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凱旋編
4.戦うメイド長はガイノイド
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「エディス様!」
浮いた体を、走ってきたレウに掴まれる。彼の防御魔法が展開されており、それを歪ませる程の威力の打撃が入った。
「バスターグロス! お前、まだエディスのケツ追ってたのか!?」
なんでここにいるんだと驚くシュウに、エディスはどこを気にしてんだと叫び返す。言っている間かと呆れてしまう。
すっかり抱え上げられることに慣れてしまったエディスは、レウの肩に手を突く。
「俺らが王宮に入る前に排除する気だな」
「気をつけろ、街中にキシウの手下が隠れてるからな」
シールドを殴りつける大型の魔獣は、ボステルクで吹っ飛ばしてきた物と酷似している。事情を知らないはずのシュウにマディ・マーガンの研究体だと説こうとしたところ、彼は冷静な目で「違うな」と否定した。
そして、肩に提げたライフルを手に取って、額を打ち抜く。次いで、眼球、心臓と撃つとーー魔獣がひっくり返った。シュウは狙撃の体勢から起きあがって「粗悪品だ」と首を振る。
「大方、南部軍司令部にいたハガイが真似て作ったヤツだろ」
アイツは組織や内臓構造を考えずに継ぎ接ぎするだけだからなと語ったシュウの後ろをトランクが歩いていく。
「お、おいシュウ……」
思わず指を差したエディスに、彼は隣に来た棺「これか? いい入れ物がなかったんだ」。
「シルベリアが嫉妬しそうなくらいの美女だろ」
「弟と会って疲れたか?」
ストレスが極度に達したせいでと同情しかけたエディスは、顔を上げる。レウの肩をトンと叩くと、心得たように防御シールドが瞬く間に張られた。
エディスたちの前に、大型の改造魔獣が飛び降りてくる。一体なにと組み合わせたのか、人の赤子が三階建ての家程の大きさになった姿をしていた。背中からコウモリの翼が生えていることと、両目の色が違うことを考慮すると……。
「あの子、半ヴァンパイアだ」
まだ赤子なのに、どんな目に遭ってきたのかと考えたエディスを、シュウが「改造されても魔物だ、考えるな!」と叱りつける。
すかさずライフルを構えたシュウが脳天を狙撃するが、鉄に当たったような音がして弾き返された。
「まだあんなモノ隠し持ってたのか」
狙撃程度じゃ倒れず、両手を振りかぶってシールドを殴りつける。相当な強度にしているはずだというのに、二度目でヒビが入った。
「コイツが本家本元、マディ・マーガンの改造魔獣か」
シュウはまるで試験の審査員かのように、悠々と魔物を検分している。余裕ぶってる場合かと、ロイからその凶暴性を聞かされていたレウが、先程よりも強いシールドを張り直す。
エディスが攻撃魔法を展開しようと手を上げかけた時、シュウが「あー、あれくらいならイケるから」と言って止める。
【メルサン、起きろ。仕事だぞ】
誰に話しかけてるんだ? とエディスがシュウを見下ろすと、傍らの棺のフタを開ける。中身を見たエディスは「ひ……っ」と小さく悲鳴を上げて思わずレウの首に抱き付いた。だが、レウに大丈夫だと背中を叩かれると、恐る恐る首を伸ばして、もう一度よく見る。
「アーマー……に、似てる?」
中には、エディスたちがよく知る少女に似た女性が眠っていた。彼女が大人になればこんな姿になるだろうなと思うような姿だ。
白い瞼が上がり、琥珀色の目が現れる。女性が小さな駆動音を立てて体を起こす。
【ガイノイド メルサン・ホワーリッジ 起動しました】
ふわりと黒いワンピースの裾が広がる。足を進めた女性が、シュウの前に立ちスカートを指でつまむ。優雅に一礼をした女性は、表情といえるものを浮かべていない顔で口を開く。
【ご命令を 創造主様】
【害虫駆除だ、メルサン。アレな】
シュウが女性の頭を掴んでぐりんと横を向かせる。小さく頷いた彼女は、シールドが割ろうとがむしゃらに暴れている改造魔獣と対峙した。
一体どうするのかと見守っていると、彼女はおもむろに片腕を魔獣に向かって突き出す。もう片方の手を肘の内側に当てると、ガシャガシャと音を立てて腕が変形していく。
それを見ていた改造魔獣は動きを止めて、ダラダラと涎が流れる口の中に指を入れた。首を傾げる様子が幼子のようで、エディスは顔を引き攣らせる。
「放て!!」
