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メビウス

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第2章 その石、危険につき

第17話 自動化は大変です

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弦を引く機構の自動化にあたって、まずはボウガンの仕組みを理解しておく必要がある。ボウガンは別名クロスボウといい、本体…弓床という台の先端に、弓が交差するように取り付けられている。

そして装填の仕方だが、普通の弓は矢と一緒に弦を引くことで発射できるようになるが、ボウガンはこれとかなり異なる。まず、先に弦だけを引っ張り、それを引き金と連動した留め具に引っ掛ける。その後に、矢をセットすることで装填が完了する。

だから発射した後、自動的に弦が留め具まで引っ張られる仕組みを作れば良い、ということだ。うーん、あまり複雑にするとこっちが分からなくなるし、機構はなるべく簡単にしよう。コアの作動は、引き金を引くのと同時でいいかな。

動く部分はどう作ろうか?ボウガン後方に弦を引く装置を取り付けて、ピストン運動式で引っ張ってもらおうとも考えたが、それだと留め具に引っ掛かって弦をセットできない。引っ張る時少し上にブレるようにすれば良いのだが、生憎それができるような知識も技術もない。

だから、考え方を変える。引っ張るのではなく、押してもらうのだ。そう、留め具自身に。簡単に言うと留め具自体が動くようにする。弦を引くにあたってとにかくネックだったのが、そこに留め具があるということ。留め具が引き金と連動しているからこそ、引き金を戻した時、同時に戻ってしまうのだ。

だから、その概念を覆す。まず、引き金はボタン式にする。そしてそれに連動する留め具の動きも変更。従来のように引き金を引くことで前に倒れるのではなく、下に沈み込む。その後、潜り込んだ中…弓床の内部を移動し、弦の少し手前で浮上。弦を引っ掛けて今度は弓床の上を滑走して引き金の上に戻る。

つまるところ、コンベアー式だ。弓床の内部と上部に、それぞれ一方通行の移動経路を用意し、発射ボタンに付けた蒼粒石のコアの発動を皮切りに、一連の動作をしてもらう。理論上はこれで行けるはずだ。

「って感じなんだけど、どうかな?」

僕が今までの一連の考えを、紙に描いたりしながらハルに説明したところ、ハルから返ってきたのはこんな答えだった。

「うーん、ボタン式にするのは良いと思う。でも、そこまで複雑にしなくてもいいんじゃない?」

「というと?」

「えっとね、要は留め具がなければ後ろから牽引できるんだから、そっちの方が簡単なんだけどなーって」

「……なるほど、確かにそうだね」

今のハルの意見を簡単に説明すると、矢を発射した後、僕は留め具がボウガン内を一周して、その過程で弦を引っ掛けて戻るものだと考えた。一方ハルは、留め具が沈み込んでいる間に弦を後ろから引っ張り、弦を引き終わってから留め具が戻るようにすれば良い、とした。…なんで気付かなかったんだろう。

早速それを作るにあたって、まず大変だったのは、発射の瞬間留め具が沈み込む機構。ボタンをコアにするのは決まっていたので、留め具の下に小型のピストンを設置。作動と共に留め具を引き込むようにした。初期状態を伸ばした状態にすることで、コアの発動を受けて引き込め運動が出来るのは、少し実験したら確認できた。作るのは大変だったけど。

そうしたら次は、弦を引っ張る機構。これも宝石で動かせばいいか。それと、弦を引き切った時点で留め具を戻したいので、コアの発動を解除させる必要がある。色々なパターンを実験した結果一番シンプルだったのは、コアの発動時間を予め調整する方法だった。そのやり方も単純で、コアの作動時に与える刺激の強さを調節するというもの。

これは、以前僕が槌を起動させた際、コアに触れる力の強さで出力が変わるという性質を利用したものだ。あの時は、武器自体の設定で稼働時間が60秒に固定されていたから、出力を変化させることができた。では、逆に今回のように出力が固定されている場合はどうなるか?

答えは簡単、稼働時間を変えられるのだ。とすると、当初はボタンそのものをコアにする予定だったが、ボタンを押した時、内部でコアが押されてその刺激で作動する方式に変えた方が良い。これなら、ボタンを押し込める限界を予め設定することで、同時にコアに対して与える刺激の強さも調整できる。

ここから先はひたすら実験だった。どの強さでの刺激がベストタイミングか、その強さで押すために設定すべきボタンを押し込める限界点はどこか。ハルと協力しながら、科学者のように実験に没頭し、それが実を結んだのはゲーム内朝の5:00前、窓の外が薄明るくなった後だった。

「ふぁ~あ、何とか出来たね…」

「うん…まさか、ここまで自動化が大変だったとは」

僕は当初、何回もやったことのある武器の改造の方が楽だと思っていた。しかし、蓋を開ければこっちの方が2倍以上時間がかかってしまった。勿論、殆ど自動で弦を引く機能を導入しようとしたせいなのだが、それでもナメていたのは事実だ。

僕達が普段現実で使っている道具は、皆ここまで大変な思いをして作られたのか。最も、昨今の製品開発は殆どがロボット…つまり自動化されているわけだが。いずれにしろその高性能ロボットを開発するのに要した労力は凄まじいものだろう。よもや、ゲーム世界で社会勉強ができることになろうとは。

人間は誰しも楽な方向に進みたがる。だが、それは必ずしも「怠慢だ」と言われ蔑まれるべきではない。現に、今僕達の生活を支えている多くの便利製品は、どれも人間が、将来的に楽をするために注がれた努力の結晶だ。今回のボウガン作りを経て、それを身をもって知った。

「…【統合強化】」

今までの苦労を思い出すように、噛み締めるように、僕は頭の中でそれを何度も反芻しながら最後の組み立てを行なっていく。近いうちに、カンナさんの調薬装置も自動化しよう。それは決して僕にとって楽な方法ではないし、楽をできるのも僕ではない。それでも…。

ーーー統合強化に成功しました。『初心者のボウガン:改』『ダークスパイダーの鋼糸』『蒼粒石』『小型フックショット』は『暗殺者のボウガンRCラピッドチャージ』に統合強化されました。

ーーー職業レベルがアップしました。(Lv.16→20)

ーーー鍛治職人Lv.20に到達。スキル【精錬】を獲得しました。

ーーー職業レベルがLv.20に初めて到達しました。転職システムを解放しました。職業レベルがLv.20以上の時、転職が可能になります。

ーーー称号《木工職人の一番弟子》を獲得しました。称号《木工職人見習い》は統合されます。

ーーー称号《宝石技師》を獲得しました。称号《宝石使い》は統合されます。



プレアデス Lv.20
種族:ホムンクルス/職業:鍛治職人Lv.20
HP:400(+250)
MP:155(+360)
STR:50(+50)
VIT:20(+50)
AGI:0
INT:45(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:25

SP:0

頭:なし
胸:バトラースーツ
右手:噴炎する恐牙の戦槌ブーストファング・ウォーハンマー
左手:-
脚:バトラートラウザーズ
足:執事の革靴
特殊:蒼穹のタリスマン
特殊:執事の手袋

所持金:17900G

満腹度:30%

装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加エンチャント(火炎) 《火傷》付与(中) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒)

称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者ジェム・コレクター》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》

スキル:【統合強化】【硬化】【金属探知】【宝石片弾ジェム・ブラスト】【ジェットファング】【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】【脆弱化】【ジェノサイド】【分解】【精錬】

チェインスキル:【連鎖誘爆】
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