【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
2 / 1,589
第一部・出会い 編

序章1

しおりを挟む
「動かないで」

耳元で低い声に囁かれ、赤松香澄あかまつかすみは背筋を震わせた。

 自分を抱き締めるような格好でウエストを測っているのは、つい先ほど出会ったばかりの男性――御劔佑みつるぎたすくだ。

 彼は一八五センチメートル以上はある高身長の上、服を着ていても分かるぐらいしっかり鍛えた体をしていた。

 目元の彫りがやや深く、肌の色も日本人より少し白い。

 色素の薄い目の色は単なる茶色ではなく、虹彩に様々な色が混じっている不思議な色だ。

 その目に見つめられると彼を意識してしまって見つめ返せないので、その色に似合う言葉をじっくり探す事はできない。

 香澄は札幌のすすきのにある夜間営業の飲食店――居酒屋やバーなどを経営する八谷やつたにグループの札幌支部エリアマネージャーをしていた。

 数ある店舗の中には、経営者など限られた人だけが入店できる会員制バーもある

 マネージャーという立場上、香澄は札幌支店を訪れた大物たちの顔を覚えている。

 彼は日本有数の経営者であり資産家、その上、テレビや雑誌、広告などのメディアに顔を出している有名人だ。

 なので勿論、雲の上の人の個人的な事情は知らないが、ネットに書かれている程度なら把握している。

 肌の色が日本人より白いのは、彼の母親が日本に帰化したドイツ人だからだ。

 母親の実家は、ドイツ産の高級車と言えば――で名の知られるクラウザー社を、一族経営しているクラウザー家だ。

 来店時、佑はスリーピーススーツを纏っていたが、今はジャケットをハンガーに掛け、ベストとシャツ姿になっている。

 しっかりアイロンがかけられたシャツに、前面はグレンチェック、背面はブルーグレーのベスト、ジャケットには水牛の角でできたボタンが付き、そんな所からもセンスの良さ、こだわりが分かる。

 加えてジャケットの胸ポケットには柄物のポケットチーフが入っていた。

 ――そう、そのポケットチーフは彼を体現するアイテムだ。

 彼――御劔佑は、Chief Everyチーフ・エブリィと呼ばれる国内最大手のアパレル会社の社長だ。

 その前身であるChiefチーフ Everyエヴリィ Platinumプラチナ――CEPシー・イー・ピーというハイブランドは、さくという男性がメインデザイナーを務め、佑も時にデザインを提供しているらしい。

 佑が起業したのは高校生時代で、友人の協力を得てアプリ開発をして商業戦略を練り、現在に至る道筋を築いたのだとか。

 CEPはパリコレにも参加するほど世界に認められ、さらにChief Everyは一般層から絶大な人気を得ている。

 CEPはセレブが買い求める服である一方で、Chief Everyは一般人でも手の届く値段であらゆる種類、サイズの服が販売されている。

 どんな体型の人、どんなジェンダーでも楽しめる服があるため、老若男女問わず人気が高く、シェア率は国内のみならず海外にまで及んでいる。

 彼は他にも不動産事業も手がけ、飲食など、他の分野にも手を伸ばそうとしている。

 そんな凄い男性が、現在メジャーを手にして香澄の体を真剣に採寸している。

(どういう……状況?)

 ピキーンと固まった下着姿の香澄は、羞恥のあまり泣きそうになっていた。

 幸いなのは、ローズピンクの下着が上下揃っている事だ。

 ここ数年彼氏がおらず、ちょっと気を抜くと上下バラバラの下着をつける事もある。

 だから、今日が〝その日〟でなくて良かったと心から思った。

 チラッと佑を見ると、無精髭一本ない滑らかな頬に、長い睫毛が影を落としている。

 二人は札幌駅近くにあるホテルのスイートルームにいて、シャンデリアの金色の光が、佑の不思議な目の色を照らし、とても美しい色味を醸しだしている。

 彼からは官能的な香水の匂いがし、滅多に嗅がないいい匂いにクラクラしてくる。

(何の香水だろ……。すっごい……セクシー……)

 香澄は思わずうっとりしそうになるのを、必死に堪える。

 男性の匂いを嗅いで興奮するなんて、生まれて初めてだ。

「次、二の腕」

 佑は香澄のバスト、ウエスト、ヒップを測って紙にサラサラとメモし、短く告げる。

 香澄は素直に腕を胴から離し、彼に二の腕を測らせた。

(何やってるんだろ……私……)

 他人に二の腕、肩から手首までの長さを測られるなんて、生まれて初めてだ。

(初体験だなぁ……)

 現実味のない事をされているので、ぼんやりとそんな事を考え、「いやいや」と自分に突っ込みを入れる。

(……無駄毛の処理、大丈夫かな)

