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テスト休みというものは、どうしてせいぜい一週間ぐらいしかないのだろう。
多くの学生が思っているだろうことを思いながら、重い足取りで職員室に向かった。
休み前のあの日、暗室で。うっかりあいつを襲ってしまって、最後までは致さなかったものの、いろいろとやらかしてしまった。
体を綺麗にしてやって、制服を着せる。雷は遠ざかったものの、雨はまだ降っていたし、と車で送ってやって。
『……ありがと』
家の前で、そう言ってはくれたけれど。その肩は、震えていた。
「おう、どうした。もう冬休みに入るってのに辛気臭ぇな」
「やらかした……」
ため息をつく俺に、健が何をだよと笑う。言えるわけもないので、笑ってごまかした。
確実に嫌われただろう。最低最悪の出来事として、あいつの歴史に刻まれたに違いない。
下手したら訴えられるし、勝てる要素は何もないわけで。教師生活ももう終わりかなぁ、なんて考えながら休みを過ごした。
ああ、だけど。それなのに。
正直に言えば、あんなの忘れられるわけもなく。帰ってから今日まで何回、思い出しながら抜いたかわからない。
もう最後の思い出と割り切るしかない、と深呼吸をし、テストの返却のために教室へと向かった。
「テスト返すぞー席つけー」
ざわざわする教室内で、ひとりひとりにテストを返していく。
そして、手元には圭の答案だけが残った。
「……櫻井は休みか?誰か知ってるか?」
聞いてみるが、生徒たちからの返事はない。
まあ普段は目立たないやつだし、おそらく休みか、もしくは俺に会いたくないが故のサボりだろうと見当をつけた。
とはいえ、テストは返さなければならない。答案を眺め、ため息をつく。
嬉しかった。俺との関係を経て、テストや勉強を頑張ってくれたことが。その結果は如実に表れていて、ちょうど平均点が当たり前だった彼の答案は、上から数えたほうが早いぐらいの点数だ。
「俺の馬鹿野郎……」
自虐の言葉が口からこぼれる。思わず俯いて、廊下を歩いた。
「あ、野下先生!」
不意に呼び止められてそちらを向く。よく知った顔が、少し困ったように見えた。
「おう、どうした角川」
圭が数少ない友達だと言っていた彼。角川 龍太は軽く頬を掻く。
「なぁ先生、圭のやつ知らね?」
何かを見透かされたような気がして、心臓がうるさく跳ねた。
それを何とか沈めて、いや、と首を横に振る。
「あいつ、学校来てんのか?」
「朝はいたぜ。鞄も、自分のクラスに置きっぱなしだし。ほら、野下先生の教科は教室移動してやるからわかんねぇかもだけど」
言われてみればそうだ。そんな簡単なことにも気づけなかった自分が情けない。
「なんだサボりか?珍しいな」
「……サボり、なのかな。圭のやつさぁ、なんか知らねぇけど野下先生の授業すごい楽しみにしてたんだよな、ここ最近」
本当に、彼は何も知らずに言っているのだろうかと少し疑ってしまう。
だけども、角川は本当に何も他意はないようで。底抜けに明るく笑うと、続けた。
「テス勉も頑張っててさぁ。いい点とるんだって張り切ってたぜ」
「確かに前よりかなり伸びてたな。早く返してやりたいんだけど」
「そう、俺もさぁ。借りてた漫画、冬休みに入る前に返そうと思ってたんだけどさ、あいつどこにもいねぇんだよ」
首を傾げて言う、その言葉になぜだか胸騒ぎがする。
「……携帯は?かけてみたのか?」
「ああ、でも全然でねぇし。どこにいんのか、先生なら知ってんじゃねぇかと思って」
人好きのする笑顔から一転、まるで獲物を目にした猛禽類のような目で見てくるから、一瞬息が詰まった。
「……なんでそう思うんだ?」
「俺の勘違いなら悪ぃんだけどさ、あいつ人見知りするくせに野下先生にはやけに懐いてるように見えたから」
そうだったのかもしれない。だけど、それを裏切ったのは俺だ。
そんなこと言えるはずもなく、そうならいいんだけどな、と笑った。
「見つかったら俺にも教えてくれよ。テスト返すから」
「……まぁ、いいけど。先生のほうでも、ちょっと気にしといてやってくれよな」
「見かけたら声かけとくよ。角川が探してた、って」
ひら、と手を振って別れ。答案を一度、職員室に置きに行く。
癖で、各教室の鍵が並んだ壁に目をやった。音楽室の鍵も、暗室の鍵も、何事もなくそこに鎮座している。
