【R-18】不幸体質の令嬢は、地獄の番犬に買われました

臣桜

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ペンダント1

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 心地いい感触に、意識が浮上した。

 まだ周りは薄暗かったけれど、温もりからヴォルフが側にいてくれるのが分かる。

「……今日はお出かけしないのですか?」

 掠れた声で問いかけると、頭を撫でていた手がふと止まった。

「君が心配だから、今日は屋敷にいる」

 目の前で微笑んだヴォルフは、情欲の名残を感じさせない、ただ穏やかな顔をしている。

「一日、ここでこうしていようか。食事もここでとればいい」
「まぁ、それは……自堕落ですね?」

 モーニングティーや朝食をベッドでとるのは、休日の最高の過ごし方とされている。
 けれど確か今日は金曜日のはずだが、いいのだろうか?

「最近定時に帰り続けているし、たまに顔を見せないぐらいが丁度いいんだろう」

 ヴォルフの言葉が少し理解できず、「どういう意味です?」とアンバーは首を傾げた。

「……いや、『うちの娘と結婚しては』としつこい貴族たちがいるからな。俺はずっと君を娶ると決めていた訳だし」

 一瞬ヴォルフの目が、無用なものに向けられる温度のない視線に変わった。

「そういうお相手が……いるのですか?」

 モヤッと心の中が不安に支配され、昨晩あれほど彼を信じようと思ったのに早くも心がくじけそうだ。

「そういうご令嬢は必要ないと、断り続けてきた。俺は結婚する相手を誰かに決められるなどごめんだ。好きな女性は自分で見つけて、ちゃんと妻にする」

 堂々と言い切った言葉は、権力のある男性にのみ許されたものに聞こえた。それに比べ、嫌々嫁ごうとしていた自分はなんと矮小な存在なのだろう。

「ヴォルフ様。仮に私がいないとして、あなたの元に家同士の結びつきで嫁いできた女性がいるとします。あなたはその女性を愛して幸せにできますか?」

 気がつけば、アンバーはそんな問いかけをしていた。

「もし……だな? 仮定の話として。……そうだな、その女性が意地を張らず色々譲歩してくれるなら、俺も相応に敬って愛する準備はあるはずだ。恋愛も結婚も、一人ではできないものだからな。互いの想い合う気持ちが大切になる」

「そうですよね……。ふと、嫁ぐ予定だった男性を思い出したのです。お顔も知らない、あまりいい印象のない方でした。でも、もしもあのとき馬車が襲われていなかったら、私はそういう風に結婚生活を始めていたのかもしれませんね」

 穏やかに笑うが、もうその表情は諦めの交じったものだ。
 ヴォルフはもしもの話でも嫉妬するかと思ったが、意外に優しい事を言ってくれる。

「君は意外に順応能力が高いように思える。仮にその男に嫁いだとしても、上手くやれていたんじゃないか?」

 言いつつも、ヴォルフは両腕でアンバーを抱き締めて「自分のものだ」と体で示している。

「そうですね。順応能力が高いはずなので、裏オークションで買われた男性とも上手にやっていくつもりです」

 分かっていると言わんばかりに微笑めば、ヴォルフが幸せそうに笑ってキスをしてきた。

「俺も、今まで秘密にしていた婚約者が嫁いできた事になっているから、周囲も諦めるだろう」

 悪びれず笑うヴォルフだが、その影で泣いているかもしれない女性を思うと些かアンバーは申し訳なくなった。

「舞踏会などはないのですか? 元帥閣下なのですし、出席しない訳にもいかないでしょう。そういう場でヴォルフ様を慕っている女性もいるのでは?」
「同じ問いを君にもしたいな? 君だって故郷で色んな男に言い寄られていたんじゃないのか? 俺の知らない男に話しかけられ、意味ありげに微笑んでいたかもしれない」

 拗ねた声に思わず笑い、アンバーは大変だった三年間を思い出す。

「社交界デビューをして三年は優雅に舞踏会に出ていましたが、その後は領地が大変な事になって舞踏会どころではなかったのです」
「というと?」

 説明を求められ、アンバーは領地の場所的に父が忙しかった事、街が雑多としていたため、その治安維持も大変だった事を説明した。おまけに父が心労で倒れてしまった事や、舞踏会に出ても左頬のほくろのせいで男性と気安く話せなかった事なども話した。

「それは大変だったな。それにしてもほくろ……か」

 ヴォルフと出会ってから日々が忙しく、自分のほくろの存在もほぼ忘れていた。
 この城の使用人は誰もアンバーの外見について触れないし、話題にするとしても賛辞ばかりだ。主であるヴォルフは彼女にべた惚れで、ほくろがどうこう言われたためしなどない。思い出すのは鏡を見た時ぐらいなのだが、そういう時はシシィが側にいてくれて、お喋りが楽しいのですぐ気にならなくなる。
 ヴォルフは薄い色の瞳でじっとアンバーの顔を見つめていたが、チュッと左頬にキスをした。

「俺には全部君を形どる『可愛い』以外の何ものでもない。むしろこのほくろが男よけになっていたのだと思うと、感謝したいぐらいだ」
「そ……そうなるのですね」

 もしかしたら……と思っていたが、ヴォルフはやはり軸がブレない。

「誰か男から贈り物をもらったりしたか? もしあるのなら、俺がそれよりもずっといい物を贈りたい」

 競争心まで見せ始めるヴォルフに、アンバーは苦笑する。

「そんな物ありませ……」

 ふと、クラルヴィン王国に向かう道中、馬車を襲われた騒動のさなか無くしてしまったペンダントを思い出した。

「何かあるのか? 指輪か? ネックレスか?」

 必死に張り合おうとするヴォルフの胸板を、アンバーは必死に押さえ宥める。

「ペンダントです。特に頂いた方の事を気にしていた訳ではないのですが、とても綺麗だったので気に入っていただけです」
「どういうペンダントだ?」

 不満げに眉を寄せるヴォルフは、大型犬のようにアンバーにのし掛かり威圧してくる。
 頬にキスをし、はだけた胸をやわやわと揉み、だというのに目は不機嫌なのを隠していない。

「ふふ、もう。……うーん、クリスタルの結晶のような形で、日差しを浴びると影の中に七色の光が落ちるのです。中に何か特別な溶液でも入っているのか、影が揺らめいていて綺麗でした」

 けれどペンダントの特徴を説明すると、スッとヴォルフの顔色が変わった。
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