591 / 1,589
第十部・ニセコ 編
佑、北海道の地を踏む
しおりを挟む
『自分の気持ちがどうこうより、側にいられないほうがつらいです。北海道に帰省して忙しくして、寂しさに気付かないふりをしていました。でもやっぱり、好きで堪らないです。声が聞きたいし、抱きつきたい。甘やかしてほしいし、愛し合いたい』
切なく微笑み、香澄は佑を想って目の奥を熱くする。
『事件があって彼と一緒に居づらいとか、優しくされるのがつらいとかより、側にいられないほうがつらいです。……知らない内に、彼はすっかり私の一部になっていました』
そういった彼女の肩を、ルカはポンポンと叩いてくる。
『カスミの恋人も、きっと同じ事を思っているよ。早く会いに行ってあげないと』
『そうですね。あと三、四日、心の準備ができたら、連絡をとってみます』
ゆっくりじんわりと、覚悟を決めていく。
窓の外を見ると、ライトアップされた庭にはすっかり紅葉した白樺の木がある。
十月の二十日頃はニセコの紅葉のピークとなり、ダケカンバも葉を黄色くしていた。
『どうして今すぐ連絡を取らないの?』
『ちょっと照れ臭いんです。毎日一緒だった人と私から距離を取りたいって言って、どういう切り口から仲直りっていうか……元に戻っていこうかな? って』
『〝愛してる!〟からでいいんじゃないかな?』
『んふふ、日本人はそうストレートにいかないんですよ』
『面倒だね? 日本人は』
ルカはヒョイと肩をすくめ、ケラケラと笑う。
『ルカさんはマリアさんに会いに行かないんですか?』
『会いたいんだけどね。マリアはいま大事な時期なんだ。独り立ちした職人として認められて、店のブランド力も少しずつ上がろうとしている。そこに僕が入り浸って、彼女の時間を奪うのは良くない。本当は四六時中一緒にいたいんだけど。……だからプロポーズしたんだ』
『なるほど……』
ルカにも色んな事情があるようだ。
『仲直りしたら、恋人と一緒にイタリアにおいでよ。連絡くれたら迎えに行くからさ』
『はい』
佑と一緒にイタリア旅行をする事を考えると、急にワクワクしてきた。
『ローマと言わずイタリア中ガイドするし、美味しい物も紹介するよ!』
『んふふ、楽しみにしています』
大自然に抱かれて気持ちが楽になったのもあるし、ペンションでの人間関係はともかく、ルカに出会えたのは財産だ。
こうなれたのも、佑が英語を仕込んでくれたからだ。
(佑さんに感謝しなきゃ。会えたらきちんとお礼を言おう。札幌まで迎えに来るって行ってたけど、ニセコのお土産、何を買おうかな。佑さんが喜んでくれそうな物を見つけておこう)
北海道独自のコンビニといえば、ユーメイマートがあり全国区のテレビでもたまに紹介されている。ちなみに、埼玉の一部にも店舗がある。
ニセコのユーメイマートには、どぶろくが置いてあった。
スルスル飲めるそれを香澄は気に入っていて、以前に麻衣と来た時はお土産に買った。
(意外と気に入ってくれるかもしれない)
香澄は一人ほくそ笑み、そんな彼女をルカも温かな眼差しで見ているのだった。
**
数日後にスペインへの出張を控えた佑は、その前の数日を仕事を前倒しにして、スケジュールを調整していた。
ずっと無気力だったのが嘘のようで、「あと少しで香澄に会える」という気持ちですっかり元気になっている。
いつもなら少しでも時間ができれば、松井が仕事を入れてくる。
だが今回ばかりは、北海道に滞在する時間を見逃してくれるようだった。
香澄と会える日の直後にスペイン行きがあるので、北海道に迎えに行った飛行機で、そのまま香澄をスペインに連れて行くつもりだ。
香澄から「この引き出しに貴重品を入れているから、万が一何かあった時は勝手に開けていいからね」と言われている引き出しがある。
許可があるとはいえ、少し申し訳なく思いながらパスポートを出して荷物に詰めた。
プライベートジェットで新千歳空港まで向かい、あとは札幌まで車で走るだけだ。
高速道路を走りながら、佑はスマホのマップで新千歳空港から札幌までの道のりを何となく眺めていた。
「北海道の十月下旬は、随分ひんやりしているな。というか寒い」
天気予報で大体の気温を見ているので、佑はチェスターコートを着ている。
「東京と同じようにはいかないでしょうね」
今回同行しているのは河野だ。
pixivに河野や護衛たちの顔をらくがきしたイラストを置きました。良ければ。
切なく微笑み、香澄は佑を想って目の奥を熱くする。
