2 / 7
(2)
しおりを挟む
彼が来ることはわかっていた。
「はじめまして、アンジュ殿下」
そう言って微笑みかけて来たのは、以前からこの石塔を訪れていたどの男たちよりも若い彼であった。
それでも年の頃はアンジュより最低でもひと回りは上だろう。少年を脱したばかりのあどけなさの残る顔で、なにが面白いのかにこにことしている。
いや、彼の胸中で面白いことなんてひとつもないことくらい、わかりきっていた。完璧な笑みを浮かべていても、その心の内ではきっと「めんどくせえなあ」くらいのことは考えているに違いない。
けれども彼は笑顔のまま、これからの取り次ぎは自身が行うということを、よく通る涼やかな声で告げる。
「そうなの。よろしくね、エヴラール」
エヴラールと名乗った男にわたしも微笑みかけてやった。父親が王様だとすれば、その権力の分美女を手にするのも容易いか、アンジュの容姿はなかなか将来有望と言える。早い話がお人形のような、それはそれは、とっても儚げな美少女なのである。
こんな無垢を体現したような容姿の下に、こんなクズな人間がいるとはだれも思うまい。
エヴラールもそうなんだろう。どこかほっとしたような顔を隠して、「よろしくおねがいします」とひざまずいたまま言った。
夢を聞きにやって来る彼らは、いつも下からわたしを見ている。わたしがアンジュには少々大きな大人用のイスに座り、彼らはそのそばで膝をつくのだ。
その姿はまさしく騎士といった風体で――いや、実際に佩剣しているのだから、彼らは騎士とか軍人とか、まあそういう人間なんだろう。
もちろんエヴラールも腰の左に剣を佩いていた。ただ、それは塔の外にいるあいだだけ。塔の中にいるときは右手で柄近くの鞘をつかんでいる。
敵意がないということを示しているのだろうが、あまり意味がないように思う。
見たところ一〇に満たないアンジュなんて、片手でくびり殺すことくらい、戦士であればたやすいに違いない。
アンジュはとってもか弱い……と言えば聞こえはいいが、要は栄養失調気味の、慢性不良児なわけだから、その体はスマートというよりやせぎすと言うほうが正確だろう。
外の世界も知らず、体の筋肉もほとんどついていないそんな小娘に、立派な男たちがひざまずくんだから、世の中は不条理なことでいっぱいだと思う。
エヴラールだってたまの合間と言えど、こんな森のはずれに立つ石塔へわざわざ使いに行く任を拝命したくはなかっただろうに。
かわいそうだけれど、わたしにはどうしようもない。
そもそもエヴラールが今までと違いアンジュ専任の取次役になったのは、アンジュの暗殺未遂が原因だ。
夢に見たアンジュ自身の危機はその日の取次役に伝えられたけれど、彼もまたすでに暗殺の首謀者に抱き込まれていた。ついでに通いのメイドも。
メイドのほうはアンジュの存在は出来るだけ広めたくなかったのか、その顔触れは取次役の男たちと違っていつも同じだったから、彼らを買収するよりも簡単だっただろう。
けれども彼女が暗殺計画に恐れをなして自首してしまうことも、わたしはわかっていた。
わかっていたので取次役の彼にはそこまで話さなかった。
かくして暗殺計画は露呈し、実行犯も首謀者も処刑されたわけである。めでたしめでたし。
だからエヴラール。恨むなら、どうかわたしじゃなくその暗殺の首謀者たちを恨んで欲しい――というのが、クズなくせに小心者なわたしの本心であった。
「いつもありがとう、エヴラール」
わたしが初めてそう言ったとき、彼の瞳はわずかな動揺に揺れた。
そんなことを取次役の男に言ってやったことなど一度もなかったのだが、今回の言葉は単なる気まぐれではない。顔触れが変わらないのなら、多少の媚びくらい売っておいてやろうと、そういう腹積もりであった。
毎度深窓の姫らしくねぎらいの言葉は口にしていたものの、こういうセリフは言ったことがなかった。
普段と違うその感謝の言葉に、エヴラールはすぐににっこりと完璧な笑みを浮かべて応える。
「ありがとうございます、殿下。そのような言葉をかけていただいて、感激の極みでございます」
にこにこ。わたしたちは微笑みあっていた。
……その腹にはなにが潜んでいるんだろう。エヴラールも「ちょろいガキだな」くらいは思っているだろうか。あるいは、「なつかれちゃってメンドクセー」とか?
