【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第二十四部・最後の清算 編

修羅場

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 佑は香澄を見つめたあと、俯いて深い溜め息をつく。

「どうした?」

 彼が答えると、空気を読んで階段を上がってこない呉代は、下から「それが……」と言いよどむ。

 佑はすぐ、香澄に聞かせないほうがいい事だと察し、「ちょっと待ってて」とベッドから下りる。

 けれど香澄としても気になってしまう。

 それなりに長いアメリカ滞在からやっと帰国したのだから、普通なら休んでもらおうと思って声を掛けないものだろう。

 なのにあえて佑を呼んだという事は、相当な理由があると思っていい。

『待ってて』と言われたが、香澄もベッドを下りると、無意識に足音を忍ばせて佑のあとを追っていった。





「何があった?」

 階段を下りた佑は呉代に尋ねたが、荷物を運び込むために開けっぱなしになっていたドアの向こうから、女性の声が聞こえたのを耳にして眉間に皺を寄せる。

「離してよ! 佑が帰ってきたんでしょう!?」

(この声は……)

 みるみる表情を曇らせた佑は、サンダルをつっかけて外に出る。

 勝手口から少し中に入った所で護衛や警備員に囲まれているのは、美智瑠だ。

「佑! おかえり! この子と待ってたの!」

 目の下にクマを作り、やつれた様子の美智瑠は、バサバサに乱した髪を顔に掛け、取り押さえられようとするところ、必死に暴れて抵抗している。

 病的な雰囲気なのに、彼女は佑の姿を見た途端、異様なまでに明るい笑みを浮かべた。

 彼女の傍らには五歳ぐらいの女の子がいて、そんな母の様子を見ている。

「帰れ!」

 苛立ちを感じた佑は、美智瑠に向かって怒鳴る。

 記憶を失っていた時に押しかけ、好き勝手に言ってキレて出て行ったくせに、帰国するなり突撃され、ハッキリ言って怖い。

 おそらく、いつ自分が戻るかずっとこの家を見張っていたのだろう。

(子供を連れているくせに……!)

 母親なのにあまりに身勝手な行動を目にして、佑はまた大きな溜め息をついた。

 かつては付き合っていた女性で、元は社員で彼女に助けられた事もあったからこそ、今こんなに落ちぶれた姿を見るのがつらい。

 夫と不仲になり、昔付き合っていた相手が惜しくなる気持ちは分かるが、応じてくれると思い込んでいるところが図々しすぎる。

「何やってるんだよ。母親ならこんな所にまで子供を連れ回さないで、しっかりやれよ!」

 佑はアプローチを歩き、溜め息混じりに言う。

「だって会いたかったんだもん!」

 美智瑠は涙でグシャグシャになった顔で言い、自分を押さえる男たちの間から両手を伸ばす。

(困ったな……)

 そう思った時、美智瑠が鬼の形相になり、金切り声を上げた。

「なんであんたが佑の家から出てくるのよ! 追い出されたくせに! しつこいのよクソアマ!」

 ハッとして振り向くと、気になって追いかけて来た香澄が困惑した顔をしている。

(これ以上醜態を見せられない)

 そう思った時、美智瑠が叫んだ。

「離婚したのよ! 私にはもう佑しかいない!」

 彼女の言葉を聞き、佑は深い溜め息をついてから秘書を呼んだ。

「河野」

 声を掛けると、クールで有能な第三秘書が「はい」と歩み寄ってくる。

「彼女を自宅まで送り、精神科、ないし心療内科に通っているか確認をしてくれ。通院していなかったら手続きをして適切な治療が受けられるようにしてほしい。家の状態を見て、家事を放棄しているようなら、家事代行に連絡して片づけてもらい、子供がちゃんと食事できる環境を整えてくれ」

 本来ならここまで美智瑠の面倒をみる義理はないが、何日も風呂に入ってなさそうな子供を見過ごす事はできなかった。

 同時に、自分がここまで美智瑠を狂わせたのかと思うと、罪悪感に似た感情を抱く。

「彼女がちゃんと生活できるようになるまで、家事代行や子守を請け負ってくれる人をこちらで雇う。入院が必要になるなら、二階堂氏に娘さんを預かってもらえないか掛け合ってくれ。離婚して親権が彼女にあるとしても、彼は父親だ。保護者がいない状態で娘を一人にする事はないだろう」

「……本当にお人好しですね。……かしこまりました」

 河野は溜め息混じりに言ったあと、美智瑠に声を掛けた。

「朝丘様のご自宅までお送りします」

「いやっ! 私は佑と一緒にここに住むの!」

 護衛たちは彼女の娘と抵抗する美智瑠を、敷地内に停まったままの車に乗せる。

 ドアが閉まる音がして車が動き始めると、佑は何度目になるか分からない溜め息をつき、立ち尽くしている香澄のほうへ歩いて行く。
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