43 / 45
彼の初恋2
しおりを挟む
アルトマン公爵の嫡男である事を話し、迎えの者が来るまでレオはドランスフィールド伯爵家で過ごした。アンバーは優しいお兄ちゃんに懐き、別れの時は大声で泣いた。
「また絶対に会えるよ」と微笑むレオに、アンバーは「約束よ」と小指を差し出す。そうして二人は、ピンキースウェアの歌を歌ったのだった。
泣き疲れて眠ってしまったアンバーに優しい微笑みを向け、先代のアルトマン公爵はダリルに告げる。
「我がアルトマン公爵家は、今後ドランスフィールド伯爵家が必要とした時、欲しいだけの援助を致しましょう。我が家はやや込み入ったお役目を持つ家で、そちらにも秘密を守ってもらう事があるかと思います。秘密さえ守ってくだされば、我が家は全力であなたたちを助けましょう」
「お気持ち、嬉しく思います。私とて伯爵家を背負っていますから、そう安易に好意に縋る事はないかと思います。ですが本当の危機に陥った時は、どうぞお助け頂ければと思います」
レオの父とダリルはがっちりと握手をし、その横でレオの母が困ったように笑う。
「この子ったら、アンバーさんをお嫁さんに欲しいと言っているのですよ」
「まぁ……」
アンバーを抱っこしたまま驚いてみせるケイシーは、照れてそっぽを向いているレオを見やる。
「だってお母様。アンバーはとても可愛い。それに勇気があるから、アルトマン公爵の花嫁にぴったりだと思うのです」
「ですって」
母親同士は可愛い恋にクスクスと笑う。
その後、両家の親同士はレオとアンバーの婚約を決めた。だが強引に婚姻を進める類いのものではなく、適齢期になって顔合わせをし、惹かれ合ったら結婚をさせようという主旨の約束だった。
レオは変わらず想いを貫いた。
だが当時の約束など知らないアンバーは、まず自由な恋愛を知るため婚約を伝えられなかった。そして舞踏会で辛酸を嘗めた後、領地が財政危機に陥る。
そこにアルトマン公爵という知らない人物との縁談が、寝耳に水というように降って湧いたのだ。
馬車が襲われ裏オークションで売られても、左頬のほくろがあったからこそアンバーはレオに見つけられた。
アンバーのコンプレックスが、彼女自身を救ったのだ。
**
「まぁ、俺から見れば雨降って地固まるという感じだけどね」
朝食を終えたヴォルフは、優雅に紅茶を飲む。
「君はどう思う? 俺に嫁ぐとして……何か不安はあるか?」
レオに優しく問われ、アンバーはゆるりと首を振ったあと、満面の笑みを浮かべる。
「いいえ。どうぞ私をお嫁さんにしてください。私が『厄拾いのアンバー』だとしても、レオ様と一緒にいると強運になれる気がするのです」
ずっとつきまとっていた忌み名を口にすると、ヴォルフがふふっと笑う。
「あぁ、それね。アンバーさん、その変な二つ名についてあまり気にしない方がいい」
「どうしてです? 占い師のお墨付きの不幸持ちですし、現に悪い事ばかり……」
困り顔のアンバーに、ヴォルフはニカッと白い歯を見せた。
「クエーレとしてアンバーさんの事を調べている内に知った事だけど。アンバーさんが会った占い師というのは、友人だと思っていたご令嬢の回し者だよ。その令嬢は好きな人をアンバーさんに取られそうだと思ったから、アンバーさんの思い込みを逆手にとって意地悪をしたんだ」
「……まさか……」
あの時一緒に占い師の所へ行った友人を思い出し、アンバーは顔を引き攣らせる。そう言えばあの頃、珍しく一人の男性に声を掛けられていた。「まさか、あり得ない」と思って避けていたが、それが友人の好きな人だったとは……。
「だからあなたは魅力がない訳じゃないし、特に不幸を背負っている訳でもない。むしろ俺の知っている占い師の話だと、左頬にあるほくろというのは、『愛され上手』という意味だと聞いたけどね? それに人の運気なんて人生を終える時にトータルで見るものだ。たかだか二十一年生きて『自分は不幸を拾う女』と思うのもどうかと思うよ?」
