37 / 54
学年トーナメント戦 本戦編
11話 いないいない
しおりを挟む
医務室へと上梨を運び込んだ後、上梨の側から離れようとしない山田さんを残して俺はギャラリー席へと戻っていった。別れ際に見た山田さんの表情を俺は忘れる事が出来なかった。あの悲しそうな表情に、俺は何の気の利いた事も言えず、ただ黙ってその場を去る事しか出来なかった。
いや、そもそも山田さんが求めているのは俺の言葉ではない。彼女が一番耳にしたいのは、上梨西我ただ一人の声だけなのだから。
主人公とそのヒロインを傍から見るとこんな感じなのか、と感慨を抱きもしたが、俺自身が彼等の物語に必要ではないと突きつけられた気もしてショックだ。だからと言って、無理矢理俺の存在をねじ込むなんて無駄な努力もしたくないし、本戦は未だに終わっていない。俺は俺のやるべき事をするだけだ。
◆◆◆
場所を移してギャラリー席。
只今俺の視界はぶれっぶれに揺れていた。あうあうあう、と出すつもりもない声が出る。肩をガックンガックン揺らされるとこんな声が出んのか。勉強になったわ。
「なんで私を置いていったんですか!あまりの展開の速さについていけてなかったんですよ!春日原さんは怖くなるし、田中さんはさっさと行っちゃうし、綺麗な女の人が出てくるし、山田さんと二人で上梨さん運んで行っちゃうし!!残された私は何をすればよかったんですかぁー!」
「あうあうあーすまん星叶。すっかり忘れてたわ」
「すまんで済んだら警察はいりませんよ」
「警察沙汰にするつもりなのかよ」
うがぁー!と星叶は性懲りもなく俺の肩を揺さぶる。事実、俺は星叶を置いていったので特に反発もせずに受け入れている。いやホントに忘れてたわ。手すり付近まで連れてきたのは良いけど、そっから完全置いてけぼりだったわな。
暫く揺さぶって満足したのか、やっと俺の肩から手を離してくれた。だか少しふくれっ面だ。もしやまた揺する気ではなかろうな?警戒した俺は星叶との距離を取ったが、速攻で詰めてきたので諦める事にした。
「まぁこのくらいで許してあげますよ。今度はちゃんと私も関わらせて下さいね」
「わかったよ。次があるなら星叶も連れて行くさ」
「約束ですからね」
次の機会なんて来なければいいんだが、なんて言葉が出かかったが必死に飲み込む。星叶は自分が何も出来なかった事を真剣に悔やんでいたし、何よりその表情が何とも愛おしかったからだ。危ねえ。危うく星叶に攻略される所だったわ。
『試合開始の準備が整いましたので、本戦を再開死体と思います!!それでは第一回戦三組目の発表です!』
アナウンスがスタジアムに響いた。続けてフィールドに視線を向けると、そこには既に誰の姿も見えない。カズミネと会長はどこに行ったのだろう。でも学年戦を再開出来るという事は、一大事なんてのは起こってないみたいだ。
隣の星叶を見てみると、既に緊張なんて言葉は忘れているみたいだった。本戦出場者で試合を行っていないのは、星叶を含め残り4人。恐らく次くらいに、星叶の試合は来るだろう。
『それでは組み合わせを発表します!まずはDブロック優勝者、星叶美弥さん!!そしてCブロック優勝者、仁木峰子さん!!試合開始は10分後となりますので、お二方準備の方をよろしくお願いします!!』
やはりか。星叶もわかっていたのか、落ち着いた様子で席を立つ。そして俺にびしっと指をつきつけてくる。こら、人に指を指すんじゃありません。
「応援、よろしくお願いしますね」
「………ああ。任せとけよ」
フンス、と鼻息を鳴らして星叶はフィールドへと降りて行った。本来なら俺一人で応援するはずなんかではなかったんだけどな。後一人、座っているべき空白の椅子に視線を向ける。当たり前だが、そこには誰もいない。
カズミネはいない。
◆◆◆
結果だけ述べれば、星叶の快勝だった。勿論、対戦相手も十分な強者であったのには変わりない。それでも星叶の方が更に強者であった。ただそれだけの事。
次の試合も、星叶と二人でなんとなくで応援していた。知らない奴達が一生懸命に闘っていた。俺はそれをどこか空虚な気持ちで見ていた。
そして二回戦が始まった。アナウンスで俺とカズミネの名前が呼ばれた。星叶から、フィールドに行く前に沢山の応援を貰って、苦笑して降りて行った。
