ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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上梨西我編

8話 間違いなくヒーロー

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 山田李伊奈から放たれた熱線━━━━《業火炎陣ごうかえんじん》。

 彼女は技の発動前に八つの火球を自らの周囲に生成。浮かぶ火球は一瞬にして“炎”へと変貌を遂げる。前方へと手をかざす山田。その掌に、九つ目の火球が生成された。それらが一際輝くと、浮かぶ火球は山田の掌へと集結していく。

 集った火球は、まさに業火と呼ぶに相応しい。

 山田は開いた掌を、親指と人差し指のみ残して閉じる。人差し指で上梨を示すかのように、片手で銃の形を作る。ブワッと山田の髪が火の粉と共に舞い上がる。
 
 「焼き尽くせ!《業火炎陣》!!」

 グッと指先に力を込めると同時に集った火球は熱線となり、一直線上にある標的かみなしへと放たれる。

 その速度は、防護陣プロテクト内で身体強化された能力者達でも避けるのは困難を極めるであろう。

 熱線の直径は三メートル程だろうか。ただ跳ぶだけではとても回避など出来そうにもない大きさは、圧倒的なプレッシャーと共に上梨へと襲い掛かった。


 対する上梨西我が発動した能力━━━━《神器顕現じんきけんげん》。

 その名の通り、この能力は神々が使用していたとされる武器を顕現させる事が出来る。上梨が先程まで構えていた武器は、刀。それを両手持ちから片手持ちへと変えて走り出す。

 そして彼は、能力名と共に神器の名を叫ぶ。

 「《神器顕現》━━━━ティルヴィングッ!!」

 その瞬間、上梨が持っていた武器は刀ではなくなった。

 激しい光が刀を柄から剣先まで覆い尽くし、その形状さえも変えてゆく。上梨が柄を力強く握ると、光は形を固定した。包んでいた光がパァンと微かな音と共に霧散する。

 そこから現れたのは、魔剣。

 黄金の柄で錆びる事もなく鉄をも容易く斬り裂き、狙ったモノは外さない剣と云われた、魔剣ティルヴィングだった。

 「うおおおおおおおおおおお!!」

 上梨は突っ込む。自分へと向かって放たれる熱線へと、魔剣を掲げて突っ込んでいった。



 炎と剣とでは、勝敗はそれこそ火を見るより明らかである。

 確かな形を持つ剣と、確かな形を持たない炎。

 ドッという音が響き、二つが衝突する。
 かみなしやまだ、軍配が上がったのは━━━━

 「ッ!?」
 「ハアアッ!!」

 魔剣ティルヴィングで袈裟斬りを放った上梨だった。

 自分へと向かって一直線に襲う熱線に、上梨は恐れる事なく魔剣を振り下ろしていたのだ。その結果、魔剣は勢い良く振るわれ、熱線は上梨を避けるように二つに分かれた。

 山田の表情が驚愕のものとなる。しかしそれは、《業火炎陣》が競り負けた事に対してではなく、炎を剣で斬り裂かれた事に対してのものだった。

 いや、そもそもおかしかったのだ。

 何故、形を持たない炎が形を持つ魔剣に捉えられるのか。

 (なんで!?幾ら神器とはいえ、炎を斬るなんて不可能でしょ!)

 山田李伊奈は失念していた。能力者同士の戦いに於いて、常識など無用の産物で有る事を。そして彼女は知らなかった。上梨が顕現させた魔剣、ティルヴィングの伝説を。

 「今の俺に、斬れない物なんて無い。それが例え炎であっても、雷であってもだ」

 魔剣ティルヴィングの伝説━━━━と、いうよりその剣が持つ固有性能、それは、

 「魔剣ティルヴィングは、どんな願いも三つまで叶えてくれる。悪しき願いだろうが何だろうがだ」
 「嘘………でしょ………」

 山田は思わず息を飲む。

 「要するに俺はさっき、『どんな物でも斬り裂ける剣となれ』って願った訳だ」

 そう言って魔剣を担ぐ上梨だが、ズキリと不意に右肩が痛みを発する。上梨はそちらを恨めしそうに見ながら息を吐いた。

 (どんな願いも三つまで叶えてくれる代わりに使用者を破滅に追い込む、か。それも願いを叶えきった後じゃなくて、願い一つにつきダメージを食らってしまう。幾ら大昔の神器で効力も大分弱まったとはいえ、それなりの破滅を覚悟しとかなきゃな……………ま、死ぬ事はないだろうけど)

