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11話
しおりを挟む「浮気禁止」
「んむっ……!」
心の中で助けを求めた相手の声が、背後からしたと思ったら、掌で口を覆うようにして隠された。おかげで今にも八島にキスをしそうだった身体は押し止められて、おまけのように腹部も抱えられ、自由に動けずにバタバタと暴れている。
「一ノ宮……! よ、よかったぁ。拓海なんか様子がおかしくて……」
「うん、分かってる。あとは俺に任せてよ。悪いけど先生には拓海が体調不良で保健室に連れて行ったって伝えておいてもらえる?」
「わかった…… 拓海、大丈夫なんだよな……?」
「もちろん。頼んだよ」
だから心配するな、とばかりに微笑む祥を見て、心から安心したようにため息を吐いた八島は、駆け足で外へと向かう。
「一ノ宮こそ、拓海のこと頼むな……!」
(ああ、俺はいい友達を持ったな……)
拓海がその背中を見送りながら、しみじみと考えていると、二人きりになるや否や、祥は拘束を解いて拓海の顔を覗き込んだ。
「さて、今度は何を招き入れちゃったのかな?」
拓海の身体はくるりと回され、今まで自分を押さえ付けていた祥の姿を初めて認識する。
瞬間、拓海は自分の中にとり憑いている霊が、今まで以上に興奮をしたのが分かった。身体の内で、ぶわりと感情が吹き荒れる。
「……すき……―――」
思わずといったように拓海の口から溢れた言葉を聞いて、祥が美しい顔をさらに輝かせて、にこりと微笑んだ。
(とり憑かれてる俺には分かる。コイツの未練が……)
「すき、すき………」
譫言のようにそれだけを繰り返し、祥の身体に抱きついていく。体当たりと言ってもいい程の勢いがあったが、祥は拓海の身体を軽々と受け止めて、その背に自らの腕も回す。
(祥……、祥、逃げてくれ……頼む………)
そうして軽く啄むようなキスをしながら、広い背中を彷徨っていた拓海の手は……
おもむろに祥の臀部を鷲掴みにした。
(祥……ッ 俺このままじゃ、お前のこと掘っ……!)
「あ、ごめん。それは無理だ」
―――……すぱんっ!
小気味良い音で頭を叩かれる。
次の瞬間、身体が一気に軽くなった。
「……? え、戻った……?」
「ごめん。ちょっと慌てて思い切り叩いちゃった」
たった今自分が叩いた拓海の頭を、祥は優しく慰めるように撫でた。
「いや、それは全然平気……だけど、あれ……今俺に憑いてたのも多分、色情霊だよな?」
急展開に頭が付いていけない。
身体が自由になってるってことは、除霊が成功したってことなはず。整理するように、一つ一つ祥に質問を繰り返した。
「うん。そうだったね」
「色情霊を祓うには、すごい力が必要なんだよな?とり憑かれた人間にも負担が大きいって……」
「そうだよ」
「今、お前頭叩いただけで除霊しなかったか?」
ここが一番重要である。
「……あは、出来ちゃったみたい♡」
「~~~ッはぁぁぁあぁぁあぁ?!??!」
てへっと舌を出して誤魔化すように笑う祥に、拓海の怒りは頂点に達する。
「出来ちゃったみたい♡ じゃねーよ! さてはお前確信犯だな! 本当は除霊に、え、えっちの必要なんて無かったんじゃねぇの?!」
「あーあ、バレちゃったか。うまく誤魔化せてると思ったんだけどなぁ~……ゲイで、しかもタチの色情霊にとり憑かれるなんて、完全に想定外」
わなわなと体を震わせながら言い募る、拓海から繰り出された攻撃を器用に避けながら、祥は悪びれもなく嘆息しながら白状した。
「だって拓海があんなに可愛く誘って、俺が断れるわけないだろ」
「かわ……っ!」
「貴重だし。素直な拓海って」
「……今までやってたリハビリも、嘘だったのかよ」
「それは半分本当で半分嘘。通り道が出来て、とり憑かれやすくなっているのは事実だったけど、別に体液じゃなくても俺の霊力を流すことは出来る。でもそれだと、何倍も神経使うのにただ疲れるだけで、俺が楽しくないし~」
とんでもない開き直り方だった。
怒りを通り越して、呆れてしまった拓海は、振り上げていた腕を下ろしてため息を吐いた。
「お前ってやつは……!」
「でも、そもそもこうなった原因の一端は拓海にもあるはずだけど」
「はぁ?! 俺のなにが悪かったって言うんだよ?」
「うーん。普通、色情霊っていうのは自分に共感しやすいと思う人にとり憑くんだよね」
この期に及んで責任転嫁か?!と目を吊り上げる拓海に、祥は冷静に説明を続ける。
しかし、その話を聞いても拓海が「どういうことだ?」という疑問符を顔にべたべたと貼り付けているため、祥がより詳しく説明を始めた。
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