アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
上 下
50 / 178
第3章 蒼粒石の秘密

第7話 宝石の電線

しおりを挟む
『玉鋼の刃(精錬)』☆6
売却不可。鉄からの精錬で充分な酸素を行き渡らせることで、極めて純度の高い玉鋼となった刃。その美しさと切れ味は一級品。この素材を使用して刀を錬成した場合、刀のATK+20。

「まさか、鋼を超えて玉鋼が出るとは…よっぽど送風頑張ったんだね、ハル」

「いやいや、ボクだって狙ってやったわけじゃないから…でも、ほんとに凄い素材が出来ちゃったね」

結果論だが、ATKの高い刀を作りたい今、これほど適した素材はないだろう。どうやら、酸素を常に送り込むやり方は合っていたらしい。だとしたら簡単すぎだけどね。現実では「たたら製鉄」というやり方で、物凄い労力を費やして製造するのだ。きっと、他にも何か隠し条件でもあるのだろう。流石に。

さて、思わぬ収穫で元気が出たので、続き頑張っていくぞ。思念を宝石に乗せるにあたり、それを感知し受容するための機構が必要だ。コアの中心部をわずかに弄っていく。この辺はもう感覚だ。ただ、頭に浮かぶ直感的なイメージを頼りに指先を動かしている。

大体1時間くらいで、ようやくその機構を作り終えた。思念を命令として変換し増幅するのは、蒼粒石のコアとしての元々の能力でカバーできるので加工しなくて良い。あと必要なのは、複数の機能を同時に制御するための機構。

コアをひっくり返し、裏側…柄の内部に接する部分に細工をしていく。これはまあ、ザッと分散するようなイメージで良いかな。エネルギーを伝達する経路が中心から各場所に分岐しており、その場所に対応した機能が発動するみたいな。恐らく強弱や時間の長短の制御はできなくなるが、オンオフができるだけ良いだろう。

一応それなりの数を分岐させたので、そう簡単に機能の追加をし切れないことはないだろう。まあ、その後のことはその時になってから考えればいいか。あとはこれを柄にセットして…よし!一先ずこれで完成!

「お疲れ様!」

即座にハルが労ってくれる。どうやら、僕が作っている間に外に差し入れを買いに行ってくれていたらしい。実際目を酷使して頭がとても疲れているので、ここで甘い物はありがたい。

「ありがと…ごめん、10分だけ寝かせて」

「うん、ゆっくりしてね」

………

休息完了。実は、ログアウト以外の目的でも寝ることはできるのだ。その場合でも、ログイン時間が延長されたりはしない。限界値に達すると強制ログアウトされる。ただそれでも、この世界で寝落ちしてログアウトしたいという人のため、また僕みたいに少しだけ仮眠を取りたい人のために、こういう機能はよく実装されている。

さて、あともう一踏ん張りだ。柄を作り終えたので次は刃だ。この神々しい玉鋼を、更に改良していく。といっても、素材の加工はしない。正直、素材で言えばこれ以上のものはそうそうないだろう。

では何をしていくのかというと。刀に付ける機能、それを実現するための準備だ。コアの方は完成しているので、機能を作ればあとはそれと繋げるだけだ。機能は刀身に付けたり、鞘に付けたりする。今回は刀身。ハルのことを考えて、物打ち付近で良いだろう。

まず、準備として蒼粒石を更に細かく砕き、粉末状にする。次に、それを刀身の内部に埋め込んでいく。もはや現実では物理的に不可能な作業だ。しかし、宝石技師の恩恵なのか、それとも蒼粒石自身の性質なのか分からないが、どうやらこうして粉末状にすると、玉鋼のような硬い素材にも浸透するらしい。

あ…また良いスキル思いついちゃった。今度試そうっと。と、それはさておき。こうして刀身全体の内部に蒼粒石の粉末を散りばめたら、柄と接続する。こうすることで、コアからのエネルギーを作用部分に送る電線のような役割を果たしてくれるはずだ。

