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なぜかレンのニセハーレムに暗雲漂い始めた頃、キャメロンの悪評が広がり始めた。
曰く、とある女子生徒のハーレムから男子生徒を誘惑して略奪を企てたとか。曰く、その略奪が失敗に終わり案の定そのハーレムの主人たる女子生徒とケンカになっただとか。曰く、その女子生徒から張り手を食らい、略奪をしようとしたにもかかわらず「被害者ぶって」泣いたとか。
そして伝聞調のそれは、どうやらすべて事実らしいとレンは聞いて「なるほどな」と納得した。なぜなら女子寮の空気がピリついているからだ。キャメロンが談話室に現れると、寮生たちはあからさまに彼女を避けたし、避けなければで空気が悪くなる。
キャメロンと同じ学年ということで二年生の女子寮長であるイヴェットから「噂は事実なのか」と聞かれたレンは、困った。事実かどうかまでは知らないからだ。しかしキャメロンの悪評は特定の個人が一生懸命バラまいている……といった類いのものではないようであることは、たしかで。恐ろしいほどの伝播速度で彼女の悪評はフリートウッド校を駆け巡っていた。
キャメロンは己の美貌と豊満な胸部を用いて、ハーレムに選ばれるような優秀な男子生徒ばかりを狙っているようだ、とレンが確信を持ったのは、イヴェットから上記の内容を尋ねられて数日も経たないときだった。イヴェットのハーレムメンバーであるケンに、キャメロンが色仕掛けをしているところを、偶然にもレンは見てしまったのだ。
しかしさすがにイヴェットが選ぶお相手。キャメロンなど歯牙にもかけず、知り合いであるレンの姿をみとめるや、爽やかにその場を離脱するのだから卒がない。代わりといってはなんだが、キャメロンから明らかな視線をちょうだいしてしまったのは、レンとしては参ったが。
「あの噂、本当なんですね」
ケンのことを考えるとそばにキャメロンがいる状況で、「それじゃあ私はこれで」などと退散できず、レンはケンと共にしばらく並んで歩く。レンの言葉に、ケンはうんざりしたような顔をしたので、もしやああいったことは初めてじゃないのかなとレンは思った。そしてその答え合わせをするように、ケンはため息をついて話し出す。
「何度断ってもしつこくて、参るよ」
「お疲れ様です……。このこと、イヴェット先輩には――」
「まだ言ってないから、レンも言わないでくれるかな?」
「はい。それはいいですけど」
「……まあ、言っておいたほうがいいのはわかるんだけどさ。ここんところイヴェットも忙しくしてるから、言いにくくって」
「言ったほうがいいと思いますよ。私だったら言って欲しいです」
とレンは告げたものの、レンのハーレムはハリボテ。ニセモノである。もちろん先のセリフは「もし自分がハーレムを持っていたら」という妄想に基づくものであったが、ケンにはそんなことは伝わりはしない。彼はレンが「普通に」ハーレムを持っているものと思い込んでいるからだ。
「ふうん」
「な、なんですか?」
「いや、最初は『ハーレムとかナニソレ』って顔してたのに、もう一丁前にハーレムの主人の顔してるんだなーと思って」
「そ、そうですかね……? そう見えているのなら、なによりです」
レンの良心がチクチクと痛む。それなりに世話になっている先輩に対して、嘘をついていることへの痛みだ。だがもちろんケンはそんなことは知らないから、レンが後ろめたく思っているなどと気づきもしない。
「レンは特に異世界人だしさ、困ったことがあったらハーレムのメンバーにはちゃんと言ったほうがいいと思うよ。……っておれが言っても説得力ないか」
「いえ……勉強になります」
とは言ったものの、今絶賛レンの頭を悩ませている問題は、その当の――ニセの――ハーレムメンバーにかかわるものだ。アレックスとベネディクト以外にメンバーがいるのなら、そちらに相談するのもいいだろうが、現状レンのニセハーレムにはふたりしかいない。そう、妙に不仲でレンの頭を悩ませる、ふたりしか。
レンはなぜふたりの不仲ぶりに己が振り回されているのか、たまに理不尽に襲われた気持ちになる。だがふたりとも、レンの身を守るためにニセハーレムのメンバーになったのだ。そう思うと噴き上がりそうになった気持ちも、にわかに鎮火する。
志は同じくしているはずであるにもかかわらず、どうにも上手く行かないアレックスとベネディクトの関係。劇的に改善する――それこそ魔法のような方法など存在しないことだけは、レンにもわかる。となるとあとはレンが緩衝材となって、ふたりの仲を取り持ち、緊張した関係を緩和させるくらいしかないのだろう。
「ケン先輩たちは……えっと、イヴェット先輩のハーレムの人たちとは仲がいいんですか?」
「なんだ、アレックスとベネディクトがケンカでもしたか?」
「ケンカはしてないんですけど、まあ、あんまり仲はよくないですね……相性が悪いって言うか」
「まあ相性よくは見えないよな、あいつら」
「そう言えばケン先輩はアレックスと同寮でしたよね。……外から見てもそんな感じですか」
「勉強に対するスタンスとか見ていれば、相容れなさそうってのはわかる」
「ああ……」
レンがあからさまに大きなため息をつくと、ケンはその肩を元気付けるように軽く叩いてくれた。
「ま、大いに頭を悩ませたまえ、若人よ」
「パッと魔法でなんとかできませんか?」
「やめとけ。そういうことをするとこじれるって。映画とかでよく見る」
「ウッス……」
結局、レンがどうにかこうにかするしかないようである。放置という選択肢もあったが、ふたりがこちらに心砕いてくれている状況で、そういう「逃げ」はナシかなとレンは律儀に思う。