まあ、どちらでもいい。わたしにひどいことをしないのなら、それでいいや。
――とまあそう思っていたのだが。
「殿下はいつもお綺麗ですね」
「え? ……そうかしら?」
さて今日も夢について話しましょうか、と構えていたところに不意にそんなおべっかが飛んで来た。
思わず「はあ?」とアンジュのイメージぶち壊しなセリフが口をついて出そうになったが、どうにか優雅に答えることが出来た。
「出来るだけ身綺麗にしていたいと思って。見てくれる殿方なんて、エヴラールくらいしかいないのにね」
ちょっと困ったような笑みを浮かべ、儚げにいじらしくそう言えば、意外にもエヴラールは顔から完璧な微笑を消した。
この表情は良く知っている。
……同情だ。不憫に思っている顔だ。
バッカだなー。
わたしは腹の中で大笑いだ。このエヴラールという男、わたしが思ったようなしたたかさは、存外持ち合わせていないのかもしれない。
先ほどのが演技なら拍手喝采。役者にでもなったほうがいいよ、と肩を叩いて言ってやりたい。
でもまあそんな言葉、口が裂けてもアンジュには言わせられない。
アンジュは可愛い可愛いお姫様なのだ。
なーんにも知らない、底抜けに馬鹿なお姫様なんだ。
「どうしたの? エヴラール」
だから小首をかしげてエヴラールの意識を引き戻してやる。彼はわたしの意図した通りに再びその美しい顔に微笑を浮かべた。
言い忘れていたが彼が恰好良いのは声だけではない。華やかさはないが、いかにも勇壮といった精悍な顔立ちをしている。
優男という言葉からは程遠いが、わたしはどっちかと言うとなよっちいタイプより男くさいほうが好きだ。
そう言えばお父さんがそんな感じだったなと、杏樹の記憶が思わず出て来てしまう。
「すいません」
「疲れているのかしら? それならここで少し休んで行くといいわ。おもてなしなんて出来ないけれど」
「いえ、その必要はありません。殿下の御手を煩わせることなど……」
「そう? でも無理はしないでね」
ハイ、ここで儚げに微笑むー。
「……わたしとおしゃべりしてくれるのは、エヴラールしかいないもの」
ハイ、ここでハッとしたような顔をしてー。
「ごめんなさい! その、おしゃべりだけが目的とか、そういうわけじゃないの! ただ、わたしにこんな風に優しくしてくれたのがうれしくって――」
そしてここでうつむくー。
長くウェーブのかかった黒髪が、若干カーテンみたいになっているお陰で、わたしの表情は見えないだろう。
そんな黒髪の隙間からちらりとエヴラールの様子をうかがう。
エヴラールはわかりやすく困惑の表情を浮かべていた。どうすればいいのかわからない。そんな顔をしている。
声も見た目も爽やかで清潔感があるものの、中身はわりと武骨者という感じなのだろうか。
言い寄る女くらいいそうなものだが、意外と経験はないのかもしれない。
「で、殿下、お顔をお上げくだされ……!」
思いっきり戸惑ってますという声をかけられたのはちょっと意外だ。最初のように完璧な笑みを浮かべて取り繕うかと思っていただけに。
わたしは怯えたような表情を浮かべ、ゆっくりと顔を上げる。
エヴラールの瞳とかち合った。エヴラールの瞳は南国の海を思わせる、透き通った青緑色だった。
「エヴラール……?」
「……そのように、悲しそうな顔をしないでくだされ、殿下」
「そんな顔、してる?」
してるしてる。今メッチャしてる。
「はい……」
だろうね。
「私も、殿下がそのようにおっしゃってくださり……その、嬉しいのです。恐れ多くも貴女様と、同じ気持ちなのでございます」
エヴラールの顔は、穏やかな微笑みをたたえていた。今までの作りものの、完璧な笑顔とは違う。どこまでも穏やかな、慈愛の瞳。アンジュを庇護し、敬愛する、優しい顔。
