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第二十四部・最後の清算 編
二件の動画メモ
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「……戻ってきたんだ……」
この家を出る時は、『これでもう、本当に最後かもしれない』と覚悟していた。
佑に婚約破棄された訳ではないし、『思い出したら迎えに行く』とは言われていたけれど、自分がいると彼が苦しむ事や、よそよそしい目を向けられる事がとても悲しかった。
だからこの屋敷を去ろうと決意したけれど――。
「……動画、残ってるのかな」
立ちあがってフェリシアの液晶がある所まで向かうと、 香澄は「久しぶりだな」と感じながら命令する。
「フェリシア、動画メモはある?」
すると、香澄の声紋を感知したフェリシアが答えた。
《おかえりなさい、香澄さん。動画メモは二件あります。再生しますか?》
(二件……?)
部屋を去る間際、香澄は佑が気づいてくれたらと思って、フェリシアに動画を残した。
覚えている限り、他に動画メモはなかったはずだ。
これは香澄のA型らしい性分で、スマホもそうなのだが、何かチェックが終わったら不要なものはすぐ削除している。
だから動画メモが二件あるのを不思議に思った。
「一件目を再生して」
《分かりました》
命令するとフェリシアは答え、画面がパッと切り替わると、この部屋を背景にした自分が映った。
(これが私が残したものだ)
「二件目を再生して」
《はい》
フェリシアは返事をしたあと、次の動画を再生した。
「あ……っ」
画面に映ったのは佑で、それを見た瞬間、香澄は小さく声を上げる。
静けさのなか、彼はときおりズッと洟を啜っている。
そして涙ぐんだ目を画面を見つめ、メッセージを伝えてきた。
《香澄。君のお陰ですべて思い出した。……君の今までの献身を忘れ、身勝手な振る舞いをした俺を許してほしい。いや、許さなくていい。許さない代わりに、一生君の奴隷にしてくれ》
画面の中の佑はモニターに手を伸ばし、痛切に笑う。
「佑さん……」
香澄は思わず涙ぐみ、同じように液晶に触れる。
《これから君を迎えに行く。もう二度と離さないと約束する。……だから、もう一度俺の手をとってほしい。……愛してる》
そう言ったあと、佑はモニターに触れて録画を止めたようだった。
(……私の動画を見て、泣いてくれたんだ……)
今は安心できる環境にあるから、ボロボロになった彼の姿を見て「申し訳ない」と思うよりも、「心配してくれて嬉しい」という気持ちが上回ってしまった。
「……おや、見つかったか」
「えっ」
実際の佑の声がして部屋の出入り口を見ると、ラフな格好に着替えた佑が立っている。
「香澄のメッセージ、ちゃんと受け取ったよ。残していてくれてありがとう」
微笑んだ佑は、ゆっくり室内に入ってくる。
「……佑さんも、メッセージありがとう。……えへへ。隠されたお宝を探し当てた気持ち」
照れ笑いをすると、彼が優しく頭を撫でてきた。
「俺もまさか、香澄が動画を残してくれていたとは思わなかった。酷い事をした俺に、愛想を尽かしたと思っていたから」
「もぉ、それは言いっこなしって決めたでしょ」
「そうだな」
香澄は小さく笑った佑を見て、胸の奥をキューッとさせ、彼の手を引っ張ってベッドへ向かう。
「積極的だな」
「違うの、そうじゃないの」
〝お誘い〟をしていると勘違いされ、香澄は赤面して否定する。
「寝て」
ベッドカバーごと羽根布団を捲ると、佑は「お邪魔します」と言ってベッドに寝転ぶ。
「えへへ……」
香澄はそれに続き、彼の隣に寝転ぶと腕を組んだ。
静かに深呼吸すると、慣れ親しんだ自室のベッドにいる実感が湧いてくる。
それに、いつもの香りを纏う佑と白金台の屋敷にいると思うだけで、嬉しくて堪らない。
「夕ご飯まで、少し一緒にお昼寝しない?」
「いいよ。ゆっくりしよう」
二人が微笑み合ってキスをしようとした時、「社長」と階下から呉代が声を張り上げた。
この家を出る時は、『これでもう、本当に最後かもしれない』と覚悟していた。
佑に婚約破棄された訳ではないし、『思い出したら迎えに行く』とは言われていたけれど、自分がいると彼が苦しむ事や、よそよそしい目を向けられる事がとても悲しかった。
だからこの屋敷を去ろうと決意したけれど――。
「……動画、残ってるのかな」
立ちあがってフェリシアの液晶がある所まで向かうと、 香澄は「久しぶりだな」と感じながら命令する。
「フェリシア、動画メモはある?」
すると、香澄の声紋を感知したフェリシアが答えた。
《おかえりなさい、香澄さん。動画メモは二件あります。再生しますか?》
(二件……?)