え、不安定だから爆発するんじゃないかって?実はそれがミソなのだ。といってもこれは偶然の産物なのだが。実は少し前、不安定な蒼粒石の爆発について調べていたのだ。どれくらいのエネルギーで爆発するのか、その限界点について。

そして限界点が分かったのは良いのだが、ここで偶々発見したのは、爆発するより少ないエネルギーを通しても、爆発時ほどではないがエネルギーを放出する性質があるのだ。その量についても調べたところ、流したエネルギーと殆ど同じだったのだ。

ここから、蒼粒石を使用した電線を思いついたというわけ。流したエネルギー分放出するのなら、実質その蒼粒石自身のエネルギー収支はプラマイゼロ。つまり、またエネルギーを流しても同様に電線として使えるのだ。

実は、わざわざコアのエネルギーの出口を分岐させたのもこのためだ。コアのエネルギーは膨大で、粉末どころか、塊1個の蒼粒石でも余裕で爆発させる。勿論、それが安定化していれば良いのだが、正直いちいち安定化させるのは面倒だし、何より土台分のスペースがかさばる。

というわけで、この武器は非常に取り扱い注意だ。一応、出口の分岐だけでなく、簡易的ではあるが安全装置…エネルギーを一定以上流せないようリミッターを設けているが。思念によって操作できる以上、使用者の感情があまりに強大で不安定だと、そのタガが外れそうで心配なのだ。

この他にもコア自身について調べたりした。これがまた面白かったのだが、それは別の話。明日にでもガラムさんに報告する予定だ。そういうわけで意外と使っている技術の大半は実験で立証できているので、多少は安心して作ることができるのだ。

話を戻そう。刀に付ける機能だが、簡単にいうと刀身の強化だ。これ以上強化する余地はあるのか?と思えるが、いくら玉鋼が優秀で切れ味抜群とは言えど、相手が金属のように硬い装甲ともなれば、話は違う。

例えば、その辺にいる大抵のMOBは斬れるし、それはあの変異狼ですら同じだ。では、ロックギガースやゴーレムといった物質系MOBはどうか?答えは否である。このままでは、物質系には殆ど無力なのだ。

僕がいる時は良い。でも、僕がいなかったり、僕だけでは対処し切れなかったりしたら。同じく前衛であるハルに襲いかかるのは明白なのだ。それに、相手はMOBだけとは限らない。対人戦などで、ガラムさんのようなガチガチのプレートアーマーに全身を包んだ相手に、今のままではかすり傷一つ付けられない。

そこで、必要に応じて刃の性質そのものを一時的に変える。刃で斬るという一般的なものから、叩くという槌のようなコンセプトに。とはいえ、流石に刃の形を大きく変えてしまっては、元の状態に戻せなくなる可能性がある。そこでピッタリなスキルを使う。

そう、【硬化】だ。これによって得られる効果を、刀自身に記憶させる。そして、コアによってその発動を制御するのだ。言い方を変えると、刀を通じて僕の【硬化】を「その刀限定で」使えるようにするわけだ。

それと【再生】も同様に記憶させる。いくら刀身を強化しても、それで叩きまくればすぐに刃こぼれしてしまう。そうなった時に、自動で修復してもらうための【再生】だ。ステータスが下がるというデメリットまで引き継がれるかは気になるところだが。

それら2つをコアに発動するように、効果のイメージを思念としてコアに流す。不思議な感覚だ。自分の考えていることが、コアに流れていくのを感じる。微かに、光のような奔流が体内と、その先の刀身に流れているのが見えるような感じだ。

奔流が止まった。記憶が完了したようだ。目を開けると、少しMPが削られているのが見えた。もしや。僕は頭のメモ帳の調べるリストに、今の事象を追加する。これも、可能なら報告までに終わらせよう。

さて、あと少し完成だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:387

俺の番が最凶過ぎるっ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:374

処刑された悪役令嬢は敵国に華麗に転生する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:3,237

嫁かと思っていたらスパダリだったんだが…

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:21

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,265pt お気に入り:33

処理中です...