「……どこにいるんだか」
息を吐いて、携帯電話を取り出した。
少しばかり震える手で、名前を探す。一度も掛けたことも、かけてきたこともない名前を。
呼び出し音が鳴る。十回ほど鳴ったところで、留守番電話に切り替わった。
「……ごめん、俺だ。角川のやつが探してたぞ。こっちは別にいいから、そっちには行ってやれ」
一応、と思いメッセージを残す。最初の一言は、謝罪しか出てこなかった。
当然というか、折り返し連絡があるわけもないだろうと、半分以上は諦めの気持ちで通話を終了する。
しかしその十分後、俺のその諦めはあっさりと裏切られた。
携帯電話が着信を知らせて震える。表示された名前は、圭のそれで。
慌てて電話に出てみるけれど、お約束のもしもし、という言葉は聞こえてこなかった。
聞こえるのは、ノイズの音と。やめろ、という声だけだ。
それから、服の擦れるような音と。がたがたと、物を蹴るような音。
『……っか、じゃね……んなこ……は、辞退なんかしねぇ』
その最後の言葉ははっきりと聞こえた。がたりと席を立ち、できる限り静かな隅の方へ移動すると携帯電話を耳に当てる。
『だってよ、どうする?』
『少し痛い目みりゃ考えも変わるだろ』
聞いたことのあるような、ないような。ただ、それが生徒のものだとはわかる声だった。
何やらごそごそという音がして、少しの間が空く。どうにも落ち着かない気分で、通話を繋げたまま喫煙室に移動した。
しばらく止めていた煙草を咥え、火をつける。もちろんこちらの音が向こうへ伝わらないよう、細心の注意を払った。
カチ、というわずかなライターの音。俺が発したのはそれだけだ。
『……こんなことして、誰かきたらどうすんだよ』
次の声は近くで聞こえた。どうやら気づいたらしい。
『あんたらがどんだけ、三年最後の舞台に入れ込んでんのか知らねぇけどさ。僕が辞退しないからって、今度は何する気だよ。また殴んの?』
これもおそらく、俺に聞かせるための言葉だろう。発声が違う、とわかるぐらいには俺はあいつの声を聞いている。
『殴ったって効かないだろ。だったら、恥ずかしいことのほうが効果あるかと思ってさ』
『……悪趣味。AVの見過ぎじゃねぇの』
思わず吹き出しそうになって、いやそんな場合じゃないと煙を吸い込んだ。深く吐き出し、まだ長い煙草をもみ消す。
少し冷静になれた頭で、職員室の中を見回した。音楽室の鍵はぶら下がったままだ。
だとしたら、と。再び、通話のほうに気を向ける。
『っ……デリカシー、なさすぎ、だろ……こんな、鍵すら、かからねぇ場所で』
鍵がかからない。どこだ、と思案を巡らせた。
『そういやそうだな。おい、つっかえ棒しとけよ。鍵壊れてんだからさ』
かからない、壊れてる。どこかで聞いた記憶が、一気に蘇る。
「進歩ねえな、おい」
ぼそりと呟いて、渡り廊下を走った。体育館はすぐだ。
誰もいないその場所はひどく広く思える。ただ、どの扉もきっちりと閉められていた。
偶然を装うにはどうしたらいいだろうか。そんなことを考えながら、聞き耳を立てる。
『や、め……っ、さ、わんな』
けれども、俺のそんな画策はすぐに放り投げられた。頭に血が上る、というのを実感しながら息を吸い込む。
「どこだ?!」
俺の張り上げた声に、しん、と静寂が落ちた。電話の向こうの声も聞こえない。
「いるんだろ?!返事しろ!」
ひとつひとつ、閉じられた扉を叩く。こんなことなら、あのときの用具室を覚えておくんだったと歯噛みした。
「……っ、せ……」
馬鹿みたいに体育館の中をぐるぐると回って。だけどその声は、か細いながらも俺の耳に届く。
電話越しじゃない、あいつの声だ。ここか、と用具室のひとつに目星をつけ、扉を叩いた。
「圭」
「っ、先生!」
俺と圭の声の間に挟まる、痛ぇ、という悲鳴。噛みついたか蹴り飛ばしたか、本当に気が強いと苦笑した。
「開けろ」
自分で思ったより、低い声が出る。
「今ならまだ、見なかったことにしてやる。開けろ」
数十秒程度の間。大した時間じゃなかったが、それでも長く感じられた。
がたん、と音がして。ためらいがちに、用具室の扉が開けられる。以前、鍵が壊れていると言っていたそこで目にしたものに、強く握り拳を作った。爪がてのひらに食い込んで、それは確かに痛みを呼んだけれど。
そうでもしていないと、生徒たちを殴り飛ばしてしまいそうで。
「……自分たちが何をしたのか、わかっているな?」
答えはない。けれど、そこにいた三人はちらちらと互いの顔を伺っている。
「話は聞いている。こんな姑息な手を使うぐらいなら、堂々と勝負でもして決めろ」
「で、でも」
「後輩に負ける程度の覚悟なら、そもそも舞台に上がる資格はないんじゃないのか」
爪は、まだ俺の手に食い込んでいた。
「吹奏楽部の連中だけで投票すればいい。後輩の実力よりも、三年に花を持たせたいやつが多いなら、三年が勝つだろう?」
「……はい……」
「それでも不満なら、全校生徒と全職員を集めてやる。理由も説明してやる。三年の最後の舞台だ、と」
「そんな、それで、負けたら」
「そこまでしても負けるなら、最初から持たせる花すらないってことだ」
冷たい言い方だったかもしれない。
三人いるうちの、おそらく三年だろう生徒はぼろぼろと涙をこぼしていた。
「悔しいのは勝手だが、お前ら部活動の無い日は何をしていた?後悔は、戻らないから後悔っていうんだよ」
多少、説教くさいのは仕方ない。はあ、と息を吐いて、二度とこんなことはするなと言い聞かせた。
「せっかく決まった進路も帳消しになるかもしれないんだぞ。自分のしたこと、それに至るまでの経緯を思い返して反省文提出しろよ」
はい、と小さな声で言って、三人は足取り重く用具室を出ていく。
その背中が見えなくなって、やっと拳を緩めた。また深く息を吐いて、俺に背中を向けた状態で、マットの上にいる圭に近づいていく。
「……大丈夫か」
「う、ん……ありがと、きて、くれて……」
本当に大丈夫なのか、ともう一度聞く。すると伺うようにちらりと俺を見て頷いた。
「制服、脱がされて、ちょっと触られただけ……先生のほうが」
「いやその、悪い」
それを言われるとどうにもならない。バツが悪くて、圭から目線を逸らした。
「……冗談だよ。ほんと、大丈夫だから」
「一応、保健室連れてくから……そのぐらい、させてくれよ」
よほど情けない顔をしていたんだろうか。俺を見上げていた圭が、ふは、と笑った。
「じゃあ俺、帰るから。鍵だけ頼むよ」
「あー、悪いな。サンキュ」
「……お前がいいなら何も言わないけどさ、本当にいいの?」
「あいつに余計な負担かけたくねえ。どうにか俺が決着つけさせるわ」
「わかったよ……でも、なんか手伝えることあったら言えよな」
サンキュ、ともう一度返す。
保健室の主である養護教諭の元木は、苦笑しながら俺の手のひらに鍵を乗せた。
「……それも、手当てしとけよ」
彼が言うのは、俺の手のひらに食い込んだ爪の跡だろう。おう、と笑って答えると、まったくと呆れたため息を残して出て行った。
「怪我、ないか?」
「ちょっと、足、痛いかも。マットに転がされたとき捻ったっぽい」
「……見せて……いや、見てもいいか?」
「あのさぁ、先生。普通にしてくんね?僕が気まずい」
「無理言うなよ……」
保健室のベッドに座った年下の生徒に、完全に振り回されている。もう、と唇を尖らせるから、それに触れたくなって。
だけど触れていいはずもなく、なんとか意識を逸らした。
「……っ」
脱がすな、と言って上履きと、そこから顔を出した靴下を取る。くるぶしのあたりが少し腫れてはいるが、骨に問題はなさそうだった。
これなら湿布と包帯の固定で大丈夫だろう。少し待ってろ、と言って立ち上がり、自分が座っていた丸椅子を圭のほうへ押しやる。
「足、乗せとけ。下に向けてると腫れがひどくなるから」
「はぁい」
気の抜けるような返事をして、言われた通りにするのを横目で見つつ、棚から湿布と包帯を取り出した。
椅子に乗せられた足首に湿布を貼ってやって、それから包帯を巻いていく。
「あんまり動かすなよ。そんなひどくはないけど」
「ん、ありがと」
「……もう、帰るだろ?送ってってやるから、角川にメールだけ入れとけ」
「龍太?なんで」
「お前のこと、探してた」
ああそっか、なんて。あんなことをしてしまった後だというのに、圭の態度はやけに普通で。
普通を装おうとしているのかもしれないけれど、そうとも思えないほど普通だった。手早く角川にメールを打つと、俺の方を見る。
「着信すげ……あ、そうだ。僕、先生に頼みたいことがあるんだよね」
「……なんだよ」
お前の頼みなんて、言われなくても聞くと言うのに。にこ、と笑って圭は続ける。
「とりあえずこっち来て。遠い」
「お前、なに?俺の忍耐力の試験でもしてんの?」
「違うって、ほら、こっちきて。できたら隣座って」
生殺しにもほどがある。唸りながら言われた通りにすると、楽しそうな笑いが聞こえた。
「からかってんなら怒るぞ」
「ごめんって。そういうんじゃなくて……その、ちょっと手、貸して」
いつぞや俺が口にしたような言葉。だけど返事を待たれることはなく、おそらく聞く気もなく、俺の手をひょいと取って自分の頬に当てた。
「っ、お、お前、なぁっ」
「……ちょっと、だけ、だから」
「そういう問題じゃねえよ」
「……うん、ありがと」
ったく、とぼやきながら。もういいだろ、と立ち上がる。
「……なぁ、亮吾、先生」
だけども圭はそこを動く気がないようで。呼び止められて、ひとり出て行けるわけもなく振り向いた。
「確認したいんだけど、先生は……そーいう意味で僕のこと、好きなんだよな?」
「……お前、ベッドに座って何言ってんの?犯されてぇの?」
「ち、ちが、っ、人の話聞けよ!」
半分冗談、半分本気の言葉に真っ赤になる。
そういうところもかわいく見えて、そうだよと返した。
「少なくとも、あんなくそガキどもにヤられるぐらいなら俺が先にぶちこんどきゃよかったと思うぐらいには、好きだよ」
「……あけすけすぎねぇ?」
「これでお前が引いてくれりゃ楽なんだけどな」
あーあ、と自嘲気味につぶやく。圭が俺を嫌ってくれるのなら、諦めもつくってものだ。
どうせ、あと一年半もすりゃ卒業だし。二度と会う機会もなければ、きっと忘れられるのに。
「僕、さぁ……さっき、めちゃくちゃ気持ち悪かった」
「……さっき?」
「ほいほいついてった僕も悪いけど、話したいって言われて。わかってくれたのかなって期待してついてったら、用具室のマットに転がされてさぁ。制服脱がされて、足、触られて」
「無理すんなよ、思い出すだけ嫌だろ」
ぐしゃ、と頭を撫でる。
けれども圭は、小さく首を横に振って続けた。
「鳥肌めっちゃ立ったし。気持ち悪くて吐きそうで、必死に抵抗してたら携帯鳴って」
「俺がかけたやつか」
「うん……画面、ちらっと見えて。嬉しかった」
ぴく、と。圭の頭の上に置いたままだった、俺の手が跳ねる。
「それで、あいつらにばれないように履歴からかけ返して……来てくれたのも、本当に嬉しかった」
「……そうか」
「だから、ちょっと触って欲しいんだけど」
唐突なその言葉に、吸った息と一緒に唾液が気管へと入り込んだ。
げほげほとむせる俺を、不思議そうな顔で見てくる。絶え絶えに、なんでだよ、と言うと、また顔を赤くした。
「……先生に、触られたのは……嫌じゃ、なかったから」
「お、まえ、なぁ」
「考えたんだよ、これでも。そもそもあいつらは僕のことを好きなわけじゃないからかな、とか。でも、それより僕が……」
言葉を探して、声が止まる。
「僕、が、先生の、こと、好きだから、なのかな、とか」
「……変な期待させんな。それは、俺がお前を助けたからだよ」
じっと見てくるその両目に、いたたまれなくなって。
「こないだのアレは、ほら、雷のせいだ。だから」
「だから、雷もない、今の落ち着いた状況で触ってみてくれって言ってんじゃん。僕だってよくわかんねぇんだよ!」
馬鹿、と怒鳴る声は初めて聞く。
「わけ、わかんねぇんだって……あの後も、あんたにされたの、何回も思い出して、さぁ……」
どくん、と。俺の全身が心臓になったような気すらして。
「触って、ほしくて。ひとりじゃ、だめで……でも、あいつらには触られたくなくて、センセ、が、いい、って」
「っ……なんだ、よ……お前、本当に……」
「なぁ、なんなのこれ。先生が助けてくれたからなの?雷が強かったから?違うよな?」
泣き出しそうな目。潤んだそれから、今にもこぼれそうなほどの雫を湛えて、それでも俺から目を離そうとしない。
息を飲む、自分の喉の音がやけに大きく聞こえた。いろいろと諦め、保健室の扉の前まで行き――鍵をかける。
それから、圭のところまで戻って。その頬にそっと触れた。ぴくりと反応はするものの、嫌がる様子もなく。それどころか、うっとりと目を閉じる仕草に、否応なく煽られる。
「……なぁ。教えてよ、先生」
小さく囁かれたそんな言葉に、抵抗する術なんか持ち合わせているはずもなかった。