試合開始の5分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の3分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の1分前。来ているのは俺だけ。
そして試合開始。来ているのは俺だけ。
カズミネは来なかった。
不戦勝で俺の決勝戦進出がアナウンスで告げられた。何も言わずに、俺はギャラリー席へと戻った。星叶は何か声をかけてくれていたが、あまり聞いていなかった。上の空だった。
そこからあっという間に試合は進んだ。次の決勝戦は星叶と試合する事になった。星叶相手には初めて俺の《混沌なる誇り》を使用した。発動には、左手を掲げての指パッチンが必要なのだが、星叶がなかなか発動させてくれなかった。《完全遮断》も発動してしまったが、試合中盤にやっと俺の能力を使う事が出来て、逆転勝利した。これで俺の学年戦優勝が決定した。
初めての優勝に嬉しさ半分、戸惑い半分と言った所だ。表彰式では緊張のあまり、歩く際に手と足を同時に出して、会場の笑いを誘った。表彰状を貰った後は、A組全員が大声で褒めてくれた。
いや、全員じゃない。カズミネが、いない。
一番に優勝を伝えたい奴はここにはいない。カズミネはあの試合から帰ってこなかった。A組の誰も、あれからカズミネを見かけた奴はいなかったらしい。
俺は星叶と、一瞬暗い表情を浮かべてしまったが、直ぐに笑みを浮かべる。今はそんな顔は相応しくない。せっかくの優勝だ。笑っていなくちゃ。でも、一緒に笑いたかったカズミネは、いない。
こうして、今月の学年戦は幕を下ろした。
いや、そもそも山田さんが求めているのは俺の言葉ではない。彼女が一番耳にしたいのは、上梨西我ただ一人の声だけなのだから。
主人公とそのヒロインを傍から見るとこんな感じなのか、と感慨を抱きもしたが、俺自身が彼等の物語に必要ではないと突きつけられた気もしてショックだ。だからと言って、無理矢理俺の存在をねじ込むなんて無駄な努力もしたくないし、本戦は未だに終わっていない。俺は俺のやるべき事をするだけだ。
◆◆◆
場所を移してギャラリー席。
只今俺の視界はぶれっぶれに揺れていた。あうあうあう、と出すつもりもない声が出る。肩をガックンガックン揺らされるとこんな声が出んのか。勉強になったわ。
「なんで私を置いていったんですか!あまりの展開の速さについていけてなかったんですよ!春日原さんは怖くなるし、田中さんはさっさと行っちゃうし、綺麗な女の人が出てくるし、山田さんと二人で上梨さん運んで行っちゃうし!!残された私は何をすればよかったんですかぁー!」
「あうあうあーすまん星叶。すっかり忘れてたわ」
「すまんで済んだら警察はいりませんよ」
「警察沙汰にするつもりなのかよ」
うがぁー!と星叶は性懲りもなく俺の肩を揺さぶる。事実、俺は星叶を置いていったので特に反発もせずに受け入れている。いやホントに忘れてたわ。手すり付近まで連れてきたのは良いけど、そっから完全置いてけぼりだったわな。
暫く揺さぶって満足したのか、やっと俺の肩から手を離してくれた。だか少しふくれっ面だ。もしやまた揺する気ではなかろうな?警戒した俺は星叶との距離を取ったが、速攻で詰めてきたので諦める事にした。
「まぁこのくらいで許してあげますよ。今度はちゃんと私も関わらせて下さいね」
「わかったよ。次があるなら星叶も連れて行くさ」
「約束ですからね」
次の機会なんて来なければいいんだが、なんて言葉が出かかったが必死に飲み込む。星叶は自分が何も出来なかった事を真剣に悔やんでいたし、何よりその表情が何とも愛おしかったからだ。危ねえ。危うく星叶に攻略される所だったわ。
『試合開始の準備が整いましたので、本戦を再開死体と思います!!それでは第一回戦三組目の発表です!』
アナウンスがスタジアムに響いた。続けてフィールドに視線を向けると、そこには既に誰の姿も見えない。カズミネと会長はどこに行ったのだろう。でも学年戦を再開出来るという事は、一大事なんてのは起こってないみたいだ。
隣の星叶を見てみると、既に緊張なんて言葉は忘れているみたいだった。本戦出場者で試合を行っていないのは、星叶を含め残り4人。恐らく次くらいに、星叶の試合は来るだろう。
『それでは組み合わせを発表します!まずはDブロック優勝者、星叶美弥さん!!そしてCブロック優勝者、仁木峰子さん!!試合開始は10分後となりますので、お二方準備の方をよろしくお願いします!!』