部屋を去る間際、香澄は佑が気づいてくれたらと思って、フェリシアに動画を残した。
覚えている限り、他に動画メモはなかったはずだ。
これは香澄のA型らしい性分で、スマホもそうなのだが、何かチェックが終わったら不要なものはすぐ削除している。
だから動画メモが二件あるのを不思議に思った。
「一件目を再生して」
《分かりました》
命令するとフェリシアは答え、画面がパッと切り替わると、この部屋を背景にした自分が映った。
(これが私が残したものだ)
「二件目を再生して」
《はい》
フェリシアは返事をしたあと、次の動画を再生した。
「あ……っ」
画面に映ったのは佑で、それを見た瞬間、香澄は小さく声を上げる。
静けさのなか、彼はときおりズッと洟を啜っている。
そして涙ぐんだ目を画面を見つめ、メッセージを伝えてきた。
《香澄。君のお陰ですべて思い出した。……君の今までの献身を忘れ、身勝手な振る舞いをした俺を許してほしい。いや、許さなくていい。許さない代わりに、一生君の奴隷にしてくれ》
画面の中の佑はモニターに手を伸ばし、痛切に笑う。
「佑さん……」
香澄は思わず涙ぐみ、同じように液晶に触れる。
《これから君を迎えに行く。もう二度と離さないと約束する。……だから、もう一度俺の手をとってほしい。……愛してる》
そう言ったあと、佑はモニターに触れて録画を止めたようだった。
(……私の動画を見て、泣いてくれたんだ……)
今は安心できる環境にあるから、ボロボロになった彼の姿を見て「申し訳ない」と思うよりも、「心配してくれて嬉しい」という気持ちが上回ってしまった。
「……おや、見つかったか」
「えっ」
実際の佑の声がして部屋の出入り口を見ると、ラフな格好に着替えた佑が立っている。
「香澄のメッセージ、ちゃんと受け取ったよ。残していてくれてありがとう」
微笑んだ佑は、ゆっくり室内に入ってくる。
「……佑さんも、メッセージありがとう。……えへへ。隠されたお宝を探し当てた気持ち」
照れ笑いをすると、彼が優しく頭を撫でてきた。
「俺もまさか、香澄が動画を残してくれていたとは思わなかった。酷い事をした俺に、愛想を尽かしたと思っていたから」
「もぉ、それは言いっこなしって決めたでしょ」
「そうだな」
香澄は小さく笑った佑を見て、胸の奥をキューッとさせ、彼の手を引っ張ってベッドへ向かう。
「積極的だな」
「違うの、そうじゃないの」
〝お誘い〟をしていると勘違いされ、香澄は赤面して否定する。
「寝て」
ベッドカバーごと羽根布団を捲ると、佑は「お邪魔します」と言ってベッドに寝転ぶ。
「えへへ……」
香澄はそれに続き、彼の隣に寝転ぶと腕を組んだ。
静かに深呼吸すると、慣れ親しんだ自室のベッドにいる実感が湧いてくる。
それに、いつもの香りを纏う佑と白金台の屋敷にいると思うだけで、嬉しくて堪らない。
「夕ご飯まで、少し一緒にお昼寝しない?」
「いいよ。ゆっくりしよう」
二人が微笑み合ってキスをしようとした時、「社長」と階下から呉代が声を張り上げた。
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