ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学年トーナメント戦 本戦編

3話 調和と混沌と

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 「大丈夫かなぁシュウヤ」
 「やっぱり親友として心配ですか?」

 隣の席の星叶美弥からそんな言葉をかけられた。春日原和嶺はうーんと首を捻る。

 「別に勝敗の心配はしてないんだけどなぁ」
 「だけど?」
 「………星叶さん、シュウヤが一度だけ学年戦で準優勝したってのはもう話したっけ?」
 「いや初耳ですよ!!田中さんそんなに強かったんですか!?」

 どっひゃぁぁ!と言って椅子の上で仰け反る美弥を見て、和嶺は苦笑する。相変わらず良い反応をする女の子だ。彼女はクラス内でも男子とも積極的に話してくれて、関わりやすい女子として認識されており、男子からも女子からも非常に好感を持たれている。

 だからと言って和嶺が美弥に特別な感情を抱く事はないのだが。

 「ええっとそれで、田中さんの準優勝がどうかしたんですか?」
 「当時のシュウヤが本戦決勝戦を決めた大事な試合、要するに準決勝の相手が丁度今と同じ、愛川さんだったんだよ」
 「因縁の対決って訳ですね!くぅ~!燃えます燃えます燃え上がりますよー!」
 「シュウヤはその時の相手を忘れてたみたいなんだけどね。それに愛川さんが一方的にシュウヤを特別視してるだけだから因縁ではないと思うよ」

 そうなのだ。

 愛川美里は田中終夜を

 同じ生徒会に所属する和嶺は、生徒会室で美里との会話を行う機会が多々存在した。その会話内容は、和嶺が終夜の親友ということもあってか、殆ど終夜についてのことばかり。

 美里本人としては終夜に対する悪口を言っているつもりなのだろうが、第三者かずみね視点で言わせてもらえば、悪口を言うその姿は恋する乙女に他ならなかった。

 準決勝で自分を敗った終夜に対し、美里はどうやら興味を抱いていたようだ。確かに、終夜と美里の能力は酷似しており、終夜に敗北した事はショックであると同時に興味を抱くキッカケにもなったのだろう。そのため、生徒会室での二人の会話は基本終夜についての事となっていた。

 『ちょっと聞いて春日原。今日、田中終夜と学校の廊下ですれ違ったんだけど挨拶もしなかったのよ!』
 『田中終夜ったら中庭で昼寝してたのよ。全く……いくら気持ち良いからって外で寝てたら風邪引くかもしれないじゃない』
 『最近、学年戦の本戦にアイツ出場してないじゃない。一体何してんのかしら!訓練とかしてあげないといけないわね!』
 『今日、田中終夜とお昼ごはん食べた?アイツの今日の献立は?キュウリ?相変わらずポイントがない貧乏人ね!……何か作ってあげようかな』

 和嶺に言わせれば、知らんがなの一言である。いつか美里に「シュウヤの事好きなの?」と尋ねたら「ち、ちちちちゃうわい!好きだなんてそんな訳あるかい!」と勢い良く否定した。

 しかし好きではないのなら、美里が終夜に抱いている感情とは一体何なのだろうか。和嶺にはそれがさっぱりわからない。

 「………まぁ、シュウヤが変な事を言わなれけば大丈夫か」

 和嶺は一人燃え上がる星叶を置いて、フィールドに立つ親友へと視線を向けた。

◆◆◆

 ドヤ顔でこちらに腕章を見せつけてくる愛川に対して、俺は何の反応も見せる事が出来ずにいた。

 愛川が生徒会メンバーになったという事は、即ち

 以前カズミネから話は聞いていたのだ。カズミネが普段使っている《不可視の神手》(俺命名)も生徒会に所属した際に渡された能力なのだとか。生徒会に限らず、放送委員やら美化委員やら、全ての委員会には所属すると与えられる能力があるらしい。

 カズミネが自身の能力を使いたがらない理由までは知らないが、取り敢えず生徒会に所属する事により、新たな能力が得られるんだとは理解した。

 これで一気に勝敗が怪しくなってしまった。

 愛川が生徒会に所属しておらず、自分の能力だけしか所持していなかったのならば、十中八九俺の勝利だったはずだ。能力的に互角の俺達の勝敗を分けるのは、戦略だ。俺は愛川より、戦闘時の駆け引きが上手い自信がある。

 だが、愛川が能力をもう1つ得たとなると話は別だ。1つの時点で互角だった俺達は、愛川がもう1つ能力を得ることによりそのパワーバランスは崩壊する。

 愛川が手に入れた能力は決してカズミネと同じ訳ではないのだろうが、生徒会としての実力に見合う能力なのは間違いない。

 全く……厄介になりやがって。

 『それでは、本戦第一回戦一組目の試合を開始します!』

 ブザーの音と共に俺達を包み込む様にして展開される防護陣プロテクト。視界が淡い水色に染まったその瞬間、勢い良く地面を蹴ってバックステップ。強化された身体能力のおかげで、俺と愛川の距離は10メートル近く離す事が出来ていた。

 愛川は不敵に笑ったままその場を動いていなかった。

 「私がどれだけこの時を待っていたと思うのよ!さぁリベンジマッチよ!」

 愛川はそう叫ぶと同時に右手を天に向けて突き出した。あの構えは見た事がある。あれは、愛川の能力使用の前触れだ━━━━!!

 「《調和への誇りコスモスプライド》」

 パチン、と指を鳴らした軽快な音がフィールドに響く。けれど俺は

 次の瞬間、ブゥゥゥンと防護陣の右側から波紋が立っていた。くそっ、もう《完全遮断フルブロック》を発動させてしまった!

 俺はその場に留まる事を止めて、強化された身体能力の限界まで引き出すつもりで駆け出した。だがこの行動も、あまり意味はない。

 何故なら愛川の能力《調和への誇りコスモスプライド》は自身の速度高速化なのである。防護陣による身体強化をさらに上回る速度まで引き上げられた愛川はもはや目に見えない。

 世界を置き去りにしてしまう程の速度で動き回る愛川を捉えられる奴は、現段階ではこの世界に存在しないのだ。まぁあくまで現段階では、だが。

 見えない攻撃は超強いと、以前カズミネに力説したような思い出があるがそれは実体験によるものなのだ。愛川の《調和への誇りコスモスプライド》も見えない攻撃に該当するだろう。じゃあここで1つ問題だ。

 

 答えは単純。俺も似たような能力であるからだ。

 フィールドの端っこまで走りついた俺はすぐさま方向転換し、フィールドの全貌を見渡す。勿論、愛川が目に見える訳はないが、それは今から捉えるので問題ない。

 俺は左手を天に突き出すように構えた。使うぜ俺の能力━━━━!!

 「《混沌なる誇りカオスプライド》!!」

 そう叫んで指を鳴らした。

 瞬間、世界の色が灰色に染まった様に見える。色が失われていく世界で唯一、色を保ったままの存在がフィールド中央に立っていた。愛川だ。すげぇ睨んでくるじゃん。なんで?

 俺は愛川の睨みから逃げるようにギャラリー席へと視線を動かした。そこには、。正確には完全停止しているのではなく、超スローモーションになっているだけなのだが。

 さて、ここまで言えば俺の能力は理解してもらえただろう。愛川と能力では互角と言った理由も、俺が前回愛川に勝利した理由も。

 俺の能力、《混沌なる誇りカオスプライド》は世界の遅延化なのだ。俺以外の全てを遅くする、世界に手を掛ける能力なのだ!フハハハハハハハハ!!

 愛川とは能力が似ているとは言っても、それは能力がもたらす結果のみで、俺達は根本的な所が大きく違っている。

 調和コスモスを求める愛川は自身の高速移動だが、混沌カオスを求める俺は俺以外の全てを遅らせる能力だ。

 この2つの能力を同時に使用することで、結局自由に動けるのは、俺達二人のみとなっているのだ。俺が遅延させた世界で自由に動けるのは、高速移動を可能とする愛川だけだし、高速化を果たした愛川を捉えられるのは、全てを遅延させ愛川の高速移動でさえも抑える俺しかいない。

 「つまりこっからが本当の勝負って訳だな」

 誰にも観戦されない、観戦出来ない速度で、俺達は二人だけの試合を開始する━━━!!
 
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