もう一度ため息をつく。吐いた息が白くて、もう本格的に冬だなあとレンは現実逃避に走るのであった。
曰く、とある女子生徒のハーレムから男子生徒を誘惑して略奪を企てたとか。曰く、その略奪が失敗に終わり案の定そのハーレムの主人たる女子生徒とケンカになっただとか。曰く、その女子生徒から張り手を食らい、略奪をしようとしたにもかかわらず「被害者ぶって」泣いたとか。
そして伝聞調のそれは、どうやらすべて事実らしいとレンは聞いて「なるほどな」と納得した。なぜなら女子寮の空気がピリついているからだ。キャメロンが談話室に現れると、寮生たちはあからさまに彼女を避けたし、避けなければで空気が悪くなる。
キャメロンと同じ学年ということで二年生の女子寮長であるイヴェットから「噂は事実なのか」と聞かれたレンは、困った。事実かどうかまでは知らないからだ。しかしキャメロンの悪評は特定の個人が一生懸命バラまいている……といった類いのものではないようであることは、たしかで。恐ろしいほどの伝播速度で彼女の悪評はフリートウッド校を駆け巡っていた。
キャメロンは己の美貌と豊満な胸部を用いて、ハーレムに選ばれるような優秀な男子生徒ばかりを狙っているようだ、とレンが確信を持ったのは、イヴェットから上記の内容を尋ねられて数日も経たないときだった。イヴェットのハーレムメンバーであるケンに、キャメロンが色仕掛けをしているところを、偶然にもレンは見てしまったのだ。
しかしさすがにイヴェットが選ぶお相手。キャメロンなど歯牙にもかけず、知り合いであるレンの姿をみとめるや、爽やかにその場を離脱するのだから卒がない。代わりといってはなんだが、キャメロンから明らかな視線をちょうだいしてしまったのは、レンとしては参ったが。
「あの噂、本当なんですね」
ケンのことを考えるとそばにキャメロンがいる状況で、「それじゃあ私はこれで」などと退散できず、レンはケンと共にしばらく並んで歩く。レンの言葉に、ケンはうんざりしたような顔をしたので、もしやああいったことは初めてじゃないのかなとレンは思った。そしてその答え合わせをするように、ケンはため息をついて話し出す。
「何度断ってもしつこくて、参るよ」
「お疲れ様です……。このこと、イヴェット先輩には――」
「まだ言ってないから、レンも言わないでくれるかな?」
「はい。それはいいですけど」
「……まあ、言っておいたほうがいいのはわかるんだけどさ。ここんところイヴェットも忙しくしてるから、言いにくくって」
「言ったほうがいいと思いますよ。私だったら言って欲しいです」
とレンは告げたものの、レンのハーレムはハリボテ。ニセモノである。もちろん先のセリフは「もし自分がハーレムを持っていたら」という妄想に基づくものであったが、ケンにはそんなことは伝わりはしない。彼はレンが「普通に」ハーレムを持っているものと思い込んでいるからだ。
「ふうん」
「な、なんですか?」
「いや、最初は『ハーレムとかナニソレ』って顔してたのに、もう一丁前にハーレムの主人の顔してるんだなーと思って」
「そ、そうですかね……? そう見えているのなら、なによりです」
レンの良心がチクチクと痛む。それなりに世話になっている先輩に対して、嘘をついていることへの痛みだ。だがもちろんケンはそんなことは知らないから、レンが後ろめたく思っているなどと気づきもしない。
「レンは特に異世界人だしさ、困ったことがあったらハーレムのメンバーにはちゃんと言ったほうがいいと思うよ。……っておれが言っても説得力ないか」
「いえ……勉強になります」
とは言ったものの、今絶賛レンの頭を悩ませている問題は、その当の――ニセの――ハーレムメンバーにかかわるものだ。アレックスとベネディクト以外にメンバーがいるのなら、そちらに相談するのもいいだろうが、現状レンのニセハーレムにはふたりしかいない。そう、妙に不仲でレンの頭を悩ませる、ふたりしか。
レンはなぜふたりの不仲ぶりに己が振り回されているのか、たまに理不尽に襲われた気持ちになる。だがふたりとも、レンの身を守るためにニセハーレムのメンバーになったのだ。そう思うと噴き上がりそうになった気持ちも、にわかに鎮火する。
志は同じくしているはずであるにもかかわらず、どうにも上手く行かないアレックスとベネディクトの関係。劇的に改善する――それこそ魔法のような方法など存在しないことだけは、レンにもわかる。となるとあとはレンが緩衝材となって、ふたりの仲を取り持ち、緊張した関係を緩和させるくらいしかないのだろう。
「ケン先輩たちは……えっと、イヴェット先輩のハーレムの人たちとは仲がいいんですか?」
「なんだ、アレックスとベネディクトがケンカでもしたか?」
「ケンカはしてないんですけど、まあ、あんまり仲はよくないですね……相性が悪いって言うか」
「まあ相性よくは見えないよな、あいつら」
「そう言えばケン先輩はアレックスと同寮でしたよね。……外から見てもそんな感じですか」
「勉強に対するスタンスとか見ていれば、相容れなさそうってのはわかる」
「ああ……」
レンがあからさまに大きなため息をつくと、ケンはその肩を元気付けるように軽く叩いてくれた。
「ま、大いに頭を悩ませたまえ、若人よ」
「パッと魔法でなんとかできませんか?」
「やめとけ。そういうことをするとこじれるって。映画とかでよく見る」
「ウッス……」
結局、レンがどうにかこうにかするしかないようである。放置という選択肢もあったが、ふたりがこちらに心砕いてくれている状況で、そういう「逃げ」はナシかなとレンは律儀に思う。
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