ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学年トーナメント戦編

1話 スーパーフルボッコタイム

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 問◎主人公にしても脇役にしても、生きる事には必要な物がどうしても存在する。それは何か、また何故そう答えたか理由を述べよ。

 答☆お金。金欠になって本当の重要性を理解しました。

 (主人公検定5級練習問題より抜粋)

◆◆◆

 俺は一人教室で項垂れた。

 まだ誰も居ない教室は、少しだけ広く感じ、より一層の孤独を演出してくる。今の俺には避けても通れない障害が発生している。こんな事を話せる奴なんて我楽希ぐらいしか居ないので、アイツが登校してくるのを待っている状態だ。

 たが、この障害は今回初めて発生した訳じゃない。実を言うとこれで七回目位の事態となる。その度にカズミネにSOSを送るのだが、取り敢えず今までは助けてもらえた。しかし今回も助けてもらえるなんて保証はどこにも無い。

 無意識に唾を飲み込む。ゴクッという音が、やけに響く。

 ちらりと隣の席に視線を送る。誰も居ないのは分かっているのだが。俺の隣には、山田という女子生徒が在席する。彼女はついこの間まで黒髪黒目控えめポニーテールの純日本人だったのだが、ある日を堺に赤髪赤目腰まで伸ばした超ロングストレートに大胆なイメチェンを施した。

 結局詳しい理由は不明のままだが、彼女がイメチェンを遂げたその日に新たな転入生、上梨が俺達のクラスに来た。

 教室で顔を合わせた途端、山田さんが叫んだり、模擬戦始めたら勝手に決闘だとか言ったり、色々騒がしい事もあった。

 上梨は模擬戦勝利の暁として、山田さんに何でも言う事を聞かせられるという夢システムを手にしていた訳だが、奴は学園案内とかいうつまらない事に消費しやがった。別に、俺に学園案内を頼んでおいて、断りを入れなかった事に怒ってなんてねーけど。

 分かる分かる。俺、影薄いもんな?

 ………………しかしそれも四日程前の話なのでいつまでも引きずってはいない。俺はそんな些細な事より重大な事態に陥っているのだが。

 それは学園生活に大きく関わる。下手したら俺の生命にも関わる。

 今日はカズミネにも早く来るように、と予め伝えておいたのでもうそろそろ来てもいい頃だと思うのだが。まぁ、普段のカズミネから考えたらいつもより早くなってしまっているが、そこは親友のピンチだ。何としてでも来てもらわなければ。

 俺はゆっくりと瞼を下ろす。取り敢えず今、余計な事は考えたくはない。カズミネが来るまでこうしていよう。


 カズミネが登校してきたのは、それから実に一時間後の事だった。

 「遅すぎる!今まで何してたんだええ!?答えてみろよ!親友の呼び出しを一時間も遅らせる理由をよぉ!」

 半目で瞼をゴシゴシ擦りながら教室に来たカズミネの胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄る。ガッと手を伸ばしたらバシッと叩かれました。寝ぼけていても流石カズミネ。今は褒める場面じゃないけどな。 

 ピキッとカズミネの額に青筋のような物が浮かぶ。

 「ねぇシュウヤ、今何時か分かる?」
 「お前こそ何で教室にも時計が設置されているのか分からんのか。自分で確認しろ」
 「いいから早く」
 「おっ、おう」

 カズミネからのこれまでに無い気迫を感じたので言葉が思わず尻すぼみになってしまう。俺が怒っていた筈なのにいつの間にか立場が逆転しているみたいだ。

 まぁここで逆らってみてもいいのだが、今日のカズミネは冗談で済ませてくれるような雰囲気じゃないので止めておきます。俺は教室前方、黒板の少し上に立て掛けられるようにして設置されているアナログ時計を見る。

 チク、タク、と微かに時を刻む音が聞こえる。俺はこの音があまり嫌いじゃない。しかし今はそんな事どうでもいいので、只今の時刻を確認する。

 「ちょうど…………五時だな」
 「馬鹿じゃないの!?」

 カズミネが叫び、体がビクッと跳ねる。

 「いや、馬鹿って何だ馬鹿って。確かにお前の普段の登校時間にしたら少しばかり早いかもしれん」
 「いつもより三時間早く出てきたんだぞこっちは」
 「だがお前はそんな些細な事より、親友の俺を優先してくれる筈と思っている」
 「ああ、たった今君をボコボコにする事を最優先事項に設定したよ」
 「俺も待たされた側なんだぞ。お前は謝罪の一言も無いのか」
 「集合時刻四時って何!馬鹿じゃないの!」
 「そっからこっちは一時間待たされてんだ。段々時間も無くなってきてしまった」
 「あるだろ!時間だけはたっぷりと!」
 「一刻の猶予も残されていない。事は俺の生死にまで関係するかもしれん」
 「そんな事どうでも良いんだよ!こっちは寝起きでイライラしてんの!」
 「寝起きて。昨日の内に連絡入れといただろ?寝坊したのか」
 「あーあー!確かに連絡はあったよ、メールでね!それに昨日って言っても夜の十一時に送られてるし!」
 「その位なら、大体の高校生は起きてるだろ」 
 「その大体の高校生から僕は外れてんの。それで今朝になってメールを確認して急いで来たのに、何で君に怒られなきゃいけない」