「愛され……」
思わず左頬に手を当て、アンバーはレオを見る。彼は「その通りだ」と言わんばかりに微笑んでいた。
嫌なほくろだと思い込んでいたのも、自分が不運に好かれると思っていたのも、まやかしだった。
ふと目の前が明るくなり、気持ちがスッと軽くなった気がした。
「これで心置きなく俺の妻になれるな?」
アンバーの憂いがなくなってレオは嬉しそうに微笑む。そこにヴォルフが明るい声を出した。
「周囲から結婚をつつかれていた兄さんが、やっと結婚をすると言えば、陛下も猊下も安心されるだろうな」
「確かに。……王家の守り手だけでなく、教会の聖騎士団にも影響力のあるアルトマン家だからな。連綿と血が続いてくれなければ、先方も困るだろうし」
「ツェーザルの奴、兄さんは自分と同じ匂いがするって言ってたんだ。仕事や金が一番で、女を愛するなど意味がない……ってね。俺は『はいはい』って聞いていたが、内心『こいつは何も分かってないな』と思っていたよ」
「俺が愛を知らないだって?」
レオは弟の声を聞き、一瞬ポカンとした顔をする。
やがて長く息を吐きながら首を左右に振り、アンバーに笑いかけた。
「公爵だからどうこうとか、一人者だから女に興味がないとか……。噂や人々が勝手に作った印象というものは、厄介だな。俺はずっと初恋を大事にしていただけで、愛情も性欲も人並みにあるというのに」
含みのある目線を向けられ、アンバーはそっと顔を赤らめ俯いた。
そんな彼女を見てレオは穏やかに笑い、アンバーに問いかける。
「アンバー、食事が終わったら三人で両親の墓に向かわないか? 花を供え、良い報告をしたい」
「はい、レオ様」
アルトマン公爵家の墓地は、領地内の小高い丘にあるらしい。
墓守が住み、心地いい風が吹き抜ける美しい場所なのだとか。
「私も、すべてが落ち着いたと両親に手紙を書こうと思います」
アンバーの微笑みに、兄弟も頷いた。
「また絶対に会えるよ」と微笑むレオに、アンバーは「約束よ」と小指を差し出す。そうして二人は、ピンキースウェアの歌を歌ったのだった。
泣き疲れて眠ってしまったアンバーに優しい微笑みを向け、先代のアルトマン公爵はダリルに告げる。
「我がアルトマン公爵家は、今後ドランスフィールド伯爵家が必要とした時、欲しいだけの援助を致しましょう。我が家はやや込み入ったお役目を持つ家で、そちらにも秘密を守ってもらう事があるかと思います。秘密さえ守ってくだされば、我が家は全力であなたたちを助けましょう」
「お気持ち、嬉しく思います。私とて伯爵家を背負っていますから、そう安易に好意に縋る事はないかと思います。ですが本当の危機に陥った時は、どうぞお助け頂ければと思います」
レオの父とダリルはがっちりと握手をし、その横でレオの母が困ったように笑う。
「この子ったら、アンバーさんをお嫁さんに欲しいと言っているのですよ」
「まぁ……」
アンバーを抱っこしたまま驚いてみせるケイシーは、照れてそっぽを向いているレオを見やる。
「だってお母様。アンバーはとても可愛い。それに勇気があるから、アルトマン公爵の花嫁にぴったりだと思うのです」
「ですって」
母親同士は可愛い恋にクスクスと笑う。
その後、両家の親同士はレオとアンバーの婚約を決めた。だが強引に婚姻を進める類いのものではなく、適齢期になって顔合わせをし、惹かれ合ったら結婚をさせようという主旨の約束だった。
レオは変わらず想いを貫いた。
だが当時の約束など知らないアンバーは、まず自由な恋愛を知るため婚約を伝えられなかった。そして舞踏会で辛酸を嘗めた後、領地が財政危機に陥る。
そこにアルトマン公爵という知らない人物との縁談が、寝耳に水というように降って湧いたのだ。
馬車が襲われ裏オークションで売られても、左頬のほくろがあったからこそアンバーはレオに見つけられた。
アンバーのコンプレックスが、彼女自身を救ったのだ。
**
「まぁ、俺から見れば雨降って地固まるという感じだけどね」
朝食を終えたヴォルフは、優雅に紅茶を飲む。
「君はどう思う? 俺に嫁ぐとして……何か不安はあるか?」
レオに優しく問われ、アンバーはゆるりと首を振ったあと、満面の笑みを浮かべる。
「いいえ。どうぞ私をお嫁さんにしてください。私が『厄拾いのアンバー』だとしても、レオ様と一緒にいると強運になれる気がするのです」
ずっとつきまとっていた忌み名を口にすると、ヴォルフがふふっと笑う。
「あぁ、それね。アンバーさん、その変な二つ名についてあまり気にしない方がいい」
「どうしてです? 占い師のお墨付きの不幸持ちですし、現に悪い事ばかり……」
困り顔のアンバーに、ヴォルフはニカッと白い歯を見せた。
「クエーレとしてアンバーさんの事を調べている内に知った事だけど。アンバーさんが会った占い師というのは、友人だと思っていたご令嬢の回し者だよ。その令嬢は好きな人をアンバーさんに取られそうだと思ったから、アンバーさんの思い込みを逆手にとって意地悪をしたんだ」
「……まさか……」
あの時一緒に占い師の所へ行った友人を思い出し、アンバーは顔を引き攣らせる。そう言えばあの頃、珍しく一人の男性に声を掛けられていた。「まさか、あり得ない」と思って避けていたが、それが友人の好きな人だったとは……。
「だからあなたは魅力がない訳じゃないし、特に不幸を背負っている訳でもない。むしろ俺の知っている占い師の話だと、左頬にあるほくろというのは、『愛され上手』という意味だと聞いたけどね? それに人の運気なんて人生を終える時にトータルで見るものだ。たかだか二十一年生きて『自分は不幸を拾う女』と思うのもどうかと思うよ?」
「愛され……」
思わず左頬に手を当て、アンバーはレオを見る。彼は「その通りだ」と言わんばかりに微笑んでいた。
嫌なほくろだと思い込んでいたのも、自分が不運に好かれると思っていたのも、まやかしだった。
ふと目の前が明るくなり、気持ちがスッと軽くなった気がした。
「これで心置きなく俺の妻になれるな?」
アンバーの憂いがなくなってレオは嬉しそうに微笑む。そこにヴォルフが明るい声を出した。
「周囲から結婚をつつかれていた兄さんが、やっと結婚をすると言えば、陛下も猊下も安心されるだろうな」
「確かに。……王家の守り手だけでなく、教会の聖騎士団にも影響力のあるアルトマン家だからな。連綿と血が続いてくれなければ、先方も困るだろうし」
「ツェーザルの奴、兄さんは自分と同じ匂いがするって言ってたんだ。仕事や金が一番で、女を愛するなど意味がない……ってね。俺は『はいはい』って聞いていたが、内心『こいつは何も分かってないな』と思っていたよ」
「俺が愛を知らないだって?」
レオは弟の声を聞き、一瞬ポカンとした顔をする。
やがて長く息を吐きながら首を左右に振り、アンバーに笑いかけた。
「公爵だからどうこうとか、一人者だから女に興味がないとか……。噂や人々が勝手に作った印象というものは、厄介だな。俺はずっと初恋を大事にしていただけで、愛情も性欲も人並みにあるというのに」
含みのある目線を向けられ、アンバーはそっと顔を赤らめ俯いた。
そんな彼女を見てレオは穏やかに笑い、アンバーに問いかける。
「アンバー、食事が終わったら三人で両親の墓に向かわないか? 花を供え、良い報告をしたい」
「はい、レオ様」
アルトマン公爵家の墓地は、領地内の小高い丘にあるらしい。
墓守が住み、心地いい風が吹き抜ける美しい場所なのだとか。
「私も、すべてが落ち着いたと両親に手紙を書こうと思います」
アンバーの微笑みに、兄弟も頷いた。
10
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる