それをさだめと呼ぶのなら

あきら

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8 契約

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 かちゃ、とテーブルに置かれた二つのそれが音を出す。
 いったい何なのかわからないまま、半分重なるように置かれている金と銀の指輪は、静かに部屋の光を反射していた。
 テーブルの向こうには、智也とアクア。まるで昔からの知己のように見えて、こちら側の俺とミストは顔を見合わせる。

「人の苦労をぶっ壊そうとすんじゃねぇよ」
「危なかったあ。なんとか間に合ってよかったけど」

 指先でテーブルを叩きながら智也がぼやけば、アクアがにこりと笑って。
 ますますわけがわからなくて、だけど不安げなミストが心配になった。そっと肩に手を回し、緩く引き寄せる。

「っ、だ、だいじょぶだから」
「うん」
「うん、じゃなくて、その、恥ずかしい」

 白い肌がほんのりと赤く染まって、かわいいという言葉が勝手に口から滑り落ちた。苦虫を噛み潰したような顔の智也が深いため息をつく。

「恋は人間を愚かにさせるって言うけどねえ」
「ったく。お前ら二人のためだけに世界があるんじゃねぇっつーの」
「上手いこと言う」
「痴話喧嘩でもして世界壊されたんじゃたまったもんじゃねぇからな」

 もう一度深く息を吐いて、ソファーの背もたれに寄りかかった。
 それを絶えず笑顔で見ていたアクアが、こちら側に向き直る。

「とりあえず、これを持っていれば襲われるようなことはないと思うよ」
「お前もな」
「いやそれはありがたいけどさ。なんなんだよこれ」

 俺の言葉に、二人はお互いの顔を見て。それから、智也がテーブルの上に手を伸ばし、重なっていた二つの指輪を離した。

「こっちがお前の。内側に山羊が彫ってあるだろ?」
「ああ」
「身分証明みたいなもんだ。俺たち一族の王だっていう」
「……俺は」
「お前がこれを拒否するのなら、山羊の王の称号は新たな世代に受け継がれる」

 ぴく、と横でミストの肩が跳ねる。

「本来、お前たちは互いに殺し合う存在だ。新しい世代の山羊の王が、お前らみたくなれる保証はどこにもない」
「……こっちも同じなんだ。つまり、お互い拒否するようなら新しい星の子と山羊の王が生まれる」
「そして、その二人はまた殺し合う存在になる――かもしれない」

 抱いた肩が震えていた。さっきよりも手の力を強くして、それで、と問いかける。

「お前らが称号を放棄するのは止められねぇ。だけど、もし――もし、次の世代が戦うことになったら、そのときは一族同士のぶつかり合いになる」
「それを二人が黙って見ていられるとは思ってないんだけど?」

 がしがしと頭を掻く智也と、笑顔のアクア。食えないのはアクアのほうだなと苦笑すると、腕の中でミストが小さく頷いた。

「で、だ。離れる気はないと」
「あるわけないな」
「……ごめんなさい」
「謝らないの。俺は嬉しいよ、ミストに大事な人ができて」

 ありがとう、とミストが言う。いくつか気になることはあったが、とりあえず後回しにすることにした。

「そんで、その指輪?が何の意味があるんだよ」
「言ったろ、身分証明だって。これを持ったお前と、これを持った星の子が共にあり続けるなら、次世代の王も星の子も生まれない」
「二人が仲良くしててくれれば、俺たちは敵対しないで済むってこと」
「え」
「大変だったよ、爺さんたちを説得するのも」
「……だよ、ね」
「それでも、俺はやっぱり幸せでいて欲しいなって思っちゃったからさ。葵と一緒にいるミストは、里にいるよりずっと幸せそうに見えたんだ。記憶なんかなくてもね」

 ぽろ、と。驚きに見開いた両目から涙が落ちる。
 肩から腕を回して拭ってやると、やっぱり恥ずかしいのか軽く身を捩った。

「まあ、ちょっとばかり弊害もあるんだけどな。お前らにとっちゃ大した問題でもねぇか」
「だろうね」

 そんな俺たちを見て、二人が言って笑い合う。
 気にならないといえば嘘になるが、それよりも。これからもミストといられるという嬉しさのほうが、ゆっくりと俺の胸中を埋め尽くしていた。



 濡れた頭にタオルを引っ掻けたまま、ソファーに座る後ろ姿を眺める。
 なんか飲むか、と問いかけると頷きが返ってきたので冷蔵庫を開けた。炭酸にするかと思い立ち、ペットボトルからコップに注ぐ。

「ほら」
「ん、ありがと」

 両手でコップを受け取る姿がかわいくて、じっと眺めてしまう。なんだよと居心地悪そうにもぞもぞと足を動かして、結局膝を立てて座り直した。
 俺もと自分の分を口に運ぶ。風呂上りなこともあって半分ほど一気になくなったそれを、テーブルへと置いた。

「……なんか、ふわふわする」
「大丈夫か?」
「体調がどうとか、そういうんじゃないんだけど……」

 言いたいことはよくわかったので、タオル越しに頭を軽く撫でる。まだしっとりとしていたので、立ち上がりドライヤーを持ってきてやった。
 自分でやると言いたげな視線を右から左に交わし、タオルを奪い取るとソファーの背もたれ越しにドライヤーをかけてやる。
 手触りのいい猫っ毛を一通り乾かすと、照れくさそうに笑った。

「現実味がないよな」
「……うん」
「俺が山羊の王で、ミストが星の子で?殺し合う立場だって言われたって、今お前のこと見てもそんな気にはならないし」
「それは俺も一緒」

 予想できた答えではあるものの単純に嬉しくなって、ドライヤーを片づけ先ほどと同じ位置に腰を下す。
 そういえば、と思い出したので、軽く腰を抱いて頭に唇で触れた。

「お前の名前って」
「あ、あう」
「ミストのままでいいのか?」
「うう」

 恥ずかしそうに視線を落とし、俺の体に頬を寄せる。その表情は見えないが、首筋が真っ赤に染まっているのがわかった。

「そ、その、仇名っていうか、なんていうか」
「本当の名前じゃないってことか」
「え、っと、その、俺は、里であんまり、よく思われてなかったから」
「良く思われてないって、星の子なのにか?」
「……だから、だよ」

 顔を上げようとはしないまま、ミストは続ける。

「星の子と山羊の王が戦うのなら、一族はそれに味方しないといけないだろ。人が戦うのはどうでもよくても、自分たちが死ぬかもしれないって考えたら」
「……ああ、まあ、それはそうだろうな」
「――生まれなければ良かったって、言われ続けてきたから。俺の里の人はみんな、水に関連する名前が付けられる、けど、俺はそうじゃなくて」
「ミスト」
「アクアがその仇名くれたんだ。でも、お前がそう呼んでくれるから。全部思い出した時も、ほんとの名前よりそっちがいいって思った」

 くるりと体の向きを変えて、俺の上に乗っかるように足を開いて。首から背中に回った両腕が、ぎゅうと抱きしめてくるから。
 愛しくてたまらなくて、お前を傷つけるすべてのものから守りたくなって。その細い体を力任せに引き寄せた。

「ミスト」
「ん……呼んで、もっと」
「好きだ」
「……葵」

 くしゃ、と髪が撫でられる。それから、掻き分けられた額に唇が触れた。

「おれも、すき」

 至近距離で微笑む表情は、今まで俺が見てきたミストのその顔の中でも一番綺麗だと思える。
 柔く唇で頬に触れ、その感覚を確かめるように何度も繰り返した。かり、とミストの爪が俺のうなじの辺りを軽く引っ掻く。
 こっち、と少し不満そうな唇に自分のそれを重ねれば、誘っているかのように開いた。ふ、と息が鼻から抜けて、服が引っ張られる。
 そんな小さなことにすら煽られて、もっとと吸い付いた。