『事件があって彼と一緒に居づらいとか、優しくされるのがつらいとかより、側にいられないほうがつらいです。……知らない内に、彼はすっかり私の一部になっていました』
そういった彼女の肩を、ルカはポンポンと叩いてくる。
『カスミの恋人も、きっと同じ事を思っているよ。早く会いに行ってあげないと』
『そうですね。あと三、四日、心の準備ができたら、連絡をとってみます』
ゆっくりじんわりと、覚悟を決めていく。
窓の外を見ると、ライトアップされた庭にはすっかり紅葉した白樺の木がある。
十月の二十日頃はニセコの紅葉のピークとなり、ダケカンバも葉を黄色くしていた。
『どうして今すぐ連絡を取らないの?』
『ちょっと照れ臭いんです。毎日一緒だった人と私から距離を取りたいって言って、どういう切り口から仲直りっていうか……元に戻っていこうかな? って』
『〝愛してる!〟からでいいんじゃないかな?』
『んふふ、日本人はそうストレートにいかないんですよ』
『面倒だね? 日本人は』
ルカはヒョイと肩をすくめ、ケラケラと笑う。
『ルカさんはマリアさんに会いに行かないんですか?』
『会いたいんだけどね。マリアはいま大事な時期なんだ。独り立ちした職人として認められて、店のブランド力も少しずつ上がろうとしている。そこに僕が入り浸って、彼女の時間を奪うのは良くない。本当は四六時中一緒にいたいんだけど。……だからプロポーズしたんだ』
『なるほど……』
ルカにも色んな事情があるようだ。
『仲直りしたら、恋人と一緒にイタリアにおいでよ。連絡くれたら迎えに行くからさ』
『はい』
佑と一緒にイタリア旅行をする事を考えると、急にワクワクしてきた。
『ローマと言わずイタリア中ガイドするし、美味しい物も紹介するよ!』
『んふふ、楽しみにしています』
大自然に抱かれて気持ちが楽になったのもあるし、ペンションでの人間関係はともかく、ルカに出会えたのは財産だ。
こうなれたのも、佑が英語を仕込んでくれたからだ。
(佑さんに感謝しなきゃ。会えたらきちんとお礼を言おう。札幌まで迎えに来るって行ってたけど、ニセコのお土産、何を買おうかな。佑さんが喜んでくれそうな物を見つけておこう)
北海道独自のコンビニといえば、ユーメイマートがあり全国区のテレビでもたまに紹介されている。ちなみに、埼玉の一部にも店舗がある。
ニセコのユーメイマートには、どぶろくが置いてあった。
スルスル飲めるそれを香澄は気に入っていて、以前に麻衣と来た時はお土産に買った。
(意外と気に入ってくれるかもしれない)
香澄は一人ほくそ笑み、そんな彼女をルカも温かな眼差しで見ているのだった。
**
数日後にスペインへの出張を控えた佑は、その前の数日を仕事を前倒しにして、スケジュールを調整していた。
ずっと無気力だったのが嘘のようで、「あと少しで香澄に会える」という気持ちですっかり元気になっている。
いつもなら少しでも時間ができれば、松井が仕事を入れてくる。
だが今回ばかりは、北海道に滞在する時間を見逃してくれるようだった。
香澄と会える日の直後にスペイン行きがあるので、北海道に迎えに行った飛行機で、そのまま香澄をスペインに連れて行くつもりだ。
香澄から「この引き出しに貴重品を入れているから、万が一何かあった時は勝手に開けていいからね」と言われている引き出しがある。
許可があるとはいえ、少し申し訳なく思いながらパスポートを出して荷物に詰めた。
プライベートジェットで新千歳空港まで向かい、あとは札幌まで車で走るだけだ。
高速道路を走りながら、佑はスマホのマップで新千歳空港から札幌までの道のりを何となく眺めていた。
「北海道の十月下旬は、随分ひんやりしているな。というか寒い」
天気予報で大体の気温を見ているので、佑はチェスターコートを着ている。
「東京と同じようにはいかないでしょうね」
今回同行しているのは河野だ。
pixivに河野や護衛たちの顔をらくがきしたイラストを置きました。良ければ。
23
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
憧れのお姉さんは淫らな家庭教師
馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。
女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる