フシギ

teckak

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マネキン

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民族学の調査隊を編成し、田島は中国地方の山中に来ていた。
もうここに来るのは四度目だ。
山の麓の小さな集落によると、山の中にも集落があり、たまに交流もしていると言う。
しかし、田島は三度の調査でもその集落を確認できなかった。
今回の調査で見つからなければ諦めるつもりだ。
いつもならば人の通った道から山頂を目指すが、今回は少し森に入った場所を歩いていくことにした。
時間的にそろそろ山頂かと思ったとき、急に開けた場所に出た。
そこは奇妙な場所だった。
茅葺きの屋根にコンクリートの壁。そのアンバランスはことのほか見映えが良かった。
煙が見える。
どうやら集落の中心部分でなにかを焼いているようだ。
行ってみると人がいた。男性…老人のようだ。
帽子を被っている。
「こんにちは。民族学の調査で伺いました、田島と申します。」
挨拶をしながら声をかけてみた。
「こんにちは。」
男性はこちらを見ずに挨拶を返してきた。
「何を焼いているのですか?」
「…ヒト。」
田島はギョっとしたが、そこは古い風習と永らく触れ合ってきた男である。物怖じせずに炎を覗いてみた。
…そこにはいた。
白い手、くびれた腰、つややかな頭…。
マネキンだ。
死体が焼かれてるのを覚悟していた田島だが、人よりも数倍気味が悪いと思った。
「なぜ…マネキンを?」
「…」
田島が聞くが男性は答えない。
他の視点から質問してみるか…。
「この辺の家は少し作りが特殊ですね?茅葺きの屋根にコンクリートの壁とは…。」
「屋根もコンクリートだよ。わざわざ茅を乗せてるんじゃ。」
「なぜですか?」
「…」
また答えない。
田島は少し周りを見て回ることにしてみた。
「ありがとうございました。お邪魔しました。」
「…気を付けろよ。」
小さな声で男性にそう言われた気がした。

少し歩いたが人の痕跡が何も無かった。
ある家をノックしてみたが(インターホンが無かったのだ!)誰も出てくる様子がない。他の奴らも頭をかきながら戻ってきた。
「田島さんそろそろ帰りましょう。日が暮れてしまいますよ。」
調査隊の一人が言った。
「そうだな。…最後に…。」
もう一度、さっきマネキンが焼かれていた場所に行ってみた。
火は無かったが、男性はまだいた。
こちらに気づいたのか男性はポツポツと語りだした。
「茅はな…この集落じゃ魔除けなんじゃ。ワシが茅を乗せた。」
「?」
「半年前ぐらいにな、最初の被害者が出た。体がプラスチックみたいになっていってな。髪の毛は抜け落ち…動かなくなる。」
「!」
「ワシも…ほら。」
男性が帽子を上げると、そこには髪の毛がない頭があった。
そういえば腕もなんだか少し光沢があり、白い。
「ワシももうダメだ。ここはな、隔離された。あんたらも気を付けた方がいい。仮にこうならなくても…。」
「隔離…まさか…。」
「早く帰りなさい。抜け道を教えるから。」
遠くから大勢の足音が聞こえる。
男性に抜け道を教えてもらい、田島と調査隊は無事山を下りた。
怖かったが、田島はあの集落を記録に残そうと決めた。
…不幸の集落として。
研究室に帰り、パソコンに記録をなるべく正確に入力していく。
行き詰まると頭をかき、抜け落ちた毛を払いながら打ち込んだ。
…時間との勝負だ。
入力を一通り終わり、少しつやが出てきた腕を見ながら田島はデータを保存した。
遠くから大勢の足音が聞こえる…。
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