「っ、は……」
「やばい」
「な、にが?」

 薄く涙の張った両目が、蕩けて俺を見る。無自覚な誘いに乗ろうとする自分を何とか抑えつけ、平たい胸に顔を押し当てた。

「止まれなくなる」
「え、っと」
「めちゃくちゃにしてやりたくなる。ちょっと待って落ち着くから」

 目の前にあるのは当たり前だけれど俺の服で。今までミストが俺の服を身に着けていることを何とも思っていなかったのに、こんな状況になってしまえば意識せざるをえない。

「なあ、葵」
「なんだよ」
「……いい、よ?」

 何を言われているのか一瞬わからず、ばっと顔を上げた。
 真っ赤に染まった顔が俺を見ていて、ごくりと喉が鳴る。

「そ、その、おれも、一応男ですし……わかる、つもりだし」
「いやいやいやいや」
「そ、それに、えっと、ほら、あの、お前が熱だした、とき」

 言われたことを考えて、ぶわっと顔が熱くなるのがわかった。熱を出して着替えさせられた時のことが脳裏によぎって、さすがに恥ずかしさが上回る。

「その、そーいう意味、で、俺のこと見てくれてるんだとしたら……うれし、く、なって」
「――ミスト?」
「えっと、えっとだから、その、とき、おれ……」

 泣き出しそうな表情。わかるだろ、とぼやいて俺の頭に顔を埋めるから、なんかもういろいろ諦めて息を吐いた。



 するりと羽織っていたシャツが落ちていく。
 小さく息を吸う音は、ひどく俺の胸中を揺さぶった。

「ん、っ……」

 何も纏っていない素肌に触れるとぴくりと震えて。少し心細そうに伸びてきた両腕が、緩く俺のことを抱きしめる。
 座った俺の上に膝立ちになったミストを乗せ、目の前にある肌に吸い付き跡を残した。
 白い肌に存在を主張するそれをいくつも刻めば、軽く後ろ髪を引かれる。

「あ、あと、つけすぎ」
「もっと付けたいんだけど」
「や、も、やだ、ってば……」

 不満そうに言う表情がかわいい。
 ともすれば本能のままに貪ってしまいそうで、息を吐いてそんな思いを押し出した。
 嫌な思いをさせたくない。きっとミストは俺が何をしても許してはくれるだろうけれど、俺が俺を許せなくなる。

「足、もーちょい開いて」
「う、うん」
「痛かったら絶対言えよ。無理すんな」

 こく、と頷いたのを確認して、枕元に置いてあったボトルを手に取った。
 蓋を開け、中身を手のひらに零す。緊張した面持ちでそれを見るミストの頬に唇で触れてから、そっと後ろに指を伸ばした。
 びく、と引ける腰。無理もないと思いながらも、痛みを伴って欲しくはなくて。

「こっち」
「……っ」

 ボトルを置いた方の手で逃げる腰を軽く引き寄せ、つぷりと指先を侵入させる。
 吐く息が耳元にかかって、思わず息を飲んだ。

「っ、い、痛くない、か?」
「ん、だいじょ、ぶ……違和感はある、けど」

 それはそうだろう。それでも、受け入れようとしてくれていること自体に嬉しくなってしまう。
 ゆっくり、と自分に言い聞かせながら指を動かした。ゆるく腹の中を擦り、広げるように軽く回したりしてみる。
 膝が震えているのに気が付いて、枕に手を伸ばした。

「ミスト」
「な、なに?」

 戸惑う声に安心させるように笑って、指を引き抜いて。置いた枕の上に腰が乗るよう、細心の注意を払って押し倒す。
 ぽす、とベッドに横たわった体。その足を抱え、少しばかり強く足を開かせた。

「っ、や」
「見せて」
「や、やだ、恥ずかしい、って」

 開いた足の間に目をやれば、緩くはあるものの反応を示している。
 それに少し安心して、揺れるそれに触れた。

「あ、っ」
「大丈夫だから、気持ちいいとこ集中してろ」

 再度指を一本差し入れて。身をかがめ、ミスト自身を口内に含む。
 びくりと跳ねる腰を片手で抑え、震える声を聞きながら舌を動かした。
 同時に中を擦ってやる。直接的に与えられる快感に力は抜けて、もう一本入りそうだなと口を離した。

「っ、あ、ぅ」

 濡れた前を手で刺激してやりながら、中の指を増やす。一瞬眉が寄ったものの、思いのほかすんなりとそこは俺の指を受け入れた。

「……あ、っ」
「痛いか?」
「う、ううん……だ、いじょ、ぶ……」

 その声は明らかに、いつもと違う。
 とろりと甘く溶けたそれは初めて耳にするもので。

「は、らの中……から、なでられて、る、みたいで……きもち、いぃ」

 あげくにそんなことを言うものだから、暴走しなかった自分を褒めて欲しい。
 深く息を吐いて衝動を逃がし、気持ちいいと言ってくれる場所を重点的に解していった。
 何度も指を出し入れし、そこが柔らかくなっていることを確認する。

「……も、いい、から」
「わかった……息、吐いてな」
「う、うん」

 いいから、と言いながらも少しの緊張に包まれた体。だけど止まれる気もしなくて、ゴムの袋を開けた俺は準備を済ませると、その体を割り開いた。




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