シュウが腕で風を切ると、轟音と共に変形した腕から砲弾が発射された。それは魔物の腹部に入り込み、割れて無数の破片をまき散らした。
「……うぅっ」
赤子が泣き声のような断末魔に耳を塞ぐエディスの背に、シュウの手が触れる。
「ミシアなら息の根を止めろって言うところだぞ」
どうしたと訊かれ、エディスは涙をのみ込んで顔を上げた。
攻撃魔法を手元で展開させ、悶え苦しんでいる魔獣に向かって放つ。魔物とは違い、塵となって消えていってしまう魔獣の姿を見て、エディスは手を握った。
「ごめん……」
「謝ることないだろ。心配してるだけだぞ、俺は」
見ない内に痩せたなと頬を撫でられ、エディスはレウに下ろしてくれと頼む。地面に足をつけて、シュウに手を伸ばして抱きしめ合う。
「話したいことがたくさんあるんだ」
「軍部に帰ったら、いくらでも聞いてやる」
今住んでるのは軍の寮じゃないとか、またシュウたちの部屋で一緒に寝たいなとか。色んな言葉が浮かんでくる。
「でも俺の方はないな、お前もよく見ていた俺たちだから」
「それでも聞きたい」と言うと、シュウは笑って後頭部を撫でた。
「エディス、紹介したい奴がいるんだ」
泣いてる場合でもなさそうだと頭をぽんと叩かれて、体を離す。囲むように建物の隙間や出てきたり、屋根から飛び降りてくる魔物に、エディスは先程の迷いを捨て去るように体の中で魔力を練る。
黙々と腕を直しながら歩いてきた女性が、エディスの斜め前に立つ。
「私、この度エディス様のメイド長を務めることとなりました。ガイノイドのメルサンと申します」
よろしくお願いいたしますと言うメルサンに口を開く前に、彼女は振り返って魔物を撃つ。唖然としていると、ぐりんと顔だけがこちらを向いて「左手には指の中に銃弾を仕込んでもらっているのです」と自慢げに見せてくる。
「シュウ、ガイノイドって……?」
「アンドロイドの女バージョンだ。そんなのいいから走れって」
このままだと本当に囲まれそうだと背中を押してくるシュウに頷いて、エディスは走り出す。
「メイドって、とんでもない物を用意してくれたな!」
そう走りながら叫ぶと、シュウは自信ありげな顔で親指を立てた。
「実は髪も繋ぎ合わせると剣になる機構を付けてるんだ、見るか?」
「もう勘弁してくれよッ」
それのどこがメイドなんだと叫んだエディスに、隣を走るレウが無言で頷いて同意を示した。
浮いた体を、走ってきたレウに掴まれる。彼の防御魔法が展開されており、それを歪ませる程の威力の打撃が入った。
「バスターグロス! お前、まだエディスのケツ追ってたのか!?」
なんでここにいるんだと驚くシュウに、エディスはどこを気にしてんだと叫び返す。言っている間かと呆れてしまう。
すっかり抱え上げられることに慣れてしまったエディスは、レウの肩に手を突く。
「俺らが王宮に入る前に排除する気だな」
「気をつけろ、街中にキシウの手下が隠れてるからな」
シールドを殴りつける大型の魔獣は、ボステルクで吹っ飛ばしてきた物と酷似している。事情を知らないはずのシュウにマディ・マーガンの研究体だと説こうとしたところ、彼は冷静な目で「違うな」と否定した。
そして、肩に提げたライフルを手に取って、額を打ち抜く。次いで、眼球、心臓と撃つとーー魔獣がひっくり返った。シュウは狙撃の体勢から起きあがって「粗悪品だ」と首を振る。
「大方、南部軍司令部にいたハガイが真似て作ったヤツだろ」
アイツは組織や内臓構造を考えずに継ぎ接ぎするだけだからなと語ったシュウの後ろをトランクが歩いていく。
「お、おいシュウ……」
思わず指を差したエディスに、彼は隣に来た棺「これか? いい入れ物がなかったんだ」。
「シルベリアが嫉妬しそうなくらいの美女だろ」
「弟と会って疲れたか?」
ストレスが極度に達したせいでと同情しかけたエディスは、顔を上げる。レウの肩をトンと叩くと、心得たように防御シールドが瞬く間に張られた。
エディスたちの前に、大型の改造魔獣が飛び降りてくる。一体なにと組み合わせたのか、人の赤子が三階建ての家程の大きさになった姿をしていた。背中からコウモリの翼が生えていることと、両目の色が違うことを考慮すると……。
「あの子、半ヴァンパイアだ」
まだ赤子なのに、どんな目に遭ってきたのかと考えたエディスを、シュウが「改造されても魔物だ、考えるな!」と叱りつける。
すかさずライフルを構えたシュウが脳天を狙撃するが、鉄に当たったような音がして弾き返された。