 上梨は肩から魔剣を下ろして、肩の調子を確認する。少し痛む程度だ、まだ十分戦える。上梨は視線を山田の方に戻す。

 今度はティルヴィングに『圧倒的な破壊力を持つ剣となれ』とでも願えばいいだろう。この魔剣は狙った物を外さない。対処するには防ぐしかないが、それもねじ伏せる程の力を願えばそれで終わりだ。

 だが上梨はそうしなかった。

 彼は何も願わずに、ただ狙った物は外さないだけの魔剣と共に山田へと走り出した。何故、上梨がそう願わなかったのか。それは実に単純な事であった。

 「ハアアッ!」
 「くっ………………」

 殆ど一瞬で詰められた上梨と山田の距離。接近と同時に横に薙いだ魔剣を、後ろに下がる事で回避しようとする。しかしガキィンと音が山田の防護陣から響く。少々無理な体勢ではあるが、上梨は精一杯に腕を伸ばし山田の防護陣に魔剣を当てていたのだ。

 しかし状況を見るに、魔剣が狙った物に攻撃を与えようと飛び出して、上梨がそれに引っ張られたように見えなくもない。

 この状況は山田にとってまたとない、チャンスとなる。彼女は両手を上に上げて巨大な炎球を生成する。

 「喰らい…なさいッ!」
 「しまっ………!」

 そう思った時には炎球は上梨の防護陣に直撃していた。あまりの威力に上梨の体は後ろへと吹っ飛び、能力を発動した山田でさえも数歩ずり下がった。

 詰めた距離が再び広げられた。彼が先程、ティルヴィングに圧倒的な破壊力を欲していれば、既に勝敗は決まっていた。しかし彼はそう願わずに模擬戦を終わらせる事が出来ず、一撃まで食らってしまった。

 そこまでして、彼が願わない理由。それは実に単純だった。

 彼にとって魔剣の伝説などただのオマケみたいなモノだったからだ。それ故に彼は神器に全てを委ねる様な事はしない。

 どうしてもの時、固有性能に頼る事もある。

 しかし彼は自分の力だけでどうにかしてしまう実力を持っていた。

 《神器顕現》━━━━神々の使用していた武器を呼び出す能力、だがそれらを神器として扱わない上梨西我という少年。彼はこれ以上無い、強欲な人物とでも言えるだろう。

 バッと倒れたままの体勢から身を起こす上梨。しかし、これ以上距離を取るような事はせず、連撃を繰り出す。

 「うおおおおおおおおおおお!!」

 上梨は叫びながらも魔剣を振るう。

 その表情に苦悶など無く、あるのは果てしない興味。彼は笑っていた。

 「何で…………何で笑っていられるのよっ!」
 「何でってそりゃ………………」

 即席で山田が生成した火球とティルヴィングがぶつかり、ボンッと破裂音のようなものが響く。今度は吹っ飛ばされる事もなく、上梨はその場で踏ん張り堪える。

 「楽しいからに決まってるだろ」

 模擬戦序盤では山田の速攻に《完全遮断フルブロック》を発動させられた。刀を取り出してからは良いようにあしらわれたが、何とか一撃当てる事が出来た。《神器顕現》を使用して魔剣ティルヴィングを顕現させ、山田の最強であろう技《業火炎陣》を斬り裂いみせた。

 彼はそれらを楽しんだ。未だかつて見た事の無い世界を、心の底から楽しんだのだ。

 もし彼と戦っているのが山田李伊奈ではなく、田中終夜であったのなら、間違いなくこう評していただろう。

 主人公みたいな奴、と。

 山田は接近戦に持ち込まれる前に幾つかの火球を放つ。それらを上梨は防護陣スレスレで回避していく。

 「私は、負けないッ!」
 「俺もだ!俺も絶対に負けねえ!」

 二人の叫びが重なった。

 魔剣を上段に構えた上梨に突っ込んでいく山田。彼女は両腕に自身の炎を纏わせる。山田の拳が上梨の防護陣に直撃する。直後、上梨の魔剣が山田の防護陣にダメージを与える。

 そこから先は、攻撃のやり合いだった。防御の事など、お互い考えてすらいなかった。ただひたすら、相手に攻撃を当てる事のみ考えていた。

 「おおおおお!!」

 全力で振り下ろされた魔剣。その一撃は一際大きな音を立てて山田の防護陣を破壊へと追い詰める。しかし、

 「ッ!?」

 魔剣を地面に接着するかしないかの位置まで下ろした上梨が上げた視線の先には、燃え盛る炎球が。

 それも一つや二つではない。先程の《業火炎陣》と同じ八つでもない。

 山田の周りには十六もの炎球が生成されていた。それは、山田の能力をあまり理解していない上梨にでも予想は簡単だった。

 《業火炎陣》の発動に使用していた炎球は掌のものも合わせて九つ。恐らく彼女は《業火炎陣》を二回放とうとしている。この至近距離で━━━━!

 だが、二回発動する為には炎球が二つ足りない、そう思った上梨だったが、先程自分で考えた事を思い出す。《業火炎陣》の発動には掌の炎球も合わせて九つ使用していた。そして彼女の両腕には、既に炎が纏われていて。そして彼女の両掌には、既に炎球が生成されていた。

 山田は微笑む。

 「ここまで熱くなったのも、久し振りだったわ。お礼を言わせてもらうわね」

 上梨も笑みを浮かべる。

 「こちらこそ、だ。俺も楽しかった」

 ここから上梨が魔剣を構え直して、固有性能である『三つの願いを叶える』を使用して炎を斬り裂こうが防ごうが、どれももう遅いだろう。

 上梨西我にはハッキリと見えていた。

 自分へと迫る、熱線。それは自らの防護陣にほぼ触れているような距離だった。ここからどうしようが上梨の勝利は絶望的だろう。

 だが、だからこそ、そこから逆転して、この状況を打破して、勝利をもぎ取る事が出来るのなら。

 そんな人物は、間違いなく主人公ヒーローだと言えるだろう。

 だからこそ、上梨西我は間違いなく主人公ヒーローだと言えるのだろう。

 時間が停滞したようにハッキリと物事が捉えられる世界で、上梨は一歩を踏み出す。僅かに先に発動されていた右手の《業火炎陣》が直撃する。もしかしたら、この一撃で防護陣は破壊されるかもしれない。

 しかし彼は踏み込んだ。魔剣の柄を両手で握る。そこから構え直すような事はせず、彼は力一杯に魔剣を振り上げる為に力を込める。

 二撃目の《業火炎陣》が上梨の防護陣に限りなく迫る。

 もう時間は無い。
 これを逃せば、彼の敗北は必須。
 だから、彼は願う。
 魔剣ティルヴィングに、己の心情をぶつける。

 (ティルヴィング……………!)

 食いしばった歯が痛む。握り締めた手から何かが流れる。

 (俺の…………)

 熱線が触れる。

 (俺の限界をぶっ壊してくれ!!)

 ビキッ!と上梨の頭に痛みが走る。しかし彼はそれを無視して魔剣を振るった。



 直後、何が崩れる音が体育館中に響き渡る。お互いの全力をぶつけ合った結果、防護陣が破壊された事によるものだった。

 一人が衝撃によって吹き飛ばされる。その人物を覆う防護陣は、存在していなかった。吹き飛ばした方も、立っているのがやっとだという風に足取りがおぼつかない。

 今まで何処にいたのか、二人の担任である佐藤が出てきた。佐藤は体育館に響く声で戦闘終了を告げる。

 「そこまでだ、これで模擬戦を終了とする!」

 佐藤は勝者の方へと歩いて行き、肩に手を置く。

 「よくやった、とでも言っておこうか」

 微笑んだ佐藤の言葉に返答する力も残っていなかったのか、その人物も後ろに盛大な音と共に倒れ込む。

 「勝者は、上梨西我━━━━!」

 それが聞こえたのか聞こえなかったのか、それでも彼には、主人公の表情には笑みが浮かべられていた。
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