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おまけ:その後のふたり

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 毎晩のようにトレイシーはウィルフに甘える。それは他愛ない児戯のようなものであった。しかしそこは人のさが。なんてことのないやり取りは、次第に色を帯びてきわどいものへと変わりつつあった。

 それは主にウィルフのせいであったのだが、トレイシー本人は甘える行為がこのように様変わりしていることなど、気づいていないようであった。ただ今日もトレイシーはウィルフに甘える。

 その日の晩もトレイシーはウィルフのたくましい胸板へとしなだれかかる。今ではそっとその胸元に顔を寄せるのではなく、トレイシーは素直にウィルフの腕の中へと飛び込んでいた。そうするとウィルフの筋張った手がトレイシーの絹のような髪を撫でるのだ。トレイシーはその感覚が好きでうっとりとされるがままになっている。

 トレイシーからの口づけも今ではウィルフの唇になされていた。唇をついばむように何度も角度を変えて口づけを交わす。ウィルフはトレイシーのその唇を割って口内を蹂躙したい欲求と戦いながら、彼の柔らかな唇を堪能する。

 しかしウィルフの雄は素直なもので、トレイシーに口づけをされるときざしを見せてしまう。トレイシーとて男であるから、その意味がわからないほど初心ではない。それでも最初のうちは戸惑いを見せた。今は……。

「ウィルフ。また……」

 そう言って「しょうがないな」という風にトレイシーは布越しにウィルフに触れる。

 互いに欲望を持っていることにふたりは気づいていた。だからいつからかトレイシーの甘える行為に、これも組み込まれるようになったのだ。

 トレイシーのほっそりとした手が自身を握り込むのを見て、ウィルフは背筋にぞくぞくとした甘い痺れが走るのを感じる。目を細めたウィルフを見て、同じようにトレイシーも嬉しそうに目を細める。初めは戸惑っていたトレイシーも、今ではウィルフが快楽を覚えるのを見るのが楽しいらしく、こうして花が綻んだように微笑むのであった。

「トレイシー様」

 ウィルフが声をかけると、トレイシーは彼の下衣の前をくつろげさせる。そうした下穿きの中から勃ち上がった肉棒を取り出す。

 トレイシーの細い指がウィルフの鈴口に触れるとにちゃりと水音が響く。既に先走りが流れ始めた肉棒に手を這わせてトレイシーは愛撫を加える。するとウィルフから苦しげなため息が漏れて、それがどうしようもなくトレイシーの背骨をくすぐるのであった。

「ああ、あ……トレイシー、様」
「気持ちいい?」
「は、い……う、ぁ」

 征服欲を刺激されたトレイシーは、肉筒をしごきながらウィルフの裏筋をくすぐり、鈴口に軽く爪を立てる。そうして刺激をひとつ与えるたびにびくりとウィルフの体が震えるのをトレイシーは満足げに見つめるのであった。

 両手の指を添えてウィルフの肉棒を上下にしごく。快楽にうめくウィルフを見て、トレイシーはもじもじと股をすり合わせる。それを見逃さないウィルフは、ごつごつとした手をトレイシーの股間へと伸ばす。

「んっ」

 半ば勃起しかけたトレイシーのそれにウィルフの指がかかると、トレイシーは甘い声を上げる。ウィルフはそのままトレイシーの股に手のひらを当てると、寝間着越しに陰嚢ごと肉棒を揉みしだく。するとトレイシーは腰を身悶えさせて鼻に抜けるような甘い声を出し始める。

「あ、ずる、いっ……これじゃっ、できな……」
「トレイシー様、手が止まってますよ」
「んっ、あ、ウィルフがっ……」

 トレイシーの肉棒から先走りがこぼれ、下衣を濡らす。それでも構わずにウィルフは股間を少々乱暴な手つきで揉んだ。トレイシーは少し乱暴に扱われるくらいが好きなようで、とろけるように優しくするよりも明らかな反応を見せてくれる。ウィルフはそれをわかっていてトレイシーを翻弄する。

 ウィルフの肉棒をしごくトレイシーの手が完全に止まったのを見て、ウィルフはもう片方の手をトレイシーの胸元へと這わせる。胸の小さな突起は下半身からの快感を受けて既に起ち上がっていた。そこに指を引っ掛けるようにして弄べば、トレイシーからひときわ甘い声が上がった。

 トレイシーは元から胸が弱かったために、そこで快楽を得るのはすぐだった。おまけにここのところ毎晩のようにウィルフに弄ばれているから、そこはもう立派な性感帯として開発されている。

