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第二十四部・最後の清算 編
うどんについて
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「そうか……、うん。……分かってはいたんだが……」
ソファにもたれかかった佑はブツブツと言い、大きな溜め息をつく。
「も、勿論、佑さんともデートするよ? ……でも麻衣と東京デートした回数のほうが少ないし、平等に……」
焦った香澄が言うと、ムクリと起き上がった佑は彼女の顎を摘まんで見つめてくる。
「平等にというなら、俺と出会うより前から親友だった麻衣さんのほうに、アドバンテージがあるんじゃないか?」
「わあ、面倒臭い。香澄、御劔さんが面倒臭いから、ちゃんとデートしてあげて」
麻衣の忌憚ない言葉を聞き、香澄は笑っていいんだか、佑の嫉妬に焦るべきなのか分からずにいる。
「す、するけど……、ダブルデート?」
困った香澄が両手でピースすると、佑も麻衣も微妙な顔になった。
「……私は構わないけど、嫉妬深い御劔さんが嫌がると思うよ」
「佑さん、そこまで心が狭くないよね?」
焦った香澄が佑に同意を求めるが、彼はスイッと目を逸らす。
「ほらー、面倒臭い男代表……」
「た、佑さん。デートするから。ふ、二人でパンケーキ食べる? ラーメンでもいいよ?」
香澄が必死に呼びかけるが、佑はボーッとして呟く。
「食べ物……」
「香澄ったら食べ物デートしか思いつかないんだから、もー。もうちょっと色っぽいデートを考えてあげたら? スケスケランジェリーを着て『私をあげる』とか」
「それってデートかなぁ!?」
香澄は目を見開いて親友に突っ込みを入れる。
ワチャワチャと言い合っていると、キッチンにいた斎藤がクスクス笑い、提案してきた。
「王道ですが、映画とか水族館とかはどうですか? プラネタリウムもいいですね」
「さすが斎藤さん……!」
天からの助けのように思えた香澄は、両手を組んで彼女を見る。
「うん、佑さん。改めて二人で相談しようか。せっかく帰国したし、アメリカでもデートしたけど、日本でも日常デートしたいね」
微笑みかけると、佑は機嫌を直したらしく、溜め息をついて笑った。
「ああ」
**
夕食は基本的な和食――白米、豆腐の味噌汁、塩鯖、ほうれん草のごま和えの他、小鉢に少しだけ焼きうどんが入っていた。
「美味しいですけど、……なんでこのラインナップに焼きうどん?」
麻衣が目を瞬かせると、香澄はチラッと佑を見てからキッチンにいる斎藤を見て微笑む。
「ふふ」
「うふふ」
香澄と斎藤が笑い合ってると、麻衣が首を傾げる。
「えー? なに?」
分かっていない親友に、香澄は照れながら教える。
「私、このお屋敷に初めて来た日に食べたのが焼きうどんで、佑さんが記憶を失って、退院して家に帰って食べたのもうどんだったの」
「へぇ……」
ありふれた食べ物に二人の歴史が詰まっていると思わず、麻衣は声を上げる。
「……斎藤さん、佑さんが記憶を失った時は、ちょっと狙ってました?」
今だから聞けると思って尋ねると、彼女は苦笑いして答えた。
「うーん、狙うなら同じ焼きうどんが適切だったでしょうね。あの時は煮込みうどんでしたけど、お腹に優しいものを……と思ったのと、……うーん、まぁ、少しは狙ったところはありましたけど」
「んふふ」
香澄はクシャッと破顔し、小鉢に入った焼きうどんを食べる。
不思議な事に、当然その二回の他にも数え切れないぐらいうどんを食べていたが、二人にとっての思い出の食事は、いつのまにかうどんになっていた。
「なんかそういうのってあるよね。香澄が札幌にいた頃、『ビーフショック』で二人でステーキ食べてたじゃん。肉メーターを溜めるやつ」
「うんうん」
麻衣に地元の話をされ、香澄は笑顔になって頷く。
「嫌な事があった時も二人で肉食べて元気つけて、給料出ても行って、……私、年末のあとマティアスさんと一緒に札幌戻った時も、あの店行ったんだよね。……そういう、凄く高級で特別な店じゃないけど、思い入れのある特別な店、食べ物ってあると思う」
麻衣に同意され、香澄は微笑む。
「日常って愛しいよね。旅行とか、イベント事とか、『ありがたいなぁ、素敵だなぁ』って思うけど、こうやって家でのんびりくつろいで、斎藤さんのご飯を食べてるとホッとする」
