【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第二十四部・最後の清算 編

士気の話

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「マイ、少し落ち着いたあと、目星をつけた物件に行ってみないか?」

 器用に箸を使って食事をしているマティアスに言われ、麻衣はチラッと佑を見てから頷く。

「う……、うん……」

「私、会社に復帰する目処がまだ立っていないから、私も参加していいですか?」

 香澄が挙手して言うと、麻衣は笑顔になって「勿論」と頷く。

「じゃあ、俺は仕事の一環という事で、『eホーム御劔』の矢崎さんにも声を掛けた上で、担当と一緒に行くよ」

「総帥自ら……!」

 香澄が芝居がかった調子で言うと、佑は肩を揺らして笑う。

「総帥ってなんだよ」

 和気藹々と食事を進めたあと、デザートには綺麗に皮を剥かれ、美しく盛り付けられた清美オレンジを食べた。

 食後、飲み物を飲んで会話を楽しんだあと、片付けを終えた斎藤と島谷は帰っていった。

「じゃあ、疲れもあるだろうし、早めに寝よう」

 佑はそう言って、一足先に二階へ上がっていく。

 時刻は二十一時すぎで、いつもの感覚ならまだまだ起きている時間だ。

 しかもずっとアメリカで過ごしていた香澄は、絶賛時差ボケ中である。

 日本時間で二十一時は、サマータイムが始まったNYでの時間で朝の八時に当たり、これからどんどん活動時間になっていく。

「……御劔さんは、世界各地に出張してるだろうから、時差ボケの直し方も慣れてるのかな」

 麻衣が言い、香澄は笑う。

「さすがに滞在時間が長いと、影響を受けるみたいだけどね。一応、あの立派なプライベートジェットでぐっすり寝て調整してるらしいけど」

「世界を跨ぐビジネスマンは違うねぇ」

 麻衣はカフェインレスのカフェオレを飲んだあと、香澄に尋ねてきた。

「寝れる?」

「うーん、どうだろ。でも佑さんは明日から会社に行くつもりらしいから、あまりうるさくしたら駄目だよね」

「だね。部屋で大人しくしてようか。横になって目を閉じてたら、眠くなるかもだし」

「そうだ、共同スペースにある本とか、好きに読んでいいからね」

「うん、ありがと」

 そのあと、香澄は麻衣とマティアスに一旦の「おやすみ」を言ったあと、足音を立てないように二階に上がった。





 二階の洗面所で寝る支度をしたあと、佑の書斎の電気がついているので、ヒョコッと顔を覗かせる。

「……ん?」

 ブルーライト対策の眼鏡を掛けた佑は、香澄に気づくと顔を上げて微笑んだ。

「お仕事、お疲れ様です」

 香澄はそう言うと、室内に入って佑の後ろに立つと、彼の肩を揉む。

 モニターにはPDFファイルが映されていて、佑は書類の確認をしていたようだった。

「疲れただろ」

「うん……。でも、時差ボケがあるから、まだ少しウダウダしてるかも」

 香澄は佑の胸板に手を滑らせ、手触りのいい生地を楽しむように撫でる。

 彼はゆっくりと動く香澄の手に己のそれを重ね、軽く手を握ってきた。

「……セクハラしてたのに」

 香澄が小さく言うと、佑は俯いて噴き出し、くっくっく……と肩を揺らして笑う。

「……ごめん、お仕事の邪魔したね。有能な秘書は休む事も仕事のうちと分かっているので、ゆっくり休みたいと思います」

 冗談めかして言うと、佑は笑顔になる。

「できる秘書は、いい匂いをさせて先にベッドを温めれば、社長の士気が上がると知ってるはずだよ」

「…………なんの士気?」

 じっ……と佑を見つめると、彼は斜め上を見てとぼける。

「さて、なんの士気だろう。有能な秘書は想像力豊かだから、エッチな事だと思ってる?」

「お答えしかねます」

 真顔で答えたあと、二人は少し黙ったあと噴き出して笑い始めた。

「……先にお布団温めておくね。秀吉みたいに。でもまだ眠れないから、電子漫画読んでるかも」

「誕生日に買ったグラスランドのギフト券、使ってくれた? 電子漫画沢山買えるだろ」

「もぉ……! あれは買い過ぎ。……お陰で本棚が潤ってますけど」

 沢山のプレゼントに囲まれた誕生日を思い出し、香澄は笑顔になる。

「香澄の漫画ライフの助けになったなら、何よりだ」

 佑はそう言い、彼女を抱き寄せるとチュッとキスをする。

「……少しずつ、日本での日常に戻っていこう」

「……そうだね」

 ――もう大丈夫。

 そう思える今だからこそ、焦る事はないのだと自分に言い聞かせた。
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