――不覚にも、胸が高鳴った。
「同じ……? 本当に?」
「はい。本当でございます。このエヴラール、王女殿下には誓って嘘など申しませぬ」
あ、わたしってやっぱり王女なんだ。と、頭の片方で思いながら、もう片方はある欲求でいっぱいだった。
「……うれしい」
わたしの顔は自然と笑みを浮かべていた。にやにやしたようなものじゃないといいな、と思いながらも、その笑顔は隠さなかった。
「ねえ、エヴラール。これからもわたしとおしゃべりしてくれる?」
「はい。もちろんでございます」
「ほんと?」
「はい」
「ふふ! やったあ!」
子供らしく無邪気な動きを入れたのは、照れ隠しのためだ。エヴラールに対するものじゃない。わたしの、わたしに対する照れ隠し。
不覚にもわたしの心はエヴラールでいっぱいになってしまったのだ。
そこには多少の打算があったことも認めよう。彼ならば御しやすいと、瞬時にそう思ったことも、認めよう。
けれど、その欲求だけはほとんど本能的なものに近かった。
エヴラールから愛されたい。
愛されるのならなんでもいい。家族のような愛、娘に対するような愛、妹に対するような愛。敬愛でもいい。もっと言うなら性的なものでも構わない。
愛されたい。
杏樹がずっと求め、そしてついには得られなかったもの。
アンジュがまだ得られていないもの。
愛されたい。
エヴラールに愛されるためになんだってやろう。
この日、わたしはアンジュの幼い顔に無垢な微笑みを乗せながら、その裏でそのような不埒な考えを持つに至ったのである。
「はじめまして、アンジュ殿下」
そう言って微笑みかけて来たのは、以前からこの石塔を訪れていたどの男たちよりも若い彼であった。
それでも年の頃はアンジュより最低でもひと回りは上だろう。少年を脱したばかりのあどけなさの残る顔で、なにが面白いのかにこにことしている。
いや、彼の胸中で面白いことなんてひとつもないことくらい、わかりきっていた。完璧な笑みを浮かべていても、その心の内ではきっと「めんどくせえなあ」くらいのことは考えているに違いない。
けれども彼は笑顔のまま、これからの取り次ぎは自身が行うということを、よく通る涼やかな声で告げる。
「そうなの。よろしくね、エヴラール」
エヴラールと名乗った男にわたしも微笑みかけてやった。父親が王様だとすれば、その権力の分美女を手にするのも容易いか、アンジュの容姿はなかなか将来有望と言える。早い話がお人形のような、それはそれは、とっても儚げな美少女なのである。
こんな無垢を体現したような容姿の下に、こんなクズな人間がいるとはだれも思うまい。
エヴラールもそうなんだろう。どこかほっとしたような顔を隠して、「よろしくおねがいします」とひざまずいたまま言った。
夢を聞きにやって来る彼らは、いつも下からわたしを見ている。わたしがアンジュには少々大きな大人用のイスに座り、彼らはそのそばで膝をつくのだ。
その姿はまさしく騎士といった風体で――いや、実際に佩剣しているのだから、彼らは騎士とか軍人とか、まあそういう人間なんだろう。
もちろんエヴラールも腰の左に剣を佩いていた。ただ、それは塔の外にいるあいだだけ。塔の中にいるときは右手で柄近くの鞘をつかんでいる。
敵意がないということを示しているのだろうが、あまり意味がないように思う。
見たところ一〇に満たないアンジュなんて、片手でくびり殺すことくらい、戦士であればたやすいに違いない。
アンジュはとってもか弱い……と言えば聞こえはいいが、要は栄養失調気味の、慢性不良児なわけだから、その体はスマートというよりやせぎすと言うほうが正確だろう。
外の世界も知らず、体の筋肉もほとんどついていないそんな小娘に、立派な男たちがひざまずくんだから、世の中は不条理なことでいっぱいだと思う。
エヴラールだってたまの合間と言えど、こんな森のはずれに立つ石塔へわざわざ使いに行く任を拝命したくはなかっただろうに。
かわいそうだけれど、わたしにはどうしようもない。
そもそもエヴラールが今までと違いアンジュ専任の取次役になったのは、アンジュの暗殺未遂が原因だ。
夢に見たアンジュ自身の危機はその日の取次役に伝えられたけれど、彼もまたすでに暗殺の首謀者に抱き込まれていた。ついでに通いのメイドも。
メイドのほうはアンジュの存在は出来るだけ広めたくなかったのか、その顔触れは取次役の男たちと違っていつも同じだったから、彼らを買収するよりも簡単だっただろう。
けれども彼女が暗殺計画に恐れをなして自首してしまうことも、わたしはわかっていた。
わかっていたので取次役の彼にはそこまで話さなかった。
かくして暗殺計画は露呈し、実行犯も首謀者も処刑されたわけである。めでたしめでたし。
だからエヴラール。恨むなら、どうかわたしじゃなくその暗殺の首謀者たちを恨んで欲しい――というのが、クズなくせに小心者なわたしの本心であった。
「いつもありがとう、エヴラール」
わたしが初めてそう言ったとき、彼の瞳はわずかな動揺に揺れた。
そんなことを取次役の男に言ってやったことなど一度もなかったのだが、今回の言葉は単なる気まぐれではない。顔触れが変わらないのなら、多少の媚びくらい売っておいてやろうと、そういう腹積もりであった。
毎度深窓の姫らしくねぎらいの言葉は口にしていたものの、こういうセリフは言ったことがなかった。
普段と違うその感謝の言葉に、エヴラールはすぐににっこりと完璧な笑みを浮かべて応える。
「ありがとうございます、殿下。そのような言葉をかけていただいて、感激の極みでございます」
にこにこ。わたしたちは微笑みあっていた。
……その腹にはなにが潜んでいるんだろう。エヴラールも「ちょろいガキだな」くらいは思っているだろうか。あるいは、「なつかれちゃってメンドクセー」とか?
まあ、どちらでもいい。わたしにひどいことをしないのなら、それでいいや。
――とまあそう思っていたのだが。
「殿下はいつもお綺麗ですね」
「え? ……そうかしら?」
さて今日も夢について話しましょうか、と構えていたところに不意にそんなおべっかが飛んで来た。
思わず「はあ?」とアンジュのイメージぶち壊しなセリフが口をついて出そうになったが、どうにか優雅に答えることが出来た。
「出来るだけ身綺麗にしていたいと思って。見てくれる殿方なんて、エヴラールくらいしかいないのにね」
ちょっと困ったような笑みを浮かべ、儚げにいじらしくそう言えば、意外にもエヴラールは顔から完璧な微笑を消した。
この表情は良く知っている。
……同情だ。不憫に思っている顔だ。
バッカだなー。
わたしは腹の中で大笑いだ。このエヴラールという男、わたしが思ったようなしたたかさは、存外持ち合わせていないのかもしれない。
先ほどのが演技なら拍手喝采。役者にでもなったほうがいいよ、と肩を叩いて言ってやりたい。
でもまあそんな言葉、口が裂けてもアンジュには言わせられない。
アンジュは可愛い可愛いお姫様なのだ。
なーんにも知らない、底抜けに馬鹿なお姫様なんだ。
「どうしたの? エヴラール」
だから小首をかしげてエヴラールの意識を引き戻してやる。彼はわたしの意図した通りに再びその美しい顔に微笑を浮かべた。
言い忘れていたが彼が恰好良いのは声だけではない。華やかさはないが、いかにも勇壮といった精悍な顔立ちをしている。
優男という言葉からは程遠いが、わたしはどっちかと言うとなよっちいタイプより男くさいほうが好きだ。
そう言えばお父さんがそんな感じだったなと、杏樹の記憶が思わず出て来てしまう。
