【R-18】不幸体質の令嬢は、地獄の番犬に買われました

臣桜

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ペンダント2

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「それはどういう男から受け取った?」
「え? ですから特にその方が好きとかではなく……」
「そうじゃない。どういう男だった?」

 ヴォルフはもう、甘い雰囲気を発していなかった。酷く真剣な顔をし、少し怖いとすら思う。
 きっと彼が追いかけている〝何か〟に繋がるのかと察したアンバーは、ペンダントをくれた男性を思い出す。

「三十代ほどの男性でした。濃い色の髪に口ひげ。目は青かったです。舞踏会で大勢の方とご挨拶をしたので、正直お名前をフルネームで思い出すのは難しいです。ですがお名前を窺った時、アルフォードではなくクラルヴィンのお名前だったのは覚えています」
「…………」

 ヴォルフは寝ていた姿勢から起き上がり、寝台の上に胡座を掻いて何か考え始める。
 見事な裸体に思わず見とれかけるが、彼はとても真剣な表情だ。いまアンバーが口にした情報が、もしかしたら彼の〝何か〟に役立っているのかもしれない。

 彼の役に立ちたい。

 そう思ったアンバーは、起き上がり咄嗟に口を開いていた。

「あの、もしその男性をお捜しなら私、協力します。もしこのお城から外に出ていいのなら、一緒に舞踏会かどこかへ赴き、その方を探すための囮になります」

 胸元を晒したままだったが、アンバーは鎖骨の下に手を当て真剣にヴォルフを覗き込む。

「しかし君は……」
「分かっています。命を狙われているのでしょう? ですがあなたは元帥閣下で軍部を束ねる偉い方。私に目立たない護衛をつける事も可能だと思います。それに夫婦や恋人、愛人という体で出席すれば、周囲も怪しまないのでは?」

 自分でも、どうしてここまで大胆になれるのか分からなかった。
 だがこの城で毎日過ごす間、彼が疲弊した顔をしているのを何度も見た。執務室にいる時も眉間に皺を寄せ、何か重要な書類と睨めっこをしている。

 少しでも彼の役に立ち、ヴォルフの負担を軽減させたい。
 いつの間に彼を愛した気持ちからの、献身かもしれなかった。

 ヴォルフはしばらく黙って考え込んでいたが、意を決し「よし」と頷いた。

「『地獄の猟犬』の妻となる女性も、強くなる運命にあるかもしれないな。君の勇気を評価しよう」
「ヴォルフ様」

 提案が聞き入れられ、アンバーは声を弾ませた。

「近く、花が咲き始めた頃になって春の大舞踏会が行われる。その時に新妻のお披露目として君を連れて行こう。この国の実力者である俺に、様々な貴族が挨拶をし君の顔を見に来ると思う。その時に見定めてくれ」
「分かりました」

 今まで囚われの身だと思っていた自分が、外に出てヴォルフの役に立てる。それだけで胸が躍った。
 アンバーの嬉しそうな様子に、ヴォルフが苦く笑う。

「……外に出してやれなくて済まなかった。俺も本当は、君を閉じ込めるような事はしたくなかったんだが……」
「いえ、そのような事を責めているのではありません。あなたの役に立てるのが嬉しいのです」

 素直な言葉を口にすれば、ヴォルフは意外そうに目を瞬かせた。

「君は……、優しげな印象の割に勇気があるな」
「ふふ。私こう見えて、少女時代はとてもお転婆だったのですよ? 生傷の絶えない事をしていて、いつもばあやに怒られていたのです」

「……そうか。不思議だな。俺の前には淑やかなレディがいるというのに、なぜだか君の少女時代を容易く思い浮かべられる気がする」

 再びアンバーと共にクッションの上に背中を預け、ヴォルフはポツリと呟く。

「俺が調査している行方不明事件の捜査線に、君が言っていたのと同じペンダントが発見された事がある」
「え……?」

 まさか自分が身につけていた物を、被害者の令嬢も首から提げていたとは思わなかった。

「発見された物は令嬢がいなくなった現場に落ちていて、君が言っていた中の溶液が漏れ出た後だった。すっかり乾いていたので溶液の正体は分からなかったが、恐らく溶液――薬を嗅いだら気絶をしてしまう仕掛けだろう。もしかしたら、強い酸かもしれない。令嬢の首に掛け、酸を胸に掛けられたくなかったら言う事を聞けと脅したのか……。そこにあらかじめ待機していた誘拐団が襲いかかり……、というのが俺の見解だ」

 温かな寝床にいるというのに、背筋がゾッと冷たくなった。
 ふと、アンバーはペンダントをくれた男の言葉を思い出した。

『もし私の気持ちに応えてくださる気になった時は、教えてください。揃いのイヤリングも差し上げます。加えて素敵な秘密を教えて差し上げますよ』

 彼が浮かべていた笑みがどこか心に引っ掛かり、アンバーは次の舞踏会で同じ人を見かけても、顔を合わさないようにしていた。
 男性から物をもらって、気持ちに応えられないというのは実に狡い話だと思う。けれど物をもらったというのは、借りを作り弱みを握られたと同義とも言える。
 半ば押しつけられるように渡されたのだが、『プレゼントをしたから、言う事をきいて当然』という顔をされるのがどうしても嫌だった。

 返そうにもあの男性を前にすれば、口八丁で言いくるめられ相手の思うつぼになりそうだ。
 その癖ペンダントはやけに綺麗で気に入ってしまったので、自分としても情けない。

「ヴォルフ様、あの……」

 当時の事を思い出し男性の台詞を口にすると、ヴォルフはもっと難しい顔になった。

「『素敵な秘密』……か。恐らくその時にペンダントの細工を教えたのか、あるいは別の何かか……」

 腕を組み前方の空間を睨んでいたが、ふと息をついたヴォルフはアンバーを抱き締めた。

「……ありがとう、アンバー。君のお陰で頓挫していた捜査も前進できそうだ」
「いいえ、お役に立てて何よりです。もしかしたら……私の乗っていた馬車が襲われた付近に、ペンダントが落ちているかもしれません。確認します……か?」

 差し出がましい事だろうか? と思いつつも、必要な事であれば訊いておきたい。

「そうだな……。俺も君を表に出す覚悟ができたし、護衛付きでなら外出をしてもいい。そのついでに、君の故郷まで赴いて挨拶をするか?」
「えぇっ!?」

 まさかそんな提案が来るとは思わず、アンバーは大きな声を出した。

「だって……そんな事をしたら、ヴォルフ様が私を買ったと知られてしまいますよ? 私はアルトマン公爵という方に嫁ぎに行く途中だったのですから、そうでない方と一緒に顔を出せば怪しまれます」
「まぁ……、きっと何とかなるだろう。それよりも君だって家族と顔を合わせ、無事を伝えたいのではないか?」

「それは……そうですけれど……」
「じゃあ決まりだ。支度が調い次第、向かおう」

 ちゅ、とアンバーの額にキスをし微笑むヴォルフは、もう既に夫のような顔をしていた。
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