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しおりを挟む「彼を世話できるのは、君しかいない!」
ヨルグ殿下を部屋に閉じこめてから数分後、私達は別室で、仲間割れしかねない事態に陥っていた。
「あの猛獣を押さえられるのは君だけだ! 頼む、ここにとどまり、ヨルグ殿下の見張り役になってくれ!」
「私だって忙しいんです!」
ーーーー私はクリストフから、ヨルグ殿下の監視役を押し付けられそうになっていた。
「ヴォルケがいるのに、どうして私が常駐しなければならないんですか?」
「ヨルグ殿下がいつ召喚術の力を取り戻すか、誰にもわからないんだ。彼が力を取り戻した時に、君が近くにいないと困る。君がいなければ、私が時間をかけて育ててきたヴォルケが、一瞬で壊滅してしまう!」
「聖なる七剣は攻撃に特化していて、攻撃力だけに重点を置けば、ホワイトレディよりもずっと上です。仮に殿下が力を取り戻して、全力で攻撃を仕掛けてきたら、私でも押さえることはできません」
ホワイトレディの力は多才で、使い道は多くあるけれど、一方で聖なる七剣の力のような攻撃力も、素早さもない。特に真正面から衝突するなら、確実に負けると断言できる。
「クリストフは廃屋が潰されていく光景を見ていないから、ホワイトレディでもなんとかなると思ったのかもしれませんが、七剣とホワイトレディでは力の性質がまったく異なります。殿下のあの力はほぼ、小型ミサイルですよ! それを自在に操る相手を、ホワイトレディでどうにかできるわけないじゃないですか!」
まくし立てるように言ってから、私は溜息をつく。
「・・・・なぜ人間にすぎなかった皇祖が、モルゲンレーテで神のように崇められているのか、不思議に思っていました。だけど七剣の力を実際に目にして、理解できました。もうあれは、神の力です。・・・・殿下の場合、神は神でも破壊神寄りかもしれませんが」
ーーーー破壊神。口に出してみて、しっくりした。ヨルグ殿下が暴れたあとの、災害が通りすぎたような光景は、まさしく破壊神の仕業だといっても過言じゃなかったからだ。
「破壊神とか、怖いことを言わないでくれ・・・・あの方が、モルゲンレーテの次の皇帝になるんだぞ?」
「ま、まあ、私達の世界にだって、破壊神を崇めている人達はいましたし・・・・」
「・・・・・・・・」
クリストフは頭を抱えているようだった。
「と、とにかく、ここに残ってほしい。ホワイトレディでは勝てないのだとしても、時間稼ぎはできるだろう? その間に、ヴォルケは避難できる」
「・・・・・・・・」
クリストフの言い分にも、一理ある。
でも私は、ここに寝泊まりしたくない。せめて夜だけは、安全だと確信できているアルムガルト邸で、ぐっすりと眠りたかった。
「私からも、アルムガルト侯爵にお願いします」
口論に、バルドゥールさんまで参戦してきた。
「今すぐに、ヨルグ殿下の力が戻ることはないでしょう。しかし殿下に力が戻った場合に備えておかなければなりません。殿下の力のまでは、この隠家の分厚い扉も閂も、二重の壁も、何の役にも立ちませんから」
聖なる七剣の前では、家という囲いがまったく意味をなさないことを、私達は数時間前に嫌というほど思い知っている。クリストフはともかく、七剣の台風のような力で、廃屋が次々と倒壊していく様子を目撃したバルドゥールさんは、どうしても私を引き留めたいようだった。
二人は私を説得しようと、必死だった。必死になる理由がわかるから、聞けば聞くほど断りづらくなってしまう。
「・・・・私はこれでも一応、貴族の家門の当主なんですよ。それなりに忙しいんです」
「信頼できる者に書類を運ばせるから、ここで仕事をすればいい。私も補佐するし、必要なら人を雇おう。君はもともと社交場には顔を出さないタイプだから、音沙汰がなくても不審に思う貴族はいないはずだ」
アリアドナの裏工作のせいで、不利益をこうむるようになってからは、私は社交界に出るのをひかえるようになった。だから私の主な仕事は領地の運営や事業の管理などで、代理人に任せられる部分も大きい。
それに比べてクリストフの仕事は、本人が顔を出さなければ成り立たないものばかりだ。クリストフはバウムガルトナーの派閥の代表として、人脈を維持するために、社交界にも頻繁に顔を出しているし、貴族院や派閥の会合にも出席しなければならない。
陛下と定期的に会い、親交を深めつつ、アリアドナやボリスが陛下に取り入るのをなるべく防ぐのも、彼の役目だ。
私がこの体たらくなので、それらをすべてクリストフに任せなければならなかった。
(・・・・確かに、クリストフのほうがすべきことが多いわ)
私はホワイトレディの力で敵を監視し、集めた情報を使って、クリストフが政界での立場を固めていく。それが私達の役割分担だったけれど、総合では圧倒的に、クリストフのほうの負担が大きかった。
クリストフに負担をかけていることを、いつも申し訳なく思っていた。
今が、その借りを返す時なのかもしれない。
「・・・・わかりました」
私の答えを聞いた瞬間、二人の肩から力が抜け、顔には安堵感が満ちた。
(・・・・仕方ない)
本当はクリストフに言われるまでもなく、私が制御役になるしかないことはわかっていた。でもあまりにも負担が大きくなるから、受け入れがたくて、他に方法があるのではないかと思いたかった。
「とはいえ今すぐ、殿下の力が戻ることはないでしょう。なので今夜は、邸宅に帰ります。私が戻らなければ家来が心配しますし、邸宅を離れる前に、色々と整理しなければならないことがありますから」
私のその言葉には、二人はうなずいてくれた。
「・・・・他にも話しあうべきことがあります」
私は腕を組んで、二人の顔を交互に見る。
「暗殺の主犯がヴュートリッヒであることを、殿下に伝えるべきですか?」
二人は顔を見合わせ、同時に首を横に振った。
「やめておいたほうがいい」
「やめたほうがいいと思います」
声まで重なっている。
「殿下は私達に、敵意を抱いている。敵の言葉を信じる人間がいるか?」
「・・・・そうですね」
殿下を守るための行動だった、という私達の主張を、殿下はまったく信じてくれなかった。ーーーー監禁された上に鎖で拘束されたら、信じてほしいなんていう言葉も、薄ら寒く聞こえたことだろう。
そんな状況で、私達が暗殺の主犯がヴュートリッヒだと伝えることは、危険な行為だとも言える。
「もう少し信頼関係を築けてから、ヴュートリッヒの話をしよう」
「・・・・今さら、信頼関係を築けるでしょうか? 殿下の、毛を逆立てた猫みたいな態度を見るに、信頼という言葉はもう壊滅している気がするんですが」
「・・・・・・・・」
その点に関しては、クリストフは沈黙を返してきた。
「・・・・とにかく、しばらく様子を見ることにしましょう」
様子を見る、という言葉しか浮かばなかったから、そう言った。二人はうなずき、また沈黙する。
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