「まだあんなモノ隠し持ってたのか」
狙撃程度じゃ倒れず、両手を振りかぶってシールドを殴りつける。相当な強度にしているはずだというのに、二度目でヒビが入った。
「コイツが本家本元、マディ・マーガンの改造魔獣か」
シュウはまるで試験の審査員かのように、悠々と魔物を検分している。余裕ぶってる場合かと、ロイからその凶暴性を聞かされていたレウが、先程よりも強いシールドを張り直す。
エディスが攻撃魔法を展開しようと手を上げかけた時、シュウが「あー、あれくらいならイケるから」と言って止める。
【メルサン、起きろ。仕事だぞ】
誰に話しかけてるんだ? とエディスがシュウを見下ろすと、傍らの棺のフタを開ける。中身を見たエディスは「ひ……っ」と小さく悲鳴を上げて思わずレウの首に抱き付いた。だが、レウに大丈夫だと背中を叩かれると、恐る恐る首を伸ばして、もう一度よく見る。
「アーマー……に、似てる?」
中には、エディスたちがよく知る少女に似た女性が眠っていた。彼女が大人になればこんな姿になるだろうなと思うような姿だ。
白い瞼が上がり、琥珀色の目が現れる。女性が小さな駆動音を立てて体を起こす。
【ガイノイド メルサン・ホワーリッジ 起動しました】
ふわりと黒いワンピースの裾が広がる。足を進めた女性が、シュウの前に立ちスカートを指でつまむ。優雅に一礼をした女性は、表情といえるものを浮かべていない顔で口を開く。
【ご命令を 創造主様】
【害虫駆除だ、メルサン。アレな】
シュウが女性の頭を掴んでぐりんと横を向かせる。小さく頷いた彼女は、シールドが割ろうとがむしゃらに暴れている改造魔獣と対峙した。
一体どうするのかと見守っていると、彼女はおもむろに片腕を魔獣に向かって突き出す。もう片方の手を肘の内側に当てると、ガシャガシャと音を立てて腕が変形していく。
それを見ていた改造魔獣は動きを止めて、ダラダラと涎が流れる口の中に指を入れた。首を傾げる様子が幼子のようで、エディスは顔を引き攣らせる。
「放て!!」
シュウが腕で風を切ると、轟音と共に変形した腕から砲弾が発射された。それは魔物の腹部に入り込み、割れて無数の破片をまき散らした。
「……うぅっ」
赤子が泣き声のような断末魔に耳を塞ぐエディスの背に、シュウの手が触れる。
「ミシアなら息の根を止めろって言うところだぞ」
どうしたと訊かれ、エディスは涙をのみ込んで顔を上げた。
攻撃魔法を手元で展開させ、悶え苦しんでいる魔獣に向かって放つ。魔物とは違い、塵となって消えていってしまう魔獣の姿を見て、エディスは手を握った。
「ごめん……」
「謝ることないだろ。心配してるだけだぞ、俺は」
見ない内に痩せたなと頬を撫でられ、エディスはレウに下ろしてくれと頼む。地面に足をつけて、シュウに手を伸ばして抱きしめ合う。
「話したいことがたくさんあるんだ」
「軍部に帰ったら、いくらでも聞いてやる」
今住んでるのは軍の寮じゃないとか、またシュウたちの部屋で一緒に寝たいなとか。色んな言葉が浮かんでくる。
「でも俺の方はないな、お前もよく見ていた俺たちだから」
「それでも聞きたい」と言うと、シュウは笑って後頭部を撫でた。
「エディス、紹介したい奴がいるんだ」
泣いてる場合でもなさそうだと頭をぽんと叩かれて、体を離す。囲むように建物の隙間や出てきたり、屋根から飛び降りてくる魔物に、エディスは先程の迷いを捨て去るように体の中で魔力を練る。
黙々と腕を直しながら歩いてきた女性が、エディスの斜め前に立つ。
「私、この度エディス様のメイド長を務めることとなりました。ガイノイドのメルサンと申します」
よろしくお願いいたしますと言うメルサンに口を開く前に、彼女は振り返って魔物を撃つ。唖然としていると、ぐりんと顔だけがこちらを向いて「左手には指の中に銃弾を仕込んでもらっているのです」と自慢げに見せてくる。
「シュウ、ガイノイドって……?」
「アンドロイドの女バージョンだ。そんなのいいから走れって」
このままだと本当に囲まれそうだと背中を押してくるシュウに頷いて、エディスは走り出す。
「メイドって、とんでもない物を用意してくれたな!」
そう走りながら叫ぶと、シュウは自信ありげな顔で親指を立てた。
「実は髪も繋ぎ合わせると剣になる機構を付けてるんだ、見るか?」
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