やはりか。星叶もわかっていたのか、落ち着いた様子で席を立つ。そして俺にびしっと指をつきつけてくる。こら、人に指を指すんじゃありません。
「応援、よろしくお願いしますね」
「………ああ。任せとけよ」
フンス、と鼻息を鳴らして星叶はフィールドへと降りて行った。本来なら俺一人で応援するはずなんかではなかったんだけどな。後一人、座っているべき空白の椅子に視線を向ける。当たり前だが、そこには誰もいない。
カズミネはいない。
◆◆◆
結果だけ述べれば、星叶の快勝だった。勿論、対戦相手も十分な強者であったのには変わりない。それでも星叶の方が更に強者であった。ただそれだけの事。
次の試合も、星叶と二人でなんとなくで応援していた。知らない奴達が一生懸命に闘っていた。俺はそれをどこか空虚な気持ちで見ていた。
そして二回戦が始まった。アナウンスで俺とカズミネの名前が呼ばれた。星叶から、フィールドに行く前に沢山の応援を貰って、苦笑して降りて行った。
試合開始の5分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の3分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の1分前。来ているのは俺だけ。
そして試合開始。来ているのは俺だけ。
カズミネは来なかった。
不戦勝で俺の決勝戦進出がアナウンスで告げられた。何も言わずに、俺はギャラリー席へと戻った。星叶は何か声をかけてくれていたが、あまり聞いていなかった。上の空だった。
そこからあっという間に試合は進んだ。次の決勝戦は星叶と試合する事になった。星叶相手には初めて俺の《混沌なる誇り》を使用した。発動には、左手を掲げての指パッチンが必要なのだが、星叶がなかなか発動させてくれなかった。《完全遮断》も発動してしまったが、試合中盤にやっと俺の能力を使う事が出来て、逆転勝利した。これで俺の学年戦優勝が決定した。
初めての優勝に嬉しさ半分、戸惑い半分と言った所だ。表彰式では緊張のあまり、歩く際に手と足を同時に出して、会場の笑いを誘った。表彰状を貰った後は、A組全員が大声で褒めてくれた。
いや、全員じゃない。カズミネが、いない。
一番に優勝を伝えたい奴はここにはいない。カズミネはあの試合から帰ってこなかった。A組の誰も、あれからカズミネを見かけた奴はいなかったらしい。
俺は星叶と、一瞬暗い表情を浮かべてしまったが、直ぐに笑みを浮かべる。今はそんな顔は相応しくない。せっかくの優勝だ。笑っていなくちゃ。でも、一緒に笑いたかったカズミネは、いない。
こうして、今月の学年戦は幕を下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画
及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。
【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】
姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。
双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。
だが、この公爵家、何かおかしい?
異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。
一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。
ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳
バーディナ伯爵家令嬢
✖️
ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳
キングスフォード公爵
ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。
とても励みになります。
感想もいただけたら嬉しいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる