ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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春日原和嶺編

2話 割りとこういうのは日常です

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 かぁーかぁーっとカラスのガラガラなかすれ声が俺達の上で響く。

 「シュウヤー」
 「どうしたカズミネー」
 「何でもなーい」
 「なんだそれ」

  太陽は半分姿を隠し、空は鮮やかな橙色に染められた頃。俺達は学園内のベンチに座って脱力していた。

 そもそも俺達の通う学園━━━━国立月陰げついん学園━━━━は規模がデカイ。

 小中高一貫で全寮制のこの学園は1つの都市みたいなものだ。よほどのことがなければ、外出許可が降りない生徒達の為にコンビニや服屋、雑貨屋にゲームセンターまで取り揃えられているこの学園で過ごすのに、不便さはあまり感じられない。

 とはいえ、寮暮らしをしている俺達に金が無限にある訳じゃない。なので買い物にはこの学園専用のポイントを用いる。

 稼ぐ方法は多種多様だが、一番手っ取り早いのは能力者どうしの模擬戦で勝利することだしかし、例外はあるが能力は好きな時にホイホイ使って良いものじゃない。

 能力を練習するのにも、生徒同士の模擬戦を行うのにも先生及び学園の認可を受けた生徒が立ち会う必要がある。

 これが非常に面倒だ。ポイントを稼ぎたいから戦いたい。戦いたいから先生を呼びにわざわざ校舎に向かう。
  
 時間の無駄。

 と、実際には金稼ぎで模擬戦を行う奴はあまりいない。だが、月に一度に学年でのトーナメント戦があり、そこで勝利することで普通に模擬戦を行うよりも倍以上のポイントが手に入るので皆こちらに力を入れる。

 参加は強制ではないのだが参加率は常に8割を超える。勿論俺も参加するのだが良くて三回戦敗退といったところだ。予選ブロックの。

 能力者を集めている学園なんて日本でここくらいしかないので生徒数が多い。百や二百じゃ効かない。多分高等部だけでも千人以上はいるんじゃないのだろうか。だから強い奴がゴロゴロいるし、そいつ等と当たる度に能力の良さに嫉妬する。

 俺の能力、良くもなく悪くもないからな……。

 学年戦 (学年トーナメント戦の略称。基本、生徒は皆こう言う) で勝てなくて本当にポイントに困っている時にはいつもカズミネにポイントを譲渡してもらう。表彰台の常連であるアイツにとってポイントは腐るほどあるので俺に譲っても困る事はない。

 なのにポイントを譲渡してくれるようになったのはここ2、3年のことなのだ。と、まぁ関係の無い話をしたように思われるのでまとめる。

 1 月陰学園はデカイ、とにかくデカイ
 2 生徒総数が多い、とにかく多い
 3 先生は基本、校舎内にいるので学園内を巡回している事も無いし、生徒1人1人を監視している事も無い。
 4 ポイントは譲渡出来る。

 以上の事を踏まえると駄目な事が出来てしまう。それがまさに俺達の状況で脱力の原因なのだが。

 「てめぇ等1年だろ?早くポイント出せやオラァ!」
 「今月厳しいんだよ~来月の学年戦が終わったら返すから、ちょいポイント貸してくんない?」
 「2万、2万でいいぞ」
 「かぁーかぁー」

 つまり学園内でのカツアゲである。ていうか、カラスの鳴き声アンタだったのかよ。うまいな。

 4人の上級生に囲まれて見下されてカラスの鳴き真似さえされる始末。この状況になってまだ数分だ。

 やっと授業が終わって、暇な放課後をカズミネと夕日を見て過ごすというロマンチックな事をしていたところに絡まれた。最初は遠目からこちらを見てコソコソ話をするぐらいだったのが、段々と近づいてきてベンチを囲んで今に至る。

 「なぁカズミネー」
 「なにーシュウヤー」
 「何もないー」
 「何それー」
 「いい加減話聞けやゴラァ!!」

 囲まれてもなお、この態度を改めなかったせいか、先輩方はイライラしていらっしゃる。特に俺の右横の髪の毛が異常にツンツンしてる人はヤバイ。 眉毛がピクピクゥ!って感じだ。

 しかしながら実際にカツアゲに遭ってみると、非常に面倒だな。

 「聞いてんのかオイ!」

 もし自分がカツアゲに遭ってしまったらこうして対処しようと考えていたのに、いざその場面になると頭からスッポ抜けてしまった。

 「無視すんなやぁ!」

 まず一番手前の奴の顔面に一発かまして~、その後油断していた横の奴に回し蹴り叩き込んで~とか。出来ない出来ない。

 だからか、と納得する。ラノベや漫画やアニメでもカツアゲされるモブキャラはいつだってメインキャラ頼りだ。

 画面や文章のアイツ等も好きで無抵抗な訳ではないのだが、結局良い所を主人公と言う奴は掻っ攫っていく。

 ならば主人公じゃない俺はそれにならおう。

 人頼りで、主人公ひと頼りだ。

 いつまでも無視を決め込む俺達に対して限界を迎えた髪の毛ツンツン先輩は、顔を怒りに歪めて無言で俺の胸倉に掴みかかる。

 「グッ…!」

 と短い呻きの後、続いて、

 「ぐぇ!」
 「わぁぁぁ!」
 「おわっ……!」

 悲鳴が3つ程上がる。先輩方はどうやら戸惑っているようだった。

  


 先輩方のシャツが不自然に胸元だけが引っ張られているかのように伸びており、そのまま少しづつ、少しづつ足が地面から離れていく。そうして4人の先輩方は必死に足をジタバタさせながら空中に浮く事になった。

 そして俺は左横を向く。そこには俺が頼った主人公が右の拳を空中で、胸倉を掴むかの様に固めていた。

 カズミネが右腕を挙げると、先輩方も上昇していく。そして先輩方はようやく、この不思議な体験が目の前の後輩によるものだと気付いた。

 だが、それと同時にカズミネはパッと右の拳を開いた。するとドサドサッと先輩方が鈍い音をたて、落下してくる。

 しかし、髪の毛ツンツン先輩は偶然か否か見事に両足で着地し、よろめきながらも俺達、いやカズミネに殴りかかった。

 「オラァ━━」
 「無駄ですよ、貴方程度の人には」

 その動きはまるで何かに掴まれたかの様に止めた。その時、カズミネはツンツン先輩に向け、掌をかざしていた。

 今までので大体分かったかも知れないが、これがカズミネの能力《不可視の神手》(俺命名)である。カズミネ本人しか見ることの出来ない手はその数や大きさまでもを自由に変更出来き、まるで身体の一部の様に操ることが可能だ。

 なんてチート級能力。
 見えないとか反則じゃん。
 避けようもないじゃん。

 「学園内…での、許可が無い………能力使用はご法度だぞ………………………………」

 ツンツン先輩が苦し紛れの反抗を試みる。しかしカズミネは鼻で笑った。

 「先輩、それじゃ不十分です。確かに許可は必要ですが例外もあるのをお忘れですか?」

 そう言ってカズミネはかざした手とは逆の手でズボンのポケットに突っ込みある物を取り出す。

 それは、ただの腕章。

 ただこの人物が、春日原和嶺が例外であることを証明する腕章だった。

 それを見たツンツン先輩は愕然とし、カズミネは人当たりの良い笑みを浮かべる。

 「ご存知ですよね?学園から何時、如何なる場合でも能力使用の認可を受けた例外の組織━━━━」

 カズミネは器用に片手で腕章をつけてみせた。そこにはハッキリと『庶務』の文字が刻印されてあった。

 「月陰学園生徒会庶務、1年春日原和嶺です。お見知りおきを」

 恭しく礼をしてツンツン先輩を放り投げた。ぐぇっと呻いた後、先輩は気絶してしまったようだ。

 「さすが主人公、頼りになる」
 「やめてよ主人公だなんて。僕はそんな柄じゃないし」

 カズミネは照れくさそうに頭を掻く。その後、視線は伸びてしまった先輩方へ。

 「………………どうするんだこの人達。いつまでもほっぽっとく訳にはいかないだろうし」
 「後は僕がやっとくよ、生徒会だし。カツアゲの件は会長に伝えておくから」
 「ん、悪い。なら頼む」
 「明日にでも何か奢ってもらうからね」
 「善意の行動じゃないのかよ」
 「冗談冗談、さっさと帰っときなよー」
 「お前は俺のカーチャンか」

 こうして先輩方をカズミネに託して、俺は寮へと帰宅した。
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