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憶えているところ

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お昼までに1度寮にもどって手紙を読んだ。

『今日の生徒会室でお話したいことがあります。10時にお時間頂けると幸いです。返事は明日の朝、食堂で。』

今は何時?
9時41分っ!?
これ、もう読んでないのバレてるよね?
返事…『今でなくては…』って…!
10時に会いたいって書いてる返事を
8時30分に答えないといつ答えるのよ…私と違って授業がある人なのに…。

こうなったら…、教室の前で待ち伏せしてやるっ!!

私の足の速さを持ってすれば19分あれば行けるっ!!

スカートが長いのが邪魔だから、少し持ち上げて走った。


「ハァッ…ハァッッ…まに…あっ…た………ハァッ……」

生徒会長のクラスまで…っと、どのクラスかわからないから、まず…ニコルお兄様にきかなきゃ……っ

私が着いてすぐ教室からワラワラと生徒がでてきた。

「ハァハァッ…ニコル…お兄様…生徒会長の…教室はどこですか?」

よかった…間に合った!

「アイリーン、何故ここに!?どうした?顔が赤いぞ?それに息もっ!」
「いえ…これは………」

……女子寮の私の部屋からここまで走ってきた…なんて言えない。私は今、か弱いアイリーン様なんだから!

「お兄様、心配なさらないでください。」

一体なにが?と聞きたそうだったので、ニコルお兄様の腕をクイッと引っ張って少し近づき、耳元で呟く。

「少し走って息切れしただけなのです。」
「そうか。なら体が弱いから、そうなってる事にしようか。」

私はコクコクと頷いた。

「用件は…バルガスの教室を探してるって?何かあるのか?」
「手紙の内容が、10時に生徒会室で会いたいって書いてて…それで…」
「へえ、俺に許可なく?手紙で……ねぇ…」
「……ニコルお兄様?」

怒ってる?

「アイリーン、心配だし一緒に行こうか?」
「いいんですか?」

出来ればついて来てほしい!!

「ああ、それじゃ一緒に、行こうか。バルガスの所へ」

廊下の突き当たりにある教室が、会長のいる教室らしい。

「アイリーン様!……と、何でニコが?」
「俺に内緒で妹と何を話そうとしてたんだ?」
「あ~、大したことじゃない…」
「へえ、じゃ何故目が泳いでるんだ?嘘はもう少し上手くつけるようになってからつくべきだと俺は思うけど?」

ニコルお兄様、嘘のつきかたの問題じゃなくて、嘘をついてる事が問題なんですよ!!

「ハァ…わかった。ニコも一緒でいい。」

会長はしぶしぶニコルお兄様も来る事を許可した。

「当然だろ」

…ニコルお兄様は、私には優しいけど友人と話す時はそうじゃないのかも。
うちのルークも、男友達と喋る時と私相手だと少し違うし、そういうものなのかな?


生徒会室にはグレアム様がいた。

うわ…何でいるの…。

「ああ、殿下もいらっしゃったんですね。」
「それはこっちの台詞だ。俺はアイリーンしか呼んだ覚えはないが?」
「うちのアイリーンと生徒会長が密会…なんて事を噂されればいい迷惑ですので。殿下も婚約者にそんな噂がたつのは本意ではないでしょう?」
「密会ってっ!!ニコ、そんなわけないだろ!」
「今、殿下とお話中なので、無暗に話しかけるのは無礼ですよ。バルガス生徒会長」

そこでニコルお兄様は微笑んだ。グレアム様級の胡散臭さっ!!

「…はい…すみません」
 
バルガスさん…簡単に圧し負けた…!!

「もちろん、そんな事に気がつかない殿下ではございませんから、心配など無用でしたね。申し訳ございません。」
「………」

ニコルお兄様、つよいっ!!


「あの、グレアム様、もしかして婚約破棄の件、前向きに考えて…」
「ない」

かぶせて言うことないでしょ!!

「…そうではなく『禁書』と……いや、『禁書』について詳しく聞きたかっただけだ。」
「禁書について…」

『禁書』という言葉を聞いてもニコルお兄様は何も変わらなかったけど、絶対つらいよね…。妹がそれに苦しめられてるんだから…。
それに対して、申し訳ないって気持ちは全くみられない。私が目覚めてるって思ってるからかもだけど、それとこれとは話が別っ!!

「前にも申し上げましたが、恋愛……男女の恋の話を書いてるだけです。」
「憶えている文章はあるか?」
「さぁ、3ヶ月も意識が無かったですから、そこまで詳しくは…」

憶えてる事があったとしても、教えないし!

「本を読んだ者は一年間は異性と深く接してはいけない…と書いてあったのだろう?」
「ええ」

憶えてない…と言いながら、憶えてるからそれを言ったんだろう…って事ね。

「アイリーン、俺も聞きたい。」
「お兄様……」

そうだ…私には今まで聞かなかったけど、きっと知りたかったよね

「わかりました。」

私は頷いた

「『これは棘《いばら》の恋。それでも貴方を愛してしまう。私を捉えるこの足枷を、壊して貴方に会いに行きたい』と書いてありました。」

文章をしっかり覚えてるのはそこだけ…1ページ目だけ。

「最後の方は破られていて、結末はわからないけど、でもきっとハッピーエンドだって思う!!ううん、絶対そうっ!!だって、お姫様は強かったもん!……っっ!?」


今…完全に貧乏農民のユーリに戻ってしまったよね…… だって3人の反応が…

「わ、わたくし、体調がすぐれませんので、これで失礼します!」

…どうすることも出来なくて、私はとりあえず逃げた。
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