会話に戻っていった。
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