ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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星叶美弥編

5話 そしたら私、正義のヒーローですね

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 問◎主人公に負けた時、悪役の正しいこれからの姿勢とは。

 答☆胸を張る。

  (エネミー検定準2級練習問題これで君も敵に成れ!より抜粋)

◆◆◆

 「星叶ほしかなえさん、初めての模擬戦で勝ったんだって?凄いねー!」
 「才能だよなーやっぱり。星叶さん可愛いし」
 「ちょっと可愛さとか関係なくない?アンタ鼻の下伸ばしながら言うから下心丸見え」
 「でもでも、能力使った事あんまりなかったんでしょ?やっぱり凄いよ」
 「え…えへへ。そう、ですかね……」

 今朝は朝から教室が騒がしい。星叶の周りには今この教室に居るほぼの人が群がっていた。

 俺が気分を変えて、主人公検定ではなくエネミー検定の勉強をしていた所に星叶が登校して来てこの有様だ。転入2日目でこれだけ話しかけてもらえれば、この先友達には苦労しないだろう。

 しかし星叶よ。先程からチラチラチラチラチラチラこちらを見てきているが、なんだその視線は。

 「あー…………えへへ(ペコッ)」

 なんだその会釈は。

 「おはよ、シュウヤ。また主人公検定の勉強してるの?」

 いつの間にか俺の後の席にカズミネ着席していた。

 「いや、今度はエネミー検定だ。受ける気はないけど気分転換にと思ってな」
 「そこまで悔しかった?昨日の模擬戦」
 「………別に悔しくないけど」
 「またまた~僕には隠さなくったっていいんだぜ。さあさあ本音を話してご覧よ」
 「うっせぇな………」

 そう言って俺はテキストから目を離し、瞼を下ろす。瞼の裏にはあの時の大天使が張り付いて離れなかった。

 「………………………ふぅ」

 短く息を吐いて背伸びする。正直あまり思い出したくはない。自分の傲慢さと油断が招いた結果だから尚更だ。

 だが能力を使ったからと言って勝てるかどうかは分からない。

 アイツは、星叶美弥みやは間違いなく主人公だ。その主人公に俺は昨日負けた。主人公は諦めて悪役志望の俺としては、まずまずの結果の筈なのに。

 何故だか心にはモヤが渦巻いて晴れないでいた。

◆◆◆

 「模擬戦終了、勝者 星叶美弥」

 模擬戦の終了を告げる我楽希の声は俺に届かなかった。膝と両手を床に付いて俺は、項垂れていた。

 「勝者 星叶 美夜」
 「…………………………」
 「勝者 星叶」
 「…………………………」
 「勝ったのは~星叶~!」
 「うっせぇな!聞こえてるよ嫌がらせか!」
 「当たり前じゃないか」

 ようやく顔を上げた俺を見てカズミネはカラカラと笑っていた。その様子を見て、腹が立ちはしたが、あくまでカズミネなりの励ましだとわかった。

 俺は膝に手を掛け立ち上がる。ついでに今回の模擬戦勝者を見てみると、わかりやすくはしゃいでいた。

 「勝ったんですか!?私、やりましたー!」
 「……………おめでとう、星叶」

 あまりにも嬉しそうだったので、賞賛を送る。その言葉に星叶は大きく頷く。
 
 「ありがとうございます田中さん!私の為に負けて頂いて!おかげで能力のコツも掴めました!」

 ヒクッと頬が引きつる。

 「あっああ…気にするなよ……これも能力者の先輩としての勤めだからさ…………」

 言えない。割りと全力で本気だったなんて言えない。

 「能力も、すぐに決着を着けない様にと使わないでいてくれて………」

 言えない。能力を使わない事で圧倒的な実力差を見せつけようとしただけなんて言えない。

 「それなのに、正々堂々と戦って頂いてありがとうございます!」

 言えない。ヒットアンドアウェイを繰り返して無傷で終わらそうとしてた事なんて絶対に言えない。

 「でも透真、防護陣プロテクトの説明を幾らか省いてたよね?」
 「今それを言うんじゃない」

 余計な事を口走ろうとしていたカズミネの口を塞ぐ。どうやら星叶に聞かれてはいない様だ。初勝利の余韻に浸っているのだろう。

 カズミネが口を塞いでいた俺の手を叩いて来たので、しぶしぶ離す。

 「ぷはッ、シュウヤ……鼻まで………塞がないでよ……」
 「え?そうだったのか。すまん」

 ゼンゼンキガツカナカッタヨ。
  
 カズミネは軽く息を切らせながらはしゃいでいる星叶に声を掛けた。

 「星叶さん、どうだった?初めての模擬戦は。この学園じゃこんなのが日常になっていくんだよ」
 「はい…!とっても、楽しかったです!」

 星叶は満面の笑みを浮かべていた。

 「そうか、そりゃ良かった」
 「そういえば、月1でトーナメント戦が開催されてるんですよね」
 「ん?ああ、学年戦の事か。今月はもう受付終了したから出れないけど、来月からなら出場出来るぞ」
 「私、それで優勝します!」
 「「無理だろ(だね)」」
 「即答ですか!?」

 急に何を言い出したんだコイツは。

 「いいか星叶、確かにお前の能力は強力だ。だからといって俺達全員に通用するかといったら別の話になる。この学園には能力を使えなくする能力者だっているんだぞ」
 「それに学年戦は学園生活を左右するポイント争奪戦でもあるからね。皆手加減なんてしてくれないよ」
 「うぅ………無理なんですかね……」
 「無理っていう事はないが、限りなく不可能に近い可能だぞ。そもそも何で優勝したいんだ」
 「優勝すれば学年で一番強いって事ですよね。序列一位になれるんですよね」
 「月1で開催されてる学年戦で2連覇以上した人なんて見たことないけど」
 「優勝者毎回変わるよな」

 俺達に絶対的強者は存在しない。皆が能力に得意不得意を持ち、組合せ次第で結果なんて幾らでも変わる。

 因みに俺も準優勝くらいなら一度だけ経験がある。その時は準決勝で、現生徒会メンバー(誰かは忘れたが)をボコボコにしてしまい、凄い恨みを持たれているらしい(カズミネ談)。

 「後、この学園に序列制度とか存在しないから」
 「強いて言うなら、皆がナンバーワンだぞ」
 「そうなんですか…………」

 わかりやすくがっくりと肩を落とす星叶。コイツが普段見ているであろうアニメの種類がわかりやすくて困る。

 「でも、そんな落ち込む事でもないよ。今の星叶さんじゃ難しいってだけで」
 「今の…私では?」

 うん、とカズミネが頷く。

 「これから沢山練習していけばいい、修行すればいい、訓練すればいい。焦る事は何一つ無い。せっかく具象化系能力を持ってるんだから君ならいつかは優勝出来るさ」
 「えっ……ちょっと待って下さい…………私の能力って天使を召喚するんじゃないんですか?」
 「間違っちゃいない、が根本的な物が全然違うんだ。ただの召喚系と具象化系とじゃな」

 俺は真っ直ぐに星叶を見据える。

 「今の模擬戦で能力を理解したんですか?私よりも先に………………」
 「似た様な能力を持ってた奴がいたから、そう思っただけだ。俺もカズミネも」

 もっとも、ソイツとはあまり良い思い出がないので記憶から掘り出したくはなかったが。

 「じゃあ…その、具象化系ってなんですか………?」

 俺はカズミネに視線を送る。それに肩を竦めて応えてくれる。俺はこの能力に詳しくないから説明に不向きだ。

 「簡単に言ってしまえば、具象化系ってのは形『無い』物を形『有る』物に変える事だよ」
 「………………?」
 「例えば、自分のイメージを形にする。何も無い所から武器を創ったりね」
 「そういう事ですか…あっ、でも私、イメージとか特にしてなかったんですけど」
 「だから多分、星叶さんは自分の心を天使として創り出したんじゃないかな」

 その言葉に星叶の目が僅かに開かれる。

 「私の、心」
 「うん、僕は天使やら悪魔やら異界のモノに詳しくはないけど、大体想像はつく。天使ってのは正義の象徴だ。君の心の正義が天使として形を創ったんだよ」
 「………………」

 星叶は、両手を胸の前で重ね合わせる。その仕草はとても柔らかく、包み込む様な暖かさを持っていた。

 「君に能力が発現した時、きっと正義を貫こうと思ったんじゃない?能力ってのは、僕らの本質から生まれるもう1人の僕らみたいなモノで、いつでも僕らを手助けしてくれるから」

 ふと星叶の表情を見てみると、困った様な嬉しい様なはにかみ笑いを浮かべていた。

 きっと、彼女にもいろいろあった。

 どうにもならない事があった筈だ。

 「私は、変われますかね」

 だからこそ能力は発現する。

 「人は変わらないよ。人格が変わろうが、人生が変わろうが、運命が変わろうが、星叶美弥という人は変わらない。だから、人は変える。後悔なきように、人格や人生や運命でさえも変えるんだ」

 「……………………………………私は、あの子の為にこの学園で一番強いと証明してみせます!」

 星叶には星叶の物語がある。それを聞こうとは思わないし、興味があるとも言えない。

 だけど彼女が自分の人生ものがたりを真っ直ぐに歩んでいる事に悪くない、とは思えた。
 
 「そしたら私、正義のヒーローですね」

 そう言ってニカッと笑う星叶はとても輝いて、俺の目指していた主人公像にそっくりだった。

 「まぁ、強くなる為に努力はしないとね」
 「お前を今日からエアブレイカーと呼んでやろう」
 「何その不名誉なあだ名は」

 今そういう事言い出す空気じゃなかっただろ。久し振りのシリアスだったじゃん。

 「ただの能力説明にシリアスは要らないでしょ。それより星叶さん、なんとなく理解出来た?」
 「あっ、はい!…………でも、強くなるには訓練しなきゃですよね…具体的にどれくらいやればいいんでしょう」
 「んーさっきも言ったけど、焦る事はないよ。星叶さんは今の状態でもそこそこ強いから」
 「本当ですか!」
 「能力使ってなかったとはいえ、それなりに強い全力で本気の透真を倒したんだから」
 「全力で本気の田中さん…………」

 ん?………………あっ。今になってやっと気が付いた。

 「いや、あのその………たっ田中さんも!十分強かったですよ!」

 しどろもどろに星叶がフォローする。

 「い、いや、アレはまだ限界じゃねーし。真の俺はもっとつえーし」
 「言い訳はいいよシュウヤ。負けた奴が言うとただの負け惜しみだよ」
 「ああもう!そうだよ、今のが俺の全力で本気だよ!悪かったな!」

 思わず叫び出してしまう俺。

 だって星叶普通に強かったし、俺は能力使ってなかったし、負けるのは当然じゃない?
 「あの……田中さん」

 星叶の手がポンと優しく肩に置かれる。今は気を遣わないでくれ………胸が痛くなる。

 「気にする事はないよ、例え初心者にルール説明を手抜きで行って、能力を使わずボッコボコにしようと全力を出して負けたとしても、僕は君を笑わない(笑)」

 もう笑ってるじゃねーか。しかも俺の考えを大体理解してるし。拗ねた俺は体育座りで頭を抱え込む。

 「ど、どうすればいいんですかコレは」
 「ほっとけば治るんじゃない?それより星叶の能力に名前でも付けようか」
 「名前ですか?」
 「うん、これからずっと具象化とか大天使とかじゃ不便だから、この際決めちゃおう。能力名が良かったらそれがそのまま二つ名になったりするかも知れないし」
 「それは、真剣に考えないとですね………!」
 「シュウヤはなんて名前が良い?」

 俺に話が振られたのでボソッ一言。

 「………そんなん自分で考えろ」
 「と言いつつちゃんと考えてる君のそういう所がお気に入りだよ」

 カズミネがクスクスと笑った。
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