 布越しにこりこりと引っかくようにしては、今度は指の腹で押しつぶすようにする。トレイシーは青の瞳を伏せていやいやと首を横に振った。トレイシーには乳首から得られる快楽は強すぎるようだ。それをわかっていてウィルフはトレイシーのぷくりと膨らんだ乳首を指で挟んで引っ張った。

「やあっ、あ、あぁん」
「トレイシー様はここが本当に弱いですね」
「あ、や、言わないでっ……あ、だめっ、だめ」

 胸と股間を同時に責め立てられ、トレイシーの肉棒ははちきれんばかりになっていた。

 頃合を見てウィルフはトレイシーの下衣を下穿きごとずり下ろす。あらわになったトレイシーの股間はすっかり濡れており、膣からあふれた愛液が太ももでテラテラと光っている。

「トレイシー様……」
「んっ」

 今度はウィルフからトレイシーに口づける。ウィルフはこれまでの経験からトレイシーが口づけをされるのが好きだと知っていた。今も、ウィルフに唇を食まれるようにキスをされ、うっとりと目を伏せている。角度を変えて数度口づけを交わし、最後に唇を舌で舐めあげた。ふるりとトレイシーのまつ毛が揺れる。口を離せば、物欲しげな顔をしたトレイシーが上目遣いにウィルフを見ていた。

 もう一度口づけを交わしたいところであるが、そろそろ放置された自身が痛い。ウィルフはトレイシーの腰に腕を回すと、ぐいと引き寄せる。そして勃起した剛直な自身と、それよりも小さく使い込んでいないトレイシーの肉棒を片手で握り込む。

「ああ、あ……」
「っ、はあ……」

 筒状にした手を上下にしごきながら、トレイシーの亀頭を親指でぐりぐりと刺激する。すると太ももを震わせてトレイシーは背をしならせた。

 与えられる強すぎる快楽から逃れようと、トレイシーの腰は逃げようとする。しかしウィルフにしっかりと抱きかかえられた体は固定され、されるがままだ。

 トレイシーは苦しそうに唇を開いて浅い呼吸を繰り返す。彼の肉棒からは先走りがしたたり落ち、ウィルフのものと混ざって淫猥な水音を立てている。

 先に射精を迎えたのはトレイシーだった。

「んあっ、ああっ……、イくっ、イちゃう……、あああああー!」

 目を見開き白い背をのけぞらせて鈴口から白濁をほとばしらせる。それは勢いよくウィルフの肉棒と手と下腹にかかった。

 だがウィルフの手の動きは止まらない。それどころか絶頂が近いようでしごく手は激しくなるばかりだ。

 吐精したばかりのトレイシーはウィルフにしなだれかかったまま、イったばかりの敏感な肉棒をしごき上げられびくりびくりと体を痙攣させ、その愛らしい唇からか細い嬌声を上げている。

「っ、トレイシー様っ……!」
「あっ……んん……あん、はっ……」
「トレイシー様、イきます……!」

 ウィルフはしなだれかかるトレイシーを抱き寄せると、その下腹部に亀頭を当てるや精を解放した。びくびくと痙攣する肉棒の先から精液が飛び散り、トレイシーの真っ白な腹を汚して行く。ウィルフはその光景を見て背筋を震わせる。この、純真そうな主を汚していると思うとえも言われぬ快感を覚えずにはいられなかった。

 行為のあと、濡らした布でウィルフはトレイシーの体を清める。白濁にまみれた腹から肉棒へ、そして愛液があふれる秘裂へと指を滑らせれば、そのたびにトレイシーはかすかに鳴き声を上げるのであった。

「ウィルフ……」
「どうかしましたか?」
「もう一度、口づけて……」

 寝具に体を横たえ、枕に頭を沈めたトレイシーがねだるように言うと、ウィルフはその体におおいかぶさって今度は乱暴にその唇を奪った。

「んん、むぅ……」

 貪るような口づけにトレイシーが身じろぎするが、ウィルフはトレイシーの顔の横に手をついて何度もキスを繰り返す。すぐにトレイシーの体から力が抜け、されるがままになるとようやくウィルフは彼の唇を解放した。

 しかしトレイシーの青の瞳に非難の色はなく、どこまでも甘く潤んでいるのだった。

 ウィルフはこの主に完全に骨抜きにされていた。かわいくてかわいくて仕方のない、守ってやりたくなるご主人様。ウィルフにとってトレイシーはそんな存在だった。

 一方でその美しい肢体を蹂躙してやりたいという獣欲がないわけではない。しかしそれも上手く隠して――あるいは気づかれないように出して――ウィルフは徐々にトレイシーを篭絡していた。

 いつかは女の部分ごとその身のすべてを奪いたいなどとウィルフが画策しているとはつゆ知らず、トレイシーはいつの間にやら穏やかな顔で眠りについていた。
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