 まぁ要するにカズミネはちゃんと俺の事を心配してくれていた訳だ。じゃなけりゃ、メールを確認して直ぐに学校へ向かうなんて事はしないだろう。

 「確かに俺も悪かったな、カズミネ。こんな早朝に呼び出したのには理由がちゃんとある」
 「………メールには、『とにかく教室に来てくれ』って事ぐらいしか書かれてなかったから気になってはいたけど」

 カズミネもさっきまでの事は水に流してくれるのか、未だ眠そうな目をしつつ片手で頭を書く。

 「それで?わざわざ僕の睡眠時間を削ってでも呼び出す必要がある用事って?」

 結構根に持っているのかもしれない。

 「実はなカズミネ」
 「勿体ぶらなくても良いよ。ちゃっちゃと進めて」

 寝起きだとコイツこんなに扱いづらいのか。普段から扱い易い訳ではなくけど。こっちも朝早くに呼び出した事は悪いと思ってる。さっと本題だけ言ってしまおう。

 「ポイントが尽きた」

 その瞬間の事を、俺は良く覚えていない。

 言葉を言い終わった途端に腹に襲う衝撃。恐らくはボディーブローでも叩き込まれたのだろう。ぐえっとむせ返るような不快感。両足が僅かに地面から離れていくのを何とか理解した時、更なる追い打ち。

 左足に何かをぶつけられたような感覚。地面に足を着いて重心を支えていなかった俺は簡単に中で舞う。それがカズミネの足払いによるものだったと今の俺には気がつけなかった。

 空中で一回転、ではなく半回転で留まってしまった事が運の尽きとでもいおう。天地逆さまの視界になったのを不思議に思いつつも俺の頭は重力に引っ張られ、地面と激突する。

 「グハッ!」

 今までも人生の中で一番痛かったかもしれない。あまりの衝撃に俺の意識は吹っ飛んでしまった。


 「ハッ!」

 ガバッと勢い良く身を起こすと、俺は知らぬ間に机に座らされていた事が分かった。キョロキョロと辺りを見回してみると誰もおらず、窓の外からは鮮やかな夕焼けが教室を照らして………………って、え?夕焼け?

 自分で言っておいて何を言っているのか分からなくなった。ちょっと待ってくれ。おかしい、これはどう考えてもおかしい。

 俺はフゥ…とため息を吐きつつ、机に肘を乗せて頭を抱える。

 気が付いたらいつの間にか夕方になっていただと?ふざけるな、一体俺の身に何が起こった。

 取り敢えず自分の記憶を洗ってみる。最後に俺が見た光景、聞いた言葉、出来るだけ詳しく思い出せるように集中する。

 「………………………………」

 どうやっても今朝のカズミネとの会話辺りでプッツリと途切れてしまう。どうやらそれが俺がこうなるに至った原因究明の手掛かりらしい。いや、原因なんて一つしか思いつかない。

 今朝の詳しい会話までは、思い出せなかったが、その後のカズミネのスーパーフルボッコタイムについてはしっかりと体に痛みが刻まれていたので忘れようにも忘れられない。

 つまり、俺が朝から夕方までまるまる昏倒する事になった原因とは、

 「ふざけんなカズミネぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!」

 誰も居ない教室で叫ぶ。怒りに身を任せる。

 そもそもカズミネが暴力を振るった原因が俺にあるとかそんな事もチラッとは思ったがどうでも良い。

 俺は自分自身の責任をダストシュートして席を勢い良く立ち上がる。

 「覚悟してろよ………!倍返しじゃ済まさん。泣いて謝るまで殴ってやるからなカズミネ!」
 「はいはいカズミネです」
 「………………」

 いつの間にやら、俺の後ろにはカズミネが座っていた。視線がぶつかると、カズミネはニコッと人当たりの良い笑みを浮かべる。

 「………………」

 取り敢えず俺も座る。カズミネは俺の方へと視線を固定したままニコニコと笑う。

 「………………」
 「………………(ニコニコ)」
 「………………………………すいません」

 素直に謝ったら、普通に許してくれました。
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