【R18】今夜私は義弟に抱かれる〜不治の病に侵された夫は寝取られに目覚めてしまった模様です〜

栗花

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 ハミルトン公爵家の屋敷には、普段使われない部屋が多く存在する。

 それらは用途に応じた使い道が固定されている部屋で、そこを使うという時点でどんなことが起きるのか、ある程度分かってしまう。

 そして今日、この部屋の掃除を命じられたということは、近々花嫁が来るということで……。

 ハウスメイドの間では、誰に嫁いでくるのだろうと予想話に花が咲いていた。



「初夜のなんて、確実に奥方様が来るってことよね」

「やっぱりニコラス様が公爵位をお継ぎになったのかしら?」

「え~。それならニコラス様の隣のお部屋だって、模様替えくらいするんじゃない?」

「それなら、ジャスティン様かしら?」

「かもしれないね。騎士団の寮からは出るにしても、既婚者用の宿舎で初夜じゃあ、ロマンも何もないものね」

「でも、いくら騎士団員だからって、公爵家の三男が結婚式無しに、籍だけ入れて終わりになんてする?」

「ほら、ジョルジュ様の体のことがあるから、式はあとなんじゃないの?」

「あー。それはありそう」

「だってほかに誰が居るのさ。末っ子のルディー坊ちゃんはまだ14才で成人もしてないし、おまけに今は寄宿学校でしょうに」

「それもそうねぇ」

「ほらほら、もう休憩はお終いだよ。ここを出たら、絶対にその話は屋敷内でも漏らさないでよ?」

「そうよ? もし噂にでもなったら、絶対ニコラス様が出どころ探して、私たち下手したら解雇よ?」

「解雇ならまだいいけど、北の砦に行かされたら、それこそ死んだほうがマシになるわ」



 それを聞いてその場にいた者は背筋を震わせた。

 まだ当主交代を伝えられていないが、それでもニコラスがジョルジュから引き継ぎをされ始めていることは知られていて、彼が当主になるのは時間の問題だ。

 ジョルジュは品行方正で慈悲深いと捉えられていて、ニコラスも平等を重んじるのは同じなようだが、正義感はあっても変なところにこだわったりする。

 分かりやすく表現すると、どこに地雷があるのか分かりにくいのだ。

 そして悪に対しては苛烈かれつな対応をするそうで、陰では『悪魔』と呼ばれることもあるとか……。



「それじゃあみんな、午後もがんばってね!」



 ハウスメイドのまとめ役の元気なかけ声とともに、それぞれの持ち場へと散っていくのだった。



 * * * * *



 夜もふけ、月も天空高く輝くころ。

 薄絹の夜着に儀式用の真っ白なガウンを羽織った姿で、私は長い廊下を歩んでいた。

 人祓ひとばらいされたお屋敷は静かで、あちこちに灯された照明灯だけが煌々こうこうと明るい。

 このアンバランスな様子が今の私の心を表しているかのようで、不安で胸が押し潰されそうになっている。

 私の侍女が、ひときわ豪華な扉の前で立ち止まりそっと扉を開いた。



「レティシア様、どうぞ」



 もうこの扉の中に入ったなら、後戻りはできないと分かっている。

 緊張から思わずゴクリとのどが鳴った。

 決心して一歩を踏み出すと、あとはすんなり足が動き出してホッとした。

 背後で扉が閉まる音がして、気のせいかその音が耳に響く。

 奥まで進んで行くと、ジョルジュと結婚した時に来た『初夜の』の記憶と合致した。



 あの時より威圧感があるけど、気のせいかしら?



 寝室に繋がるリビングのテーブルには、寝酒や果汁、お茶やお水などが置かれていて、それを見たら段々と前回の記憶が戻ってきた。

 まだニコラスは来ていないみたいだし、今の内に何か飲んで気を落ち着かせたい。

 私はソファーに腰掛けて、果汁をグラスに注いで飲んだ。



 ん。
 美味しい。
 オレンジ系の果物かな?



 思いの外おいしくておかわりを飲み干した直後、ノックの後にニコラスの来訪が告げられた。



「待たせたねレティシア」

「いえ……」



 まさか気分を落ち着けるのにはちょうど良かったとは言えない。

 するとニコラスはテーブルを眺めくすりと笑った。

 つまみ食いが見つかった気分で居た堪れない。



 でも、ただ飲み物を飲んだだけだもの。
 やましいことはしてないわ。



 うんうんと心の中で頷いて何とか胸を張って、ニコラスにソファーを勧めたら……。



「え?」



 ニコラスは当然のように私の横に座った。

 てっきり向かいの席に座ると思っていたのに……。



「なに?」



 問われて慌て、首を振ってごまかす。

 距離が近過ぎて、腕から彼の体温が伝わってきた。

 それだけで私の体も熱くなったような気がする。



「前回は神官に気が付かなかったのでしたね」

「はい……」

「今回も見届け人がいるのですが……」

「わ、わかってます」

「恥ずかしがっても途中でめたりはできませんからね」

「はい。大丈夫です」



 前回の私は半ばパニック状態だったようで、あまりどころではなく、ほとんど周囲のことを気にしていられなかった。

 だけどジョルジュから説明された内容では、よくそれで気が付かなかったと、自分でも思うほど近くから見られていたらしい。

 部屋には天蓋付きの大きなベッドがあり、手に入る中で一番薄く透明度の高い絹の内幕が引いてあるだけで、ほかに遮るものは一切ない。

 ベッドから5歩程度で壁が迫り、まるで幾何学模様きかがくもようのように、人の頭ほどの大きさの窓がいくつも作られている。

 どこから見られているか分かりにくくするための偽物フェイクも混ざっているが、視線を辿たどれば簡単に相手の顔が見えると思う。



「よほど気を付けないと、見てる相手と目が合いますよ」

「え……」

「まぁ、見ているのは神官です。ここで見たものは心の中に秘めてくれるでしょう」




 そんなことを言われたら、かえって意識しそうなんだけど……。



 そんなやり取りのあと、見届け人の準備も整ったそうで、いよいよ人生2回目の『初夜の』へ挑むことになった。


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