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結婚できる?
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「第一印象が大事っていうのはビジネスシーンでも同じだから、全部悪いとは思わないよ」
ポンポンと頭を撫でられ、花音は安堵して息をつく。
「……私、でいいんですか?」
話を聞くからに、想像以上に秀真がモテるという事は分かった。
その相手が札幌でのほほんと過ごしていた自分でいいのか、という負い目がある。
「花音がいいんだよ」
「……はい」
しばらく二人は抱き合っていたが、秀真が溜め息交じりに口を開く。
「包み隠さず話すと、花音と会う前に、正式な場ではなかったけど女性と会った。その人にやけに気に入られていたから、万が一はないと思うけれど、いずれきちんと話をつけないと、とは思っている」
「はい」
その話を聞いても、「不可抗力だ」としか思えなかった。
彼のような男性が、まったく手つかずのはずがない。
自分と会う前に素敵な女性との縁があってもおかしくないと思っていたし、お見合いでなくても会社の重役ならパーティーなどで人と会う機会があったかもしれない。
それは花音が口出しできない領域だ。
「俺は花音と結婚したいと思っている」
「えっ……」
付き合ってほしいと言われて承諾したばかりなので驚いてしまい、彼女は顔を上げてまじまじと秀真を見つめた。
「ほ、本気ですか? まだ一か月も付き合っていませんよ?」
「本気だよ? 花音には他の人に感じなかった感覚を得ている」
「……というと……」
「……とても直感的で、……よく、『ビビッときた』っていうのがあるだろ。アレだから、花音を納得させるには足りないかもだけど」
「ふふ……っ、確かに感覚的ですね」
それでも自分などに、運命的なものを感じたと言ってもらえるのはありがたい。
「梨理さんのピアノを弾いたお陰でこうしていられるのなら、きっと出会うべき運命だったと思うんだ」
秀真は花音の髪を撫で、顔に掛かった黒髪をサラリと耳にかける。
「花音は、俺の事をどう思う?」
甘い声で囁かれ、花音の腰の辺りがゾクッと震えた。
「……秀真さんの事は好き……」
「結婚できる?」
その問いに、花音は小さく頷いた。
「まだ、出会ったばかりで分からない事が多いけれど、きっと。……でも、その前に一緒に時間を過ごして、もっと仲を深めたいです」
「……ん、そうだな」
秀真は花音を抱き締め、しばらくしてからさらに尋ねる。
「結婚したとして、札幌を出て東京に来られる?」
「…………」
秀真が結婚と言い出す前から、二人の未来を想像した時には、いずれそうしなければいけないとは感じていた。
「会社の重役をしている秀真さんに、仕事を捨てろなんて言えません。音大に通っていた時は東京で一人暮らししてしましたし、大丈夫です」
「分かった、ありがとう。今住んでいる街から引っ越しても、俺が絶対に守るから」
背中をさすられ、トントンと軽く叩かれると気持ちが落ち着いてゆく。
「……はい」
その日、秀真はホテルに宿を取っているというのに、結局そのまま宮の森の家に二人で泊まってしまった。
夜は近くにあるフレンチレストランまで行き、極上のコース料理をご馳走してもらった。
帰りに円山にある商業施設に寄り、秀真が花音の着替えや寝間着を買ってくれた。
コンビニで一泊分のスキンケア用品なども買って万全の準備をしたあと、花音は初めて秀真と一夜を共にした。
その後、秀真はまた東京に戻り、また遠距離恋愛が始まる。
毎日何気ない事でもメッセージをくれるので、秀真が今日はこんな事をして、何を食べたと知れて安心できた。
あまり連絡が多いと煩わしくないかと最初は心配していた。
だが秀真も同じ心配をしてくれていたようで、話し合いの結果「遠距離で会えない分心配になるのは当たり前。連絡がもらえるのは嬉しいから、何かあったら些細な事でも報告していこう」という流れになった。
勿論お互い仕事があるし、花音は秀真が多忙な人だと分かっている。
だから連絡をしても即の返事は期待せず、タイミングのいい時と割り切っていれば、気持ちが急いて疲れる事もなかった。
毎週彼が札幌に来てくれる訳ではないが、飛行機代が掛かるし当然だ。
七月、八月は何事もなく平穏に過ぎ、九月のシルバーウィークの時、花音は自分が東京に向かう計画を立てていた。
ポンポンと頭を撫でられ、花音は安堵して息をつく。
「……私、でいいんですか?」
話を聞くからに、想像以上に秀真がモテるという事は分かった。
その相手が札幌でのほほんと過ごしていた自分でいいのか、という負い目がある。
「花音がいいんだよ」
「……はい」
しばらく二人は抱き合っていたが、秀真が溜め息交じりに口を開く。
「包み隠さず話すと、花音と会う前に、正式な場ではなかったけど女性と会った。その人にやけに気に入られていたから、万が一はないと思うけれど、いずれきちんと話をつけないと、とは思っている」
「はい」
その話を聞いても、「不可抗力だ」としか思えなかった。
彼のような男性が、まったく手つかずのはずがない。
自分と会う前に素敵な女性との縁があってもおかしくないと思っていたし、お見合いでなくても会社の重役ならパーティーなどで人と会う機会があったかもしれない。
それは花音が口出しできない領域だ。
「俺は花音と結婚したいと思っている」
「えっ……」
付き合ってほしいと言われて承諾したばかりなので驚いてしまい、彼女は顔を上げてまじまじと秀真を見つめた。
「ほ、本気ですか? まだ一か月も付き合っていませんよ?」
「本気だよ? 花音には他の人に感じなかった感覚を得ている」
「……というと……」
「……とても直感的で、……よく、『ビビッときた』っていうのがあるだろ。アレだから、花音を納得させるには足りないかもだけど」
「ふふ……っ、確かに感覚的ですね」
それでも自分などに、運命的なものを感じたと言ってもらえるのはありがたい。
「梨理さんのピアノを弾いたお陰でこうしていられるのなら、きっと出会うべき運命だったと思うんだ」
秀真は花音の髪を撫で、顔に掛かった黒髪をサラリと耳にかける。
「花音は、俺の事をどう思う?」
甘い声で囁かれ、花音の腰の辺りがゾクッと震えた。
「……秀真さんの事は好き……」
「結婚できる?」
その問いに、花音は小さく頷いた。
「まだ、出会ったばかりで分からない事が多いけれど、きっと。……でも、その前に一緒に時間を過ごして、もっと仲を深めたいです」
「……ん、そうだな」
秀真は花音を抱き締め、しばらくしてからさらに尋ねる。
「結婚したとして、札幌を出て東京に来られる?」
「…………」
秀真が結婚と言い出す前から、二人の未来を想像した時には、いずれそうしなければいけないとは感じていた。
「会社の重役をしている秀真さんに、仕事を捨てろなんて言えません。音大に通っていた時は東京で一人暮らししてしましたし、大丈夫です」
「分かった、ありがとう。今住んでいる街から引っ越しても、俺が絶対に守るから」
背中をさすられ、トントンと軽く叩かれると気持ちが落ち着いてゆく。
「……はい」
その日、秀真はホテルに宿を取っているというのに、結局そのまま宮の森の家に二人で泊まってしまった。
夜は近くにあるフレンチレストランまで行き、極上のコース料理をご馳走してもらった。
帰りに円山にある商業施設に寄り、秀真が花音の着替えや寝間着を買ってくれた。
コンビニで一泊分のスキンケア用品なども買って万全の準備をしたあと、花音は初めて秀真と一夜を共にした。
その後、秀真はまた東京に戻り、また遠距離恋愛が始まる。
毎日何気ない事でもメッセージをくれるので、秀真が今日はこんな事をして、何を食べたと知れて安心できた。
あまり連絡が多いと煩わしくないかと最初は心配していた。
だが秀真も同じ心配をしてくれていたようで、話し合いの結果「遠距離で会えない分心配になるのは当たり前。連絡がもらえるのは嬉しいから、何かあったら些細な事でも報告していこう」という流れになった。
勿論お互い仕事があるし、花音は秀真が多忙な人だと分かっている。
だから連絡をしても即の返事は期待せず、タイミングのいい時と割り切っていれば、気持ちが急いて疲れる事もなかった。
毎週彼が札幌に来てくれる訳ではないが、飛行機代が掛かるし当然だ。
七月、八月は何事もなく平穏に過ぎ、九月のシルバーウィークの時、花音は自分が東京に向かう計画を立てていた。
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