多くの学生が思っているだろうことを思いながら、重い足取りで職員室に向かった。
休み前のあの日、暗室で。うっかりあいつを襲ってしまって、最後までは致さなかったものの、いろいろとやらかしてしまった。
体を綺麗にしてやって、制服を着せる。雷は遠ざかったものの、雨はまだ降っていたし、と車で送ってやって。
『……ありがと』
家の前で、そう言ってはくれたけれど。その肩は、震えていた。
「おう、どうした。もう冬休みに入るってのに辛気臭ぇな」
「やらかした……」
ため息をつく俺に、健が何をだよと笑う。言えるわけもないので、笑ってごまかした。
確実に嫌われただろう。最低最悪の出来事として、あいつの歴史に刻まれたに違いない。
下手したら訴えられるし、勝てる要素は何もないわけで。教師生活ももう終わりかなぁ、なんて考えながら休みを過ごした。
ああ、だけど。それなのに。
正直に言えば、あんなの忘れられるわけもなく。帰ってから今日まで何回、思い出しながら抜いたかわからない。
もう最後の思い出と割り切るしかない、と深呼吸をし、テストの返却のために教室へと向かった。
「テスト返すぞー席つけー」
ざわざわする教室内で、ひとりひとりにテストを返していく。
そして、手元には圭の答案だけが残った。
「……櫻井は休みか?誰か知ってるか?」
聞いてみるが、生徒たちからの返事はない。
まあ普段は目立たないやつだし、おそらく休みか、もしくは俺に会いたくないが故のサボりだろうと見当をつけた。
とはいえ、テストは返さなければならない。答案を眺め、ため息をつく。
嬉しかった。俺との関係を経て、テストや勉強を頑張ってくれたことが。その結果は如実に表れていて、ちょうど平均点が当たり前だった彼の答案は、上から数えたほうが早いぐらいの点数だ。
「俺の馬鹿野郎……」
自虐の言葉が口からこぼれる。思わず俯いて、廊下を歩いた。
「あ、野下先生!」
不意に呼び止められてそちらを向く。よく知った顔が、少し困ったように見えた。
「おう、どうした角川」
圭が数少ない友達だと言っていた彼。角川 龍太は軽く頬を掻く。
「なぁ先生、圭のやつ知らね?」
何かを見透かされたような気がして、心臓がうるさく跳ねた。
それを何とか沈めて、いや、と首を横に振る。
「あいつ、学校来てんのか?」
「朝はいたぜ。鞄も、自分のクラスに置きっぱなしだし。ほら、野下先生の教科は教室移動してやるからわかんねぇかもだけど」
言われてみればそうだ。そんな簡単なことにも気づけなかった自分が情けない。
「なんだサボりか?珍しいな」
「……サボり、なのかな。圭のやつさぁ、なんか知らねぇけど野下先生の授業すごい楽しみにしてたんだよな、ここ最近」
本当に、彼は何も知らずに言っているのだろうかと少し疑ってしまう。
だけども、角川は本当に何も他意はないようで。底抜けに明るく笑うと、続けた。
「テス勉も頑張っててさぁ。いい点とるんだって張り切ってたぜ」
「確かに前よりかなり伸びてたな。早く返してやりたいんだけど」
「そう、俺もさぁ。借りてた漫画、冬休みに入る前に返そうと思ってたんだけどさ、あいつどこにもいねぇんだよ」
首を傾げて言う、その言葉になぜだか胸騒ぎがする。
「……携帯は?かけてみたのか?」
「ああ、でも全然でねぇし。どこにいんのか、先生なら知ってんじゃねぇかと思って」
人好きのする笑顔から一転、まるで獲物を目にした猛禽類のような目で見てくるから、一瞬息が詰まった。
「……なんでそう思うんだ?」
「俺の勘違いなら悪ぃんだけどさ、あいつ人見知りするくせに野下先生にはやけに懐いてるように見えたから」
そうだったのかもしれない。だけど、それを裏切ったのは俺だ。
そんなこと言えるはずもなく、そうならいいんだけどな、と笑った。
「見つかったら俺にも教えてくれよ。テスト返すから」
「……まぁ、いいけど。先生のほうでも、ちょっと気にしといてやってくれよな」
「見かけたら声かけとくよ。角川が探してた、って」
ひら、と手を振って別れ。答案を一度、職員室に置きに行く。
癖で、各教室の鍵が並んだ壁に目をやった。音楽室の鍵も、暗室の鍵も、何事もなくそこに鎮座している。
「……どこにいるんだか」
息を吐いて、携帯電話を取り出した。
