ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学年トーナメント戦 本戦編

5話 親友の頼み

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 『な、何が起こっていたのか、放送委員である私にも見えませんでしたが、勝敗は決まっていましたー!!本戦第一回戦一組目の勝者は、A組の田中終夜君だぁぁ!!』

 わぁぁぁぁ!!と一部だけ湧き上がる歓声。これは勿論我等がA組のものである。佐藤先生を筆頭にけたたましく雄叫びを上げている。いや、本当に雄叫び上げてるのは佐藤先生くらいだな。はしゃぎすぎだろ教師。

 こんな一部しか盛り上がっていないのも当たり前か。なにせギャラリー席にいる生徒達にとっては何が起こっていたのかすら見えていない世界での試合だったのだ。愛川がやっと姿を現したら、その瞬間に防護陣プロテクトが破壊されて終了なのだ。因みに開始から終了までの所要時間はおよそ30秒。本当あっという間でしたね。

 俺の能力を知っているクラスメイトからすれば、試合を見る事が出来なくても俺が勝利したとわかればこんなにも喜んでくれるのだが、他のクラスはやはりそうはいかないみたいだ。

 でもまぁ勝ちは勝ち。俺は両手をついて項垂れている愛川へと近づく。その肩をポンと優しく叩いた。

 顔を上げる愛川。潤んだ大きな瞳には、反射して俺の顔が映っている。瞳の中の俺は最高の笑顔をしていた。

 「出直してこいアホ」
 「うっわ腹立つムカつくイライラする!!貴方の口車になんて乗らきゃ勝ってたのは絶対に私のはずだったのにぃー!」
 「あんなボロボロの廃車寸前な口車に乗るのは愛川くらいだろうな」

 そもそも乗車させる気もなかったんだが。後、乗ってなくても勝ってたのは多分俺。隕石降ってきたり、ビックバンが巻き起こったり、佐藤先生が結婚したりすれば勝敗はわからなかった。つまり100パーセント俺が勝つ。

 今度は地団駄ではなく、右拳をひたすら地面に叩きつけている愛川。コイツのリアクション面白いな。

 えぐえぐ泣き出しそうになったので、俺は慌てて愛川を起こしてハンカチで顔をぐしぐし拭ってやる。

 「あーあー泣くなって。ほらじっとしてろ顔拭いてやるから」
 「えっぐえっぐ……うるしゃい」

 うるさい、とは言いつつされるがままな愛川。よし、これで綺麗になったな。まだ眼の周りは赤く腫れぼったいが、だいぶ美少女に戻った。

 涙で濡れたハンカチをポケットにしまう。そろそろ次の試合の組み合わせも発表される事だろう。ギャラリー席に戻らねば。そう思って愛川に背を向け歩き出そうとした。

 しかしその歩みは急に止まる。でも足は動かしてる。その場から動いていないだけだ。おかしいな?俺はいつからランニングマンを習得したのだろう。

 そんなの事を思っていたら肩に痛みが走る。手で掴まれているようだ。いってーな。後ろを振り向くと、やはり俺の肩を掴んでいたのは愛川だった。

 「何だ愛川。そんな力強く握ったら肩が壊れちゃうだろうが」
 「貴方が止まらないのが悪いんでしょうが」

 えぇー?止まってたけどー?足は動いてたけど、その場から動けてませんでしたけどー?なんて言葉は胸に仕舞い込んでおこう。触らぬ神に祟りなしだ。既に触られてるけど。

 愛川を見つめると、軽く視線を逸らされた。なんでじゃ。呼び止めといて視線逸らすんかい。

 「次は絶対に、負けないんだから」
 「………?おう」

 妙に唇を尖らせてリベンジを申し込まれた。試合開始に見られた刺々しさは、今の愛川からは感じられない。何を思っているのかさっぱりわからないが、取り敢えず了承の返事をしておく。まぁ人の思考なんてそう簡単にわかるものでもないか。山田さんは例外。

 伝えたかった事はどうやらそれだけだったらしく。愛川は俺を置いてサッサと走り去って行った。その背をポツンと見送る。

 ………………俺も戻るか。フィールドを後にして、ギャラリー席へと向かった。

◆◆◆

 「お疲れ様シュウヤ。何か酷いこと言われたりした?」
 「ああ言われたな、馬鹿だアホだの記憶力大丈夫だの。後、凄い睨まれたな。よほど恨まれてたらしい」
 「それにしてもさっき愛川さんに捕まえられてましたよね?何があったんですか?」
 「次は負けない、だとさ。闘う機会があるかもわからないのにな」
 「再戦を誓いあったライバルって訳ですね!好敵手と書いてライバルと読む!これは見逃せませんよぉー!」

 星叶の見ているであろうアニメの趣味が俺と合いすぎ。友情努力勝利は大好物だ。

 『それでは次の試合の組み合わせを発表します!』

 ざわついていたギャラリー席が静まり返った。カズミネはいつも通りの表情だが、星叶はやはりいくらか硬い。本戦になると、対戦相手のレベルも格段に上がってくる。予選以上の緊張を抱くのは当たり前だ。

 俺はいくらか軽い気分で次のアナウンスを待つ。この試合の勝者が、2回戦で俺と対戦する事になる。誰が来ても、俺の能力にはなんら変わりないので、焦っても意味なんてない。

 『本戦第一回戦二組目、まずはこの方!Fブロック優勝、上梨西我せいが君!』

 ふむ、上梨か。

 上梨もかなりの強者だ。能力が強いのは勿論の事、能力に引っ張られる事のない自分自身の強さも兼ね備えている。余程の事がなければ、上梨が負ける事なんてないだろう。

 2回戦の相手は上梨になるだろうな。

 『そして対戦相手はこの方!Bブロック優勝、春日原和嶺君!!試合は10分後開始となります!お二方、準備をよろしくお願いします!!』
 「なっ……」
 「春日原、さん?」

 思わず声が漏れた。それは星叶も同様で、二人の間に座るカズミネを一斉に見る。

 カズミネはいつもの笑みを消す事なく立ち上がった。

 「そりゃ本戦に4人もA組が出場してるんだからさ、初戦から当たっても不思議じゃないでしょ」
 「それは、そうですけど……」

 星叶の声は沈んでいた。決勝の様な大舞台で同じクラスどうし当たるのは燃え上がる展開かもしれない。でも初戦から潰し合うのはあまり星叶にとって好ましくないのだろう。

 誰にでも分け隔てなく接してきた星叶だ。過ごす時間は俺やカズミネの方が長かったとしても、上梨も同じクラスメイトには違いない。どちらか片方に肩入れするのは、とても辛いはずだ。

 それでも俺は違う。

 「勝てよカズミネ」
 「うん」

 俺は親友であるカズミネを全力で応援する。その様子を見た星叶は俺に悲しそうな視線を向けてくるが、それも見なかった事にする。

 俺は闘いたい。カズミネと。この学年戦という舞台で。

 俺達は今までつるんで来たが、試合を行った事だけはなかった。だからカズミネが上梨に勝利すれば、記念すべき俺達の初試合となるのだ。

 自分勝手なのはわかってる。我儘なのも承知の上だ。それでも俺はカズミネと闘いたい。

 きっと同じ事を思ってくれているであろうカズミネは、俺にニコリと微笑んでギャラリー席を後にした。
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