【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
3 / 1,589
第一部・出会い 編

序章2

しおりを挟む
「何言ってるんですか!?」

 目をまん丸にして素になって突っ込んだからか、佑はその反応を見てクックックッ……と笑い出した。

(からかわれた!)

 瞬時に悟った香澄は真っ赤になり、バスローブの前を掻き合わせて立ち上がった。

「私、本当に帰りますから。いい服ができたらいいですね。できあがっても、報告は結構です」

 少し怒ったまま早口に言うと、香澄はソファの上に置いていた自分のパンツスーツ一式やストッキングを持ち、隣室に向かう。

「服を着ますので、こっち来ないでくださいね!」

「分かったよ。怒らせたなら悪かった」

(イケメンで性格が良さそうなんて思ったの、間違いだったんだ。お金持ちでイケメンなら庶民に意地悪してもおかしくない)

 いつもの自分なら思わない偏った考えになってしまうのは、ひとえに羞恥ゆえだ。

 佑の事を格好いいと思い、好意的に見ていたからこそ、自分のうぬぼれを指摘された気がして一気に恥ずかしくなった。

 それを誤魔化すために怒ったのも、ひとえに香澄が未熟だからだ。

 隣室は書斎になっていて、香澄は椅子に服を引っかけるとバスローブを脱ぎ、ストッキングを穿く。

(……馬鹿みたい。有名人だからって言われるがままにホイホイ着いてきて、あり得ない事をされて、浮かれて……)

 一通り怒ったあとは、すぐに反省モードになってゆく。

 香澄はそれほど自己肯定感が高くない。

 よく考えれば、御劔佑のような人が自分をまともに相手にする訳がないのだ。

 シャツを着てズボンを穿き、〝いつもの自分〟の服装になっていくと、どんどん気持ちが落ち着いてゆく。

(そう。札幌にいる飲食店マネージャーが、東京にいる大企業の社長とどうかなるなんてあり得ないんだから)

 ジャケットを羽織ると、一つ息をつく。

 すっかり冷静になってから、リビングに戻った。

「帰ります」

 短く告げ、香澄は自分のコートに袖を通すとマフラーを首に巻く。

「送るよ」

「結構です。勝手知ったるホームタウンですので、迷う事もありません」

 言ってしまってから「やっぱり可愛げのない言い方しかできないな」と反省する。

「後日、また連絡するよ」

 靴を履いて部屋から出た香澄を、ベストのままの佑が追いかけて来る。

「ご連絡は結構です。サイズを測りたいと仰ったので、私はそれに応じただけ。それ以降の事はノータッチです」

 フロアを進んでエレベーターホールまで行くと、香澄は突き指しそうな勢いで下に向かうボタンを押した。

「君は俺のミューズだと言ったじゃないか」

 ――そう。

 初対面のこの男は、香澄に向かっていきなりそう言ってきたのだ。

 ミューズとはそのままの意味ではギリシャ神話の九人の女神を指すが、ことアパレル界においては、インスピレーションを与える存在としてよく言われる。

 有名なモデルや女優がミューズと呼ばれるのなら納得するが、自分に対して過分な言葉を使われても、からかわれているとしか思えない。

 フロアにエレベーターが着き、香澄はゴンドラに乗り込む。

 あろう事か、佑もゴンドラに乗り込んできた。

「なっ、つ、ついて来なくていいですから! っきゃっ!?」

 耳元でドン、と音がして肩をすくめ振り向くと、目の前に佑の顔がある。

 体には触れられていない。

 触れられていないが、身長の高い彼の腕の中に閉じ込められ、近い距離に美しい顔があり、非常に心臓に悪い。

 佑はしばらく、その綺麗な色の瞳でジッと香澄を見ていた。

 ゴンドラは階数ボタンを押していないからか、動いていない。

 また、このエレベーターはスイートルーム専用であるため、他のフロアで誰かが操作する事もなかった。

「な……、なん、…………ですか……」

 目をまん丸に見開いたまま、香澄は体を縮こまらせて問いかける。

 すると、それまで真顔だった佑がニッコリ笑った。

「赤松さん、俺は『欲しい』と思ったものは手に入れたい性分なんだ」

「……そ、そうですか……」

 ゾクリ、と変な寒気がする。

「君が側にいてくれると、デザインが浮かぶだけじゃなく、色んな事が上手くいきそうな気がする」

「そ、そんな大した存在ではありませんので、お構いなく!」

 顔を背けて腕の下から脱出しようとしたが、佑が伸ばしていた腕を曲げてさらに密着してきた。

「っ!」

 香澄は目玉が零れんばかりにさらに目を大きく見開き、彼の美しい顔を凝視する。

(あ……。薄茶色の目じゃない。オレンジとか黄色……黄緑色まである……)

 目の前に迫った綺麗な色の瞳を見て、香澄はつい色味を確認してしまった。

「俺はもちろん、運命論者じゃない」

「はっ、はいっ」

 見とれていたが、急に話し掛けられて香澄は我に返る。

「出張先で見かけた女性を、こんな風に口説く事もない」

「…………」

 それは信用できないので、返事をせず黙り込む。

「……信じられない、か」

 佑は苦笑し、体を離すと腕を伸ばして一階のボタンを押した。

 ゴンドラは下降し始め、香澄は慌てて佑から距離を取る。

「その気になれば、さっき君を無理矢理抱く事もできたし、ホテルから帰さないという選択もとれた。そこは信じてくれるか?」

「……はい」

 言われた通り、ここまで身長が高くガッシリした体つきの男性が本気になれば、香澄などひとたまりもないだろう。

「正直、君を見た時に『好きだな』って思ったよ」

 佑はゴンドラの壁に寄りかかり、前を向いたまま言う。

 香澄はその言葉が信じられず、黙ってまた目を剥いた。

「運命は信じないけど、自分の勘は信用してる。経営者をやっていたり、投資をしていたりすると、勿論データも必要だけどあとは自分の勘が必要という時もあるんだ」

 投資の事は知らないが、経営者に勘が必要というのは、ある意味分かる気がした。

 膨大な量のデータがある上で、そのカリスマで会社を引っ張っていったから、この御劔佑という男は、三十二歳にして世界的に知名度が上がるまでになった。

「……冗談も……ほどほどにしないと……」

 チラッと彼の方を向いた時、こちらを見ていた佑と目があって心臓が飛び出るかと思った。

 目が合ったのもそうだが、彼はいつもテレビなどで見せる表情とはまったく異なる、切なげで柔らかな微笑みを浮かべていたからだ。

 スイートルームは二十二階で、下降しているゴンドラはあと少しで一階に着こうとしていた。

「だから自分の勘を信じて、俺は君を好きになろうと思う」

「は……!?」

 またギョッとして香澄は佑を見て、口をあんぐり開く。

「ああ、もう着いちゃうな。赤松さん、俺は東京住まいだけど、今回の仕事が終わるまでに君の元に通って、それでも駄目なら東京から通って、君を口説き落とす」

「っっ…………」

 真っ赤になった香澄が何か言いかけた時、ポーンと電子音が鳴ってゴンドラが一階に着いた。

 ドアが左右に開き、佑は固まっている香澄に向けて、ドアの片方を手で押さえて「どうぞ?」と微笑んでくる。

(何! この人!)

 雲の上の人に好きだと言われたり、口説くと言われて照れるというより、ただただ怖い。

 何かのドッキリでもされているのでは、とホテルのロビーを見回したが、深夜近くになり人気が少なくなっているそこに、テレビクルーの姿は見当たらなかった。

 金色のシャンデリアを反射する黒い大理石の床を進み、香澄はマフラーに顎を埋めて外を目指す。

 コンシェルジュももう退勤している時間で、香澄は円形になっている自動ドアをくぐろうとした。

 ――が。

「待って」

 外に出ようとしている時にグイッと佑に腕を引かれ、思わずたたらを踏む。

「なっ、何ですか!」

「明日もまた、『Bow tie club』で。待ってるから」

 今日佑と出会った店の名前を出され、香澄は顔を引き攣らせる。

 自分が勤務している店の名前を出され、マネージャーとしての仕事を求められれば、断る訳にいかない。

「……卑怯ですよ」

 上目遣いに睨んでも、彼には通じない。

「卑怯? 君が勤めている店に金を落としに行こうと言っているんだ。歓迎してほしいな」

「そっ、そういう事を言うのが卑怯だって言ってるんです!」

 邪険にならない程度に佑の手を振り払ったあと、香澄はホテル前にタクシーが停まっているのに気付いた。

(御劔さんの手配だな……)

 そう言えば着替えている時に、佑が誰かに電話していたような気がしていた。
しおりを挟む
感想 575

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

処理中です...