少しばかり震える手で、名前を探す。一度も掛けたことも、かけてきたこともない名前を。
呼び出し音が鳴る。十回ほど鳴ったところで、留守番電話に切り替わった。
「……ごめん、俺だ。角川のやつが探してたぞ。こっちは別にいいから、そっちには行ってやれ」
一応、と思いメッセージを残す。最初の一言は、謝罪しか出てこなかった。
当然というか、折り返し連絡があるわけもないだろうと、半分以上は諦めの気持ちで通話を終了する。
しかしその十分後、俺のその諦めはあっさりと裏切られた。
携帯電話が着信を知らせて震える。表示された名前は、圭のそれで。
慌てて電話に出てみるけれど、お約束のもしもし、という言葉は聞こえてこなかった。
聞こえるのは、ノイズの音と。やめろ、という声だけだ。
それから、服の擦れるような音と。がたがたと、物を蹴るような音。
『……っか、じゃね……んなこ……は、辞退なんかしねぇ』
その最後の言葉ははっきりと聞こえた。がたりと席を立ち、できる限り静かな隅の方へ移動すると携帯電話を耳に当てる。
『だってよ、どうする?』
『少し痛い目みりゃ考えも変わるだろ』
聞いたことのあるような、ないような。ただ、それが生徒のものだとはわかる声だった。
何やらごそごそという音がして、少しの間が空く。どうにも落ち着かない気分で、通話を繋げたまま喫煙室に移動した。
しばらく止めていた煙草を咥え、火をつける。もちろんこちらの音が向こうへ伝わらないよう、細心の注意を払った。
カチ、というわずかなライターの音。俺が発したのはそれだけだ。
『……こんなことして、誰かきたらどうすんだよ』
次の声は近くで聞こえた。どうやら気づいたらしい。
『あんたらがどんだけ、三年最後の舞台に入れ込んでんのか知らねぇけどさ。僕が辞退しないからって、今度は何する気だよ。また殴んの?』
これもおそらく、俺に聞かせるための言葉だろう。発声が違う、とわかるぐらいには俺はあいつの声を聞いている。
『殴ったって効かないだろ。だったら、恥ずかしいことのほうが効果あるかと思ってさ』
『……悪趣味。AVの見過ぎじゃねぇの』
思わず吹き出しそうになって、いやそんな場合じゃないと煙を吸い込んだ。深く吐き出し、まだ長い煙草をもみ消す。
少し冷静になれた頭で、職員室の中を見回した。音楽室の鍵はぶら下がったままだ。
だとしたら、と。再び、通話のほうに気を向ける。
『っ……デリカシー、なさすぎ、だろ……こんな、鍵すら、かからねぇ場所で』
鍵がかからない。どこだ、と思案を巡らせた。
『そういやそうだな。おい、つっかえ棒しとけよ。鍵壊れてんだからさ』
かからない、壊れてる。どこかで聞いた記憶が、一気に蘇る。
「進歩ねえな、おい」
ぼそりと呟いて、渡り廊下を走った。体育館はすぐだ。
誰もいないその場所はひどく広く思える。ただ、どの扉もきっちりと閉められていた。
偶然を装うにはどうしたらいいだろうか。そんなことを考えながら、聞き耳を立てる。
『や、め……っ、さ、わんな』
けれども、俺のそんな画策はすぐに放り投げられた。頭に血が上る、というのを実感しながら息を吸い込む。
「どこだ?!」
俺の張り上げた声に、しん、と静寂が落ちた。電話の向こうの声も聞こえない。
「いるんだろ?!返事しろ!」
ひとつひとつ、閉じられた扉を叩く。こんなことなら、あのときの用具室を覚えておくんだったと歯噛みした。
「……っ、せ……」
馬鹿みたいに体育館の中をぐるぐると回って。だけどその声は、か細いながらも俺の耳に届く。
電話越しじゃない、あいつの声だ。ここか、と用具室のひとつに目星をつけ、扉を叩いた。
「圭」
「っ、先生!」
俺と圭の声の間に挟まる、痛ぇ、という悲鳴。噛みついたか蹴り飛ばしたか、本当に気が強いと苦笑した。
「開けろ」
自分で思ったより、低い声が出る。
「今ならまだ、見なかったことにしてやる。開けろ」
数十秒程度の間。大した時間じゃなかったが、それでも長く感じられた。
がたん、と音がして。ためらいがちに、用具室の扉が開けられる。以前、鍵が壊れていると言っていたそこで目にしたものに、強く握り拳を作った。爪がてのひらに食い込んで、それは確かに痛みを呼んだけれど。
そうでもしていないと、生徒たちを殴り飛ばしてしまいそうで。
「……自分たちが何をしたのか、わかっているな?」
答えはない。けれど、そこにいた三人はちらちらと互いの顔を伺っている。
「話は聞いている。こんな姑息な手を使うぐらいなら、堂々と勝負でもして決めろ」
「で、でも」
「後輩に負ける程度の覚悟なら、そもそも舞台に上がる資格はないんじゃないのか」
爪は、まだ俺の手に食い込んでいた。
「吹奏楽部の連中だけで投票すればいい。後輩の実力よりも、三年に花を持たせたいやつが多いなら、三年が勝つだろう?」
「……はい……」
「それでも不満なら、全校生徒と全職員を集めてやる。理由も説明してやる。三年の最後の舞台だ、と」
「そんな、それで、負けたら」
「そこまでしても負けるなら、最初から持たせる花すらないってことだ」
冷たい言い方だったかもしれない。
三人いるうちの、おそらく三年だろう生徒はぼろぼろと涙をこぼしていた。
「悔しいのは勝手だが、お前ら部活動の無い日は何をしていた?後悔は、戻らないから後悔っていうんだよ」
多少、説教くさいのは仕方ない。はあ、と息を吐いて、二度とこんなことはするなと言い聞かせた。
「せっかく決まった進路も帳消しになるかもしれないんだぞ。自分のしたこと、それに至るまでの経緯を思い返して反省文提出しろよ」
はい、と小さな声で言って、三人は足取り重く用具室を出ていく。
その背中が見えなくなって、やっと拳を緩めた。また深く息を吐いて、俺に背中を向けた状態で、マットの上にいる圭に近づいていく。
「……大丈夫か」
「う、ん……ありがと、きて、くれて……」
本当に大丈夫なのか、ともう一度聞く。すると伺うようにちらりと俺を見て頷いた。
「制服、脱がされて、ちょっと触られただけ……先生のほうが」
「いやその、悪い」
それを言われるとどうにもならない。バツが悪くて、圭から目線を逸らした。
「……冗談だよ。ほんと、大丈夫だから」
「一応、保健室連れてくから……そのぐらい、させてくれよ」
よほど情けない顔をしていたんだろうか。俺を見上げていた圭が、ふは、と笑った。
「じゃあ俺、帰るから。鍵だけ頼むよ」
「あー、悪いな。サンキュ」
「……お前がいいなら何も言わないけどさ、本当にいいの?」
「あいつに余計な負担かけたくねえ。どうにか俺が決着つけさせるわ」
「わかったよ……でも、なんか手伝えることあったら言えよな」
サンキュ、ともう一度返す。
保健室の主である養護教諭の元木は、苦笑しながら俺の手のひらに鍵を乗せた。
「……それも、手当てしとけよ」
彼が言うのは、俺の手のひらに食い込んだ爪の跡だろう。おう、と笑って答えると、まったくと呆れたため息を残して出て行った。
「怪我、ないか?」
「ちょっと、足、痛いかも。マットに転がされたとき捻ったっぽい」
「……見せて……いや、見てもいいか?」
「あのさぁ、先生。普通にしてくんね?僕が気まずい」
「無理言うなよ……」
保健室のベッドに座った年下の生徒に、完全に振り回されている。もう、と唇を尖らせるから、それに触れたくなって。
だけど触れていいはずもなく、なんとか意識を逸らした。
「……っ」
脱がすな、と言って上履きと、そこから顔を出した靴下を取る。くるぶしのあたりが少し腫れてはいるが、骨に問題はなさそうだった。
これなら湿布と包帯の固定で大丈夫だろう。少し待ってろ、と言って立ち上がり、自分が座っていた丸椅子を圭のほうへ押しやる。
「足、乗せとけ。下に向けてると腫れがひどくなるから」
「はぁい」
気の抜けるような返事をして、言われた通りにするのを横目で見つつ、棚から湿布と包帯を取り出した。
椅子に乗せられた足首に湿布を貼ってやって、それから包帯を巻いていく。
「あんまり動かすなよ。そんなひどくはないけど」
「ん、ありがと」
「……もう、帰るだろ?送ってってやるから、角川にメールだけ入れとけ」
「龍太?なんで」
「お前のこと、探してた」
ああそっか、なんて。あんなことをしてしまった後だというのに、圭の態度はやけに普通で。
普通を装おうとしているのかもしれないけれど、そうとも思えないほど普通だった。手早く角川にメールを打つと、俺の方を見る。
「着信すげ……あ、そうだ。僕、先生に頼みたいことがあるんだよね」
「……なんだよ」
お前の頼みなんて、言われなくても聞くと言うのに。にこ、と笑って圭は続ける。
「とりあえずこっち来て。遠い」
「お前、なに?俺の忍耐力の試験でもしてんの?」
「違うって、ほら、こっちきて。できたら隣座って」
生殺しにもほどがある。唸りながら言われた通りにすると、楽しそうな笑いが聞こえた。
「からかってんなら怒るぞ」
「ごめんって。そういうんじゃなくて……その、ちょっと手、貸して」
いつぞや俺が口にしたような言葉。だけど返事を待たれることはなく、おそらく聞く気もなく、俺の手をひょいと取って自分の頬に当てた。
「っ、お、お前、なぁっ」
「……ちょっと、だけ、だから」
「そういう問題じゃねえよ」
「……うん、ありがと」
ったく、とぼやきながら。もういいだろ、と立ち上がる。
「……なぁ、亮吾、先生」
だけども圭はそこを動く気がないようで。呼び止められて、ひとり出て行けるわけもなく振り向いた。
「確認したいんだけど、先生は……そーいう意味で僕のこと、好きなんだよな?」
「……お前、ベッドに座って何言ってんの?犯されてぇの?」
「ち、ちが、っ、人の話聞けよ!」
半分冗談、半分本気の言葉に真っ赤になる。
そういうところもかわいく見えて、そうだよと返した。
「少なくとも、あんなくそガキどもにヤられるぐらいなら俺が先にぶちこんどきゃよかったと思うぐらいには、好きだよ」
「……あけすけすぎねぇ?」
「これでお前が引いてくれりゃ楽なんだけどな」
あーあ、と自嘲気味につぶやく。圭が俺を嫌ってくれるのなら、諦めもつくってものだ。
どうせ、あと一年半もすりゃ卒業だし。二度と会う機会もなければ、きっと忘れられるのに。
「僕、さぁ……さっき、めちゃくちゃ気持ち悪かった」
「……さっき?」
「ほいほいついてった僕も悪いけど、話したいって言われて。わかってくれたのかなって期待してついてったら、用具室のマットに転がされてさぁ。制服脱がされて、足、触られて」
「無理すんなよ、思い出すだけ嫌だろ」
ぐしゃ、と頭を撫でる。
けれども圭は、小さく首を横に振って続けた。
「鳥肌めっちゃ立ったし。気持ち悪くて吐きそうで、必死に抵抗してたら携帯鳴って」
「俺がかけたやつか」
「うん……画面、ちらっと見えて。嬉しかった」
ぴく、と。圭の頭の上に置いたままだった、俺の手が跳ねる。
「それで、あいつらにばれないように履歴からかけ返して……来てくれたのも、本当に嬉しかった」
「……そうか」
「だから、ちょっと触って欲しいんだけど」
唐突なその言葉に、吸った息と一緒に唾液が気管へと入り込んだ。
げほげほとむせる俺を、不思議そうな顔で見てくる。絶え絶えに、なんでだよ、と言うと、また顔を赤くした。
「……先生に、触られたのは……嫌じゃ、なかったから」
「お、まえ、なぁ」
「考えたんだよ、これでも。そもそもあいつらは僕のことを好きなわけじゃないからかな、とか。でも、それより僕が……」
言葉を探して、声が止まる。
「僕、が、先生の、こと、好きだから、なのかな、とか」
「……変な期待させんな。それは、俺がお前を助けたからだよ」
じっと見てくるその両目に、いたたまれなくなって。
「こないだのアレは、ほら、雷のせいだ。だから」
「だから、雷もない、今の落ち着いた状況で触ってみてくれって言ってんじゃん。僕だってよくわかんねぇんだよ!」
馬鹿、と怒鳴る声は初めて聞く。
「わけ、わかんねぇんだって……あの後も、あんたにされたの、何回も思い出して、さぁ……」
どくん、と。俺の全身が心臓になったような気すらして。
「触って、ほしくて。ひとりじゃ、だめで……でも、あいつらには触られたくなくて、センセ、が、いい、って」
「っ……なんだ、よ……お前、本当に……」
「なぁ、なんなのこれ。先生が助けてくれたからなの?雷が強かったから?違うよな?」
泣き出しそうな目。潤んだそれから、今にもこぼれそうなほどの雫を湛えて、それでも俺から目を離そうとしない。
息を飲む、自分の喉の音がやけに大きく聞こえた。いろいろと諦め、保健室の扉の前まで行き――鍵をかける。
それから、圭のところまで戻って。その頬にそっと触れた。ぴくりと反応はするものの、嫌がる様子もなく。それどころか、うっとりと目を閉じる仕草に、否応なく煽られる。
「……なぁ。教えてよ、先生」
小さく囁かれたそんな言葉に、抵抗する術なんか持ち合わせているはずもなかった。
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