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第十四部・東京日常 編
デザートの高収入独身男
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「……あの……」
「ん?」
物言いたげに佑を見ても、彼は暗い車内の中、ネオンを背景に美しく微笑むだけだ。
「……なんでも……ない」
俯くと、フワ……と、ボディに香らせたジョン・アルクールの香水が香る。
アルコールで体温が高くなったため、膝に噴きかけていたネクタリンの香りが、強く香っている気がした。
ぼんやりしているうちに、車はザ・エリュシオン東京の前に着いて佑が先に車を降りた。
手を差し出され、香澄はエスコートされて車を降りる。
そのまま手を繋いでホテルのロビーに入ると、香澄を伴った〝御劔佑〟の存在に場が微かにざわめいた。
すぐコンシェルジュが近付いてきて、「お帰りなさいませ、御劔様」と折り目正しくお辞儀をする。
「部屋に行きます」
佑の一言で、コンシェルジュはもう一度うやうやしくお辞儀をし、二人を先導してラグジュアリーなロビーを歩き始めた。
**
スイートルームに着いたあと、コンシェルジュが尋ねてくる。
「何かお入り用のものはございますか?」
「いいえ。何かありましたら、連絡します」
佑はそう言って微笑んだ。
これから恋人たちの時間になると察したコンシェルジュは、折り目正しくお辞儀をして退室していった。
二人きりになったらどういう展開になるか、分からない香澄ではない。
佑がコンシェルジュと話している間、香澄はうろうろとリビングを歩き回ったあと、夜景を見ているふりをして窓辺に寄る。
(……改めてホテルでエッチってなると緊張するな)
今までは自宅にいて甘い雰囲気になったら……とか、ヨーロッパにいても同じホテルで同じ空間に過ごしていたので、何となく流れでセックスをしていた。
けれど帰国して落ち着いた今日は、香澄の誕生日というイベントデーだ。
そういう流れにならないはずはなく、どうやって佑と話をし、ベッドまでの流れを作っていったらいいのか悩んでしまう。
「香澄」
「へっ、ひゃいっ!」
いきなり声を掛けられ、香澄は肩を跳ねさせ声を裏返す。
振り向くと、佑は一瞬ぽかん……としたあと、破顔した。
「なんだ、緊張してるのか?」
佑はゆったりとした足取りで窓辺に来て、両手を窓枠について腕の中に香澄を閉じ込める。
彼を直視できない香澄は、また窓の外を見て――、焦点を変えて窓に映った佑を盗み見た。
その視線を感じたからか、そうでないのか、佑は香澄の首筋に顔を寄せてスン……と匂いを嗅いできた。
「……っ」
ピクッと身を震わせて少し顔を背けると、首筋に唇が押し当てられる。
髪はアップにしているので、うなじも首筋も剥きだしだ。
佑は軽く香澄の肌を吸ったあと、舌先でチロリと舐める。
「ん……」
香澄は口内に溜まった唾液をゴクッと嚥下し、彼の体温を背中に感じてその香りに酔いしれる。
ウードの香りに微かにバニラが混じり、香澄の頭をとろけさせる。
お食事デートは終わり、これからは大人のホテルデートだ。
「寿司、美味かったか?」
「うん。天国でした」
このまま黙ってキスをされていると、照れくささでどうにかなってしまいそうだったので、話しかけられてありがたかった。
素直な気持ちを言葉にすると、佑が耳元で小さく笑う。
彼は首筋から顔を離したあと、ポンポンと香澄の頭を撫でてきた。
「デザートに高収入独身男は要らないか? 食べ頃だと思うんだけど」
斜め上の誘い文句に、香澄は振り向いて笑った。
「ん……ふ、ふふ……っ。食べたい人が大勢いるんじゃないの?」
「シェフが、香澄にしか食べさせたくないって言ってるんだ。食べてくれなかったら、廃棄かな?」
「それは勿体ない」
クスクス笑う香澄のイヤリングを、佑が指でピンと弾く。
「付けてきてくれたんだな。プレゼントが多すぎるって、怒られるかと思った」
「……もー……。本当に多くてびっくりしたんだから」
クルリと体を反転させて軽く睨むと、彼が悪戯っぽく笑う。
「ん?」
物言いたげに佑を見ても、彼は暗い車内の中、ネオンを背景に美しく微笑むだけだ。
「……なんでも……ない」
俯くと、フワ……と、ボディに香らせたジョン・アルクールの香水が香る。
アルコールで体温が高くなったため、膝に噴きかけていたネクタリンの香りが、強く香っている気がした。
ぼんやりしているうちに、車はザ・エリュシオン東京の前に着いて佑が先に車を降りた。
手を差し出され、香澄はエスコートされて車を降りる。
そのまま手を繋いでホテルのロビーに入ると、香澄を伴った〝御劔佑〟の存在に場が微かにざわめいた。
すぐコンシェルジュが近付いてきて、「お帰りなさいませ、御劔様」と折り目正しくお辞儀をする。
「部屋に行きます」
佑の一言で、コンシェルジュはもう一度うやうやしくお辞儀をし、二人を先導してラグジュアリーなロビーを歩き始めた。
**
スイートルームに着いたあと、コンシェルジュが尋ねてくる。
「何かお入り用のものはございますか?」
「いいえ。何かありましたら、連絡します」
佑はそう言って微笑んだ。
これから恋人たちの時間になると察したコンシェルジュは、折り目正しくお辞儀をして退室していった。
二人きりになったらどういう展開になるか、分からない香澄ではない。
佑がコンシェルジュと話している間、香澄はうろうろとリビングを歩き回ったあと、夜景を見ているふりをして窓辺に寄る。
(……改めてホテルでエッチってなると緊張するな)
今までは自宅にいて甘い雰囲気になったら……とか、ヨーロッパにいても同じホテルで同じ空間に過ごしていたので、何となく流れでセックスをしていた。
けれど帰国して落ち着いた今日は、香澄の誕生日というイベントデーだ。
そういう流れにならないはずはなく、どうやって佑と話をし、ベッドまでの流れを作っていったらいいのか悩んでしまう。
「香澄」
「へっ、ひゃいっ!」
いきなり声を掛けられ、香澄は肩を跳ねさせ声を裏返す。
振り向くと、佑は一瞬ぽかん……としたあと、破顔した。
「なんだ、緊張してるのか?」
佑はゆったりとした足取りで窓辺に来て、両手を窓枠について腕の中に香澄を閉じ込める。
彼を直視できない香澄は、また窓の外を見て――、焦点を変えて窓に映った佑を盗み見た。
その視線を感じたからか、そうでないのか、佑は香澄の首筋に顔を寄せてスン……と匂いを嗅いできた。
「……っ」
ピクッと身を震わせて少し顔を背けると、首筋に唇が押し当てられる。
髪はアップにしているので、うなじも首筋も剥きだしだ。
佑は軽く香澄の肌を吸ったあと、舌先でチロリと舐める。
「ん……」
香澄は口内に溜まった唾液をゴクッと嚥下し、彼の体温を背中に感じてその香りに酔いしれる。
ウードの香りに微かにバニラが混じり、香澄の頭をとろけさせる。
お食事デートは終わり、これからは大人のホテルデートだ。
「寿司、美味かったか?」
「うん。天国でした」
このまま黙ってキスをされていると、照れくささでどうにかなってしまいそうだったので、話しかけられてありがたかった。
素直な気持ちを言葉にすると、佑が耳元で小さく笑う。
彼は首筋から顔を離したあと、ポンポンと香澄の頭を撫でてきた。
「デザートに高収入独身男は要らないか? 食べ頃だと思うんだけど」
斜め上の誘い文句に、香澄は振り向いて笑った。
「ん……ふ、ふふ……っ。食べたい人が大勢いるんじゃないの?」
「シェフが、香澄にしか食べさせたくないって言ってるんだ。食べてくれなかったら、廃棄かな?」
「それは勿体ない」
クスクス笑う香澄のイヤリングを、佑が指でピンと弾く。
「付けてきてくれたんだな。プレゼントが多すぎるって、怒られるかと思った」
「……もー……。本当に多くてびっくりしたんだから」
クルリと体を反転させて軽く睨むと、彼が悪戯っぽく笑う。
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