彼女の言葉を聞き、今度は斎藤が「光栄です」と笑顔になった。
ソファにもたれかかった佑はブツブツと言い、大きな溜め息をつく。
「も、勿論、佑さんともデートするよ? ……でも麻衣と東京デートした回数のほうが少ないし、平等に……」
焦った香澄が言うと、ムクリと起き上がった佑は彼女の顎を摘まんで見つめてくる。
「平等にというなら、俺と出会うより前から親友だった麻衣さんのほうに、アドバンテージがあるんじゃないか?」
「わあ、面倒臭い。香澄、御劔さんが面倒臭いから、ちゃんとデートしてあげて」
麻衣の忌憚ない言葉を聞き、香澄は笑っていいんだか、佑の嫉妬に焦るべきなのか分からずにいる。
「す、するけど……、ダブルデート?」
困った香澄が両手でピースすると、佑も麻衣も微妙な顔になった。
「……私は構わないけど、嫉妬深い御劔さんが嫌がると思うよ」
「佑さん、そこまで心が狭くないよね?」
焦った香澄が佑に同意を求めるが、彼はスイッと目を逸らす。
「ほらー、面倒臭い男代表……」
「た、佑さん。デートするから。ふ、二人でパンケーキ食べる? ラーメンでもいいよ?」
香澄が必死に呼びかけるが、佑はボーッとして呟く。
「食べ物……」
「香澄ったら食べ物デートしか思いつかないんだから、もー。もうちょっと色っぽいデートを考えてあげたら? スケスケランジェリーを着て『私をあげる』とか」
「それってデートかなぁ!?」
香澄は目を見開いて親友に突っ込みを入れる。
ワチャワチャと言い合っていると、キッチンにいた斎藤がクスクス笑い、提案してきた。
「王道ですが、映画とか水族館とかはどうですか? プラネタリウムもいいですね」
「さすが斎藤さん……!」
天からの助けのように思えた香澄は、両手を組んで彼女を見る。
「うん、佑さん。改めて二人で相談しようか。せっかく帰国したし、アメリカでもデートしたけど、日本でも日常デートしたいね」
微笑みかけると、佑は機嫌を直したらしく、溜め息をついて笑った。
「ああ」
**
夕食は基本的な和食――白米、豆腐の味噌汁、塩鯖、ほうれん草のごま和えの他、小鉢に少しだけ焼きうどんが入っていた。
「美味しいですけど、……なんでこのラインナップに焼きうどん?」
麻衣が目を瞬かせると、香澄はチラッと佑を見てからキッチンにいる斎藤を見て微笑む。
「ふふ」
「うふふ」
香澄と斎藤が笑い合ってると、麻衣が首を傾げる。
「えー? なに?」
分かっていない親友に、香澄は照れながら教える。
「私、このお屋敷に初めて来た日に食べたのが焼きうどんで、佑さんが記憶を失って、退院して家に帰って食べたのもうどんだったの」
「へぇ……」
ありふれた食べ物に二人の歴史が詰まっていると思わず、麻衣は声を上げる。
「……斎藤さん、佑さんが記憶を失った時は、ちょっと狙ってました?」
今だから聞けると思って尋ねると、彼女は苦笑いして答えた。
「うーん、狙うなら同じ焼きうどんが適切だったでしょうね。あの時は煮込みうどんでしたけど、お腹に優しいものを……と思ったのと、……うーん、まぁ、少しは狙ったところはありましたけど」
「んふふ」
香澄はクシャッと破顔し、小鉢に入った焼きうどんを食べる。
不思議な事に、当然その二回の他にも数え切れないぐらいうどんを食べていたが、二人にとっての思い出の食事は、いつのまにかうどんになっていた。
「なんかそういうのってあるよね。香澄が札幌にいた頃、『ビーフショック』で二人でステーキ食べてたじゃん。肉メーターを溜めるやつ」
「うんうん」
麻衣に地元の話をされ、香澄は笑顔になって頷く。
「嫌な事があった時も二人で肉食べて元気つけて、給料出ても行って、……私、年末のあとマティアスさんと一緒に札幌戻った時も、あの店行ったんだよね。……そういう、凄く高級で特別な店じゃないけど、思い入れのある特別な店、食べ物ってあると思う」
麻衣に同意され、香澄は微笑む。
「日常って愛しいよね。旅行とか、イベント事とか、『ありがたいなぁ、素敵だなぁ』って思うけど、こうやって家でのんびりくつろいで、斎藤さんのご飯を食べてるとホッとする」
彼女の言葉を聞き、今度は斎藤が「光栄です」と笑顔になった。
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