 挙手するほど腕を上げていないので腋は見えていないが、すぐ近くに男性がいると思うと嫌でも意識する。

 最低限、腋や腕、脛や顔の無駄毛処理はしているが、ここまで近い場所で体を見られていると、毛穴までチェックされているのでは? という感覚になる。

(恥ずかしい……)

 心の中で呟き赤面した香澄は、ギュッと目を閉じた。

(こんな事になるなら、脱毛すれば良かった)

 そう思うものの、後の祭りだ。

 皆カジュアルに「脱毛した」と言っているのを聞くと、古くさい価値観かもしれないが、脱毛やエステと聞くと「高額請求されるのでは」と思うので、ハードルが高く問い合わせすらできずにいる。

(御劔さんの周りにいる女性は、みんな綺麗な肌をしてそう)

 そう思うと少しだけモヤッとし、その感情が嫉妬だと理解した香澄は溜め息をついた。

 佑は世界を股に活躍する有名人で、自分を異性として見るはずなんてない。

(浮かれてる自分が嫌だ。こんな人に相手にされるはずがないのに、ミューズだって言われて特別感を得ている自分がいる。……しっかりしてよ。私はただのモブなんだから)

 自分に言い聞かせるも、身長が高く美形で社会的地位のある彼が側にいると、どうしても意識せざるを得ない。

(もう二度と会わない有名人なんて、気にするだけ無駄なのに)

 今まで色んな男性を見てきたが、香澄は決して見た目で人を判断しなかった。

 なのに美形の有名人を前にして浮ついた気持ちになる自分がいて、溜め息をつきたくなる。

(美形怖い、美形怖い、美形怖い)

 香澄は呪文のように心の中で三回呟き、また溜め息をついてから目を開けた。

 佑は香澄の前にしゃがみ込み、「脚の長さを測りたいんだけど」と見上げてきた。

「肩幅程度に足を開いてくれるか? デリケートな部分には触らないから、股下の長さを測らせてほしい」

「ううう……」

 ここまで測らせておいて、今さら一部分だけ「嫌です」というのも変だ。

(ええいっ)

 思い切ってラジオ体操ほどに足を開くと、佑は「ありがとう」と言って、メジャーの端を香澄の脚の付け根近くに近づけた。

「…………っ」

 素肌に彼の温もりを感じ、香澄はピクッと反応する。

 幸い、佑は香澄の反応をからかわず、いやらしい態度もとらず、真剣な表情で股下を測っていた。

 そのあとも佑は香澄の太腿、ふくらはぎ、足首の周囲を測り、最後にA4の紙を出す。

「これを踏んでくれないか?」

 やっと採寸が終わったと思ったのに、妙な注文を出されて香澄は上ずった声をだす。

「ふ、踏む……?」

「足のサイズを測る」

「え、あ、はい」

 紙を踏めと言われて戸惑ったが、用途を理解した香澄は、おそるおそる足を置く。

 すると佑は鉛筆で香澄の足周りをなぞり、終わると香澄にメジャーをを踏ませて足の甲の高さを測る。

「よし、終わり。協力ありがとう」

「はぁー……」

 やっと解放された香澄は、熱を持った顔を両手で覆い、紙から一歩離れた所でズルズルとしゃがみ込む。

(無理。無理無理。こんなイケメンに下着一枚で採寸されるとか……。何の罰ゲームなの? だからどうしてこうなった!)

 体中丁寧に採寸されても、香澄はCEPのような高級ブランドの服を買えるほど金持ちではない。

 服はTシャツにジーンズを穿けばいいと思っているので、オーダーメイドの服を買う思考を持ち合わせていない。

「どうしてこうなった」と何度も思っているが、佑とどう出会い、なぜこうなったかの記憶はきちんとある。

 しかしこの状況に納得し、受け入れているかと言われたら話は別だ。

 この世すべての美を集めたのではという男性に至近距離で体を見られ、抱き締められるような体勢で体を採寸され、香澄のライフははゼロだ。

「お疲れ様。あとは自由にしていいよ。風呂に入る? 寝る?」

「ふっ……! ねっ!?」

 ホテルにいる状況でどちらを選んでも、いやらしい結末になるイメージしかなく、香澄はまた上ずった声をだす。

 警戒していると、佑は香澄の肩にバスローブを掛けて「襲わないよ」と笑う。

 いやらしい意味で言ったのではないと悟った香澄は、自分だけ彼を意識していると知り、「もうやだ……」と呟いた。

「……タクシーを拾って帰ります」

「つれない事を言わないでほしいな」

「!?」

 匂わすような事を言われ、香澄はギョッとして顔を上げた。
しおりを挟む
感想 575

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

処理中です...