「すいません」
「疲れているのかしら? それならここで少し休んで行くといいわ。おもてなしなんて出来ないけれど」
「いえ、その必要はありません。殿下の御手を煩わせることなど……」
「そう? でも無理はしないでね」
ハイ、ここで儚げに微笑むー。
「……わたしとおしゃべりしてくれるのは、エヴラールしかいないもの」
ハイ、ここでハッとしたような顔をしてー。
「ごめんなさい! その、おしゃべりだけが目的とか、そういうわけじゃないの! ただ、わたしにこんな風に優しくしてくれたのがうれしくって――」
そしてここでうつむくー。
長くウェーブのかかった黒髪が、若干カーテンみたいになっているお陰で、わたしの表情は見えないだろう。
そんな黒髪の隙間からちらりとエヴラールの様子をうかがう。
エヴラールはわかりやすく困惑の表情を浮かべていた。どうすればいいのかわからない。そんな顔をしている。
声も見た目も爽やかで清潔感があるものの、中身はわりと武骨者という感じなのだろうか。
言い寄る女くらいいそうなものだが、意外と経験はないのかもしれない。
「で、殿下、お顔をお上げくだされ……!」
思いっきり戸惑ってますという声をかけられたのはちょっと意外だ。最初のように完璧な笑みを浮かべて取り繕うかと思っていただけに。
わたしは怯えたような表情を浮かべ、ゆっくりと顔を上げる。
エヴラールの瞳とかち合った。エヴラールの瞳は南国の海を思わせる、透き通った青緑色だった。
「エヴラール……?」
「……そのように、悲しそうな顔をしないでくだされ、殿下」
「そんな顔、してる?」
してるしてる。今メッチャしてる。
「はい……」
だろうね。
「私も、殿下がそのようにおっしゃってくださり……その、嬉しいのです。恐れ多くも貴女様と、同じ気持ちなのでございます」
エヴラールの顔は、穏やかな微笑みをたたえていた。今までの作りものの、完璧な笑顔とは違う。どこまでも穏やかな、慈愛の瞳。アンジュを庇護し、敬愛する、優しい顔。
――不覚にも、胸が高鳴った。
「同じ……? 本当に?」
「はい。本当でございます。このエヴラール、王女殿下には誓って嘘など申しませぬ」
あ、わたしってやっぱり王女なんだ。と、頭の片方で思いながら、もう片方はある欲求でいっぱいだった。
「……うれしい」
わたしの顔は自然と笑みを浮かべていた。にやにやしたようなものじゃないといいな、と思いながらも、その笑顔は隠さなかった。
「ねえ、エヴラール。これからもわたしとおしゃべりしてくれる?」
「はい。もちろんでございます」
「ほんと?」
「はい」
「ふふ! やったあ!」
子供らしく無邪気な動きを入れたのは、照れ隠しのためだ。エヴラールに対するものじゃない。わたしの、わたしに対する照れ隠し。
不覚にもわたしの心はエヴラールでいっぱいになってしまったのだ。
そこには多少の打算があったことも認めよう。彼ならば御しやすいと、瞬時にそう思ったことも、認めよう。
けれど、その欲求だけはほとんど本能的なものに近かった。
エヴラールから愛されたい。
愛されるのならなんでもいい。家族のような愛、娘に対するような愛、妹に対するような愛。敬愛でもいい。もっと言うなら性的なものでも構わない。
愛されたい。
杏樹がずっと求め、そしてついには得られなかったもの。
アンジュがまだ得られていないもの。
愛されたい。
エヴラールに愛されるためになんだってやろう。
この日、わたしはアンジュの幼い顔に無垢な微笑みを乗せながら、その裏でそのような不埒な考えを持つに至ったのである。
0
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる